【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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ハルバード侯の贈り物

 仮眠室のベッドに押し倒された私は、フランを見上げた。私を見つめる青い瞳は楽し気に輝いている。

 男が女とベッドでやることといったら、ひとつなわけで。

 つまりそういうことをしましょう、と誘われている、ってことは私にだってわかる。

 フランのプロポーズを受けた私は、婚約者の立場にある。

 結婚するまでは清い関係でいましょう、というのがこの国の基本的な価値観だ。しかし、結婚が決まっている婚約者同士なら、まあいいんじゃないのとやんわりスルーしてもらえる風潮もないわけではない。

 だから、フランのお誘いはそこまで倫理にもとる行為じゃない。

 

「こ、これが、お父様にバレたら、さすがに殺されるわよ?」

 

 だがしかし、うちの父の感情と世間の風潮は別物である。

 私をかわいがっている父に、関係を持ったことがバレたら大変なことになるんじゃないだろうか。

 しかし、フランはにい、と笑みを深めた。

 

「ハルバード侯の許可なら、すでにある」

「は?」

 

 フランは笑顔のままシャツの襟に手を突っ込んだ。中から紐状のものを引っ張り出す。どうやら、何かをペンダントトップにして、首からさげていたらしい。

 首からはずすと、その何かを私の手に押し付けた。

 

「……鍵?」

 

 それは真鍮製の鍵だった。

 その形には、妙な既視感がある。

 

「お前の部屋の鍵だ」

「はああああ?」

 

 私は思わず声をあげてしまった。

 なんでそんなものがここにあるの!

 

「お前が王子と婚約させられた直後に、ハルバード候からいただいた」

「お父様ぁぁ……」

 

 男に娘の部屋の鍵を渡すとか、何を考えてるの。

 いつでも部屋に入っていいって、手出ししていいって宣言してるようなものじゃない!

 そういえばフランが出陣する直前、突然夜の寝室に押しかけてきたことがあった。忠実な護衛のはずのフィーアとジェイドがどうしてフランを部屋に通したのか、ずっと疑問だったんだけど、きっとその理由はコレだ。

 屋敷の主人であるお父様が鍵という通行許可証を渡していたから、部屋に通されたのだ。

 

「でもさ……」

 

 私は鍵を握りしめる。

 

「婚約のタイミングで渡されたってことは、手を出してもいいっていうより、何かあったら連れて逃げろっていう意味じゃないの?」

「許可は許可だ」

 

 フランは肩をすくめる。

 あ、ダメだこれ。

 わかってて拡大解釈してるやつだ。

 確信犯相手じゃ、対話が成立しない。

 

「でも……」

 

 無駄と知りつつ、抵抗しようとした瞬間ぎゅうっと抱きしめられた。薄いシャツごしに、フランの体温が押し付けられる。

 耳元に吐息がかかった。

 

「もう、我慢は嫌なんだ」

 

 ひどく切羽詰まった声だった。抱きしめる手に力がこもる。

 

「見ているだけじゃ、もう足りない。お前がほしい、お前に触れたい。すべてを奪って、もう取り返しのつかない関係になりたい」

 

 直接耳にささやかれて、どうしていいかわからなくなった。

 舞踏会の日に目の前で王子に奪われてからずっと、フランは日陰で我慢を強いられてきた。それは、普通に付き合いながら我慢するのとは意味が違う。

 フランがどれだけストレスをためてきたのか。

 想いをこじらせてきたのか。

 抱きしめられた手から、感情が伝わってくる。

 

「……っ」

 

 だいたい、我慢させられていたのは、私も同じだ。

 何度この腕に飛び込みたいと思ったか。

 感情のままに抱きしめたいと思ってきたか。

 そんな風に求められたら、抗えない。

 

「リリアーナ」

 

 耳元で名前を呼ばれた。

 その声は妙に熱っぽい。

 私はフランの背に手を回した。のしかかっていた体が、ぴく、とこわばる。

 

「しょうがないわね」

「!」

「……ほしいのなら、全部あげるわよ」

 

 告げると同時に、食いつくように唇を奪われた。

 恥ずかし気もなく、何度も深いキスが繰り返される。

 やばい。

 なにこれ。

 私はキスを受けとめながら、必死にフランにしがみついた。

 これまで、フランとキスしたことは何度もある。

 でも、それはあくまでお互いの気持ちを確かめ合うものだ。

 今しているキスは、それらとは全く違っていた。

 これは快楽を引き出すための行為。

 抱き合うためのキスだ。

 

「ん……う……」

 

 ふと、お互いの唇から吐息がもれる。

 フランの手が私の体をなぞった、その時だった。

 コンコン、と仮眠室のドアがノックされた。

 

「……!」

 

 びくっとフランの体が硬直した。

 コンコン、とまたノック音が響く。

 フランは一瞬考えたあと、また私の唇にキスした。手のひらがまた私の体をなぞる動作を再開する。

 待って。

 そこは思いとどまろうよ。

 用がなければ声をかけるな、っていう命令に反してノックしてきたってことは、よっぽどのことが起きてるんだと思うよ?

 案の定、またドアがノックされた。

 フランは顔をあげる。

 その眉間には不機嫌そうな深い皺が刻まれていた。

 ゴンゴン、とついにノック音が激しいものになる。

 

「フランドール様、緊急事態です! ランス城上空に、巨大な城が現れました! セシリア様が浮上させた『乙女の心臓』と思われます! 至急対応をお願いします」

 

 ジェイドの必死の声がドア越しに響いてきた。

『乙女の心臓』の出現と聞いて、ノックされた理由に納得する。

 あんな巨大なものが現れたら、大混乱だよね。

 総大将が対応しないと、ダメだよねえ……。

 

「……っ」

 

 フランが唇を噛んだ。

 その眉間には今まで見たなかで一番深い皺が刻まれている。

 

「フラン、あの」

「わかってる……」

 

 ぎぎ、とさびた機械みたいなぎこちない動作で、フランは体を起こした。ベッドから降りると、唐突に水魔法を発動させた。

 びしゃっと音をたてて、頭から水をかぶる。

 

「フラン……?」

 

 濡れてびしゃびしゃのまま、フランはふうっと大きく息をついた。ぐいっと髪をかきあげながら、顔をあげる。

 

「先に出る。ジェイドを置いていくから、お前は身なりを整えてから来い」

 

 それだけ言うと、フランは床に脱ぎ落した上着を拾って出て行った。

 私はベッドの上で呆然とその姿を見送る。

 残念なような、ほっとしたような。

 いや全然嫌ではなかったんだけど。

 こんなことをしたあと、どんな顔でフランに会えばいいんだろうか。

 私は途方にくれてしまった。




というわけで、ランス城討伐戦編完結です!
やっと正式な婚約者になれたのに、いいところで中断です。
フランかわいそう。
ごめんね。
最終的にはハッピーエンドになるはずだからね。
もうちょっと我慢してもらおうね。

章完結ということで、一旦連載は中断です。

次章完結編!
最終章になる予定です。
プロットはほぼできてるので、楽しみにしてお待ちください!
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