【書籍⑧巻&コミック②巻、7月31日発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
エレベーターで乗り込んだ『乙女の心臓』の内部は、まさに異空間だった。鉄とプラスチックで作られた無機質な通路が、LEDの平坦な明かりに照らされている。
内装の雰囲気はSF作品の宇宙船っぽいのに、歩いている人間は純正ファンタジー世界の近衛騎士たちだ。革と鉄で作られた防具を着て、腰には剣を下げている。
SFなのかファンタジーなのか。
背景とキャラデザに落差がありすぎて、違和感しかない。
コントロールルームから白銀の鎧の格納庫に移動した時は、案内のユキヒョウAIしかいなかったし、とにかくフランを助けようと無我夢中で内装なんか気にしてなかった。しかし冷静になってみると、改めてすごい光景である。
「同じような景色が多くて、迷子になりそうね」
広い母艦の中は、行けども行けども似たようなデザインの壁が続いている。途中から自分が今どこをどう歩いているのか、さっぱりわからなくなっていた。
「艦内の通行には、ナビゲーションシステムをお使いください」
フィーアがひょい、とスマホを差し出した。そこには艦内専用地図アプリが表示されている。画面の端っこには、ナビキャラとして白いブサカワにゃんこがお行儀よく座っていた。
「フィーアもスマホを支給してもらったの?」
情報統制のため、スマホの所持資格者は信頼できる勇士七家に制限されていたはずだ。フィーアは私の側近だけど獣人で勇士の血族ではない。
「『乙女の心臓』に近衛や使用人を乗せるにあたって、情報共有のために全員にスマホとワイヤレスイヤホンが支給されました」
ずいぶん思い切った規制緩和だ。しかし、セシリア女王を守りつつ巨大空中母艦を運用しようと思ったら大規模な人員投入が必要なのも事実だ。むしろ百人程度じゃ足りないくらいである。ここは近衛たちを選出した宰相閣下の人選を信じよう。
「スマートグラスも、一部の適正のある者に渡されています」
「フィーアは受け取らなかったの?」
私がたずねると、フィーアはむう、と鼻の上に皺を寄せた。ちらりと後方を歩くジェイドを見る。出陣する時にスマートグラスをかけていたジェイドだけど、戦闘の衝撃で破損したそうで、今はなにもつけてはいなかった。裸眼のジェイドを見るのは久しぶりだ。
「便利だということは、ジェイドを見て理解しておりますが……かけていると、どうしても気持ち悪くなってしまって……」
「フィーアも感覚が鋭いものねえ。体調を悪くさせるくらいなら、無理に使わなくていいわよ」
そういえばクリスもスマートグラスがあわなかった。かけて五分で『気持ち悪い』といって外していたくらいだったから、完全に無理なんだろう。
「幸い、イヤホンは獣人用のものが用意されておりましたので、使わせていただいています」
フィーアは右のネコミミだけぴょこんと立てる。そこにはクリップ式の小さなイヤホンが取り付けられていた。なにそれかわいい。
「そっか、フィーアの耳の形だと、人間用のイヤホンは取り付けられないから、専用アイテムが必要になるのね。……あれ? それっておかしくない?」
女神の超技術アイテムはすべて五百年前の建国時に作られたものだ。使いやすいようカスタムはしているけど、完全に新しく開発したものはない。それなのに、獣人用の装備があるということは。
「五百年前の建国戦争時に、獣人が『乙女の心臓』に乗っていたことにならないかな」
フィーアはこくりとうなずいた。
「おそらく。このほかにも少数ではありますが、しっぽの出しやすい防具など獣人の特殊な体にあわせた装備が用意されていました」
聖女が国を興した時の歴史を記した『建国神話』に獣人は登場しない。専用装備が用意されるほど獣人が関わっていたのなら、何かしらエピソードが残されていてもいいのに。
聖女と獣人の間に何があったんだろうか?
歴史と違う証拠を見るのは、なんだか不思議な気分だ。
「これぞ歴史ミステリーってやつね。フィーアに心当たりはあったりしないの」
フィーアは静かに首を振った。
「私にはなんとも。もともと獣人集落では歴史が口伝でしか受け継がれませんし、私自身も幼児のころに家族と引き離されましたから」
そういえばフィーアはうちで引き取られるまで、奴隷としてアギト国に使役されていたんだった。自身のルーツに疎いのは当然だ。
「まあ細かいことはいいんじゃない。フィーアが過ごしやすいなら」
ジェイドがのんびりと言う。
確かに、いちいち気にしてもしょうがないことではある。すべては五百年前に終わったことなのだから。大事なのは今何が使えるかだ。
私達はフィーアの案内に従って、ひたすら母艦の奥へと進んだ。
「クソゲー悪役令嬢コミカライズ②巻」が2026年7月31日に発売されます!
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