【書籍⑧巻&コミック②巻、7月31日発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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凸凹主従

 チーン、というどこか懐かしいベル音がしてエレベーターの扉が開いた。コントロールルームの大型スクリーンの前には、以前と同様にモニターとキーボードが埋め込まれたデスクずらりと並んでいる。私がここを飛び出した時にはほとんど誰もいなかったコントロールルームには、現在十人以上の大人が詰めていた。

 セシリアの警備についている近衛はもちろんのこと、ローブを着た何人かはモニターの前でキーボードを操作している。彼らはこの艦の運用のために派遣された文官らしかった。

 ここもやはりハイテク機器とファンタジーファッションのミスマッチがすさまじい。

 艦の主である女王の姿はすぐ見つかった。

 大人の男性ばかりのコントロールルームで、華やかなストロベリーブロンドの少女の姿は特に目立つからだ。

 

「セシリア!」

 

 声をかけると、少女がぱっと振り返る。

 

「リリィ様!」

 

 私たちを見つけたセシリアは、女王の顔から年相応の少女らしい笑顔になった。そのまま、ととと、と駆け寄ってくる。その様子は仲間を見つけた小動物のようでかわいい。

 

「ご無事でよかったです!『ミセリコルデ』からバイタルが送られてきていたので、怪我などされてない、とはわかっていたのですがどうしても心配になってしまって」

 

 セシリアは涙目でほう、とため息をついた。

 思っていたよりもかなり心配されていたらしい。供もつけずにぶっつけ本番で白銀の鎧で飛んでいったのだから、当然の話といえば当然の話なんだけど。

 私は友達を落ち着かせるために、ぽんぽんと軽く背中を叩いた。

 

「私は殺したって死なないから大丈夫。それより、即位したばかりの王様が王都を離れてよかったの?」

 

 私の軽口にセシリアは顔をほころばせる。

 

「大丈夫……というか王都民のためなのです」

「どういうこと?」

 

 主君の不在より大事なことってなんだろう? 首をかしげてしまった私に、聞き心地のいいテノールイケボが投げかけられた。

 

「それについては、私がご説明を」

 

 青いリボンを首につけた理知的ユキヒョウAI、ディーだ。近衛たちへの指示を中断してこっちにやってくると、軽く前脚をあげる。あわせてコントロールルームのモニターが切り替わった。そこには巨大空中母艦を見上げて何かを叫ぶ王都市民の様子が映し出されている。

 

「頭の上にこんな大きなものが浮かんでいる状態で、落ち着けと言っても無理な話ですからね。混乱をおさめるために、『乙女の心臓』を一旦、人目の少ない場所に移動させることになったのです」

「それで、ヘルムート討伐を名目にランス領に移動してきたのね」

「はい、その通りです」

 

 彼らがここに来たのは、混乱を減らす目的もあったようだ。確かに、ランス城周辺は王都に比べてずっと一般人の数が少ない。『乙女の心臓』が起こす混乱も規模が小さくなるはずだ。

 

「それはそうと、セシリア陛下、リリアーナ嬢」

 

 ユキヒョウは突然じとっとした目でこっちを見上げてきた。お説教の気配を感じて私たちは身構える。

 

「臣下の前では言葉を慎まれますよう。王が一介の子女を『様』づけで呼んでは権威を疑われますし、逆もまたしかりです」

「あ……」

 

 私たちは思わず顔を見合わせた。

 そういえば、セシリアはもう女王。侯爵家で保護している子爵令嬢じゃなくなってたんだった。

 セシリアが私を『リリィ様』と呼ぶのはダメだし、私がセシリアに気安くタメ口をきくのもダメだ。

 

「えええええ……」

 

 セシリアはしょんぼりと肩を落とす。

 

「そんなことを言われても、私にとってリリィ様はリリィ様ですし……」

「それじゃ近衛たちが反応に困るって話でしょ……じゃなくて、ですよね」

 

 お互い、距離感を測りかねて変な口調になってしまう。セシリアとの付き合いはもう二年近くになる。いまさら口調を変えるのは、理屈を理解していてもなんだかむずがゆい。

 私達を見てディーは妙に人間くさいため息をついた。

 

「陛下はこの国の頂点に君臨する身なのですから、どなたに対しても『様』をつけてはなりません。リリアーナ嬢のことは『ハルバード侯爵令嬢』もしくは『リリアーナ』とお呼びください」

「ええ……」

 

 セシリアの眉尻がますます下がっていく。令嬢呼びや呼び捨てはやはりかなり違和感があるみたいだ。フォローをしてあげたいけど、臣下への礼節と言われてしまうとなかなか口をはさめない。

 セシリアが私をどんな形で呼んだとしても、大事な友達で支えてあげたい相手だってことは変わらないんだけど。

 ややあって、ディーがまたため息をついた。

 

「……しょうがないですね。陛下とリリアーナ嬢は何年も前から親交があったようですし、学生時代からの親しい仲、として愛称の『リリィ』呼びはいかがでしょうか」

 

『様』はなくなったけど、親しみを込めた呼び方自体は残った形だ。

 

「そ……それなら、なんとか。多分」

 

 セシリアはこくこく、と必死にうなずく。

 

「それからリリアーナ嬢」

 

 ぐりん、とディーの顔がこっちに向けられた。矛先が向けられて、私は思わず身構える。

 

「あなたが敬語で話されることを、セシリア陛下は快く思っていないようです」

「みたいね?」

 

 さっきとっさに変な敬語が出たときにセシリアは複雑そうな顔になっていた。私からの敬語も距離が遠くなったようで、嬉しくないんだろう。

 

「貴女がた勇士七家の子女に限って、私的な場では特別に愛称呼びと平易な言葉遣いをお認めになってはいかがでしょう」

「あ、それはいいんだ」

「いいか悪いかで申し上げますと、もちろん悪いです。公の会議や式典でまで気安く対応されては、やはり礼節が保たれません。ですが、それは陛下から人を遠ざけることでもあります。学生時代からの親しい友人という特別な関係性をもって理由とするのです」

 

 えーとつまり?

 

「このままだとセシリアがかわいそうだから、仲のいい友達ってことでタメ口の許可を出すことにしよう、ってこと?」

「……有体に言えばそういうことです」

 

 ディーは真顔でうなずいた。

 規律に厳しい口うるさいタイプの従者かと思ったら、案外セシリアに甘いぞ?

 というか、セシリアが困り顔になった瞬間に手のひら返したよね。

 ちょろすぎない?

 

「えっと……?」

 

 事態が把握しきれていないセシリアが、私とディーをかわるがわる見る。

 

「要は私の口調は変わらないってこと。昔からの学友ってことを理由にするみたいだから、クリスやヴァン、ケヴィンの口調も変えなくていいんじゃない。あくまでプライベート限定だけど」

「う……うれしいです。ほっとします……」

 

 さっきまで泣きそうだったセシリアが、ほっと笑顔になった。

 それを見てディーの顔もちょっとだけ緩んでいるようだった。

 やっぱりこのユキヒョウ、セシリアに甘い。

 それでいいのか、管理AI。

 

「コントロールルームに報告です」

 

 不意に男性の声が部屋に響いた。在室していた全員がメインモニターに目を向ける。そこには監視カメラに向かって報告をする近衛の姿が映っている。

 彼の後ろには、アッシュブラウンの髪の大柄な騎士にエスコートされる、姫君の姿があった。

 

「シュゼット姫をお連れいたしました」

 

 きっとセシリアが顔をあげる。その横顔は少女から、少しだけ大人びた君主のそれへと変えられている。

 

「面会します、応接用の部屋へお通しください」

「かしこまりました」

 

 近衛が一礼すると、監視カメラの映像が途切れる。セシリアは有能ユキヒョウAIを振り返る。

「適切な部屋を選んで、彼らをナビゲートしてください。私もそちらへまいります」

「かしこまりました」

 

 ディーは静かに頭をさげる。

 これはこれで、主従としての相性はいい……のかな?

 気弱少女君主と、有能実直だけど主に激甘従者の凸凹コンビは、姫君を迎えるためにエレベーターへと向かう。シュゼットの状況が気になる私も彼らの後を追った。

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