【書籍⑧巻&コミック②巻、7月31日発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
応接室は案外普通の部屋だった。
床には毛足の長いカーペットが敷かれ、ソファやテーブルといった応接家具は木製のアンティーク。壁も家具にあわせて木目調の素材が使われていた。
雰囲気だけなら、地上の一般的な応接室と変わらない。
部屋の中では、すでにシュゼットとグラストンのふたりがソファに座って待っていた。私達の姿を見ると、すっと立ち上がる。
長い幽閉生活で痩せてはいたけれど、シュゼットはいまだ誇り高きキラウェア王女の矜持を保っていた。背筋を伸ばして顔を上げる姿がりりしい。
「シュゼット姫、ご無事でよかった」
セシリアが声をかけると、シュゼットは軽く頭をさげた。
「勇敢なるハーティア王国騎士団のおかげです。特に、総大将のフランドール様と、救出隊長のグラストン様には感謝してもしきれませんわ」
シュゼットがすぐ横に視線を送る。ずっとそばに控えていたグラストンは、こくりとうなずいた。彼の立ち位置は王国騎士としては少し不自然だ。本来ならば女王たるセシリア側に立つべきなのだが、シュゼットに寄り添うように立っている。まるで彼女のための騎士であるかのように。
「グラストン、大儀でした」
しかしセシリアはあえて何も言わず、自国の騎士をねぎらった。グラストンも深々と頭をさげる。
「ありがたき、幸せ」
一通りの社交辞令を交わしたシュゼットとセシリアは、お互い顔を見合わせて苦笑する。
「これからは、セシリア陛下とお呼びしたほうがよいのかしら」
「公の場ではそうなりますね。つい昨日、ハーティア国王になってしまいましたので」
セシリアは相変わらず覇気のない顔でへにょ、と眉尻をさげる。
「学生時代からの友達なら、プライベートでは好きに呼んでいいらしいわよ」
私が口をはさむと、セシリアのそばに控えていたユキヒョウがじとっとした目で睨んできた。
「それは、ハーティア国内での話です」
「シュゼットだって学園の友達だったんだからセーフでしょ」
「屁理屈をこねないでください」
「ユキヒョウが、しゃべった……?」
シュゼットとグラストンが目を丸くしてディーを見つめる。そういえばこのふたりには、彼のことを紹介してないんだった。
ディーはおすまし顔でちょこんとお座りする。
「申し遅れました。私は『乙女の心臓』管理AIユニット、デネブです。セシリア陛下にお仕えする忠実な臣下でもあります。お気軽にディーとお呼びください」
「えーあい?」
理解が及ばないのか、シュゼットの目はますます丸くなる。
ディーはこほんと妙に人間くさいしぐさで咳払いした。
「私のことは、この空飛ぶ城『乙女の心臓』に住まう精霊とでも思っていただければ、よろしいかと」
ファンタジー世界の語彙でいいかんじ風に自己紹介する。それで、シュゼットは納得したようだった。
セシリアはお行儀よく座っているディーに手をそえる。
「女神の技術にうとい私でもこの城を操作できているのは、ディーのおかげなんです」
「とても優秀な精霊さんなのですね」
姫君ふたりに褒められた涼し気な顔でヒゲをそよがせる。
すまし顔を装ってはいたけど、明らかなドヤ顔だった。
君はあれだな?
姫属性にむちゃくちゃ弱いな?
それでいいのか管理AI。
よくも悪くもプログラムらしい挙動しかしないもちおに比べて、ディーは段違いに人間くさい。AIとしての精度が高いのはいいことのはずなのに、なぜだろう、素直に喜べない。
セシリアは痩せてしまったシュゼットを見てしゅん、とうなだれる。
「このたびは、わが国の不届き者の暴挙により、大変なご迷惑をおかけしてしまいました。シュゼット、申し訳……」
「お待ちなさい、セシリア陛下」
謝ろうとした女王をシュゼットが直前で止めた。
「あなたは国の主なのですから、軽々に謝ってはいけませんわ。だいたい、今回の騒動は邪神にそそのかされたヘルムートの単独犯なのでしょう。もっと堂々としていなければ」
さすが筋金入りのお姫様は言う事が違う。
「で、でも、無関係のシュゼットをうちの国の問題に巻き込んだのは事実ですし」
「自国のことに責任を感じるのは、悪いことではありませんけどね。しかし、そうですわね……」
シュゼットはじいっとセシリアを見つめたあと、にこっと笑った。かわいい笑顔なのになぜだろう、なんだかすごく含みがある気がしてならない。
「今回の騒動の償いがしたい、というのであればひとつ、わがままを聞いてくださいませんか」
「わがまま、ですか?」
「はい! 私とこちらのグラストン様との結婚を認めてくださいませ」
姫君の超ド級のおねだりに、部屋にいた全員が絶句した。
「クソゲー悪役令嬢コミカライズ②巻」
「クソゲー悪役令嬢書籍⑧巻」
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