【書籍⑧巻&コミック②巻、7月31日発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
ファンタジー世界の住民に、ミトコンドリアの遺伝について説明する。
突然つきつけられた難問に私は頭を抱えてしまった。
現代日本では中学生くらいで習う遺伝のお話だ。小学生でも、高学年くらいで細胞と生命誕生の話はするから、話して理解できないことはないと思う。
でもファンタジー世界の人間は大人であっても、受精と遺伝を現代人と同様に理解することはできないだろう。
生殖によって子供ができることはわかっていても、精子の存在も、卵子の存在も理解してないのだから。その先のDNAの話、さらにミトコンドリアの話なんて、ファンタジー以上のファンタジーだ。
いやこれどうやって説明すればいいの。
「細かい説明は不要ですよ」
「えー」
「そもそも、DNAの継承方法自体に疑問を持ったのは、現代知識のある転生者のリリアーナ嬢だけのようですし」
そこまで言ってから、ディーはセシリアとフランを見た。
「結論だけ申し上げます。他の勇士たちと違い、聖女の遺伝子は母親からのみ受け継がれます。そしてその遺伝情報は非常に強力であり、母親の系譜に一滴でも王家の血が入っていれば、準聖女として覚醒できる第一条件を満たします」
「一滴……? 何世代隔てていても可能、ということか?」
「はい。また、父親が誰であっても関係ありません。どなたとの間に設けられた子であっても、聖女たりえます」
「実際、私とセシリアがそうなのよね?」
我がハルバード侯爵家は、過去に何度か王家から王女を妻に迎えている。セシリアの母親も、ラインヘルト子爵家ゆかりの貴族女性だったそうだから、おそらくどこからか王家の血が入っているのだろう。
「聖女を母の系譜に持つ女子は皆聖女、か。それが事実だったらとんでもないことになるぞ」
フランは眉間にぎゅっと皺をよせた。
「建国時の記録によると、聖女は建国王との間に男子をひとり、女子を三人産んでいる。男子はそのまま王位を継いだが、女子は勇士七家のいずれかに嫁いでいる」
「順当な嫁ぎ先よね?」
その時点で七家のうち三家に聖女の遺伝子が受け継がれたことになる。逆に外から妃を迎えた王家からは一度聖女の遺伝子がなくなっているけど。
「いや、勇士に嫁いだ娘三人は、それぞれ跡取り男子とともに複数の女子を産んでいる。三代目国王の妃は、そのうちの誰かだったはずだ」
なるほど、そこで王家の血筋は建国王のDNAを持ち、聖女のミトコンドリアを持つ一族となっていくのか。
「聖女のミトコンドリアを持つ女子が、何人もの女子を産み、そしてまた新たに女子を産んで遺伝子を繋いでいくのか……。五百年もの時を経ているから、もう確認のしようもないが、相当数の女子が準聖女の資格を持っていることになるぞ」
「あれ? それってかえってまずくない? そこら中で聖女の力を使われたり、白銀の鎧に乗り込もうとされたら、大変なことになるような」
「そこで、第二第三の条件ですよ」
ゆらりとディーが長いしっぽをくねらせた。
「聖女の遺伝子を持つだけでは、覚醒はできません。セシリア陛下に信頼された、恋する乙女でなくては」
おっと、条件はひとつじゃなかったんだった。
「恋はともかく、セシリアからの信頼が一番大事よね」
「聖女を支える存在でなくは、力が与えられません」
『準聖女』は、一見聖女を無尽蔵に増やす仕組みに見えたけど、結局は大元のセシリアを守るためのものだったらしい。
「その条件を入れると、一気に該当者が減るわね。ハーティアで『準聖女』の条件に当てはまる女子っていうと、私とクリスと……あとは、マリアンヌお姉さま?」
「アルヴィンとの関係を考えれば、ありうるな」
シュゼットもセシリアに信頼されている恋する乙女だけど、彼女は外国人だ。今度は聖女のミトコンドリアが該当しない。
「お母様も、お父様に恋をしていると考えたら、準聖女に当てはまるのかしら」
あのふたりは貴族にしては珍しく、恋愛結婚だったはずだ。セシリアがハルバード侯爵邸で過ごしていた間、面倒を見ていたから知らない仲でもない。
「お子様のいらっしゃるご婦人は対象外になります」
ぴこ、とディーが耳を揺らした。
「このあたりの基準は私にはよくわからないのですが、恋をしていても、一番大事な相手が夫ただひとりから、夫と子供になった者は恋する乙女の基準から少し外れるのだとか」
そのあたりは運命の女神の趣味だろうか。
私にもよくわからないけど。
「だとしたらますます該当者が減るな」
「現時点で三人いるだけでも良しとしましょ。引っ込み思案のセシリアに、いきなり何人も側近をつけたら、パンクしちゃうわ」
「それもそうか」
突然王位についたセシリアにとって、味方探しは急務だ。しかし、無節操に誰でもつけていいというわけではない。下手な人材を近づけて、トラブルを招いてしまうのは避けたい。
「疑問は解消したようですし、一旦ここで解散としましょうか」
「そうですね」
セシリアはすっとソファから立ち上がった。その横にディーが自然に付き従う。
「私はまたコントロールルームに戻ります。おふたりはお疲れになったでしょう、居住区にそれぞれ指揮官用のお部屋を用意してありますので、お休みください」
「ありがとう、そうさせてもらうわ」
ユキヒョウを連れて、セシリアは部屋から出ていった。
私もその後を追おうとして、不意に手を掴まれた。見上げると、フランが私の手を握ったままこちらを見つめている。
「あ……」
そういえば、セシリアたちが去ったあと、残っているのは私たちだけだった。
つまり、今この部屋は恋人とふたりっきりのシチュエーションだな!?
「クソゲー悪役令嬢コミカライズ②巻」
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