【書籍⑧巻&コミック②巻、7月31日発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
ランス城解放を皮切りに、ハーティア王国軍の快進撃が始まった。
「フラン、ステータスオールグリーン! いつでもいけるわ」
「承知した」
白銀の鎧『ミセリコルデ』のコパイロット席から声をかけると、目の前のパイロット席に座ったフランが短く答えた。
鎧の操縦席が縦にふたつ並んでるせいでこうなってるんだけど、フランの後頭部を見ながら会話するなんて、不思議な気分だ。外の景色を映し出す、ドーム型の百八十度モニターの隅では各所ステータス値が表示されている。どれも、正常値の範囲内だ。
準備できたことを確認して、フランが声をかけた。
「コントロールルーム、ミセリコルデ発進の許可を」
「許可します」
巨大空中母艦のコントロールAIの一体、ベガが申請に応える。ごご、と音をたてて、目の前の大きな扉が開いた。
扉の先にあったのは、青空だった。緑の森がそのはるか下に広がっている。
空中母艦の航行高度は約一万メートル。
現代日本で飛行機が空を飛ぶのと同じくらいの高さだ。
ランス城に停泊していた時とはくらべものにならない高度である。怖い、と思う間もなく、ミセリコルデの機体が動き始めた。格納庫内に敷かれたレールにそってまっすぐ進んでいく。気が付いた時には、母艦から射出され、私たちは何もない空を舞っていた。
「ひゃ」
ゴオ、という音がすぐ近くでしたかと思うと、ぐん、と落下速度が遅くなる。女神の超技術で作られた魔力式バーニアが機体を浮かばせたからだ。そのまま、目的地に向かって飛行を始める。
私たちが向かうのは、森の中の戦場だった。
エメラルドグリーンの毒沼が点在する通称『魔の森』、その一角に白銀の鎧が降り立つ。
鬱蒼とした森の中には、人影が多くあった。
しかし、人の姿をしていてもそれらの大半は、命なきモンスター。動く死体と呼ばれるゾンビたちだ。
『リリィ、フランドール!』
ミセリコルデに通信が入った。映像なしの通話だけど、相手が誰かはすぐにわかる。私にもフランにもなじみのある声だからだ。
「お父様!」
私が返事をすると、スピーカー越しに相手が笑うのが伝わってきた。
『お前が元気そうでよかった。伝説の鎧でゾンビを焼き払うと聞いたが?』
「その通りよ」
「魔の森にはびこるゾンビはこちらで処理します。ハルバード侯は、残存兵力を率いて撤退を」
『死体の相手には飽きていたところだ、あとは任せる』
「ご武運を」
通信を切ると同時に、森の中の人影の一部がいっせいに動き出した。死体とは違う、意志ある動きだ。お父様の指揮で生き残った兵たちが撤退を始めたのだろう。
ダメ押しに、フランがスピーカーをオンにして叫ぶ。
「こちらはハーティア王国軍所属、『ミセリコルデ』の騎士フランドールだ! これよりゾンビ掃討作戦を開始する! 命あるものは、この戦闘区域から速やかに撤退しろ!」
これだけ知らせておけば、万が一お父様の指示が聞こえなかった兵がいても、撤退の意志は伝わるだろう。
「前準備はこれでよし、ね」
「作戦開始するぞ。もちお、アンデッドの誘引魔力放出」
『かしこまりました』
もちおがぴこ、首を上下させると森の中の人影の動きがまた変わった。のそ……のそ……とゆっくりとした動きで何者かがミセリコルデへと向かってくる。
ゾンビは失われた生命を求めて、生きた人間を襲う習性がある。ただ生存者を森から撤退させただけでは、ゾンビもまた彼らを追って森の外へと移動してしまう。森の中でまとめてゾンビを始末するため、生きた人間の魔力を装った誘引魔力を放っているのだ。
森の中のゾンビすべてを集める魔力を発生させるなんて、本来人間ひとりができる所業じゃない。桁違いの大出力を可能にしているのは、もちろん白銀の鎧に搭載された魔力エンジンだ。
見ているうちに、続々とゾンビが集まってくる。
フランの操縦で、ミセリコルデが武器を構えた。先日のランス戦の時と違い、その手には持ち手の短い槍、いわゆる短槍が握られている。機体名の『ミセリコルデ』と矛盾してしまうけど、気にしてはいけない。血も涙もない戦場で、伝統にこだわって戦闘力を落とすくらいなら、操縦者の使いやすい武器を持つべきなのだ。
「俺はとにかくゾンビを集めて焼き払う」
「私はアンデッドを鎮める浄化の魔法をばらまく係よね。まかせて!」
ぶん、とミセリコルデが槍をふるう。その一撃で、数体のゾンビがあっけなく消し飛んだ。さらに、ミセリコルデが身をひるがえすと、その動きに合わせて周囲に金色の光がばらまかれる。光を浴びたゾンビは、くたりと地面に倒れると、それっきり動かなくなった。私が放った浄化の魔法の効果だ。
さらに、ミセリコルデの槍が残った死体を焼いていく。
戦場はさながら死体処理場の様相を呈していた。
「機体の操縦は俺が引き受けている。お前は浄化の魔法をコントロールするだけだから、目を閉じていてもいいんだぞ」
婚約者の優しい気遣いがうれしい。すぐに焼いて消し飛ばすとはいえ、死体の山なんてご令嬢に見せるものではないだろう。
でも、今の私は恋人とともに堅牢な鎧のコクピットに守られている。グロテスクな光景もすべてモニターごしだ。悲惨と思うには少し現実感が薄い。
「大丈夫よ。なんかそういうゾンビを倒すゲームみたいな感覚だから」
「……お前の世界のゲームは、どうなってるんだ」
ゾンビモノが実は人気ジャンルだって言ったら、フランはどういう反応をするだろうか。あきれてものも言わなくなるかもしれない。
とにかく清めて焼いて。
ゾンビのうめき声で満たされていた戦場は、あっという間に静かになっていく。
静寂の中に立つのは、金色の光をまとった白銀の鎧ミセリコルデだけだった。
「あらかた片付いた、か?」
「もちお、アンデッドの反応はある?」
私が声をかけると、ちょいぽちゃブサカワ白猫がモニターの端にぴょこっと顔を出した。
「周囲五キロの範囲をサーチ。アンデッドと思われる動作反応、魔力反応はありません。掃討に成功したものと判断します」
「ありがとう。これで本当に大丈夫みたいね」
「作戦の第一目標は完遂。第二目標に移ろう」
がしゃん、と音を立ててミセリコルデが歩き始めた。森にあふれかえったゾンビを一掃するのも大事なお仕事だけど、私たちにはもうひとつ大事な目的があった。
お父様の指示のもと撤収していく王国騎士を横目に、私たちは森の奥へと向かった。
「クソゲー悪役令嬢コミカライズ②巻」
「クソゲー悪役令嬢書籍⑧巻」
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