【書籍⑧巻&コミック②巻、7月31日発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
ピィ、ピィ、という甲高いアラーム音が鳴り響く中、私達の乗っている白銀の鎧『ミセリコルデ』が空中母艦『乙女の心臓』の中をゆっくりと移動していた。コクピットの私たちは、ドーム型モニターに映し出される景色がゆっくりと流れるのを眺める。
『ダガー』を発見して、母艦に戻ってきた私達が最初にやらなければならなかったこと。それは、機体の格納だった。移動用のレールに接続した『ミセリコルデ』は私達ごと格納庫を所定一まで運ばれていく。
「出る時は一瞬だが、格納は時間がかかるな」
じっと座っているのに飽きたのか、フランがシートベルトを緩めてこちらを振り向いてきた。私は恋人の顔を見降ろしながら肩をすくめる。
「とにかく鎧自体が大きいからねえ。攻撃力の高い槍とかも持ってるし、外に出すならともかく、艦内を移動させて格納するとなったら、慎重に動かさないとダメなんじゃないかしら」
『ミセリコルデの艦内固定まであと五分。いましばらくお待ちください』
もちおがモニターの隅に顔を出して、律儀に作業終了時間を伝えてきた。
「まだあと五分、か」
「素直に休憩時間だと思いましょうよ。一応二人っきりだし」
「……相手を触れることもできない真後ろに置かれてか? だいたい、コクピット内は常にモニターされているだろう」
「それはそう」
母艦に戻ったことで作戦は終了しているから、コントロールルームとの通信は切ってある。しかし、鎧の管理のためコクピットの音声やバイタルは、管理AIがチェックしているはずだ。私達が何をしているか、すべてどこかに記録されると思ったほうがいい。
そんな状況で、密室気分でいちゃつけるほどお互い神経は太くない。
ごとん、と低い音がして景色が止まった。
また甲高いアラーム音がしたかと思うと、ミセリコルデ自体がわずかに振動する。
『ミセリコルデの固定を確認しました。乗降用の通路を接続します』
モニターを横切るようにして、格納庫の上からこちらに吊り橋のようなものが降りて来た。それは、コクピットの目の前まできて止まる。
『おつかれさまでした、降りる準備が整いましたので、コクピットを解放します。シートベルトを外し、周囲の安全に気を付けてお降りください』
もちおがそう宣言すると、前面のドーム型モニターがふっと暗くなった。かすかなモーター音とともに、モニターが上下に割れて外の景色がのぞく。シートベルトを外して、フランが操縦席から体を起こした。
「リリィ」
外に出たフランは、すぐに振り向いて、私に手を差し伸べてくれる。私もシートベルトを外すと、フランの手をとった。
「よっと……」
フランの手にしがみつくようにして、鎧のコクピットから体を引っ張り出す。縦に並んだ複座の構造上、後部のコパイロット席から外に出るには、どうしてもこうなってしまうのだ。
「フラン、ありがとう」
「これくらい当然だ」
やっと大手を振って私の恋人を名乗れるようになったフランは、上機嫌で私の体を支えてくれている。近い距離感に、どきりと鼓動が跳ねる。
「エスコート必須の座席構造って、設計ミスじゃないのかしら」
「むしろ、女神の思惑なんじゃないのか。白銀の鎧は元々、操縦者と聖女の相性を見るために作られたものだそうだから」
「乗り降りのたびに操縦者同士でラブラブイベントが発生するわけね、なるほど」
随分と迷惑な設計思想である。
「俺は悪くない気分だが?」
私の体を抱えたまま、フランがぼそりと耳元で囁いた。
「ひゃ」
思わず喉から変な声が出る。
間近にある顔を振り返ったら、フランがにやりと笑うところだった。
こ……この男は……。
婚約者だし恋人としての距離感は歓迎だと言いましたけどね?
それにしても臆面なさすぎじゃないですか?
イケボに腰砕けになって、立てなくなったらどうしてくれる。
「もう、ふざけてないで早く降ろして」
「承知した」
まんまと発生したラブラブイベントで時間を無駄にしながら、私の足がなんとか床におりる。そのまま自然に手を引かれて、私はフランの腕に手をからませた。
後ろを振り返ると、コクピットをあけたままの『ミセリコルデ』があった。固定用の器具に接続した鎧は、直立不動の体勢でぴくりとも動かない。その周囲を、何かの器具をつけたロボットアームがせわしなく動き回っていた。
「早く通路に移動しましょ」
搭乗用の橋はその移動する構造のためか、床は薄い鉄板で、手すりも簡易なものしか取り付けられていなかった。鎧のコクピットが床から五メートルほどの高さにあるせいで、こういう設計になったのだと頭では理解してるけど、こんな不安定な橋の上にいるのは怖すぎる。
思わずフランの腕をぎゅっと握りしめると、ぽんぽんとあいた手で頭をなでられた。
「掴まってろ。落ちないよう俺が支えているから」
「……ありがと」
またしてもラブラブイベント発生である。
……運命の女神は、どこまで計算してシステム設計をしているの。一度つかまえて小一時間問い詰めたい。いや、メイねえちゃんのことだから、ロボットものの搭乗システムについて丸一日くらい語りそうだな。
恋人との密着のせいか、吊り橋効果なのか、よくわからないドキドキに翻弄されながらやっと固定された通路にたどり着いた私は、思わず大きなため息をついてしまった。
ぽんぽんとまた頭をなでられる。
見上げると、よくがんばりました、と言わんばかりの穏やかな笑顔が向けられていた。
……正式な恋人同士の関係最高。
何も気にせずいちゃいちゃできる環境っていいね!
さらなるいちゃいちゃの気配を感じていたところで、声がかかった。
「リリィ!」
格納庫に響く声に、そちらを向くと軍服姿の男性が廊下を走ってくるのが見えた。
黒髪に赤い目の背の高い偉丈夫、私のお父様だ。多分。
相手が父親だというのに『多分』とついてしまうのは、その格好のせいだ。
軍服は襟が留めきれてなくてだらしなく胸元があいてるし、肩にはタオルをひっかけたまま。髪は濡れて雫がしたたり落ちている。
とても侯爵が外でしていい姿ではない。
お父様、何をやってるの!
「クソゲー悪役令嬢コミカライズ②巻」
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