【書籍⑧巻&コミック②巻、7月31日発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
「お父様!」
フランから離れて、私はお父様に駆け寄った。娘の姿を認めて父はぱあっと顔をかがやかせる。くしゃくしゃの姿のまま、ぎゅうっとハグされた。
「リリィ! ああ……やっと直接会えたな」
「私も会えてうれしいわ」
スマホごしでは時々連絡をとっていたけど、こうやって触れ合うのは数か月ぶりだ。娘の私も、お父様の確かな体温に安心する。
それはそれとして。
放置しておけない問題が目の前にあった。
「お父様、この格好はどうしたの? 髪も濡れてるし」
お父様の肩書はハルバード侯爵であり、第一師団の騎士団長だ。これほどの高位騎士になると、基本的に身の回りのことは自分でやる必要はない。黙っていても専属の従騎士が身なりを整えてくれるはずなんだけど。
何がどうしてこうなった。
「あはは……やっとリリィに会えると思ったら気が急いてしまって。シャワーを浴びてすぐに出てきたんだ」
それで側近たちを置いてきてしまったらしい。いまごろおつきの者たちが血相変えて探し回っていることだろう。
ごめんなさい、自由すぎる父で。
とはいえ、ゾンビ相手に一か月以上孤独な戦いを強いられていたお父様を責めるのは酷な気もする。私がお父様の立場だったら、何をおいても駆けつけると思うし。
一応シャワーをあびて着替えてきただけ、理性が保った言うべきか。
「お父様、ちょっと頭に触るわよ」
私は少し背伸びをすると、お父様の髪に手をあてた。水魔法を使って、髪にまとわりついていた水を掌に集める。お父様が肩にかけっぱなしにしていたタオルを取って、そこに水を移すと、お父様の髪が乾かしたのと同じサラサラ状態になった。
水魔法使いだけが使える秘技、強制ドライヤーである。
ドライヤーのない世界で、すぐに髪を乾かせる便利魔法だけど、コレをやると髪の水分が必要以上に抜けてパサついてしまうので、本当に濡れ髪に困った非常事態にしかやらない魔法でもある。
「フラン、これちょっと持っててくれる?」
「ああ。俺のほうで乾かしておこう」
フランに濡れたタオルを渡してから、お父様の襟元を整える。
もう一度軽く髪を整えて、やっとお父様は侯爵らしい威厳を取り戻した。
「ありがとう、リリィ」
「どういたしまして」
娘に身なりを整えられて、お父様はニコニコ笑っている。相変わらず困った人だ。
お父様は私をじっと見たあと、視線を私のすぐ後ろに立つフランへと移動させた。
「君とも久しぶりだね」
「ご無沙汰しています」
フランは丁寧に頭をさげる。
「リリィに正式に求婚したと聞いたよ」
「はい。リリアーナ嬢からはすでに承諾を得、セシリア陛下からも結婚の許可をいただいております」
「なら、私から言うことは何もない。リリィが本心から望む相手と結婚できるのなら、それ以上望むことはないからね」
お父様はフランの肩を軽く叩いた。
「娘を幸せにしてやってくれ」
「はい、必ず」
未来の義父からの祝福を受けて、もう一度頭をさげる。ちょっと堅苦しいかもしれないけど、必要なやりとりだ。
緊張していたのか、儀式を終えたフランが小さく息をついた。それを見てお父様がこらえきれずにくっと笑う。
「こういう会話をするのは二度目だな」
「三度目が来ないことを祈るばかりです」
「これ以上横やりが入るのは嫌よ!?」
何を縁起でもないことを言っているのか。
ふたりを睨んでいると、お父様たちが来た方向からまた人がやってきた。格納庫のドアの向こうから姿を現したのは、ユキヒョウとネコミミ侍女を連れた女王陛下だった。
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