【書籍⑧巻&コミック②巻、7月31日発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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女王陛下

「ハルバード侯爵、お久しぶりです」

「これはセシリア陛下」

 

 お父様はセシリアに向かって深々と頭をさげた。私とフランもそろって頭をさげる。

 さらに、お父様はセシリアの前に跪いた。

 

「事情は宰相と娘たちから伺っております。ハルバード侯爵ユリウスは、偽王を廃し王位につかれたセシリア陛下に、忠誠を誓います。貴女の剣となることをお許しください」

「許します」

「ありがたき、幸せ」

 

 セシリアが許しを与えると、お父様は跪いたままもう一度深く頭をさげた。

 

「面をあげて、楽にしてください」

 

 セシリアの許可を得て、私達は顔をあげる。お父様も立ち上がって背筋を伸ばした。女王に忠誠を誓うこと。これも大事な儀式だ。

 今回一番緊張していたのはセシリアだったようで、お父様が普段通りの顔をしているのを見てほうっとため息をついた。

 

「大人の男性に跪かれるのは、なかなか慣れませんね」

「国の重役のほとんどは大人の男だから、これからまだまだ跪かれるわよ」

「うーん、やっぱりそうなりますよね……」

 

 セシリアはへにゃ、と眉を下げた。偽王の断罪の時とか、危機的状況では毅然と立ち向かえるようになったものの、根本的な気質はなかなか変えられないらしい。

 お父様はそんなセシリアに優しく声をかける。

 

「このたびは魔の森への救援、ありがとうございました。陛下がかの地に白銀の鎧を遣わしてくださらなかったら、私たちはいまだ生ける屍を相手に、出口の見えない戦いを続けていたでしょう」

 

 お礼を言われて、セシリアはいえいえ! と反射的に恐縮する。

 

「私がここに来れたのは、ハルバード侯が魔物と粘り強く戦い、持ちこたえてくださっていたおかげです。お礼を申し上げるのは、こちらのほうです」

「過大な評価、身に余る光栄です」

 

 お父様はまたにこりと微笑む。家族最優先で時々暴走するけど、裏表のない社交をこなす程度にはちゃんと侯爵様なのだ。ただただ、貴族のねちっこい駆け引きが苦手なだけで。

 

「この巨大な城は陛下が動かしていると聞きましたが、魔の森の次はどちらに向かうおつもりなのですか?」

 

 お父様の質問に、セシリアがうなずく。

 

「まずはここから東、ハルバードに向かおうと思っています」

「うちの領地ですね」

「ええ。ハルバード城の地下にも白銀の鎧が眠っていますから」

「この先は、私がご説明いたしましょう」

 

 忠実なる従者、ユキヒョウのディーがぴこっと前脚をあげた。

 

「我々はこれからハルバード、カトラス、クレイモア、と南回りで国内主要都市を巡っていく予定です。主な目的は白銀の鎧の解放と、各地で猛威をふるっている魔物の討伐です」

「王都には戻らなくていいのか?」

「あちらには宰相閣下がいらっしゃいますから。今はこの『乙女の心臓』で各地を訪れ、伝説の再来と新女王即位を知らしめることのほうが、国をまとめる効果が高いと判断されています」

「確かに、王都から一方的に即位を伝えられても、なかなか実感はわかないだろうからな」

 

 その点、『乙女の心臓』と『白銀の鎧』の異様な姿は絶大なインパクトがある。

 こんなものを見せつけられたら、一般庶民はひれ伏すしかないだろう。

 

「王都の貴族たちや評議会などとは、必要に応じて宰相閣下同席のもとビデオ通信で対話しています」

「直接会いたいと主張する貴族もいるんじゃないか?」

 

 お父様の指摘に、ディーは人間くさく肩をすくめた。

 

「まさにそのような者を排除するための施策でもあります。繊細なセシリア陛下に、我の強い貴族の言葉をぶつけたりしたら、それだけでお体に障りますからね。一旦物理的に距離を取るくらいでちょうどよいのですよ」

「それもそうか」

 

 貴族の多くは領主、つまり自身の領民を守る政治家でもある。当然、自己主張の強い者ばかりだ。それは領主として立つのに必要な資質ではあるけど、気弱なセシリアとは絶望的に相性が悪い。

 新女王とお近づきになりたい彼らには悪いけど、情勢が落ち着くまで謁見はお預けだ。

 

「ハルバード侯爵の率いていた騎士たちはすべて収容完了いたしました。白銀の鎧『ダガー』を収容後、各所チェックを行い明朝には出立予定です」

「撤収の手際がいいのは助かるな。しかし、『ダガー』を回収してどうするんだ? あそこはフェルディナンドを最後に断絶したはずだろう」

 

 操縦する者がいないのでは意味がない、というお父様にディーが首を振る。

 

「ダガーを操る者はいらっしゃいます。ダガー伯の御子息が生き残ってらっしゃいますので」

「……息子?」

「失礼シマス」

 

 ゆら、と黒い影のような人物が現れた。

 その人物は、頭からつま先まですっぽりと黒衣に包まれていた。顔は見えない。代わりに、長い鳥のくちばしのようなものがついた仮面をかぶっている。そのせいで、身長二メートル近くある成人男性であることしかわからない。

 黒衣の男はしゃがれてひび割れた声で己の名を告げた。

 

「ダガー伯爵、フェルディナンドノ息子、ジェレミー、デス」

 

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