【書籍⑧巻&コミック②巻、7月31日発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
「あ~……暇だ~」
翌日の昼、私とフランは国境の砦の屋上でお茶を飲んでいた。
目の前にはハーティアとアギトの国境を分かつ森が広がっている。元は木々が生い茂る深い森だったみたいだけど、今は巨大ロボットと巨大魔物との戦闘のせいで荒れ放題になっていた。あちこちの地面がえぐれ、木がなぎ倒され、焼け焦げている。
私のいる屋上の左手には槍を携えた白銀の鎧『ミセリコルデ』が、右手には魔法使い用の杖を持った『ダガー』が立たされていた。
何か異変が起きたら、即座に乗り込んで戦闘の手筈だ。
「どうぞ、お茶のお代わりです」
目の前にティーカップが置かれた。
私がフランと一緒に戦場に出ることになって、まず問題になったのが『お世話係』だ。自慢ではないけど、私は箱入りのお嬢様育ち。野営の知識なんてほとんど持ち合わせていない。火を起こしてお湯を沸かすのがせいぜいだ。
そこで、ついてきてくれたのが私の専属侍女のフィーアと、フランの従者ツヴァイだ。獣人ネコミミ兄妹なら、野営の知識があるし、何かあっても自分で自分の身を守れる。
私のお世話というと、ジェイドもその一人だけど今回は戦力として数えられていない。
なぜなら。
「ボクにもお茶をもらっていいかな。この格好暑くて……」
鳥の仮面をつけた黒衣の青年が、『ダガー』から降りてきた。ジェレミーに変装したジェイドだ。さすがに白銀の鎧の搭乗者をお世話係にはカウントできない。
「……どうぞ」
フィーアが静かにお茶を差し出した。周囲に他に誰もいないことを確認して、ジェイドが仮面をとる。それからおいしそうにお茶を飲んだ。
「あ~フィーアのお茶おいしい……」
同じようにお茶をたしなみながら、フランが国境の森に目を向ける。
「頻繁に襲撃があったと聞いていたが、静かなものだな」
「巨大な城が浮いてるのを見て、警戒してるんじゃないかしら。明らかに戦力が上がってるわけだし」
「単純な力押しで勝てないのは、わかり切ってるからな」
お茶で一息ついたジェイドが首をかしげた。
「そういえば、白銀の鎧ってもう全部復活しているんでしたっけ」
きかれた私は、指を折りながら鎧の数を数える。
「ええと、修理中のランスに、ハルバード、ミセリコルデ、カトラス、ダガー、ソーディアンにクレイモア……あと一体は何だっけ?」
折った指の数は七本。一本足りない。
フランが横から手を出して、ひょいと立っている指を倒してきた。
「モーニングスターだ」
「ああ! ケヴィンのところの」
そういえば、北方にも白銀の鎧は配置されていたんだった。
「南回りの『乙女の心臓』の到着を待っていては、時間かかかりすぎるからな。モーニングスターの鎧はケヴィンに直接発掘してもらっている。つい昨日、鎧を発見したと連絡があったから、今頃起動しているんじゃないか」
「これですべての鎧が復活するのね。あれ? じゃあ、『乙女の心臓』全国ツアーはここでおしまい?」
「いや」
フランは首を振った。
「権威の象徴である『乙女の心臓』が国の南方だけめぐって、北方に向かわなかったとなれば、北方領主たちの反感を買う。クレイモアでの機体修理が終わったら北上して、今度は北部を西に進む予定だ」
「女王様があっちは行ったのに、こっちには来ない! ってなったら暴動が起きるわね」
「西の端、キラウェアの国境に到達したところで、シュゼット姫をキラウェアに送り出すことになっている」
「国境までなんだ? どうせそこまで行くなら、そのまま王都まで運んであげたらいいのに」
なにしろ、その気になれば高度一万メートルを九百キロで航行できる空中母艦だ。その程度の距離一時間あれば簡単に移動できる。
むうっとフランの眉間に皺がよった。
「ダメだ。あんな巨大兵器で他国の王宮に横づけしてみろ。侵略行為とみなされて、戦争になるぞ」
「あー……そっか、単なる乗り物じゃないもんね」
ここ数日、居心地のいい乗り物として使っていたからすっかり忘れていた。巨大空中母艦にもしっかりチートレベルの武器が装備されていたんだった。
「シュゼットが国に帰っちゃうのは、ちょっと寂しいなあ」
「どうせすぐグラストンとの縁談をまとめて戻ってくる。制限つきだが、通信機の携帯も検討されているから、すぐに連絡が取れるようになるだろう」
「そうね、戻ってくるための帰国だもの、これっきりにはならないんだったわ」
シュゼットを送り出すまでは、楽しく過ごそう。そして、戻ってきたときには、全力で歓迎するのだ。
クリスも加わったことだし、みんなでまたパジャマパーティーでもしようか、なんて考えていた時だった。ピリリ、と手元のスマホが通知を知らせてきた。
「ソーディアンとクレイモアの整備が終わったようだ」
「本当だ、『乙女の心臓』のハッチがあいて、鎧が出てくるわ」
私たちが見ているうちに、鎧は空を飛んで近づいてくる。ゴオ、と大きな音を立てて、二体は私達の目の前に降り立った。
「よお、待たせたな」
ソーディアンのコクピットが開いて、クリスとヴァンの銀髪夫婦が顔をだした。
「お帰りなさい、もっとゆっくりしててよかったのに」
「十分休んださ。ひさびさに敵襲のおそれのない生活な部屋で、たっぷり食べて寝て元気いっぱいだ!」
笑顔でそう答えるクリスはツヤツヤピカピカだ。昨日一日で体力を完全回復させたらしい。
その横で、ヴァンがくあ、とあくびした。
「土地勘のない奴に守りを任せんのは、やっぱ落ち着かねえしな。それに女王陛下のお願いもあるし」
「お願い?」
ごご、と音がしてクレイモアのコクピットが開いた。主操縦席に座っているのは歴戦の老騎士クレイモア伯だ。しかし、その後ろがおかしい。副操縦席にもうひとり人影があった。
「陛下、お手をどうぞ」
降りて来たクレイモア伯が、億に向かって手を差し伸べる。華奢な少女の手が重なった。
「ありがとうございます、クレイモア伯」
現れたのは、セシリア女王陛下だった。
ちょっと待って! 君主が前線に出て来ちゃダメでしょ!
「クソゲー悪役令嬢コミカライズ②巻」
「クソゲー悪役令嬢書籍⑧巻」
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