【書籍⑧巻&コミック②巻、7月31日発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
「往生際が悪いぞ」
兄のツヴァイが近づいてきて、ひょいと妹の腕を掴んだ。そのまま羽交い絞めに拘束してしまう。
「お兄! はなして!」
「断る。セシリア陛下、不躾なお願いとは重々承知しておりますが、妹に引導を渡してやってはくれませんか」
「ええと……本当にいいんでしょうか」
フィーアのあまりの剣幕に、セシリアは視線をさまよわせる。私はセシリアに向かって大きくうなずいた。
「これ以上引っ張ってもしょうがないから、やっちゃいましょう」
「わ、わかりました。……えい!」
セシリアの手がフィーアに触れる。
次の瞬間、フィーアの周りに金の花びらのような光が舞った。私にセシリアが力を貸した時と同じ、聖女の覚醒状態だ。
つまり。フィーアは、母親に王室の血統を持ち、セシリアに信頼され、恋をしている。
相手は言わなくてもわかる、ジェイドだ。
「違う違う違う! アタシは恋なんてしてない!」
兄に押さえられながら、フィーアはぶんぶんと首を振った。
普段冷静な彼女にはありえない姿だ。
「アタシは全然! ジェイドのことなんて好きじゃない!」
「どうしてだよ」
ずっとフィーアの様子を見守っていたジェイドが、フィーアに近づいた。
「来るな!」
逃げ場を失ったフィーアはぱっと顔をそむけた。
「アタシがどれだけ好きでも、あんたが好きなのはご主人様じゃない……私のことを愛してくれない男なんて、絶対、好きにならない……!」
「へ?」
どうしてここで私の名前が出てくるのか。
聞いた台詞が理解できず、私の思考は一瞬止まってしまった。それはジェイドも同じだったようで、ぽかんと口をあけて立ち尽くした。
一瞬あいて、失言に気が付いたフィーアの顔からさあっと血の気が引く。
「あっ……これは、その、違うんです! ご主人様への忠誠心に、嘘偽りはなくて、その……!」
フィーアが必死に言い訳をしている目の前で、今度はジェイドが膝から崩れ落ちた。
「ジェイド?」
「……なんだそれ」
だよね? なんだそれだよね?
ジェイドはゆらりと立ち上がる。その緑の瞳には妙にぎらついていた。
「確かにボクの初恋はお嬢様だけど」
………………ほえ?
どういうこと?
しかし私の混乱などお構いなしに、彼らの話は続く。
「そんなの、何年前の話だと思ってるの!! お嬢様がフランドール様と並んでるのを見た時点で諦めたよ!」
「えっ……諦め……? 嘘、だってあんたはいつもご主人様のことを一番に考えてて」
「忠誠心と恋愛感情が別モノなのは、君も一緒でしょうが!」
「え……え……え?」
怒りから一転、フィーアはらしくなくうろたえる。ジェイドはつかつかとフィーアに歩み寄っていった。かわりにツヴァイは妹から手を離してさがる。彼らの間に挟まるのは野暮と判断したんだろう。
ジェイドは混乱するフィーアの肩をがしっと掴んだ。
「いい? 今日こそはちゃんと聞いてね」
フィーアの三角の耳に唇を寄せると、ジェイドは何ごとかを囁いた。
瞬間、フィーアのしっぽの毛が逆立って、ぼんっと膨れ上がった。白い頬がみるみる赤く染まっていく。
「あ……う……」
金の瞳はうるんで、まともな焦点を結んでいない。
完全なパニック状態だ。
ジェイドは固まったままのフィーアをひょいと抱き上げた。
「お嬢様、退出の許可を」
「許すわ。交代要員も来たことだし、ダガーに乗って『乙女の心臓』に戻りなさい。一日休暇をあげるから、婚約者同士よく話し合って」
「ありがとうございます!」
ジェイドはフィーアを抱えたまま、ダガーに向かった。すぐにダガーは母艦へと飛び立っていく。私は彼らの後姿をただただ見送るしかなかった。
「クソゲー悪役令嬢コミカライズ②巻」
「クソゲー悪役令嬢書籍⑧巻」
2026年7月31日に2冊同時発売されます!
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