【書籍⑧巻&コミック②巻、7月31日発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
ディーの提案を受けて、マリィお姉さまは不思議そうな顔になった。
「ええと……それはどういう意図かしら。私は母方に王家の血を受け継ぐミセリコルデ家の娘で、アルヴィンという恋人がいるから、準聖女の条件は満たしていると思うけど、あれは白銀の鎧を操縦するための条件よね?」
マリィお姉さまの恋人ことアルヴィン兄様は、白銀の鎧の操縦資格をお父様に譲り、領地守護に専念している。だからお姉さまが覚醒する必要はないと思っていたんだけど。
ユキヒョウ従者は首を振る。
「そうとも限りません。準聖女はそもそも、聖女をお助けするサポートのために生まれた存在です。お側に侍るだけでも、体力の増強や集中力の強化などの恩恵を得ることができます」
「より健康に仕えることができるのね。それなら、覚醒したほうがよさそうだわ」
「コントロールルームの労働環境は過酷ですからね……」
私はげんなりとため息をついた。
一応私も覚醒済み準聖女、すでに聖女の恩恵は受けているはずである。それでも忙しすぎて疲れるってことは、純粋に仕事量が多すぎるんだろうなあ。
セシリアがマリィお姉さまに手を触れると、すぐに金の花びらのような光が舞い始めた。血筋も、アルヴィン兄様への想いも確かなものだから、この結果は当然だ。
「準聖女といえば……」
金の光を纏ったマリィお姉さまは急に声を低くした。
「ダガー伯爵夫妻について、おふたりは何か御存知ありませんか」
彼女は眉をひそめる。そこに浮かぶのは明らかな不審だ。
「死んだはずのダガー伯の御子息が突然見つかったというだけでも驚きですのに、さらにご結婚されていたなんて。しかもおふたりとも黒衣と仮面で姿を隠していらっしゃるでしょう?
女神様のお作りになった白銀の鎧『ダガー』を操縦できているのですから、おふたりとも、真にダガー家の末裔で女神の末裔、そしてセシリア陛下の信も得ているのだと思います。それでも、やっぱり気になってしまって」
「あー……まあ」
私達はなんとも言えない顔で、なんとも言えない返事をした。
お姉さまの気持ちはわかる。わかり過ぎるくらいわかる。あんなに不気味な黒衣コンビ、不審に思わないほうがおかしい。
しかし、これには理由がある。ジェイドの正式な花嫁になることが決まったフィーアもまた、ハーティア貴族の間では有名人だからである。いくらジェイドが黒衣に仮面で正体を隠していても、ネコミミアサシンメイドを連れていたらバレバレだ。
そこでフィーアにも頭から黒衣を着てもらい『ジェレミーに献身的な看護をしていたら、呪いが感染してしまった貴族令嬢フィリア』を名乗らせることにした。フィリアも夫同様、顔と喉に呪いの症状があらわれており、戦争が終わったら悪化して死亡する予定だ。
跡取り発見で、ダガー伯爵家再興か、と盛り上がっているダガー家の縁者には悪いけど、彼らは夫婦そろってハルバードに戻ることを望んでいるので、見なかったことにさせてもらう。
「その件については、ご心配なく。ふたりとも確実に信用できる人物です」
私はきっぱりと断言した。と、同時に人が何人も出入りするコントロールルームに目を向ける。彼らの正体はマリィお姉さまに隠すほどのことではないけど、一般乗員に対しては極秘扱いだ、今ここで口に出して共有はできない。
「詳しいことはあとでメッセージを送りますね」
「わかったわ」
私達の様子を見て安心したのか、マリィお姉さまから不審の影は消えていた。
「あなたがそれだけ言い切るのなら、きっと本当に信頼できる相手なのね。納得できる説明ももらえるようだし、メッセージを待ってるわね」
「はい、お手数をかけますが、よろしくお願いします」
こういう時、マリィお姉さまは話が早くて助かる。
「ではさっそく仕事に取り掛かりましょう。セシリア陛下、王都での補給後は、北に向かう予定で相違ないでしょうか?」
マリィお姉さまの問いにセシリアはこくりとうなずいた。
「はい。王都の北、モーニングスター侯爵領を目指します」
「ケヴィンが単独で発掘した『モーニングスター』のメンテナンスと、支援が目的ですね」
ゾンビに占拠された魔の森だとか、リヴァイアサンに荒らされている港町だとか、先に対応しないといけない地方が多かったこともあって、モーニングスターにはあまり手が回っていないのが実情だ。
ケヴィンが『モーニングスター』に乗って対処しているけど、鎧一機では戦況が改善されていないと聞いている。他が苦しい間持ちこたえてもらったぶん、手厚い支援をしなければ。
可能な限り迅速に補給をすませた『乙女の心臓』は北のモーニングスター領へと向かった。