【書籍⑧巻&コミック②巻、7月31日発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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新たな主従関係

 ユキヒョウを従えたセシリアと一緒に『乙女の心臓』から降りてくると、すぐにモーニングスター騎士団の騎士たちが集まってきた。先頭に立つのは、白銀の鎧に乗って兵たちを率いていたケヴィンだ。こちらも、後ろからフランが護衛騎士を連れてやってくる。

 

「セシリア陛下、お久しぶりです」

「また会えてうれしいです、ケヴィン」

 

 ケヴィンは膝を折って恭しく頭をさげた。モーニングスターの騎士たちもそれにならう。

 やや堅苦しい挨拶になってしまうのは、事情を知らない臣下が多くいるからだろう。

 

「モーニングスターへ救いの手を差し伸べてくださったこと、領民一同深く感謝いたします」

「間に合ってよかったです。どうぞ、面をあげて楽になさってください」

 

 君主のセシリアには『到着が遅くなってごめん』と謝ることはできない。かわりにできるのは、生き残った彼らをねぎらうことだけだ。

 そんなところも、見ていてちょっと息苦しい。

 

「スキュラは一体ではないと聞いています。モーニングスター侯爵をサポートするため、北部一帯の討伐が終わるまで、こちらにダガー伯爵夫妻と『ダガー』を派遣いたします」

 

 おお、と騎士たちから歓声があがった。

 南部はハルバードとカトラスの二機があるのに、北部が一機だけなのは不公平だ、って北部貴族から不満があがってたからねえ。

 ケヴィンはまた頭をさげた。

 

「陛下の慈悲深いご判断、感謝いたします。しかし王国守護の『ソーディアン』は東の国境に派遣したままと聞きます。守り刀の『ダガー』まで派遣して、『乙女の心臓』の守りが薄くなりはしませんか」

 

 喜ぶ騎士たちとは違い、ケヴィンは憂い顔になる。セシリアはケヴィンを安心させるようにほほえむ。

 

「とどめの剣の『ミセリコルデ』は残したままですし、西の国境に到着するまでは守護槍の『ランス』も同乗します。『乙女の心臓』自身にも防衛機能がありますので、私を守る盾が薄くなることはありませんわ」

「左様でしたか。私ごときが差し出がましいことを申し上げてしまいました」

 

 セシリアは軽く首を振った。

 

「いいえ、ケヴィンの心配は当然のことですわ。私の身を案じる気遣い、とても嬉しく思います。白銀の鎧だけでなく、戦いに必要な武器や食料などの物資も運んできました。北方守護にお役立てください」

「感謝いたします」

 

 ケヴィンはモーニングスターの騎士たちを振り向いた。

 

「ダガー伯爵夫妻を受け入れる。専用の天幕などの手配を頼む」

「かしこまりました」

 

 ケヴィンのすぐそばに控えていた騎士が返事をする。彼の姿を見た瞬間、私の喉から思わず変な声が出そうになった。

 

「……!?」

 

 すんでのところで飲み込んで、騎士を二度見する。

 キラキラの金髪に澄んだ緑の瞳。育ちの良さがにじむすんなりとした美貌。

 間違いない、つい数か月前まで私の婚約者だったオリヴァー王子だ。いや、血統が否定されたから、もう王子じゃないんだっけ。

 ちらりと見るとすぐ隣のセシリアの顔も引きつっていた。後ろだからよく見えないけど、護衛として控えているフランたちも同じような顔になっていると思う。

 私達の緊張を見たケヴィンは、にこっと笑った。

 

「ああ、彼のことですね。実は今、俺の下で働いてもらっているんです」

「どうして?」

 

 セシリアを差し置いて、思わず疑問を口にしてしまった。だって、気になりすぎるじゃない。

 

「謁見の間での一件のあと、彼の処遇をめぐって王宮内でモメにモメてね」

 

 それはそうだろう。

 今まで王位継承者として担ぎ上げてきた少年だ。いまさら王の血統じゃなかったからって、はいさようならとはいかない。

 

「このまま王都にいたら命を狙われそうだったから、領地に戻るついでに連れてきちゃった」

「いいの? それ」

 

 セシリア同様、彼らを利用したい貴族たちから物理的に距離をとるのは、有効な一手だと思う。しかし、彼を王都の外に出すのは反対意見もあったはずだ。

 

「宰相閣下には許可を取ったよ。むしろ、オリヴァーを頼むってお願いされたくらい」

「……父にとっては、生まれた時から面倒を見ていた君主の子ですからね」

 

 フランがぽつりと言った。

 宰相閣下は厳しいようで実は情に厚い人だ。王妃に取り込まれていた問題児であっても、やはり思うところはあったようだ。

 オリヴァーはぎこちなく笑う。

 

「今の俺は王子でもなんでもない。父親が誰かもわからないただの孤児です」

「……と、言ってモーニングスター領につくなり、城から出て行こうとしたから、どうせ行くところがないなら、って俺の下についてもらうことにしたんだ」

 

 ケヴィンは苦笑しながら肩をすくめる。

 

「元は王子だったオリヴァーを従者にするのはどうかな、って思わなくもなかったんだけど、実際に働いてもらったらすごく有能で」

「え」

 

 その評価は意外だった。

 なにしろ、王立学園にいたころは、基礎力はあるものの取り巻きにいいように操られる問題王子だったから。

 私の顔を見て、オリヴァーも苦笑する。

 

「人の上に立っていなきゃって、今まで気を張っていた反動かな。誰かのために働く気楽さが居心地よくてね」

「俺もすごく助かってる。主君目線の教育を受けてた経験からか、俺が次に何を必要とするか、いつも先回りしてくれて」

 

 そう言って笑いあうふたりの空気は柔らかい。

 血統が否定され主従関係が逆転した結果、新しい友情が産まれていたらしい。まさかの展開に、私は絶句するしかなかった。

 




「クソゲー悪役令嬢コミカライズ②巻」
「クソゲー悪役令嬢書籍⑧巻」

2026年7月31日に2冊同時発売されます!


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