【書籍⑧巻&コミック②巻、7月31日発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
街道を馬車が疾走していた。蹄が土を蹴る音と、馬車が揺れるガタガタという騒がしい音が頭をに直接響く。私は振り落とされないよう、必死に座席にしがみついた。
「ハイッ!」
掛け声とともに、年嵩の御者が鞭を振るった。乾いた音がして、馬が悲鳴のような嘶きをあげた。早く走れの合図だけど、馬車の速度は変わらない。それもそのはず、馬はもうすでに限界まで早く走らされていた。走り続ける体力の方も限界が近い。それでも私たちは早く走らなければならなかった。なぜならすぐ後ろから危機が迫っていたからだ。
ガウッ! という獣の吠える声が聞こえた。
発せられた位置は近い。
馬車にしがみつきながら後ろを見ると、灰色の毛皮をまとった四つ足の獣の姿が見えた。狼のように見えるけれど、その体躯は通常の狼より何倍も大きい。伝説にその恐怖が記されているモンスター、ダイヤウルフだろう。
狼の魔物は群れを成して追いかけてくる。その数はゆうに十を超えていた。
もともと馬車の周りは護衛に雇った傭兵たちが馬に乗って並走していた。しかし、魔狼と戦ううちに、ひとり、またひとりと数を減らしていった。今何人がついてきているか、もうよくわからない。
「ライラお嬢様、申し訳ありません。私たちがふがいないばかりに」
「謝らないで。行くと決めたのは私なんだから」
私たちが都市の外に出たのは、商いのためだった。
度重なる魔物災害で地方の流通ルートはズタズタ。農村部の多くの村が孤立することになってしまった。食料は自給自足できても、薬や日用品が届かなくては生活に支障が出る。逆に都市部は食料不足が問題になっていた。
需要と供給のバランスをとるため、私たち商人は護衛を雇い人手を集めて、荷物を国中に運んでいた。特に大商会リッキネンを経営するお父様は契約のためにあちこち飛び回り、お母様は商品管理のために商会事務所に詰めていた。私もお母様の隣で帳簿をつけ、リッキネン家は総出で働いていた。経営危機を迎えながらも、商いを続けたのは商会としてハーティア経済の一端を支えるという自負があったからだ。
そんな中だった。お父様の乗っていた馬車が事故を起こしたのは。
幸い命に別状はなかったものの、足を怪我して動けなくなってしまった。これでは契約の場に足を運ぶことはできない。
信頼のおける番頭を代理に立てたものの、一件だけ、どうしてもリッキネン家の者が立ち会わなくてはいけない案件があった。通常なら母が行くところだけど、商品管理をしている母を王都から出すわけにも行かない。そこで私が立ち会い役として立候補したのだ。
契約は無事結ばれ、あとは書類を持って王都に戻るだけだというのに、帰り道に運悪く魔物の群れに出くわしてしまった。
必死に走る馬とは違って、追ってくる魔狼にはまだ余裕がありそうだった。
いつか必ず追いつかれる。
絶望的な気持ちで、私たちはただ走り続ける。
街にたどり着くか、どこからか助けが来ることを祈りながら。
「ガウッ!」
間近で吠え声が聞こえた。
ガタン!と馬車が大きく傾く。何が起きたのか、わけがわからないまま、馬車が跳ね、体が揺さぶられる。
馬の悲鳴が大きく響いた。
顔を上げたその先で、数匹の魔狼が馬に食いついていた。
馬が倒されたことで、つながっていた馬車も大きくバランスを崩す。横倒しになると同時に、私も馬車の外に投げ出された。
「きゃあっ!」
「お嬢様!!」
同じく投げ出された御者が駆け寄ってくる。体を起こす私をかばうように、背を向けて立った。
さらに並走していた傭兵たちも集まってくる。数は馬に乗っている者も含めて三人。彼らは抜き身の剣を手に持ち、それぞれ、どこからか血を流していた。無傷の者は誰ひとりとしていない。
私たちを取り囲んで、魔狼たちはぐるる……と低くうなる。その金色の目はじっと私達に据えられており、獲物を逃がすまいとする意志を伝えていた。
御者が傭兵たちを見た。
「残った馬は1頭か。誰かお嬢様を乗せて逃げてくれ」
「あなたはどうするの!」
「ここに残ります。私まで乗せていたら馬の足が遅くなる」
「でも!」
彼は私が子供のころから商会に勤めている御者だ。半年前に孫が産まれたばかりで、私からもお祝いを贈っていた。使用人ではあるけど、家族同然だ。
彼を置いてはいけない。
「だ、ダメよ」
「いいから誰か、お嬢様を馬に乗せろ!」
私の声を無視して御者が傭兵に命令する。ぐい、と乱暴に体を引かれた。
「いや!」
その時だった。
空から星が落ちてきたのは。
「……!」
どおん、という轟音とともに白銀に輝く巨大な何かが、目の前に折り立つ。見上げた姿は、どうやら人型のようだった。しかし人にしては大きすぎる。ゆうに十メートルはありそうだ。
「鎧……?」
傭兵のひとりがぽつりとつぶやく。まさにその姿は白銀に輝く鎧だった。
噂には聞いていた。
建国神話に記された伝説の鎧が復活したのだと。けれどそれはどこか日常の向こう側で、私たち一般市民が目にすることはないと思い込んでいた。
鎧は、両の手に一振りずつ持っていた刀を振り上げた。湾曲した刃が振り下ろされると同時に、ダイヤウルフが胴から両断される。
そこからは一方的な蹂躙だった。
巨大な鎧が刀を振るうたびに魔狼が肉片に変えられていく。私たちを脅かしていた魔物は、あっという間に一掃されてしまった。
敵がすっかりいなくなったあと、鎧は今度は体をかがめ始めた。膝をついてしゃがみ込む。と、思ったら腹が動いた。腹を覆っていた装甲があいて、中から人が姿を現す。
出てきたのは、貴族らしい上着を着た青年だった。
燃えるような赤毛に、緑の瞳。自信に満ちた凛々しい顔立ち。
カトラス候爵、ダリオ様だ。
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