【書籍⑧巻&コミック②巻、7月31日発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
「お前ら、生きてるか?」
ダリオ様は白銀の鎧から降りてきて、こちらに声をかけてきた。
伝説の出現に呆然としていた私たちは、やっと我に返る。私はせいいっぱい髪を整えてから淑女の礼をとった。本当はスカートの裾の泥も払いたかったけれど、そこまでの余裕はなかった。
「カトラス候爵様、おかげさまで命拾いいたしました。ありがとうございます」
「ん? なんで俺の名前を……って、お前ライラか!」
ダリオ様が声をあげた。
私のことを覚えていてくださった。
危機的状況だったというのに、恐怖とは別の理由で胸が躍る。
「お前は商会のお嬢様だろう。どうしてこんなところにいるんだ?」
「商会の娘だからです」
「うん?」
「孤立した村に商品を届けるため、父の名代として街の外で契約に立ち会っておりました」
ダリオ様は形のよい眉をひょいと上げた。
「それで魔物に襲撃されたのか。お前は会うたびトラブルに巻き込まれてるな」
「しかし……」
「商人としての矜持があるんだろう? そういう気概は嫌いじゃない」
ダリオ様はにやりと笑った。思わず見惚れてしまうのを、必死の想いで押しとどめる。ダリオ様は私を仕事に誠実な商人と認めてくれている。感情に振り回されたりなどせず、信頼にこたえる態度をとらなくては。
「これから街までどうやって帰るつもりだ?」
「……そうですね」
私は馬車を振り返った。
馬車は完全に横倒しになっていた。つないでいた馬も魔狼に襲われて死んでしまっている。このままでは動けないのは、誰の目にも明らかだった。
「馬はまだ一頭残っていますから、馬車に繋ぎなおせばなんとか?」
傭兵のひとりが馬車を見ながら提案する。
「その前に馬車を元に戻すのが大仕事だな。……よし、ちょっと待ってろ」
ダリオ様は白銀の鎧に戻っていったかと思うと、すぐに乗り込んでお腹の装甲を閉じた。鎧が馬車に近づいてきて、ひょいと持ち上げる。馬車は元通りまっすぐ立てられた。
またダリオ様は鎧に膝をつかせて、お腹から降りてくる。
「これでどうだ?」
「ありがとうございます。これなら馬を繋ぎなおして……いえ」
馬車の状態を見ていた御者が顔を曇らせた。
「車軸にヒビが入っています。残念ですが、ここに放棄していくほかないでしょう」
「残ったのは馬が一頭だけか」
馬車を見ながら、ダリオ様が眉をひそめる。御者が首を振った。
「お嬢様には傭兵のひとりと一緒に馬で先行していただいて、私達は荷物を持って後から歩いていきましょう」
「ダメよ。それじゃ街にたどり付く前に日が暮れてしまうわ。また魔物に襲われたらどうするの」
「お嬢様をお守りするには、それが最善なのです」
「家族同然のあなたを置いていけるわけないでしょう」
他の商会がどうかは知らないが、リッキネンは従業員を手厚く保護するのが流儀だ。安心して働ける環境ほど、彼らの士気をあげるものはない。
「……取り込んでいるところ悪いが」
私と御者の口論に低い声が割って入った。ダリオ様だ。
「乗り物なら、もう一台あるだろ」
ダリオ様は自分の背後を指した。そこにあるのは、膝をついたままの巨大な白銀の鎧だ。
「誰かひとり馬に乗って街へ向かえ。残りは馬車に乗ってしがみついてろ。俺が『カトラス』で掴んで、街まで運んでやる」
「私どものために伝説の鎧を!? よろしいのですか?」
思わぬ申し出に、御者も私も驚きを隠せない。ダリオ様は柔らかく笑う。
「そもそも鎧は民を守るために女神様が遣わしたものだ。流通を支えようと命張ってるお前らに使ったところで、誰も文句は言わんよ」
「ありがとうございます!」
私達はそろって、ダリオ様に頭をさげた。
「そうと決まれば、準備をいたしましょう」
「荷物を整理して全員乗り込めるようにしなくちゃ」
「ライラ、お前はこっちだ」
馬車に乗り込もうとした私をダリオ様が止めた。振り向いた私に手を差し出す。
「女の細腕で馬車にしがみつくのはキツいだろ。幸い、あの鎧には座席がふたつある。後ろに乗せてやるよ」
「えええ……」
伝説の鎧に救われたばかりか、後ろに乗せてもらえる?
想像をはるかに超える幸運に私は一瞬意識が遠くなりかけた。
どうしてライラのダリオへの好感度がめちゃくちゃ高いのか、については31日発売の書籍⑧巻のオマケSSを読むと謎が解けます。
ぜひぜひ、書籍⑧巻を読んでみてください!
「クソゲー悪役令嬢コミカライズ②巻」
「クソゲー悪役令嬢書籍⑧巻」
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