【書籍⑧巻&コミック②巻、7月31日発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
「乗り心地はどうだ?」
「ひゃい! すごくいいです!」
ダリオ様に声をかけられて、私は慌てて返事をした。ぼんやりしていたせいで、思わず声が裏返る。恥ずかしいと思う反面、それも仕方ないと思う自分もいる。
なぜなら、今私がいるのは伝説の白銀の鎧の座席なのだから。
しかもすぐ目の前には、ダリオ様の背中がある。後部座席のほうが少し高くなっているおかげで、滅多に見られない赤毛の後頭部までもが見放題だ。ダリオ様から見えないのをいいことに、だらしなくにやけ顔になっててしまう。
ダリオ様は鎧を操作して馬車を掴むと、ゆっくり歩き始めた。座席の周りの景色があわせて移動していく。
「すぐ街につくからな」
「……ありがとうございます」
私を安心させようとして向けられた言葉なのに、素直に喜べなかった。
ずっとここに乗っていたいのが、本音だったから。
私は目の前の赤毛の頭を見つめる。かっこいい人は、つむじまでかっこいい。
なぜこんなにもドキドキしてしまうのか。
いや、なぜなんて疑問は無意味だ。私はもう理由を知っている。
私がダリオ様を好きだからだ。
初めてお会いした時から予感はあった。
優しいダリオ様。その凛々しいお姿に惹かれずにはいられなかった。
まさか、ケヴィン様以上に好きになれる方があらわれるなんて、思わなかった。
ダリオ様を捕まえて『借金侯爵』呼ばわりするなんて、リリィは本当に男を見る目がない。
こんなに素晴らしい方は他にいない。
もっと側にいたい。
この時間がずっと続けばいいのに。
でもその願いはかなわない。
私は過去に事件を起こした問題令嬢で、その上十二歳も年下の小娘だ。勇士七家の末裔として活躍する侯爵家当主のダリオ様が私を見る理由なんかない。
結末はケヴィン様の時と同じ。
私が一方的に想って、恋の炎が消えるのをじっと待つしかないのだろう。
わかってはいることだけど。
私は思わず、座席わきに手をすべらせた。普通の椅子なら本来ひじ掛けのあるあたりを掴む。ひんやりとした感触がしたかと思うと、そこが突然光り出した。
「えっ!?」
『聖女のミトコンドリア遺伝子を確認。さらに、恋する乙女心パワーも検知』
「なんだ?」
ダリオ様も驚いて顔をあげた。
『コパイロット席の女子に準聖女の資格ありと判断。ダリオ・カトラス様とペアリングが可能です。セシリア陛下に許可申請をいたしますか?』
どこからか男性の声が響いてくる。
鎧のお腹の中には、私とダリオ様のふたりしかいなかったはずなのに、どこから話しているんだろう? もし、ダリオ様とのやりとりを聞かれていたのだとしたら、とてつもなく恥ずかしい。
「もちお、もうちょっと詳しく」
ぴょこ、と座席前の窓に猫が現れた。白い猫はなぜかまるまる太っていて、ちょっと鼻がつぶれている。
『コパイロット席の少女に、準聖女となる資格があります。セシリア陛下に申請、承認されましたら、彼女をあなたの聖女として登録することができます』
「俺の聖女って……あれか? リリィがフランドールと一緒に鎧に乗り込んでるってやつ」
『左様です』
よくわらかないことを言いながら、白い猫がこっくりとうなずいた。
一体全体、何が起きているんだろうか。
「あ~そういうことか……」
ダリオ様はがりがりと頭をかいた。
「もちお、ちょっと座席から離れる。しばらく鎧の操縦はまかせた」
『かしこまりました』
体を座席に固定していたベルトをはずしたかと思うと、ダリオ様は体ごとこちらを振りかえってきた。
美しい緑の瞳を向けられ、どきりと心臓が跳ねる。
「ライラ、お前にいくつか質問するぞ」
「は、はい」
何を問われているのかわからなかったけど、真剣な様子はわかる。私はこくこくとうなずいた。
「お前の家系には王族の血が入っていたりするか?」
「ええ、はい……母方の遠い親戚に降嫁した王女様がいらっしゃったと聞いたことがあります」
「やっぱりそうか。まあ、もともとケヴィンの婚約者だったくらいだし、リッキネンの家格を考えたらおかしな話じゃないか」
「ダリオ様……?」
王族の親戚がいたら、どうしたというんだろう?
首をかしげる私そっちのけで、ダリオ様は何かに納得している。
「次の質問だが、お前、侯爵夫人の地位に興味はあるか?」
「……え?」
今度こそ、質問の意味がわからなかった。
侯爵? 夫人? どこの? 誰の?
「あ~……聞き方が悪かったか。ええと、ライラ・リッキネン、俺の嫁にならないか?」
「……ふえ?」
嫁?
俺の? ダリオ様の?
「それは、求婚、ですか……?」
「ああ。だが断ってもいい」
ダリオ様は軽く首を振った。
「俺の嫁になったら、相当な苦労をかけることになる。白銀の鎧に、借金に、商売にって、多分普通の高位貴族の嫁の五倍はキツい」
ダリオ様は手を伸ばすと、ひじ掛けの上に乗せたままの私の手に触れた。
「ただし、もし俺のものになってもいい、と言ってくれるなら……俺は生涯お前だけを愛して尽くすと誓おう」
恋焦がれた緑の瞳が、私を真剣に見つめている。
「どうだ?」
返す答えは、ひとつしかなかった。
「クソゲー悪役令嬢コミカライズ②巻」
「クソゲー悪役令嬢書籍⑧巻」
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