【書籍⑧巻&コミック②巻、7月31日発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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ライラの恋バナ

「ダリオ・カトラス侯爵といえば、南部海岸地方を治めている方ですよね?」

 

 シュゼットが、ハーティア貴族リストを思い出しながら言う。セシリアがうなずいた。

 

「そして、没落したラインヘルト子爵家を管理し、私を妹分として引き取って育ててくれた恩人でもあります」

「セシリアの後見人でもあったのですね」

「前侯爵の残した借金に喘ぎながらも、隠された王女を誠実に保護してた、ってことで今や王都での評価はうなぎのぼりよ」

 

 カトラスを援助したのは、セシリアを保護させたいという意図もあったから、私達の期待通りの状況だ。評価が上がれば、それだけ商売の信用度が上がり、借金も返済効率もよくなる。

 

「でも、やっぱりライラとダリオの関係って、友人とその保護者くらいの間柄じゃない?」

 

 どこでどう恋愛関係に発展したのか、全然想像がつかない。準聖女になっているのだから、ライラがダリオに恋をしているのは、確かなんだろうけど。

 

「……っ」

 

 顔を真っ赤にしたライラはしばらく沈黙したあと、絞り出すようにして、やっと一言口にした。

 

「……偶然よ」

「どういうこと?」

「少し前、王宮内の離宮にシュゼット様やあなたの身の回りのものを届けたことがあったでしょう」

「あー王妃の嫌がらせに対抗してた時のアレ!」

「王宮の女官に足止めされて、困ってたところを偶然通りがかったダリオ様が助けてくださったの」

「あの時、ダリオが王宮にいたの!?」

 

 てっきり、カトラス領にいるものとばかり思っていた私は、思わず声をあげた。

 

「取引の関係で、王都に向かっていたところを被災したとおっしゃってたわ。多分、すぐに領地へと戻られたのだと思うけど」

「……それで、好きになっちゃったの?」

 

 ダリオはちょっと濃いめの顔立ちだけど、十分イケメンの範疇に入る美青年だ。絶対絶命のピンチに現れたら、心を奪われて当然だろう。

 

「いいいい、いいな、って思っただけよ! その時は!」

 

 ぶんぶんと手を振ってライラは否定する。その時はまだ、恋はしていなかったらしい。どう聞いてもその時点で落ちてる気がするけど。

 

「で、でも、この間、街の外でモンスターに襲われてた時に、また偶然ダリオ様が助けてくださって……その上、街まで送るからと白銀の鎧の後部座席にまで乗せてくださって……!」

「……なるほど?」

 

 ダメ押しでさらに助けられてラブラブイベントを起こされたらしい。

 それはもう惚れるしかない。

 

「えっ……白銀の鎧って、聖女に覚醒する前でも乗れるんですか」

 

 時系列が気になったらしい。シュゼットが首をかしげた。私は肩をすくめる。

 

「聖女は操縦するための条件だから。ただ座席に乗るだけなら誰でも問題ないわよ」

 

 人命救助のために、か弱い令嬢を乗せたところでどこからも文句は出ない。

 

「それで……乗っていたら、突然白い猫が『恋する乙女心を検知した』とか言い出して」

「はあ? もちおがそんなこと言ったの!?」

 

 AIの暴挙に、私は思わず立ち上がってしまう。

 高機能なディーと違って、白猫AIのほうは人の心を察するのが微妙に下手な時があるとは思ってたけど、乙女の恋心を勝手に暴露するなんて。どうしてくれよう、あのノンデリAI。

 

「い、いいい、いいのよ、それは!」

「えー?」

「だって、どうせ告白なんてできっこなかったもの。私はただの商人の娘だし、十二も年下だし、許されないことをした過去だってあるし。……でも、それを聞いたダリオ様が侯爵夫人にならないか、っておっしゃって……」

「……それでプロポーズを受けたの」

 

 こくりとライラはうなずいた。

 

「そう……」

 

 ううん……これっていいのかな?

 彼女にとっては、恋が成就した瞬間だ。

 でもダリオにとってはどうなんだろう。

 きっとダリオは、ライラが彼の聖女になれると教えられたからプロポーズした。そこに恋愛感情はない。条件にあった令嬢が現れたから逃すまいとしただけだ。

 都合のいい相手を結婚相手に選ぶのは、貴族としてよくあること。その価値観自体はこの国では当たり前に受け入れられていることだ。

 けれど、恋する乙女に対する行動として、正しいと言えるのだろうか。

 

「わかってるわよ。ダリオ様が求婚してくださったのは、私に恋をしたからじゃないって」

 

 私の困惑が伝わったのか、ライラは首を振った。

 

「でもあの方は、生涯私だけを愛して、尽くすと誓ってくださったの」

 

 そう言いながらも、視線は不安げに揺れる。

 

「私にはその言葉だけがあれば十分……!」

 

 ぎゅう、とライラはその手が白くなるほど拳を握りしめた。本心ではそれでいいなんて、納得してないくせに。

 けれどなんと言ってあげればいいんだろう?

 商人の娘であるライラは、人の感情の機微に聡い。

 私が想像したことなんて全部わかって察していて、その上でプロポーズを受けているはずだ。

 ここまで自分の想いを決めている相手に、かける言葉が見つからない。

 

「大丈夫ですよ」

 

 そ、と横からセシリアが手を差し出した。握ったままのライラの手をそっと包み込む。

 

「ダリ兄は約束を違える方ではありませんから」

「……セシリア」

 

 そうだ、ここにはもうひとり、ダリオ側の身内がいたんだった。セシリアは私よりずっとダリオとの関わりが深い。妹としての想いをライラに伝えることができる。

 

「愛する、と言ったのなら相応の覚悟を持って宣言したはずです」

「……本当に?」

 

 すがるような視線を向けるライラに、セシリアはにっこりとほほ笑んだ。その姿はまさに、救いを与える聖女だ。

 

「ええ。ダリ兄は必ず想いを返してくれます」

 

 セシリアはライラの手をとった。硬く握りしめられていた拳がほどける。

 

「ダリ兄にあなたとの結婚の許しを求められた時にも言いましたけど、改めて宣言しますね。私、セシリア・ハーティアはライラの友人として、ダリ兄の家族としてあなたたちふたりの結婚を祝福します」

「……ありがとう」

 

 ライラはついに泣き出してしまった。セシリアはその背中をゆっくりとなでる。

 ああ見えて、ダリオは誠実で真っ当な大人だ。妹分の言葉はきっと真実になるだろう。

 ライラはきっと幸せになる。

 見ていた私達も素直にそう信じることができた。

 

「今日はこれくらいでお開きにしましょうか」

 

 私達を見守っていたマリィお姉さまが声をかけてきた。

 確かに、ライラが泣いてしまったこともあって、部屋の空気はもう女子会という雰囲気ではなくなっていた。

 

「では部屋に戻りましょう」

 

 シュゼットが立ち上がる。マリィお姉さまも、ライラを支えて一緒に立ち上がった。三人はそれぞれ部屋を出ていく。

 その後を追うように立ち上がって、私は足を止めた。

 

「リリィ様?」

 

 私はセシリアを振り返る。

 

「もう少しだけ、ふたりで話さない?」

「え……」

 

 セシリアは不思議そうに首をかしげた。

 

「私まだ、あなたの恋バナを聞いてないわ」





「クソゲー悪役令嬢コミカライズ②巻」
「クソゲー悪役令嬢書籍⑧巻」
7月31日より発売中!!!!


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