【書籍⑧巻&コミック②巻、7月31日発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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負うべき責任

「……リリィ様には、隠せませんね」

 

 しばらくの沈黙のあと、セシリアはため息をついた。

 

「ええ……私はあの方に恋をしている。きっとそうなんでしょう」

「だったら」

「でも、相手の名前は言えません」

 

 セシリアは唇の前に指を立てた。はっきりとした拒絶だ。

 予想はしていたけれど。

 

「……リリィ様がうらやましい」

 

 ややあって、セシリアがぽつりとつぶやいた。

 

「同じ女神に運命を変えられた存在だというのに、心のままに恋をして、素敵な方に愛された」

「……それは」

「ええ、何も悪くありません。リリィ様が運命に抗い必死に戦った結果です」

 

 そう言いながら、セシリアは暗くうつむく。

 

「私はあなたのようには生きられない……」

 

 そんなことはない、とは言えなかった。

 セシリアが運命に翻弄される姿を、すぐ側で見てきたから。

 

「私はこの世界のヒロインです。私の決断次第で世界が動き、恋が世界を変える。私が誰を選ぶかによって、国の形が決まってしまうんですよ? そんな大きなものを背負いながら、まともな恋ができると思いますか」

「……気持ちは、わかるつもりよ」

 

 恋が世界を救う。

 乙女ゲームでは時々キャッチコピーになってるくらいのフレーズだけど、その設定をドラマチックと受け止められるのは、所詮お話の世界だから。消費エンタメと割り切っているからだ。

 現実に自分の気持ちひとつで世界の生き死にが決まると言われたら、重すぎてプレッシャーに耐えられないだろう。

 そして、セシリアは実際に女王に即位させられ、聖女として祀り上げられている。

 これは邪神を倒す正義の戦いだから。

 人を救うのに都合がいいから。

 そう言い訳して、誰もセシリアの恋心を顧みてこなかった。

 私も含めて。

 

「安心してください」

 

 セシリアは顔をほほえみの形に整える。

 

「恋する気持ちを明かすことはできませんが、女王の立場は放棄しません。この戦いにおいての、聖女の役割は真っ当するつもりです」

「そんな義務みたいな……」

「私にとって聖女は義務そのものですよ」

 

 否定できない自分がやるせない。

 

「リリィ様も、私が戦うことをお望みでしょう?」

「それは……」

 

 私はすでに次期侯爵として多くの命と生活に責任を持っている。だから、セシリアには邪神に戦ってもらわなければならない。ハーティア高位貴族のほとんどが、同様の立場だ。

 でも、しかし。

 

「……嫌なら、やめちゃう?」

 

 思わず言葉が口からこぼれ出た。

 

「え?」

 

 一度口にしたからには止まらない。私は抱えていた気持ちをそのまま言葉にする。

 

「ずっと考えてたんだけどね……セシリアが好きな人を素直に言えないのって、絶対今の立場のせいでしょ?」

「……それは、まあ、そうですけど」

「恋する乙女心が世界を救う世界なのに、聖女ヒロインの気持ちが犠牲にされるって、なんかおかしくない?」

「いえでも私の場合は相手が相手ですし」

「相手が誰でも関係ないわ」

 

 言ってみて、確信した。

 やっぱりこの状況は変だ。

 恋する乙女が次々に幸せになっていく中で、ただひとりセシリアだけが世界のために想いを我慢するなんて、間違ってる。

 これは侯爵令嬢としての考えじゃない。

 自由な現代日本の価値観を持つ小夜子の考えであり、セシリアの友達としての考えだ。

 

「あなただって恋する乙女のひとりなんだから、幸せになる権利があるはずよ」

「……でも、そんなことになったら、世界は」

「どうにかなるわよ」

「ええ……」

 

 困惑するセシリアに、私は胸を張ってみせる。

 やっぱりセシリアひとりに背負わせるなんておかしい。この世界に生きてるのは彼女ひとりじゃないんだから。

 

「恋愛フラグが必要だったのは、空中母艦と白銀の鎧のロックだけでしょ? 今はもう全部復活して稼働してるし、覚醒した準聖女だって何人もいる。あなたひとりが駆け落ちしたって、どうにかなるわよ」

「えええ……」

「まあちょっと……後始末に大人が苦労するかもしれないけど、いいんじゃない? 今まであなた個人の気持ちを、置いてきぼりにしてきたツケが回ってきただけなんだから」

 

 あえて問題は無視して、にかっと笑ってやる。

 もともと女子ひとりに解決させようとしていたようなことだ。国中の全員で力を合わせたら、なんとかなるんじゃないかな。

 奇跡を起こすのと同じくらい大変かもしれないけど。

 

「リリィ様って、やっぱりお優しいですね」

 

 セシリアはこくんとうなずいた。

 

「……もう少しだけ、がんばってみます」

 

 がんばって笑顔を作っているけど、その目じりには涙が浮かんでいる。やせ我慢してるのがバレバレだ。

 

「無理のしすぎはよくないわよ」

「わかってます。でも……」

 

 セシリアはこてんと首をかしげて私を見上げてきた。

 

「本当にダメだって思った時には、頼っていいですか?」

「もちろんよ!」

 

 友達のお願いに、私はとびきりの笑顔を返した。

 




「クソゲー悪役令嬢コミカライズ②巻」
「クソゲー悪役令嬢書籍⑧巻」
7月31日より発売中!!!!


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