【書籍⑧巻&コミック②巻、7月31日発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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私の幸せな心中

「イセカイ……テンセイ?」

 

 セシリアを抱きしめるユラの顔がきょとんとしたものになった。聞いていた私たちも、一瞬虚をつかれて思考が飛ぶ。

 異世界転生が何だって?

 

「リリィ? 異世界転生というと、もしかして」

 

 フランがこちらを振り向いてたずねてくる。私は大きくうなずいた。

 

「現代日本で死んだ小夜子の魂が、私の中に生まれ直した奇跡のことね」

 

 すでに、私と勇士七家のうちの数名はその出来事を知っている。中には、女神ダンジョンに閉じ込められた時に、『前世』の小夜子と直接話した者もいる。だから、言葉が表す現象自体は理解してるけど。

 

「でも、ここから『異世界』に転生ってどういうこと?」

 

 いぶかしんで見つめるモニターの先で、セシリアは笑っている。

 

「私もあなたも、魂がこの世界結び付けられている。ここにいる限り、私達は運命から逃れることができない。ならば、この世界から出ていってしまえばいいのです」

「この世界が多元的なもので、同様の世界が他にいくつも存在することは僕も知ってるけどね。どの世界にも運命の女神のような管理者がいて、人の運命を操作している。どこへ行っても干渉されるだけだと思うよ」

「いいえ、ただひとつ例外があります。魔力がいっさい存在せず、運命の女神ですらお気に入りの人の子の運命を変えられず、魂を別世界へと連れ出さなければ恩寵を与えられなかった世界が」

「……まさか」

「そう、『小夜子』の『現代日本』の世界です」

 

 確かに、あそこはこの世界から見れば立派な『異世界』だけど。

 

「神に干渉されない世界? 本当にそんなものがあるのか?」

 

 ファンタジー世界育ちのフランがむう、と眉間に皺を寄せる。でも、私は彼に同意できなかった。小夜子として、現代日本の世界を知っていたから。

 

「神が本当に存在しないかはともかく、干渉がほぼゼロの世界なら存在するわ。それが『現代日本』のある世界よ」

 

 なにしろ神が存在するかしないかで議論になった上、科学技術の発達で『神は人の心の中にある』が人類の共通認識っぽくなってる世界だからなあ。神の奇跡が人から遠いのは確かだ。

 思い返してみれば、運命の女神と名乗りながらあの世界でのメイ姉ちゃんは、人に軽く暗示をかける程度しかしてこなかった。絶大な力を持つ神様なら、気に入った人間の病気を治すくらいできそうなものなのに。

 彼女は死の運命に苦しむ私をそのまま見送った。

 干渉が始まったのは、私が死んでこちらの世界にきてからだ。

 人の運命に手出しができない、何らかの制約があったとしても、不思議じゃない。

 

「別の世界への転生かあ。すごく魅力的なお誘いだけど、神の手で行うならともかく、神の力の端末の僕らが起こすには、大きすぎる奇跡じゃない?」

「力が足りないなら、他から調達すればよいのです。幸い、神の奇跡ならここに山ほどありますし」

 

 セシリアがこちらを振り返った。

 え、奇跡って何を使うつもりなの。

 不思議に思っているうちに、周囲が金色に光り始めた。モニターが、シートが、スマホが、フランの顔にかかっているスマートグラスが、そして白銀の鎧全体が金に光る。

 きっとこの光はコクピットの中だけの話じゃない。母艦である『乙女の心臓』や、他ありとあらゆる神の超技術マシンに同じ現象があらわれているだろう。

 

「はははは! 女神の恩寵すべてを供物にするなんてね! じゃあ僕も、魔物に変えたアギト国民の命を差し出そう!」

 

 ユラの背後にひしめいていた魔物の群れが、銀の光を放った。こちらも、彼らが転生するためのエネルギーとして消費するつもりらしい。

 

「長く生きてきたけど、異界に無理やり転生するなんて、こんな無茶初めてだよ」

「さすがのあなたでも、魂が焼き切れて、もう二度と転生できなくなるでしょうね」

「神の手の届かない場所で、君と一度きりの人生を送る……なんて幸せな死だろうか」

「素敵ですね」

 

 私達のことなんかそっちのけで、聖女と邪神が笑いあう。完全にふたりの世界だ。

 私たちが無言で見守っていると、セシリアがやっとこちらを振り返る。

 

「リリィ様、あとはお任せしていいですか」

「どうにもならなくなったら頼れとは言ったけどさあ……世界を飛び越えてまで駆け落ちするとは思わなかったわよ」

 

 まさか全部ブン投げて無理心中とか、想像の上すぎる。

 けれど、神々に与えられた運命を何より厭っている彼らにとって、死と転生こそが唯一の希望なのだ。

 

「えへへ、ごめんなさい」

 

 セシリアはぺこりと頭を下げた。あまり悪いと思っていないのか、顔は笑ったままだ。かわいいなコンチクショウ。

 いつも困り顔になってるところばっかり見てたから、気づかなかった。セシリアってこんな風に笑う子だったんだ。私達は寄ってたかって、こんなかわいい子に無理をさせてたのか。

 

「ここまでやったからには、幸せになるのよ」

「はい!」

 

 主操縦席に座っているフランが『それでいいのか?』って顔で眉間に皺を寄せてこっちを振り返ってきてるけど、あえて無視させてもらう。国の運営がどうとか、戦争がどうとか、多分いろいろ問題アリなんだろうけど、セシリアの『友達』としての私は、彼女が幸せのために決めたことを応援する。

 

「宰相閣下、ダリ兄……そしてみなさん、申し訳ありません。やっぱり私、王様向いてなかったみたいです。私はユラとともに行きます」

 

 抱きしめるユラの腕に体を預けたまま、セシリアはふわりとほほ笑む。

 

「女神の力も邪神の力も、私達が道連れにします。なので、ここから先はみなさんでどうにかしてください。よろしくお願いします」

「セシリア!」

「ごきげんよう」

 

 周囲で金の光がはじけた。

 きらきらとはじけながら、光は女神のハイテク機器を分解していく。

 支えるもののなくなった私達は、ゆっくりと地上へと降ろされた。

 巨大空中母艦のあった場所の地上に、乗り込んでいた何人もの人間がそれぞれ立ち尽くしている。

 

「誰か! 女王陛下をお探しして!!」

 

 少し離れたところで、マリィお姉さまが叫んだ。

 はっとして私達は駆け出す。

 自分の足と、馬をと使って、セシリア達が対話していた山を目指す。

 そこで私達が見つけたのは、抱き合いながら穏やかに眠るセシリアとユラの遺体だった。




「クソゲー悪役令嬢コミカライズ②巻」
「クソゲー悪役令嬢書籍⑧巻」
7月31日より発売中!!!!


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