【書籍⑧巻&コミック②巻、7月31日発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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女王と王配

 会議室に入るなり、ヴァンの怒声が響いてきた。会議室の最奥の席に座る宰相閣下に、ヴァンがくってかかっていったらしい。まあまあ、と友人のケヴィンがヴァンを押さえているけど、ヴァンの怒りはおさまらない。クリスはというと、困り顔で彼らの横に座っていた。

 銀髪三人組を無視して、宰相閣下はクレイモア伯に目を向けた。

 

「これはクレイモア伯、御無沙汰しています。東はいかがでしたか」

「もぬけの殻だったよ。国民全員を生贄に捧げたのは嘘でも誇張でもなかったらしい」

「東の脅威を考えなくてもよいのは、朗報と言えるでしょうが……不測の事態にそなえるためにも、やはり早急に王を決めるべきでしょうな。クリスティーヌ殿下、どうぞ玉座にお座りください」

「だからクリスに王は無理だっつってるだろ」

 

 クリスに王位を差し出す宰相の前に、婚約者のヴァンが立ちはだかった。

 

「そうは言われましても、王室の正統な血族はもうクリスティーヌ殿下しか残っておりません。殿下以外に適任はいらっしゃらないでしょう」

「クリスは剣持って野山を駆け回るのが趣味の女だぞ。デスクにかじりついて書類仕事をしたり、家臣と腹の探り合いをする生活に耐えられるわけがない」

「優秀な王配をつければ、公務を回すことくらいはできるでしょう」

「だったら俺が……」

「シルヴァン殿、あなたは不適格です」

 

 宰相はヴァンの意見をバッサリとを切り捨てた。

 

「あなたはクレイモア家の嫡男です。伯爵家の跡継ぎは王の配偶者になれません。クリスティーヌ殿下には婚約を解消して新たな配偶者を選定させていただきます」

「はあ!?」

 

 さすがに、聞いてられなかったのかクリスも立ち上がった。ヴァンの目がますます吊り上がっていく。

 

「いまさら解消なんてできるわけないだろ。だいたい、本当に王家の血を引いてるのはこいつじゃなくて……」

「聖女とともに、神器はすべて消えてしまいました。謁見室の水盤もです。状況的に確からしいのであれば、厳密な血筋はもう必要とされません。国民が納得できるのであれば、それでいいのです」

 

 女神の奇跡が消えた現在、必ずしも聖女と建国王の血筋を守っていく必要はない。

 論理的にはそうだけど。他にもっと別の言い方があると思う。

 

「……こいつの腹に俺の子がいるかもしれないって言ったら?」

 

 とんでもない爆弾発言に、私達はぎょっとする。

 ふたりともいつの間にそんな関係になってたの。結婚前提で同じ屋敷に住んでた婚約者同士だからおかしな話じゃないけどさ。

 しかし宰相閣下は動じない。

 

「すばらしい、次世代の跡取り問題も解決ですね。相手が誰であれ、クリスティーヌ殿下の子であることは確実ですし」

「こっ……のっ……!」

 

 ヴァンは怒りの形相のまま、頭をガリガリとかいた。

 宰相閣下とヴァンでは年季が違う。所詮騎士見習いのヴァンでは勝負にならない。

 ヴァンは会議室の入り口に立ったままだったクレイモア伯を振り向いた。

 

「じいさん、これでいいのかよ! このままだとアンタの孫娘が女王に祭り上げられるぞ!」

 

 自分だけでダメなら、味方を増やす。

 彼のその作戦はあっさり不発に終わった。

 

「いや、儂はクリス殿下が女王になるべきと思っている」

「はあ!?」

「儂がここに来たのは、東の報告もあるが……ヴァン、お前に廃嫡を言い渡そうと思ってな」

「……廃嫡?」

 

 それはつまり、ヴァンをクレイモアの跡継ぎから外すってことなんだけど。

 事態がよく呑み込めないのか、ヴァンは呆然とクレイモア伯を見つめた。

 

「俺を廃嫡してどうするんだよ。クレイモアにはもう、跡を継げるような子供はいないだろ」

「うむ、跡取り問題になるから黙っておったがな。実は半年ほど前に息子が生まれておるのだ」

「はあ!?」

 

 三度、会議室にヴァンの声があがった。

 クレイモア伯爵の息子? この老騎士に子供?

 

「ヴァンにとっては、随分年下ではあるが、叔父にあたる。そしてさらに複雑なことに、この子はクリス殿下の弟でもある」

「クリスの弟……?」

 

 その場にいる全員が首をかしげた。クリスティーヌの家系図上の両親は前々国王とモーニングスター家出身の側妃イルマさんだ。そして前々国王はずっと前に亡くなっている。クリスに弟が産まれる可能性があるとすればただひとつ。

 

「アンタ、母さんに手ぇ出したのかよ!?」

 

 結論に至ったヴァンが悲鳴をあげた。

 そういえばイルマさんは娘の婚約にあわせてクレイモアに移り住んでいたんだった。確かまだ三十代だったはずだから、子供を産めないこともない。

 あれ? そういえば、国境がきな臭くなった時点で、イルマさんはスコルピオ村に疎開したって聞いてたな。戦地から離れるため、って言ってたけどわざわざ医療環境が整っているスコルピオ村を選んだのって、もしかして出産のため?

 

「手を出したなどと言うな。お互い連れ合いを亡くした同士、自然にそうなっただけだ」

「歳の差いくつだと思ってるんだよ……うわあ……知りたくなかった……」

 

 ヴァンはついに頭を抱えてしまった。

 母親が、義理の祖父との間に子供を作ったと聞いたら、まあそうなる。

 

「儂はこの息子を次代のクレイモア伯として育てる。よって、お前は不要だ。ヴァン、お前は王配として王室に入り、クリス殿下をお支えするように」

「……あ?」

 

 クレイモア伯に改めて廃嫡を告げられ、ヴァンははっとした。

 そうか、クレイモアに別の跡取りがいるのなら、ヴァンは家を出てクリスの配偶者になれるんだ。

 

「クレイモア家の跡取り問題が解決してるのなら、構いません。シルヴァン殿をクリスティーヌ殿下の配偶者として迎えいれましょう」

 

 クレイモア伯の廃嫡宣言を受けて、宰相は鮮やかに手のひらを返した。

 ヴァンがじろりと宰相閣下を睨む。

 

「宰相……アンタ、じいさんに子が生まれたこと知ってたろ」

「いいえ? 私も今初めて聞きましたよ」

 

 しかしその返事は妙に芝居がかっている。どうやら、クレイモアの跡取り問題が解決すると薄々気づきながら、ヴァンを試していたらしい。人が悪いにもほどがある。

 

「つまり、どういうことなんだ?」

 

 クリスは額に手をあてて首をかしげる。急な展開についてこれなかったらしい。

 私もちょっとついていけてない。主に感情が。

 ヴァンはため息をついて、婚約者の肩に手を置いた。

 

「俺とお前のふたりでこの国の王様やるってことだよ」

「そうか! ヴァンが一緒なら、安心だな」

 

 にこっとほほ笑まれて、ヴァンはがくっと肩を落とした。

 

「俺が王様やりゃーいいんだろ……やりゃー」

「優秀な王を歓迎いたします」

「そのかわり、この場にいる全員、俺のために全力で働いてもらうからな! 特に宰相!!」

「ええ、そのために私は生きておりますので」

 

 新たな王を迎えて、宰相閣下はにっこりと笑った。




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「クソゲー悪役令嬢コミカライズ②巻」
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