【コミカライズ】クソゲー悪役令嬢~ 滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
「なるほど……そういうことか」
私に『人が欲しい!』と主張され、混乱した宰相閣下に説明すること小一時間。スパイの一斉検挙で大変なことになっているハルバード家の現状をやっと理解してもらうことができた。
「だからって、いきなり人材紹介しろはないだろ、リリィ……。もうちょっと令嬢らしいことは言えなかったのか」
兄様は額に手を当ててため息をつく。
「だって、おしゃれにしろ、趣味にしろ、領地が混乱してちゃ楽しめないじゃない」
「それはそうだが……」
「いや、自分の楽しみよりまず領民を想う、良いことじゃないか。ハルバード侯、良いお嬢さんを持ちましたな」
「自慢の娘です」
娘を誉められて、父様がにこりとほほ笑む。
「そういう事情なら、私どもの持つコネクションをフルに活用して、ハルバード家に必要な人材を全て揃えて差し上げましょう」
全部? すごい、宰相閣下太っ腹!
私は単純に喜んだけど、それを聞いた兄様と父様が腰を浮かせた。
「いえ、そこまでしていただくわけには……!」
「あまりにも人数が多すぎます」
んー、息子を助けたお礼といっても、さすがにもらいすぎってことなのかな?
本気で人を補充しようと思ったら、10人や20人じゃきかないもんね。宰相家でも、それだけ人をかき集めるのは一苦労だと思うし。
でも、宰相閣下は平然としている。見かねてフランが口を開いた。
「父上、ハルバード侯は腹芸の通じる方ではありません。下心があるなら、正直に話したほうが早いですよ」
「お前にはお見通しか」
息子につっこまれて、宰相閣下は笑い出す。
「……下心、とは何でしょう」
隠された意図がある、と明言されて、さすがのおっとり父様も身構える。宰相閣下は、いえいえ、と手を振った。
「お互いに利のある提案ですよ。必要な人材はこちらで揃えます、その代わりハルバード侯、王国騎士団第一師団長になってはいただけないでしょうか」
父様が第一師団長?
なんでそんな話になってんの?
今度はハルバード家のメンバーがぽかんとする番だ。
「……第一師団長マクガイアが汚職に手を染めていた、という話はご存知ですか」
「噂には聞いていましたが、事実だったんですか」
「ええ。つい一週間ほど前に告発したところです」
フランが襲われる原因になった事件だよね。
「現在マクガイアは拘束され、関わった者たちと共に処刑されることが決まっています。……ここで問題になったのが、後任人事です」
「イーサン・グレイシア卿を推す予定だったのでは?」
フランが不思議そうに口をはさむ。
グレイシア卿は知らないけど、私も首をかしげる。宰相閣下ほどの人が、後任人事も考えずに師団長のクビを切るわけないもんね。
「彼は死んだよ」
宰相閣下は、彼が何故死んだのかは語らなかった。
でもそれだけでおおよその事情は伝わる。地位に固執するマクガイアのことだもん、自分の後釜候補が誰か知ったら、殺しにかかるよね。
「私はできるだけ早く、決してアギト国に屈しない強い騎士を第一師団長に推薦しなくてはなりません。ハルバード侯、あなたほど適した人材はいない」
こっちの苦境を助ける代わりに師団長職を引き受けてほしい、ってことか。
悪い話じゃないと思うけど?
しかし、父様は首を振った。
「それは……無理です」