【コミカライズ】クソゲー悪役令嬢~ 滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
「な、なんの話かなー……」
私はフランから目をそらして、そこから逃げ出そうとした。
しかし、彼の長い腕が進行方向を遮っていて、それを許してくれない。
誰か呼ぼうにも、ジェイドを含めた使用人たちはとうに寝ている時間帯。父様も兄様も遠くはなれた王都だ。
こいつめ、普通に言ったら私が逃げると思って、わざわざこの時間帯、しかも囲い込みやすいソファに私を座らせてから話を振ったな?
理詰めで退路を塞ぐ策略家なんて大嫌いだ!
壁ドンとかソファドンとかって、乙女ちっくなシチュじゃなかったっけ?
なんで地獄の門番に尋問されてるような気分にならなきゃいけないの。
マジで怖いんだけど!
「リリィ、教えてくれ。お前に何があった」
「知らないっ」
どうしようもなくて、ソファに顔を埋めた私の耳に、フランがため息をつくのが聞こえてきた。
あれ……結構落ち込んでる感じ……?
なんで?
追い詰めてるのそっちだよね。
「……前にも言ったが、俺はお前を追い詰める気はない」
「ソファドンまでしといて?」
「どん……? まあいい。俺はお前の力になりたいんだ」
「……力?」
顔をあげると、フランは複雑そうな顔で私を見ていた。いつも冷静な彼らしくない、困り顔だ。
「お前には、大きな秘密があるんだろう。おそらく今の俺からでは想像もつかない内容だ。しかしそれは……お前ひとりでどうにかなるものなのか?」
「……え?」
「俺にはどうも、お前がその秘密を抱えきれずに無理をしているように見えてな」
「あ……」
フランの指摘は正しい。
実際、私は獣人に関する情報を持っていたのに、うまく扱いきれずに危機を呼び込んだ。
父様が助けてくれたらよかったものの、私たちだけでは全滅していただろう。
私ひとりじゃ世界は救えない。
「俺はお前を助けたい。だから、その秘密を俺に分けてくれないか? 何かしたいことがあるなら、その方法を一緒に考えよう。お前が足掻くなら、どんなことでも手助けしてやるから」
フランの目は真剣そのものだった。
心から、私のことを心配してくれている。私が行く道を一緒に歩こうとしてくれている。
それは何よりも嬉しい気持ちだった。
「……なんで、そこまでしてくれるの」
「命を救ってくれた恩人を助けたいと思うのは、おかしいか?」
「おかしく、ないけど」
じわりと目頭が熱くなる。
子供みたいに泣いてしまいそうだった。
フランの気持ちは嬉しい。
魔王みたいな顔をしてるけど、本当はすごく優しくて誠実な人だ。
彼が味方になってくれたら、こんなに心強いことはない。彼と一緒ならどんな敵とだって戦えそうな気がする。
でも、私が戦う相手は世界だ。
宰相となったフランが、その運命に屈して死んでいく姿を何度も見た。
彼を私の運命に巻き込んでいいとは思えない。
「だ、ダメ。やっぱダメ」
私はぐいぐいとフランの胸を押した。
右足が折れてる時だったら、少しはバランスを崩してくれたかもしれない。でも、リハビリして鍛え直している騎士の体はびくともしない。
「秘密を漏らす恐れがある、というなら魔術契約でも何でも使って縛ればいい。俺はお前を裏切る気はない」
「そういうことじゃなくて」
「能力的な不安か? お前よりは作戦立案が得意だと思うぞ?」
「そういう意味でもなくて。……あの、すごく危険だから」
「まあ、会った時に死にかけていたから、戦闘力に不安があるのはわかるが……」
「フランに槍を持たせたら強いのは知ってるって。私が言ってるのはそういう危険だけじゃなくて、もっと大きなものだよ」
私はフランの青い瞳を睨む。
「フラン、あなたに王様の首をすげ替える手伝いができる?」