【コミカライズ】クソゲー悪役令嬢~ 滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
「……なるほど、そういうことか」
領地経営の仕事がひと段落ついたあと、私とフランは執務室でゆっくりとお茶を飲んでいた。側近のジェイドも含めて、周囲に控える使用人はいない。今は領主代理と補佐官ふたりだけの、秘密の経営会議中だ。
というのは建前で。
「クレイモア領を長く放っておくと、アギト国に侵略されちゃうんだよねー」
攻略本を片手に、世界を救う作戦会議をしていた。
「わかった。この件は早めに接触する機会を考えよう」
「重要ポイントはアレル砦ね。補給路を断たれて孤立したシルヴァンを聖女が助けるラブラブイベントがあるの」
「ああ。俺がアギト国の将軍だったら、この砦は真っ先に潰すだろうからな……だが……その……」
フランの眉間に深い皺が刻まれる。
「何よ」
「らぶらぶいべんと……とやらの表現はどうにかならないのか?」
「しょうがないじゃない、元が乙女ゲームなんだから!」
聖女の力の源は恋する乙女心だ。
だから、世界を左右する大事な事件には必ず恋愛イベントがからんでくる。
戦争だの暗殺だの血なまぐさい話の間に、乙女心をくすぐるきゅんきゅんイベントが入ってくるのはもう仕様なので諦めていただきたい。
「だが、どいつもこいつも聖女に惚れていく話ばかり聞いていると、疲れてくるんだ……こいつら、それしかやることがないのか?」
「聖女が乙女ゲームの視点からしか世界を見れないんだからしょうがないじゃない!」
「理屈はわかるんだが……」
「だいたい、他人事みたいに言ってるけど、フランだって攻略対象のひとりなんだからね?」
そう指摘すると、フランの眉間の皺がますます深くなる。
「そこが一番腑に落ちない」
さらに、はあと思いっきり深いため息をついた。
「ゲームとやらの歴史では、俺はその時点で家族を失ってひとり宰相として政敵と戦っているんだろう? そんな状況で7歳も年下の小娘ひとりに溺れる姿がどうしても想像できない」
「その小娘に救われる話でもあるんだからいいじゃないの」
「……」
そう言うとじろりと睨まれた。
うわー怖い。
泣きボクロが色気だけじゃなくて、殺意もマシマシにするなんて、新発見だわー。
「自覚がないみたいだけど、フランの恋愛の仕方って結構やばいからね?」
「なに」
「惚れた相手が逃げられないよう、外堀どころか内堀も埋めたあげくにドロドロに執着し倒すタイプだから」
ジェイドが「攻略がめんどくさい男トップ3」なら、フランは「愛が重い男トップ3」である。他の男と協力する姿を見て嫉妬するなんていうのはかわいいほうで、厄災と戦うと聖女の命が危ないから監禁してふたりで世界の終わりを見るとか、聖女に従わない反乱分子を裏で全部暗殺するとか、とんでもないエンディングがいくつも用意されている危険人物だ。
聖女の瞳に映るのは自分だけでいいとか言い出して、他の攻略対象をひとりひとり排除するエンドとか、ゲームのジャンル間違えたんじゃないかと思ったわ。
普通のゲームだったら「シナリオライター趣味に走りすぎィ!!」とか思うだけで終わるんだけど、この世界にはライターは存在しない。女神の力でありえたかもしれない未来をシミュレートしていただけだ。
つまり、選ぶ道によっては、この目の前にいるフランが恋人にそういう執着を見せる可能性があるってことだ。
「……ほう」
急にフランの声が低くなった。
「俺が……恋人に執着するタイプ、か……ドロドロに」
あの……フランさん?
なんか目つきが余計怖くなったんですけど?
「そういえばお前は聖女として俺との疑似恋愛を体験していたんだったな」
「ソ、ソウデスガ、ナニカ?」
どうしてそこで、にじりよってくるんですかー?
妖しい目で見つめるのもやめてください!
泣きボクロ効果で色気が増すの、わかっててやってますよねー?
つう、とフランの長い指が私の頬をなぞった。
「俺がどんな風に恋をしていたのか、教えてもらおうじゃないか。じっくりと、な……」
お前こういう時に限って魔王の黒オーラ消すなよ!
めちゃくちゃかっこいい顔で見つめてくるなあああああああ!!!
「そ、そういえば! 宰相閣下たちが生きてる時点で、だいぶ性格が変わってるはずだよね! 今のフランとゲームのフランは別人、ってことで!!!」
私は脱兎の勢いで部屋の端っこまで逃げた。
振り向くと、フランがぶは、と吹き出すところだった。こらえきれなくなったのか、体をくの字に折り曲げてくつくつと笑っている。
お前はあああああああああ!
ゲームの通りの恋愛はしないかもしれないけど、絶対タチ悪いと思うぞ!!