【コミカライズ】クソゲー悪役令嬢~ 滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
兄様に認めてもらうために、まずは勉強を頑張ろう!
……と、思っていた私は早速挫折していた。
「うう……気持ち悪い」
「リリィ、あなたのお勉強を頑張ろう、って気持ちはとても良いと思うわ。でも、馬車の中で本を読むのは、諦めたほうがいいと思うの」
「ううう……」
母様に諭されて、私は握り締めていた教科書を放り出した。
ごとごと、ごとごと、と小刻みに揺れる馬車の中、私はふかふかの座席に横になる。
社交シーズンが終わった後、私たち家族は兄様を残して領地へと向かっていた。収穫シーズンから、来年の種まきの季節まで領地経営のお仕事に集中するためだ。
王都から領地までは馬車で5日くらいかかるんだけど……その馬車が問題だった。
「こんなに揺れる乗り物だったとは……」
舗装もされていない道を木製の車輪で通るんだから当然といえば当然だよね。乗り物酔いするから、バス旅行嫌いとか言ってごめんなさい。自動車ってメチャクチャ人に優しい乗り物だったんだね。空気のクッションバンザイ。
誰かこの世界でもゴムタイヤを作ってくれませんか。私の知識じゃゴムの木も発見できないし、精製方法だってわからないよ!
じっと目を閉じて、胃の中がぐるぐる回る感覚が収まるのを待つしかない。
「あなたはまだ小さいんだから、無理して勉強しなくても大丈夫よ」
そうもいかないんです、母様。
自分の能力を高めること。それは兄様のためだけじゃない、自分のためでもある。
リリアーナとひとつになってわかったんだけど、実は彼女はとてもいい子だった。
純粋で、素直で、ただひたすら素敵な淑女を目指す頑張り屋な女の子。
彼女は周囲の大人の言葉を信じていただけだった。
淑女たるもの、美しくあれと言われて着飾り。
貴族たるもの、下民と交わるべからずと言われて下々を見下し。
王子の婚約者たるもの、気高くあれと言われて高慢な態度を取り、最悪な令嬢へと成長してしまったのだ。
大人の言葉がおかしいと気づけなかった無知が、彼女の罪だと言えるかもしれない。でも、年端も行かない子供のころから、王妃を筆頭とした社交界の悪意の中でもてあそばれてきた彼女に、他にどんな道があったというんだろう。
ゲームの中の彼女には、諫めてくれる大人も、忠告してくれる友達もいなかったのだ。
でも、今は違う。
病院に引きこもり気味だったとはいえ、18歳まで生きて、たくさんの世界の価値観に触れてきた小夜子の記憶がある。
間違いを指摘してくれる、もう一人の自分がいる。
今度こそ、正しく素敵な淑女になって、幸せな人生を送るんだ。
ごとん、と唐突に馬車が止まった。
「ハルバードの城下町に着いたみたいね。リリィ、見てごらんなさい」
母様に言われて体を起こすと、窓の外の風景が変わっていた。
石造りの巨大な城と城壁、そして城を囲むようにして城下町が広がっている。コンクリートのビルに埋もれてしまっている現代の城じゃない、ゲームの中の作り物の城でもない、本物の、人が生きて使っているお城だった。
「わあ……」
えっと、リリアーナの記憶に間違いがなければ、あの、とんでもなく大きいのが、私の『家』なんだよね? なんかスケールがデカすぎて、全然家って感じがしないけど!
あそこで毎日生活するの?
お嬢様ってすごすぎない?
茫然とお城を見上げていると、執事のクライヴが馬車のドアをノックした。
「奥様、馬車の乗り換えの準備が整いました」
「ありがとう、すぐ行くわ」
そう言うと、母様は私を残して降りて行こうとする。
「母様、どこ行くの?」
「お父様と、屋根のついてない馬車に乗っていくのよ。しばらく領地を留守にしていたから、城下町のみなさんに、帰りましたよ、って挨拶するの」
そういえば、ここは新聞もネット環境もない世界だった。領主が帰ったことを知らせるなら、直接顔を見せたほうが手っ取り早いのかもしれない。
「リリィはこの馬車で寝ていていいわよ」
「ううん、私も行く!」
私はぴょん、と馬車から降りた。
私が目指すのは、家族からも領民からも愛される、素敵なご令嬢なのだ。挨拶にはちゃんと顔を出して、覚えてもらわなくっちゃ。
城下町からお城まで、ずーっと愛想を振りまいてたら、夜勉強する体力はなくなるけどしょうがない!
お勉強は明日から!!