【コミカライズ】クソゲー悪役令嬢~ 滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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誕生日プレゼント

 フランから手渡されたプレゼントの箱を開けると、そこには一本の杖がおさめられていた。歩行の助けに使うものじゃない、魔法使いが使う魔道具としてのステッキだ。

 黒地に赤い蝶がデザインされていて、とても美しい。

 思わず見とれていると、ディッツが楽し気に笑う。

 

「設計と魔道具の細工は俺とジェイド、外側のデザインは補佐官殿が王都のデザイナーに作らせたもんだ」

「少し大人向けのデザインだが、杖は長く使うものだからな。すぐにお前のほうが杖に追いつくだろう」

「も……もう! わかってるんじゃない!」

 

 くっ……デリカシーがないって思わせたあとにその発言はずるいぞ!

 

 私は箱から杖を取り出して握ってみた。

 見た目は華奢なのに、なぜかずっしり重い。そして、持ち手部分に金属の突起がついていた。うまくデザイン化してるけど、この金属は異質だ。

 

「あ……これって……」

「『こういうの』がほしい、と言っていただろう」

「えええええ、嘘、本当にアレを作ったの? 無理だと思ってたんだけど!」

「でも、お嬢様にとって、必要なものでしょう?」

 

 ジェイドがにっこりと笑う。

 私が杖につけたいと言っていた機能は、はっきり言ってかなり異質だ。

 この世界の技術で実現させるのは簡単じゃなかったと思う。

 普段の仕事だって忙しいはずなのに、こんなプレゼントまで用意してくれるとは、なんてけなげなの。

 

「ジェイドありがとう~!」

「いや、師匠の俺も設計に関わってるんだがな」

「それを言うなら最終的に完成品にしたのは俺だが……普段の行いのせいか」

 

 そう思うんなら少しは改めろよ、このひねくれコンビ。

 誕生日くらい素直に感謝させろ。

 

「大事にするね」

 

 私は杖をぎゅっと抱きしめた。

 

「ふふ、こんなに素敵なパーティーが今年で終わりと思うと、残念だわ」

 

 そう言うと、一瞬ホールが静かになった。

 あれ? なんか変なこと言ったっけ?

 

「お嬢様……そうか……来年は……」

 

 使用人の一人が残念そうにつぶやく。

 

「来年の今ごろは、王立学園を卒業した兄様が正式な領主としてこっちにいる予定よ。その時は兄様の誕生日を祝ってあげて」

 

 そう、私はあくまでも一時的な領主代理。

 兄様が学園を卒業してしまえばお役御免の存在なのだ。

 

 だいたい、誕生日パーティーを2回も開催してるのもおかしいんだよね。

 私が領主代理を引き受けた当初、兄様はあと1年で学園を卒業する予定だったんだもの。

 

 代理期間が伸びたのには、当然理由がある。

 兄様が留年したからだ。

 といっても、学力に問題があったわけでも、さぼっていたわけでもない。優秀な兄様は家族のためにいつでも頑張ってくれている。

 留年したのは、その家族のための選択が原因だ。

 

 いろいろあったから忘れてたけど、兄様は私を守るために『休学して』ハルバード領に来てたんだよねー。

 当然その間の単位はもらえない。

 勉強が得意な人だから、座学だけならすぐに遅れを取り戻せたと思う。

 でも、兄様が通っているのは、戦闘に関わる『騎士科』だ。当然、戦闘訓練とか集団行動とか、実際に同級生と一緒に体を動かさないと単位がもらえない科目がいくつもあって、2年から3年に進級できなかったらしい。

 

 兄様が帰ってこなければ、私も領地を離れられない。

 それで、2年もの間、領主代理の立場に居座ることになってしまったというわけだ。

 

「女の子から、ちゃんとした成人済みの領主に変わるんだから、喜ぶべきところじゃないの?」

「悪徳代官をこらしめるために、わざわざ各地を回って成敗してくれるお嬢様なんて、他にいませんよ」

「それはフランのせいだからね?」

 

 これは領主代理に就任してからわかったことなんだけど、実は領主に代わって各地方を統括する代官の中に不心得者が結構いたんだよね。多分、スパイだったクライヴが南部を腐敗させるためにわざと放置してたんだと思う。財政を立て直してスパイを追い出す、って時に放っておくわけにはいかないから、私とフランで全部検挙して回ったのだ。

 

「俺が作戦をたてたからといっても、実行に移したのはリリィだろう。評価されてしかるべきなんじゃないのか」

「……評価は嬉しいけど、そもそもあんな作戦立てないでよ!」

 

 正体を隠して村に入り込んで、証拠を掴んで一網打尽……って、私はどこの水戸のご老公だ!!!!

 

「お前はとにかく目立つからな。おかげで俺が暗躍しやすくて助かる」

「それ、誉めてないよね?」

「いやいや、心の底から賞賛してるさ」

 

 おいこら腹黒補佐官。

 頭をなでたら、なんでも許すと思うなよ?

 

「失礼します!」

 

 フランの泣きボクロを睨んでいたら、突然ホールのドアが開いた。

 年かさのメイドのひとりが、あわてて駆け込んでくる。

 

「わ、若様がお戻りになりました!」

 

 それを聞いて私とフランは顔を見合わせる。

 

「あれ? 兄様が戻ってくるのってもっと先じゃなかった?」

「今は学園の卒業試験の時期のはずだが……」

 

 なんか嫌な予感がするぞ?

 

 


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