1,喪失あるいは出会い
ここはシンオウ地方。
天高くそびえるテンガン山やシンジ湖をはじめとする三つの湖など、
その随所に神話の跡が残る土地。
当然考古学研究においては重要な場所であり、彼女もまた、研究者であった。
「今日はこんなところかしらね…」
彼女はシロナ。
シンオウ地方のチャンピオンであり考古学研究においても名を轟かせる、この地において知らぬものはいないであろう人物である。
彼女は自身の研究のためテンガン山を訪れていた。
「ん?あれ…」
そろそろ日も暮れて、今日は作業も打ち切り帰路に就こうかという時だった。
「人?かしら」
何かを見つけ近寄ってみると少女が倒れていた。
背丈から推測するに、ポケモントレーナーとなるための旅に出たばかり位の年頃だろうか、それより少し幼いか。
何か事故に巻き込まれたり野生のポケモンに襲われ気を失ってしまったのか。
それに、比較的寒冷なこの地域には不自然なほど薄着だ。
やはり何か悪いことに巻き込まれてしまったのだろうか?
近頃はポケモンを使って悪さを働く人間もいる。
「ひとまず放ってはおけないわね。」
呼吸はしているがここに置いて行っては本当に死んでしまうかもしれない。
そう思いシロナは彼女を自宅に連れ帰ることにしたのだった。
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目が覚めると知らない場所にいた。
それどころか自分が何をしていたのかさえ思い出せない。
「気が付いたのね」
またしても知らない。
この人は誰だろうか。
「あぁ、私はシロナ。
あなた、テンガン山の中で倒れてたのよ?なにがあったの?」
自分と会話しているこの人物はシロナという名前だということは分かった。
だが相変わらずわからないだらけだ。
テンガン山なんていう言葉は初めて聞いたし自分が何をしていたかなんてこちらが聞きたいくらいだった。
「?
そういえばあなた名前は?」
「名前…」
私の名前
「フィラン…」
思い出した。私はフィランというらしい。
もう一つ大事なことを思い出した。
「私のボールはどこ?」
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「あなたのカバンならそこにあるわ。
中身は何も触れてない。」
そういうと目の前の彼女、フィランは慌てたように中身を確認した。
そうして一つのボールを大事そうに抱え安堵したような表情をした。
(目覚めたばかりで一目散に気にするなんて、よっぽど自分のポケモンのことを大事に思っているのね。
それにしても、あのボール…見たことのないデザインね…)
「それ、あなたのパートナー?大切なのね。その子が。」
「わからないです。でも、そう、きっと私にとって大切な存在なんだと思います。」
いまいち要領の得ない返答に困惑してしまう。
「わからないってどういうこと?あなたのポケモンじゃないの?」
「わからないんです。自分が何なのか。何をしていたのか。
わかるのは名前とこの子が大切な存在だっていうことだけ。」
・・・
・・
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その後いくつか質問をしてみた。
どこから来たのか。両親は何をしているのか。自分のポケモンとはいつ出会ったのか。
答えはすべて「わからない」であった。
(何か、事故に巻き込まれてその衝撃で記憶をなくしている?
いずれにせよこのままでは対処のしようがないわね。)
「ひとまず今日は休んでいて。食事は後で持ってくるわ。
明日になったらあなたのことを知っている人がいないか、調べましょう。」
そういってシロナは彼女を寝かせている部屋を後にした。
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翌日、シロナは思いつく限りで彼女の身元を確認できる方法を試した。
ジムリーダー達にフィランという名前の少女を知っているか。リーグ運営に旅に出た子供にフィランという名前の子供はいなかったか。
フィランという名前の子供の捜索依頼が出ていないか。
この地方を研究の拠点にしているポケモン博士、ナナカマド博士にもフィランという子供を旅に送り出していないか。
念のためということもあり、ポケモンを利用して悪事を働く組織を調査している刑事にもそのような少女に心当たりがないかということも聞いた。
答えはすべてNOであった。
こうなってしまうとお手上げだ。
後は本人が思い出すのを待つしかない。
「何か、わかりましたか?」
フィランがいつの間にか部屋から出てきていたらしい。
「ごめんなさいね。可能な限りあなたのことを調べてみたのだけど…」
「そうですか。でも気にしてないですよ。何も覚えてないので気にならないだけかもしれませんが。」
フィランはあっけらかんとそう言った。案外図太いタイプなのかもしれない。
「そういえば!あなたの名前は教えてもらったけど、その子はまだ紹介してもらってなかったわね!
あなたのパートナー、私にも紹介してもらえるかしら?」
フィランが大事そうにボールを持っている様子を見て思いついた。
(この子、昨日に比べてだいぶ落ち着いてきてるしもしかしたらこのポケモンが何か手掛かりになるかもしれない。
ま、自己紹介もまともにできない子にポケモン紹介してもらうのも変な話だけど。)
「わかりました。でもこの子人に慣れてないみたいで…もしかしたらシロナさんに何かしちゃうかも…」
「大丈夫よ!こう見えても私も私のポケモンたちも腕に自信はあるわ!」
「わかりました…出てきて、フェローチェ」
!!!
シロナは驚きを隠せないでいた。
つい昨日保護したばかりの記憶がない少女。
彼女が連れていたポケモンはまるで見たことがないような存在だった。
白く細長い体躯にすべてを魅了するような雰囲気を放っている。
(こんなポケモン、見たことがない。
そもそもこれはポケモンなのか??)
初めて邂逅する存在に自然と警戒心を強めてしまったのだろう。
フェローチェ、と呼ばれたポケモンもそれを感じ取ってこちらに敵意を向けているようだ。
「グオォガ!」
シロナのモンスターボールから1体のポケモンが飛び出した。
ガブリアス、チャンピオンシロナの戦いを語るうえで外すことのできない、
彼女の相棒とも呼べるポケモンだ。
ガブリアスは目の前のポケモンの異質さ、己が主に敵意を向けている危機を感じとって自らボールから出てきたのだろう。
一触即発。
のはずだった。
「大丈夫だよ。フェローチェ。この人は私もあなたのことも傷つけないから。」
彼女はフェローチェの手を握り宥めるようにそう言った。
「あなたも少し落ち着いて。ガブリアス。」
主がそういうならば…といった風にガブリアスも一歩身を引いて警戒心を薄める。
「ごめんさい。さっきも言ったようにこの子、あんまり人に慣れていなくて…」
「ううん。いいのよ。こっちこそごめんなさいね。」
ここで臨まぬ戦闘がおこることはひとまず回避した。
それにあの見たこともないポケモンは目の前の少女の言うことは聞いているようだ。
「ガブリアス、ありがとう。ひとまず戻っていて。」
シロナは自身の相棒をボールに戻しながら考えていた。
(記憶のない少女に見たこともないポケモン。フィランのことを疑うわけじゃないけど確実に何か裏がありそうね。
この子に何かあるのか。それとも何かの被害者なのか現時点ではわからないし…)
「ねえ!あなたさえよければ、記憶が戻るまでここで暮らさない?」
「いや、でも、そんなご迷惑をおかけするわけにも…」
「いいのいいの。私、実はこの地方のチャンピオンなの!だからもしかしたらあなたのこともなにか手掛かりが見つかるかもしれないし!」
フィランは迷っていた。
もちろん申し出はありがたいし、ここを出て行っても自分にはいく当てもない。
だがいくらこの人が親切な人といえど見ず知らずの自分が世話になるような迷惑をかけてしまっていいんだろうかと。
「じゃあこうしましょ!あなたはここに住む、代わりに私の手伝いをしてほしいのよ!
そうすれば別にただただ世話になるわけじゃない。私にだってメリットがあるわ。」
「手伝いって…?」
「さっきもいった通り私、チャンピオンなんだけどそれと同時に考古学の研究もしててね。
それの手伝いをしてほしいのよ。
それに、あなたのポケモン、フェローチェって言ったかしら?
あの子もあなた以外の人やポケモンと暮らしてくうちに人にも慣れていくかもしれないし」
「わかりました。それではお世話になってもいいですか?」
「もちろんよ!」
こうしてフィランはチャンピオンシロナの下で世話になることになった。
第一話いかがでしたか?
読みやすい文を心がけて行きますので何卒よろしくお願いいたします。
シロナがフィランを自分のところに住まわせることにしたのは心配もありますが得体のしれないポケモンに警戒してのこともあります。