壱、邂逅
ジョウト地方、アサギシティ。
海に面した活気溢れる町で、大型の船舶なども出入りする港町である。
「やーっとついた…」
慣れない船旅に疲れを感じていたフィランは船から降りてぐーっと背伸びをする。
頭の上で大きく伸ばした手を下ろし、一息つく。
「おぉ、揺れてる揺れてる。」
船から降りたばかりで、体に残る揺れの感覚に戸惑いながらも少し笑みをこぼす。
「さて、まずはウツギ博士って人のことに行かなきゃな。
…ワカバタウンか。えーっと?まあまああるな…」
マップを確認しながら一先ずの目的地を確認する。
ワカバタウンにいるウツギ博士。
まずはその人物に会いに行かなければならない。
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事はシロナとのリーグでの戦いの後に遡る。
「…うむ。その様子だと今日のところは敗北を喫した様だな。」
「ナナカマド博士…」
リーグの入り口でナナカマドに出くわす。
頬に残る涙の痕や、フィランの表情等から勝負の結果は察した様だ。
・・・
・・
・
「そうか。まぁ一度負けたくらいで諦めるような子なら、そもそもシロナ君も送り出していないだろうしな。」
フィランの口から改めて今日の敗北の事、更に強くなって必ずリベンジに来る事、その他諸々を報告していた。
「それで、もっと強くなりたいんです。もう一回シンオウ地方回るのもいいかもしれないんですけど…」
「なるほど、何か新しい要素が欲しいといったところかね。」
「そうなんです。自分の足りないところを見つけるためにも、もっと色々な物を見てみたいと思いまして。」
ナナカマドの言葉にフィランは頷きながら言葉を発する。
「そういうことなら、他の地方に行ってみるのはどうだ?」
「他の地方?」
「そうだ。他の地方にはまた違ったジムリーダーがいて、他の四天王とチャンピオンがいる。それにこことは違う場所に暮らす人々の文化なんかを見てみるのもいいかもしれない。」
「なるほど…それはいいかもしれません。けど、他の地方なんて何も知らなくて…」
ナナカマドの提案は魅力的だった。だがあいにくフィランは他の地方のことなんて何もわからないし、どこに行けばいいかの当ても無い。
「そう言うと思っていたよ。
…ジョウト地方にウツギ博士、というポケモン博士がいる。彼も私と同じようにポケモンの進化について研究していてな、面識がある人物なわけだ。
そこで、ジョウト地方に行ってみるのはどうかね。もちろん彼には私から話をしておく。ジョウトのジムもリーグもレベルは高いと聞く。修行には持って来いだろう。」
「ナナカマド博士…ありがとうございます。」
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こうして今回のジョウト地方でのジム、リーグへ挑戦が決まったのである。
因みにナナカマドはその日中に出発してしまうとは思ってもおらず、シロナからその日のうちに旅立ったことを聞き慌ててウツギ博士へ連絡したのだった。
そういうわけで挨拶もかねて、ポケモン図鑑をジョウト地方のポケモンに対応したものにアップグレードしてもらいにウツギ博士に会いに良くことになっている。
「今日中には着かないな。これ。」
改めてマップを確認する。
何度見ても距離は縮まらないのだ。諦めてのんびり行く事とする。
道中にジムがある町もあるが、まずはウツギ博士に会いに行くのが優先だ。
そのあと順番に挑んでくことにして、ワカバタウンを目指して歩き始めた。
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「おはよう。母さん。」
少年が自室からリビングに降りてくる。
「あら、やっと降りてきたわね。」
少年の母親がそれに気付き、言葉を発する。
「さっきまでコトネちゃんが来てたのよ。仲良しのマリルちゃんと一緒に追いかけっこしてたわ。それと!お隣のウツギ博士がなんでも手伝って欲しいことがあるとかで呼んでたわよ。」
「わかったよ。これ食べたら博士のところに行ってくる。」
少年は席について簡単な朝食を取りながら母親の話に相槌を打つ。
「…ごちそうさま!じゃあ、行ってきます!」
「気を付けるのよ!」
食事を終えて慌ただしく出かける少年を、母親は優しいまなざしで送り出した。
「おはようございます。ウツギ博士。」
「おはよう、ヒビキ君。待っていたよ。」
ヒビキと呼ばれた少年は家を出てすぐ隣にあるポケモン研究所に来ていた。
もちろん自分を呼んでいたというウツギ博士に会いに来たのだ。
「ヒビキ君は僕が何を研究しているか知っているよね?」
「はい。ポケモンの進化とタマゴについてですよね?」
自分のポケモンはまだ持っていないが、ポケモントレーナーにあこがれるヒビキはよく近所の研究所にきて色々と見学させてもらっていた。
「そう!それでね、僕の知り合いのおじいさんが、よく色んな物を見つけては大騒ぎしているんだけどね…
そのおじいさんからまたメールが来たんだ。あらかた、またポケモンのタマゴだと思うんだけど…僕も助手も忙しくて手が離せないんだ。今日は他にも来客の予定があったりしてね。そこでヒビキ君、おつかいを頼まれてくれないかな。」
「いいですよ!」
いつも見学させてもらって少なからず迷惑を掛けている。それくらいお安い御用だ。
「本当かい⁉助かるよ!」
ウツギ博士は一つ悩みの種が消えたと言わんばかりに声をあげた。
「それと、本当はこっちが本題なんだけど、ポケモンと人の絆についても色々と調べていてね。どうだろうか、そこにいる3匹から1匹選んで一緒に過ごして貰えないかい?」
「え⁉ポケモン貰えるんですか⁉」
長年、自分のポケモンという物にあこがれていたヒビキからすると願ってもない話だった。
「もちろん。君が優しい子だっていうのはよく知っているからね。君なら安心してポケモンを任せられるよ。」
「やります!!やらせてください!!」
「よかった。じゃあそこにいる3匹の中から1匹選んでくれるかい?」
ヒビキは大喜びでウツギの指差した方へ走っていく。
そこには3つのモンスターボールが置かれていた。
「どのポケモンにしようかな~…」
「ははは、君の最初のパートナーになる子だ。じっくり悩んで決めてくれ。」
初めてのポケモンをなかなか決められないヒビキ。
そんなヒビキを見守るウツギに助手の一人が声を掛けた。
「失礼します。例の方、いらっしゃいました。」
「あ、わかった。すぐ向かうからお茶出しといてくれるかい?」
先ほどの会話の中ででた来客の件だろう。
ウツギは助手に一先ず指示を出すとヒビキのほうへ戻ってきた。
「ヒビキ君、決まったかい?ちょっと僕の方は来客があって席を外さないと行けないんだけど…」
「はい!僕、この子します!」
ヒビキが選んだのはほのおタイプのポケモン、ヒノアラシだ。
「そうかい。よし!じゃあおつかいの方も頼んだよ!
これ、僕のポケギアの番号だから、何かあったら連絡してよ。」
そういってウツギはヒビキのポケギアに番号を登録する。
「はい!行ってきます!」
ヒビキはポケモンを貰ったのがよほど嬉しかったのか、またしても慌ただしく研究所を出ていった。
その後、ウツギも待てせている客人のもとへ急いだ。
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アサギタウンから移動してきて、ようやくワカバタウンについたフィラン達。
現在ウツギ博士の研究所に来ていた。
「やあ、お待たせしました。君がフィランちゃんだね。僕がウツギだ。」
少し待っているように言われた部屋で待機していた所、目的の人物が現れた。
「フィランです。お忙しい所お時間を設けていただいてありがとうございます。」
立ち上がって礼をする。
「いやぁ、いいんだ。それにナナカマド博士のお願いでもあるし、無下にはできないよ。さ、座って座って。」
それから、フィランは軽く自分の記憶の話や、シンオウでの旅について、そして更に強くなるためにこのジョウト地方に来たことを説明する。
「なるほどねえ。それにしてもその年でもう1地方のバッジを全部持っててチャンピオンにまで挑戦してるのかぁ。」
「…はい。チャンピオンには敵いませんでしたけど。」
「あっ、ごめんごめん。そういう意味じゃなくてね。実は今日ポケモンを手渡した子が一人いてね。ちょうど君と同い年くらいなんだ。
彼は今日初めて自分のポケモンというのを手にした訳なんだけど、君はもうそのずっと先にいるんだなあと思ってね。」
「そうでしたか。その子も旅に?」
「多分そうなるんじゃないかなあ。今はちょっとおつかいを頼んでてね、そのうち戻ってくるはずだから会って見るといいんじゃないかな?お互い良い刺激にもなるだろうしね。」
「では、是非…」
ガシャン!
突如、フィランとウツギの会話を遮るかのように、何かが割れる音がした。
「…その子、帰ってきましたかね?」
「違うと思うよ!」
冗談もほどほどに、急いで物音の方へ向かう。
部屋に入ったウツギが、真っ先に異変に気付く。
「モンスターボールが一つ失くなってる!」
ヒビキに一つ渡したモンスターボール、それが残り1つになっているのだ。
あたりには先ほどの音の発生源と思われるガラス片が散らばっている。
「博士!私いま戻ってきたんですけど、研究所のほうから急いで走っていく人を見かけました!そちらの子と同年代くらいの男の子でした!」
どうやら外出していた研究員が下手人らしき人物を見かけたらしい。
「ウツギ博士!私、あたりを探してきます!」
すぐに追うべきだと判断したフィランはウツギにそう告げ、飛び出していった。
研究所を出て西へ犯人を探して進んでいくと、ちょうど自分と同世代くらいの、帽子に赤いパーカーの男の子が佇んでいた。
「見つけた!」
ようやく犯人を見つけたフィランはその男の子に駆け寄る。
「ハァ…君だね?博士からポケモンを…ハァ」
ここまで、走ってきたので息が上がり言葉が途切れ途切れになってしまう。
目の前の少年は頭に疑問符を浮かべている。
「そうだけど…?」
(確かに博士からポケモンを貰ったけど…何か用だろうか?)
「っ!ハァ…ポケモン、出して。博士のところに一緒に行くよ。」
(素直にいうこと聞いてくれるとは思えないけど…)
「えっ!?…ああ、そういうことか!よし!受けて立つぞ!ヒノアラシ!」
(トレーナー同士が会ったらバトルだもんな。)
ヒビキはモンスターボールからヒノアラシを出し、臨戦態勢を取った。
そんなヒビキの様子を見たフィランはやっぱり、といった様子で肩を落とす。
「…抵抗するんだね。」
「えっ?」
ボールを構えるフィランと、最後の言葉の意味がわからないでいるヒビキ。
「その子に罪は無いからね、なるべく痛くしないようにね。」
そういうとフィランの持つ青いボールが一瞬光った。
白い影が視界を横切ったと思うと、次の瞬間、ヒノアラシは目の前で気絶していた。
「あれ!?ヒノアラシ!?」
「さあ!観念しなさい!ポケモン泥棒!」
何が起きたのかわからず戸惑うヒビキにフィランが詰め寄る。
「えっ!?何のこと?泥棒?」
「えっ!?さっき自分で認めてたじゃん…?」
「「え?」」
・・・
・・
・
「だから本当に違うんだって!僕は泥棒なんてしてないよ!」
「さあ、どうだかね?すべては博士に会えばはっきりするでしょ。」
ヒビキと、そのヒビキの腕を後ろでがっちり掴んで離さないガブリアス。
そしてフィランの三者は、お互い来た道を戻ってワカバタウンへむかっていた。
道中で自身の無実を叫ぶヒビキと、とりあえず白か黒かわからないので博士に会いに行けばすべてわかるだろうというフィラン。平行線のやり取りを続けながら歩いていた。
フィランの腕力ではヒビキを抑え続けることは難しいため、とその役目を担っているガブリアスはあまり深く考えてはいない様だ。
そうして到着した研究所。
ドアを開けて思い思いに声を上げる。
「ウツギ博士!戻りました!」
「ウツギ博士!助けてください!」
「グアウ!」
慌てて走ってきたウツギが出迎える。
「どういう状況だい?」
「下手人っぽい人捕まえたんですけど…」
「泥棒と間違えられてるので僕の無実を証明してくれると助かります…」
「グアウ…」
「…なるほどね。フィランちゃん、その子はヒビキ君って言って、さっき話した僕が今日ポケモンをあげた子だよ。」
「…………本当だったんだね。」
「だから言ったじゃないか!?」
「ごめんなさい…ガブリアス。放してあげて…」
「グアウ!」
やっとガブリアスの腕から解放されたヒビキは怪訝な目でフィランを見やる。
「それで、僕の無実は証明されたわけだけど君は一体誰なんだ?」
「いや、本当、すいませんでした。私はフィラン、シンオウ地方から来たポケモントレーナーです。」
「そう、ヒビキ君にも紹介しないとね。フィランちゃんは今言ったようにシンオウ地方から来たんだ。いうならば武者修行ってとこかな?」
「はい。」
「で、こっちはヒビキ君、さっきも言ったけど今日僕から初めてのポケモンを受け取ったばっかりの新米トレーナー。
ま、トラブルはあったけど二人とも同じくらいの年だしさ。仲良くやっていこうよ。」
「本当、ごめんなさい。」
「もう大丈夫だって。君も悪気があった訳じゃないだろうし。ほら。」
ヒビキから手が差し出される。
「ありがとう…」
フィランもその手を取って、握手の形となる。
すると、先ほどの青いボールが再び光った。
いつものごとく勝手にフェローチェが出てきたのである。
「………」
「ん?どうしたの?急に?」
フェローチェはヒビキと握られたフィランの手をじっと見つめている。
これまで、フィランの周りにいなかった同世代の異性、という存在に何かを警戒して出てきたのである。
フィランはそんなのことはつゆ知らず、ヒビキと手を放すタイミングをすっかり忘れてそのままの状態でフェローチェと会話していた。
バシッ!
そんなフィランの手をフェローチェが無理やり奪い取って両手で握った。
「…どうしたの~?」
そこでようやく何かを察したフィランが少しからかうようにフェローチェに言葉を掛ける。
「あ、取り込み中悪いんだけど、君のポケモンかい?」
ウツギが割り込んで話しかける。
「そうです。私の大切な相棒です。」
「そうかい…とても珍しいポケモンだね、僕も初めて見るよ。
それにしても、ずいぶんと仲がいいんだね。」
「はい!ずっと一緒にって約束したので!」
「…そうか!とてもいいことだと思うよ!」
フィランとフェローチェの様子を見たヒビキは、
(ウツギ博士の言ってた人間とポケモンの絆ってこういうことなのかなあ…)
と考えていた。この二人のは多分違う部分もある。
というわけで新章壱話です。
ジョウト地方は和テイスト強めなので数字を大字にしてみました。
原作主人公は男の子です。名前はポケマスでも使われているヒビキ君になりました。
とりあえず最初だし絡ませておくか~って書いてたらなかなか楽しく書けました。
ヒノアラシが一瞬で倒されたのはフェローチェが出て爆速でトンボしてボールに戻りました。
泥棒だと思ってたのでフェローチェをあんまり見せたくなかったって感じですかね。
そして人前でナチュラルにいちゃつくバカポケモンとバカトレーナー。
新天地に来ても相変わらずです。
因みに言っておくとこの小説に原作人間キャラが絡むカップリングはありません。
(原作でも夫婦、などは除きますが。)
一部のキャラのファンの方でもご安心してお読みいただけます。