非常に難産でしたが楽しんでいただければ幸いです。
ある日、フィランはシロナのフィールドワークを手伝うためシンジ湖を訪れていた。
相も変わらず雑用的な手伝いがフィランの仕事のため、学術的な作業はノータッチである。
そうなるとどうしても待機の時間が発生してしまう。
もちろんそんなことは慣れっこで、少し離れた位置に座って水筒のお茶を飲みながら一冊の本を眺めていた。
「おぉ。やっているな。」
背後から声が聞こえる。
振り向くと見覚えのある人物がたっていた。
「おはようございます。ナナカマド博士。」
フィランは立ち上がり挨拶を交わす。
ナナカマド博士、ポケモンの進化についての研究の第一人者でありこのシンオウ地方、マサゴタウンにある研究所にて日夜研究に邁進しているポケモン博士である。
「ああ。おはよう、フィラン君」
「あら!ナナカマド博士!」
シロナもナナカマドの来訪に気づいたのか、こちらに向かってくる。
「シロナ君も元気そうで何よりだ。」
「今日は一体どうされたんですか?」
フィランが尋ねる。
「いやなに、大したことではないのだがね。君たちが近くに来ているということだから様子を見に来たわけだ。」
「すいません!本来ならこちらから挨拶に行くべきですのに!」
シロナにとっても恩師に当たる存在だ。
後ほど研究所にも立ち寄ろうとは考えていたが、先を越される形となってしまった。
「構わないさ。何より多忙のシンオウチャンピオンに手間をかけさせるわけにもいかないだろう。」
「そういえばこの本、ありがとうございました。」
フィランが先ほどまで眺めていた本をナナカマドに差し出す。
内容としてはポケモンと人の関わりについて記された、学術チックな本である。
「どうだったかね?」
「面白かったです。」
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時は少し巻き戻り、フィランが目覚めてからまだ間もない頃。
シロナの下での生活にも少し慣れてきた頃のこと。
「今日はある人に会いに行くんだけど、あなたにもついてきてほしいの。」
シロナが唐突にフィランに言う。
今まで何度か外出したことはあったが誰かに会いに行くのについてきてほしいなどと言われたのは初めてだった。
「誰に会いに行くんですか?」
「私の先生みたいな人でね、あなたのことも紹介したいのよ。」
・・・
・・
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そうして二人はマサゴタウンに到着した。
一軒の建物、研究所の戸をシロナが叩く。
「おはようございます。シロナです。」
すると中から一人の男性が姿を現した。
年は若く、いまいち覇気のない人物だ。
内心、この人がシロナさんの先生?なんて思っているとその男性に入室を促される。
「こちらです。」
そのまま奥にある部屋に通される。
中にいたのは白髪に髭を蓄えた老年の男性だった。
「やあ、久しぶりだね。シロナ君。」
「お久しぶりです。博士。」
どうやらこっちのいかにも威厳ありげな顔つきの男性がナナカマド博士のようだ。
「こちらがナナカマド博士。主にポケモンの進化について研究されているけど、私にとって考古学の先生にもあたる人なの。」
シロナの紹介でナナカマド博士が視線をこちらに向ける。
「君がフィラン君だね。シロナ君から話は聞いているよ。
私はナナカマド。今、シロナ君から紹介してもらった通りだが、ここでポケモンの研究をしている。」
「フィランです。あいにく私には自己紹介できるほどの記憶がないのですが…
ひとまず今はシロナさんのところでお世話になっています。」
フィランは少しバツが悪そうに言った。
記憶がないのだから自己紹介も何もない。
「
今日はその件で君に用があったんだ。」
フィランは首をかしげる。
「まあ立ち話もなんだろう。そこにかけて少し待っていてくれ。お茶でも用意しよう。」
しばらくするとナナカマドが戻ってきた。
先ほど案内してくれた男性が人数分のお茶を机に置き、退室していったところを見計らってナナカマドが口を開く。
「早速本題に入らせていただくがね。
フィラン君、君はシロナ君でも知らないようなポケモンを連れていると聞いた。」
少し嫌な予感がフィランを襲う。
「そこでだ。そのポケモンを私に見せてくれないだろうか。
私もそれなりに知識のある研究者であると自負している。
もしかしたらそのポケモンから何か、例えば君がどこから来たのかなどのヒントを見つけられるかもしれない。」
この人物はシロナの恩師ともいえる人物だ。
フェローチェに害をなすようなことはしないだろう。
だが研究者という人物に大切なフェローチェを見せるということに、頭のどこかで忌避感を感じている。
「少し、考えさせてください。この子とも相談したいですし…」
「ああ、無理にとは言わないよ。
本音を言えば、未知のポケモンに興味がないといえばウソになる。
だが君が自分のポケモンを大事に思っているのはよくわかったし、私もそれを尊重したい。」
フィランは驚きを隠せずにいた。出会って数十分の人物に、この短いやり取りにそこまで判断されるようなことを言っただろうか。
「私も伊達に長く生きていない。それに何人ものトレーナーをここから送りだしているんだ。」
どうやらフィランの考えはお見通しというわけだ。
恐らくこの人は悪い人ではないのだろう。
だが念には念を、だ。
「ありがとうございます。少しこの子と話してきてもいいですか?」
「そういうことなら我々が席を外そう。構わないね?シロナ君も。」
そういって二人は部屋を後にした。
「フェローチェ、ボールの中から聞いてたよね?」
フェローチェをボールから出し尋ねる。
「私は自分の記憶がの手掛かりよりもあなたことが大事。
だから、フェローチェが嫌なら断ろうかなって。」
「………」
嫌がっている様子は無い。
「じゃあ少しだけにしよっか。私もあなたを見世物みたいにするのは嫌だし。
本当に少し会ってみるだけ。研究とかはさせないから。」
「………」
フェローチェもうなずく。
「ここで少し待ってて。」
そうしてフィランは外にいる二人を呼びに行く。
「お待たせしました。
フェローチェも了承してくれました。
けど、お願いがあります。」
「なんだい?」
「あの子が嫌がることはしないでください。
あくまでも会うだけで、研究とかは…」
「ああ勿論、わかっているとも。約束しよう。」
そうして中に再び入ったナナカマドは少し驚いたような様子を見せたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「ふーむ。確かに私でも見たことのないポケモンだ…」
フェローチェ自身は、別にフィランに害さえなければいいと言った雰囲気で案外平気そうにしている。
(もしかしたら私の考えすぎだったのかな…ナナカマド博士もフェローチェに何かしそうな様子は無いし。)
しばらくしてナナカマドはようやく言葉を口にした。
「…私が無理を言って会わせてもらったのに申し訳ない、全くわからなかった。
これは完全に新種のポケモンなんだろうか…。いや、すまない。決して研究したいとかそういう意図はないんだ。」
「私の記憶ついてはお気になさらないでください。
私自身もあまり気にしてませんので…」
フェローチェをボールに戻しながら言う。
「それに私のほうが気にしすぎだったのかもしれません。
フェローチェもそこまで嫌がっている様子もなかったですし…
失礼な態度をとってしまいすみませんでした。」
「いやいいんだ。それだけ君はフェローチェのことを大事に思ってるということだろう。」
「ナナカマド博士。よろしいでしょうか。」
突然、扉の外から声がかかる。
「入ってくれ。なんだね?」
「あの、今日旅に出る予定のトレーナーの子が見えてるんですけど…」
研究員の男性が少し焦った様子で言伝にやってきた。
「…。そうだったそうだった。すぐに行くと伝えておいてくれ。」
ナナカマドがそう伝えると研究員の男性はもと来た通路を戻っていく。
「そういうわけで少し席を外させてもらうよ。」
「でしたら、私たちも一緒について行ってもかまいませんかしら?」
シロナがナナカマドに提案する。
「別に構わないが…何かあるのかね?」
「深い意味はありませんけど、これから旅立つフレッシュな若者の顔を一目見ておこうかと!。
もしかしたら私と戦うこともあるかも知れませんし。」
「君がそういうなら構わないよ。ついてきてくれ。」
ナナカマドに連れられて行った部屋では一人の男の子が緊張した面持ちで、その時を今か今かと待ちわびていた。
「待たせてしまってすまない。私がナナカマドだ。
こちらは今日来ていた客人でね、新人トレーナーの様子を見学したいということだそうだ。」
「そういうことなのでお邪魔しちゃってごめんなさいね。
私たちのことはあまり気にしないでいいですから。」
シロナがあっけらかんと言う。
その後、少年は目の前に置かれた3つのボールのうち1つを選び自身の初めてのパートナーを得た。
ナナカマドから簡単な説明を受けて渡されたポケモン図鑑を握りしめ希望に満ちた目をしている。
その輝かしい表情がフィランには眩しく見えた。
少年が旅立った後、フィランとシロナも今日は帰ることにした。
「さっきの男の子、すごく輝いた表情をしてました。」
フィランがシロナに先ほど感じたことを話す。
「そうね。誰もがああやって初めてのパートナーを得て、自分だけの旅に出ていく。
勿論楽しいことだけじゃない、いろんな苦悩もあるかもしれない。
だけどそれを一緒に乗り超えられる仲間を彼は今日手にしたのよ。」
「そうだ。お互いを思いやることだけじゃない。
お互いを信頼しあい、困難に立ち向かうことも大切なことだと私は思う。
たとえ人間同士でも、ポケモンとでもね。」
ナナカマドの言葉にフィランは何か大事なことに気が付いたようだった。
それから何度か、フィランはナナカマドの元を訪れ彼に色々な話を聞いていた。
ナナカマドも忙しい合間を縫って様々なことをフィランに教えた。
この世界にいる様々なポケモンのこと、それと暮らす人々の子こと。
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手に持っていた本はその中でナナカマドからフィランに貸し出された本であった。
「ふむ、それは何よりだった。」
受け取った本をしまいながら満足そうに言った。
「どうだね、調子のほどは?」
「私は相変わらずですね。まだまだこのシンオウには調べることが山ほどありそうです。」
「そうか。ぜひその成果を聞かせてもらえないだろうか?」
「ええ。博士のご意見もお伺いしたいこともありまして。」
・・・
・・
・
そんなやり取りから二人はまたしてもナナカマドの研究所にお邪魔していた。
「これ、その時にテンガン山で見つけた石のかけらのようなものなんですけど、この文献にあるものと特徴が一致するように見えませんか?」
「なるほど、確かにそういえなくもないな。もう少し大きな塊で見つけられれば詳しく調べようがあるかもしれないが…」
そこでシロナとナナカマドはお互いの研究について意見を交換しあったり、フィランはその様子を眺めたり。
「ところで、フィラン君は最近はどうだね?」
ナナカマドがフィランに尋ねる。
「私は…記憶のほうは相変わらずですけど。
色々考えてることがあって。」
「そうかそうか。自分で考えることも大事だ。
だが誰かに相談することで解決することもあるかもしれん。
もちろんシロナ君や私でも構わないし、君のパートナーだって力になってくれるはずだ。」
「…はい!」
そうこうしてるうちにみるみる時間は過ぎていく。
「あら、もうこんな時間なんですね。」
「そうだな。今日はこのくらいにしておこう。」
「はい。またよろしくお願いしますね。」
「「お邪魔しました。」」
フィランとシロナは研究所の入り口まで見送ってくれたナナカマドに挨拶を交わし、帰路に就いた。
・・・
・・
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その晩、フィランは自室にてフェローチェと何か話していた。
就寝前の時間にフェローチェとコミュニケーションをとるのは習慣となっていた。
「あのね、私も旅に出てみたいなって思うの。
こないだの男の子、すごい楽しそうだったでしょ。だから私も旅に出たら、何か変わるかなって。
もちろんフェローチェがここにいたいっていうなら私もそうするけど、どうかな?」
フェローチェは聞かれるまでもないといった様子だ。
フィランが行くならついていく、それだけ。
「いいの!?じゃあ明日シロナさんに相談してみよっか。」
その後は旅の展望を話し合いながら就寝までの時間を過ごした。
「一緒ならきっとどこまでだっていけるよ。」
4話でした。
ナナカマドって一生分入力した、そんな回でした。
主人公にいい感じに助言をくれる人がいると動かしやすいですね。
フィランのフェローチェへの過保護具合の調整が大変でした。
あまり過保護にしすぎるとそもそもバトルさせる展開に無理が出てきそうでしたので。
研究員と男の子はモブです。多分もう出てこないでしょう。
そしてようやく旅立ち(予定)へ。
次の話で出発予定です。