白兎が冥人の夢を見るのは間違っているだろうか   作:モフィー

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皆さんが書いていらっしゃる作品を読んでみて、自分でも書いてみたくなりました。

よろしくお願いします。


プロローグ

 迷宮都市『オラリオ』

 

 地下に広がるダンジョンに蓋をするかのように築かれたそこは、活気に満ちあふれていた。

 

 娯楽を求めて下界に降りてきた神々。

 その眷属となり、モンスターの蔓延るダンジョンへと潜り、そこから得られた収入で生計を立てる冒険者たち。

 

 彼らを中心に、この都市は動いている。

 

 最先端にして世界の中心ともいえるオラリオへ、一人の少年が訪れた。

 柔らかな白髪と深紅の瞳が兎を思わせるも、極東式の黒い軽鎧姿と、左腰に提げた朱色の鮮やかな鞘に収まった一振りが異彩を放つ。

 まだ若く、短身痩躯の背にある唐草模様の大きな風呂敷が、荷物持ち(サポーター)を彷彿とさせる。

 

 名をベル・クラネルと言う。

 

「わぁ~!」

 

 街並み、行き交う人々、どれもが洗練された都会的な雰囲気を醸し出していることに、ベルは田舎者丸出しに興奮する。

 

 その姿を目にする者たちも、彼の初々しさについ目を細めてしまいがちである。

 

 ひとしきり辺りを見渡した後、ベルは小さく拳を握る。

 

(よし、やるぞ! 僕はこのオラリオで英雄になるんだっ!)

 

 唯一の肉親であった祖父はもういない。

 

 超が付くほどの女好きで、女とみれば、老いも若きも見境なく口説いていた真性の破廉恥野郎であったが、どこか憎めない性格をしており、故郷の村では人気があった。

 

 そんな祖父が読み聞かせてくれた英雄譚が、ベルは好きだった。

 一番のお気に入りは迷宮神聖譚(ダンジョン・オラトリア)である。

 

 迷宮で偉業を成し遂げた冒険者たち。その一員になれる日をずっと夢に見てきた。

 今日が最初の一歩となる。

 

 この記念すべき日に、ベルは心躍らせていた。

 

 …………………………

 

 ……………………

 

 ………………

 

 …………

 

 ……のが半日前の話。

 

 すっかり日が沈んでしまい、月明かりと星が煌めく夜空が広がっているが、酒場からは喧騒が途絶えない。

 杯を重ね、笑い合う、物々しい格好をした彼らの赤い顔を、暖かな灯りが照らす。

 店の外の席(テラス)からも楽しげな声が聞こえてくる。

 

「はぁ~」

 

 それらを羨ましく思いながら眺めているベル。

 酒場から通りを挟んだ向かいの路地の脇――閉店後の雑貨屋の入口にある段差に腰掛けて、もう一度、溜め息を吐く。

 

 希望を胸に訪れたオラリオで、まず向かったのが『ギルド』であった。

 都市、ダンジョンの管理、そして冒険者のサポートを行う機関の窓口で、めぼしいファミリアのリストをもらった。

 

 冒険者になるためにはファミリア――神の眷属、派閥の一員となり、その恩恵を授からなければならない。

 

 ダンジョンに巣くうモンスターは、地上のそれよりも手強い。下へ行けば行くほど凶悪になり、生身で対峙すれば、間違いなく瞬殺される。

 

 殺されることなく倒すための『神の恩恵』である。成し遂げたことの質と量の値――経験値(エクセリア)を高めていくことで、器を昇華させる。

 一段階でも器を昇華したならば、今まで苦戦していたモンスターでさえ圧倒することもあるという。

 

 強くなれば、見目麗しい女性冒険者の危機を、颯爽と現われて救う。

 そして二人は恋に落ち……なんてこともあるかもしれない。

 

 亡き祖父は『ベタな展開じゃが、やはり王道は押さえておきたいところじゃな』と講釈を垂れていたが、ベルも同意する。

 

 ダンジョンに出会いを求めてもいいはずだ。

 

 そのためにはファミリアに入団しなければ。ベルはリストを片手にオラリオを駆けた。

 

 しかし全敗。

 

『ウチは今、募集してないんだ。悪いが他を当たってくれ』と、断られたのは良い方で、『お前みてえなヒョロいガキなんざ、すぐおっ死んじまうのがオチさ』とか、『あー、無理無理。だって見るからに弱そうじゃん』とか、『憧れてんのか知らねえが、サムライごっこなら余所でやんな』と、一目見ただけで断られてしまったのだ。

 

 さらには『俺様の夜の相手をしてくれるならいいぞ』などと、男娼として迎え入れられようとされる始末。早くもベルの心は折れてしまった。

 

 リストで残っているのは『ロキ・ファミリア』と『フレイヤ・ファミリア』の二つであるが、高レベル冒険者を擁する二大派閥だから、よっぽど自信がなければやめたほうがいい、とハーフエルフの受付窓口嬢に言われたので、足を運ばなかった。

 

「これからどうしよう……」

 

 宿を取ることも失念していたので、今夜は野宿確定である。

 食事も懐が心許ないので、一日一食で我慢するつもりだ。今日は食べそびれてしまったが、今から食べる気分でもない。

 

「しょうがない。もう寝よ」

 

 風呂敷にもたれかかるようにして横になる。

 時折吹いてくる夜風が寒いが、ベルは構わず眠ることにした。

 

 が、

 

「あの」

 

 声を掛けられた。

 

「なんでしょ、うっ!?」  

 

 目を開けると、一人の少女がいた。

 細い体は青色の軽装を纏い、伸びる肢体はしなやかで女らしい。

 鎧の下から覗く二つの膨らみは、控えめでも主張しすぎてもいない。体とのバランスを考えれば、最適な大きさであろう。

 腰まで伸びた長い金髪は、月明かりに照らされ、幻想的なまでに美しく輝いている。

 

「こんなところで寝ると、風邪を引きますよ」

「……」

「あの……?」

「……」

 

 少女が安否確認でもするかのように、手を振りながら覗き込んでくるが、ベルは返事ができなかった。

 

「大丈夫じゃなければ、誰か、呼んできますけど……?」

「…………け」

「『け』?」

 

「結婚してくださいっ!!」

 

 思わず叫んだベルは、少女の手を握るが、ぐるんと天地がひっくり返った。

 投げ飛ばされたのだ。

 おそらく手首の返しだけで。

 

「いだっ」 

「あ、ごめんなさい。でも、結婚は……その……」

 

 困り果てる姿も素敵だ。

 

 無様に足を開いて仰向けに寝転ぶベルは、そう思った。

 




盛大に始まらない(予感)
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