白兎が冥人の夢を見るのは間違っているだろうか   作:モフィー

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短めです。


第三話 続・剣の姫

 かつて、島を覆うほどの雷雲から獣が生まれ、村々を襲った。

 それを退治してみせたのが一人の剣豪であった。

 

 彼の者が放ったのは、けっして目で追うことは敵わぬ、電光石火の一太刀。

 

 紫電一閃。

 

 ――この技を授けることで、夢を叶える一助となれば。

 

 師は微かに微笑みながら、言ってくれた。

 

(ありがとう、先生。あなたのおかげで、僕は夢を追いかけることが出来ています)

 

 道のりは果てしないものだろう。

 

 だが、その一歩目は、今、しっかりと踏みしめてやる。

 

 ベルは動いた。

 距離にして十歩にも満たないが、瞬きする暇すら許さないほどの速さでゼロにする。

 

 肉薄したアイズが目を見開き、防御の体勢を取ろうとする。

 

 だがもう遅い。

 木刀を地面と水平になるように向け、すれ違い様に、振り抜く。

 

「っ!?」

 

 確かに捉えたはずだったが、手応えは全くなかった。

 

「油断、したね」

 

 背後から鈴を鳴らしたような声が聞こえてくる。

 

「しまっ――」

 

 〝た〟と発することは出来なかった。

 

 脇腹に彼女の木剣が食い込んでいるのが見えたと同時に、真横に吹き飛ばされた。

 

「がっ! ごっ! ぐはっ!!」

 

 二度ほど跳ね、地面に伏す。

 

 誘われた。防御が間に合わないように見せかけ、反撃してみせたのだ。

 

(まだまだ、修行が足りないってことか……でも……)

 

 奥義を使わされた上に、()()()()()()()()でやられたベルの胸中は穏やかではないが、諦めることだけはしない。

 

(……終われない! 僕は、まだ、やれるっ!)

 

 悲鳴を上げる体を無理矢理起こし、木刀を構え直す。

 

「ぐっ!!」

 

 さっきの一撃で肋が折れたらしい。息を吸うと痛みが走る。

 

「まだやるの?」

「は、はいっ!」

「無理、しないほうが、いいよ?」

「だ、大丈夫、うぐっ!? です!」

 

 痛みに膝が折れそうになるベルを、アイズは心配してか、立ち会い人のガレスを見る。

 

「……」

 

 ガレスは小さく首を横に振る。

 続行。ベルの意志を汲んだ。

 

「……わかりました」

 

 アイズは木剣を構えた。

 

「でも、次で最後」

 

 アイズの気迫が増した。

 

 来る。ベルは絶対に倒れないぞと奥歯を噛みしめる。

 

 アイズは先ほどと同じく、一直線に向かってきた。

 

 ベルは木刀を立て、どう打ち込まれてもすぐに反応できるように神経を尖らせる。

 

 が、彼女の姿が大きく左に流れた。

 ベルも反応するが、衝撃が来たのは右側からだった。

 

「ぐっ!?」

 

 吹き飛ばされそうになるも、ベルはどうにか堪えた。

 

 左へ行くというフェイントすら囮にして、右からの斬り払い。とても常人ではできない芸当だ。瞬間的な速度が違いすぎる。

 いよいよ手足の石枷が意味を成さないように思える。

 

 それでも、ベルはまだ立っている。劣勢だが、負けたわけじゃない。

 

 そのベルの意地をアイズはたたき折りにきた。突き、斬り、払い、高速の連続攻撃を繰り出してくる。

 ベルは防御もままならならず、腕や肩、足に受けてしまう。

 

 しかし、

 

「っ!?」

 

 最後の一撃だけは防いだ。

 

 アイズは驚愕の表情になるが、すぐに攻撃を再開する。先ほどよりも速く、手数も多い。

 

 喩えるなら、暴風雨だ。全身を激しい雨に打たれているが、雨粒の一粒一粒が、石をぶつけられたかのように重く、痛い。

 それでもベルは意識を手放さなかった。

 

 全ては不可能であるも、致命傷になるような一撃だけは防ぐ。

 

 アイズから放たれる()()を本能的に感じ取り、ほぼ偶然に近い形で退ける。

 

 だからだろうか、アイズの攻撃はどんどん苛烈さを増していく。

 なかなか倒れないことに焦れたわけではない。

 

(え? 笑ってるっ!?)

 

 そう、彼女は模擬戦とはいえ戦闘の最中にありながら、口元に笑みを浮かべているのだ。

 戦闘狂(バトルジャンキー)のような異常さを感じさせる笑みではなく、ただただ純粋に楽しんでいる子どものような笑みだ。

 それも、こちらが防いだ瞬間に、笑みを深めるのである。

 

(僕が、どうやって防ぐのか、試しているのか?)

 

 冗談ではない。こちらは飛びかける意識を必死につなぎ止めるのに精一杯なのに、これでは遊ばれているだけではないか。

 

 ベルの闘志に火が付く。

 

 そちらがその気なら、予想の遙か上を飛び越えてやる。

 

 すでに体は満身創痍で、折れた骨も肋だけではなくなった。体中から燃えるような痛みに襲われている。

 

 けれどもやってのけた。アイズの流れるような三連撃を、全て防ぎきったのだ。

 

 しかし、

 

「……や、った……!」

 

 それまでであった。

 

 腫れ上がった顔で、ぎこちなくも笑い、崩れるように倒れる。

 

「っ!?」

 

 ベルが地に伏すことはなかった。

 

 木剣を投げ捨てて、アイズが体を支えてくれたのだ。

 

「ごめん、なさい! だいじょうぶっ!?」

「いい……に、おい……」

 

 やりすぎたことを反省する彼女の香りに、心地よさを覚えつつ、ベルは意識を失った。




琵琶法師の語りは格好いい。
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