Fate/Fiend Friends [フェイト/フィエンド フレンズ]   作:皇緋那

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第11話「先輩からのお誘い」

『一緒にお食事に行きましょう』

 

 音信不通であった雫から、1週間ぶりに紘輝のもとへ送られたメッセージの内容は、予想外にも食事の誘いであった。

 普段、用事がある時は、大体普通に家に呼び出してくる雫だが、何か気分の変化でもあったのか。

 何にしても、ずっと待っていた先輩からの連絡である。直接会って聞きたいことはいくつもあるし、部活に入っていない紘輝の夏休みは実際予定がない。承諾とともに場所を提案する文面を打ち込んで、送信のボタンを押した。すると、すぐさま返事が来る。雫も紘輝の反応を待っていたようだ。

 内容は紘輝の提案を受け入れるというものと、もうひとつ最後に付け加えられていた。

 

『あのサーヴァントの女の子も連れてきて』

 

 サーヴァント──セイバーのことだろう。勿論、彼女の素性も雫に聞きたいことの中に含まれている。今は恵美里の部屋で一緒に遊んでいるはずだが、呼んでこよう。

 

 紘輝は雫に了解した旨を送ると、恵美里の部屋へ向かった。扉の向こう側からは、画面の中の相手に文句を言う恵美里の声が聴こえるが、いつものことだ。2回強めにノックして、はーいと返事が聞こえてから、扉を開いた。このノックは、兄妹間で決まっているルールである。

 

「なあ、エミ」

「お兄どしたの? 私たち、今忙しい……あーっ、そこ! 必殺技出して!」

 

 カーテンの締め切った薄暗い部屋で、大きなモニターに向かう少女たち。

 恵美里の買ったゲーミングチェアに座っているのは、持ち主ではなく、格闘ゲームを操作するセイバーだった。両親公認の居候となった彼女は現在、彼女に操作方法などを教えられ、恵美里のゲーム友達として仲良くやっている。純粋な人間ではないからか、その動体視力と反射神経はすさまじく、めきめきと上達しているんだとか。

 

「いや、これから先輩と用事があるんだけど、セイバーも連れてきてくれって言われてさ」

「だってさ、セイバーちゃん、大丈夫?」

「はい、大丈夫です。ですが、あと1戦だけやらせてください。この試合に勝ったら昇格なので」

 

 どうやら、恵美里の代わりにランクを賭けた戦いに挑んでいるらしい。

 出会った初日のセイバーはほとんど喋らないし、何を考えているかよくわからなかったが、なんだかんだ馴染めているようだ。兄としては一安心である。

 

 紘輝はセイバーの操作するキャラクターが続く戦闘に見事勝利を収めるのを見届け、恵美里とセイバーがハイタッチで喜びを分かち合うのを見守り、それから出かける準備に取り掛かった。

 

 向かう先は先輩との待ち合わせ場所、よく利用するファミレスだ。連れて歩く妹がちょっと静かなくらいで、目新しいこともなく、いつも通りの気分で外へ出る。

 

 そこでふと、隣の家が目に入って思い出した。

 

「……そういえば、最近風羽どうしてるかな」

 

 ちょうどセイバーと出会った日以来、風羽の姿すら見ていない。どころか、その両親である観伝寺夫妻ですら見ていないのだが、旅行にでも行ったのだろうか。1週間も家を空けているなら、海外旅行なのかもしれない。

 

「……マスター?」

「あぁ、悪い。ちょっと考え事してた」

 

 そのうち帰ってきたら、いつも通り、お土産を持ってウチに来るだろう。どこへ行ったかの答え合わせはその時だ。

 紘輝は気を取り直し、セイバーと一緒に歩き始めた。

 

 ◇

 

 雫はドキドキしながら、紘輝の到着を待った。その隣で、夏だといつのに冬のコートを羽織らされたライダーもまた、不満げに腕を組んでいた。

 見るからに暑そうなこのコートは雫の使っているものだ。ライダーのあの蛇は、自分の意思で霊体化させることができないらしく、隠すためにこんな格好なのだ。コートの内側では、ライダーのお腹のあたりで、両肩の2匹を堅く結んで動けないようにしてある。

 

 紘輝が到着する30分は前に待ち合わせのファミレスに到着していた雫は、10分早く来た紘輝をライダーと共に出迎える。

 

「すみません、先輩。待たせてしまったみたいで」

「う、ううん、いいの。私が来るのが早すぎただけだから。それより、ちゃんと連れてきてくれたみたいだね」

 

 紘輝の隣には、あの日に召喚された紫髪の少女が立っている。サーヴァント同士で気配がわかるのだろう、ライダーの方を見るからに警戒しており、深く被ったフードの奥から鋭い眼光を覗かせていた。

 紘輝に促されてようやく頭を下げて挨拶するが、一言も喋ろうとしない。思いっきり敵視されているようだった。

 

「セイバー、この人は俺の魔術の先生で、恩人なんだ。そんなに警戒しなくても大丈夫だ」

「……いいえ。警戒を解くのは不可能です。いつ襲撃を受けるか、わかりませんから」

 

 こうして従わないのも、彼女がマスターを思っているからだろう。サーヴァントとしては正しい選択だ。

 

「あ、先輩。その子は?」

「この子もセイバーと同じ……だよ。詳しくは、入ってから話そうか」

 

 ライダーを指した紘輝の質問に答えるのは先延ばしにして、先に店内に入っていくことにした。4人が向かい合って座れる席に案内してもらい、マスター同士、サーヴァント同士が顔を合わせることになる。

 それから店員が水を置いていき、離れていったのを確認してから、メニューを広げつつ先程の質問に答える。

 

「紹介するね。この子はライダー。セイバーと同じサーヴァントで、私が召喚したの」

「あ、そうだったんですね。初めまして、俺、芹沢紘輝です」

 

 自己紹介とともに頭を下げた紘輝。ライダーはそんな彼に返事をすることはなく、雫に向かってだけ口を開いた。

 

「……この男がセリザワか。貴様の男の趣味をとやかく言うつもりもないが、随分とつまらん面構えの男だ」

「お、男の趣味って、そ、そ、そういうのじゃないから……っ」

「……はぁ、全く貴様は我の話を聞く気がないな……」

 

 雫の返答に、付き合っていられないとでも言いたげなため息をつくライダー。それ以降、彼女は紘輝を見ようとせず、目を向けるとしてもセイバーの方ばかりだ。

 

「……何ですか?」

「いやなに、貴様からは我と同じ匂いがするのでな。蟒蛇と……腐臭だな。死体の匂いだ。それに、我好みの顔をしている。貴様のような美女とは是非、仲良くしたいものだな」

 

 冗談めかして話すライダーに、セイバーは相変わらず警戒している様子であり、睨み返すだけで返事はしなかった。そのせいで立ち込めた気まずい雰囲気に、気を使って紘輝が声を出す。

 

「あはは……そうだ、セイバーは何頼むか決まった?」

「……グリルチキンです。鶏肉が食べたいので」

「じゃあ、俺もそれにしようかな。先輩たちは決まりました?」

 

 雫が頷き、ライダーには確認をとらずに呼び鈴を鳴らした。ライダーも不満を漏らさず、和気あいあいとはいかないものの、各々食べたいものを注文していった。

 そして、再び店員が去っていったことを確認すると、雫は本題に入ろうとする。

 

「あ、あのね、芹沢くん。今日呼び出したのは、同盟の提案をしようと思って」

「同盟?」

 

 紘輝が理解出来ていない顔をしたのを見て、雫は言葉を付け足す。

 

「これから聖杯戦争を戦っていくと思うんだけど……私は、芹沢くんに危険が及ぶようなことは避けたいの。聖杯は芹沢くんに譲るよ。だから」

「待ってください先輩、まず聖杯戦争とか、サーヴァントってなんなんですか?」

 

 紘輝の制止に驚く雫。てっきり、そのあたりは当然把握しているものかと思ったが、そこからとは。

 

「聖杯戦争っていうのは、万能の願望器を賭けた戦いで……って、セイバーからなにも聞いてないの?」

「聞いてないです」

 

 サーヴァントには聖杯から一通りの知識が与えられる。巻き込まれたとしても、その辺りの基本は教えてくれるはずだけれど。

 

「……なにも聞かれなかったので」

 

 雫がセイバーの方を見ると、彼女はそうとだけ呟いた。大丈夫なのだろうか、この主従は。不安になるが、雫は紘輝の師匠なのだから、そこはちゃんと教えてあげないと。

 雫は1週間の間に調べ回って手に入れた情報をあらかた話し、途中で料理が運ばれてきた時は一旦中断して、また店員がいなくなってから再び同盟を持ちかけた。そうして返ってきた答えは、イエスともノーともつかなかった。

 

「そう言われても……俺、別にそんなに叶えたい願い事があるわけじゃないですよ。他の人はみんな、本当に叶えたい願いがあるんでしょう? それなら、俺が参加する意味なんてないんじゃないですか」

 

 紘輝ならすぐ首を縦に振ってくれると思っていただけに、雫は煮え切らない答えがじれったく感じた。素直に雫を頼ってくれればいい話だというのに。

 

 ライダーもその返答は気に食わなかったらしく、注文したハンバーグを頬張る手を止め、口に含んだ分を全部嚥下して、紘輝に向かって言い放った。

 

「それならさっさと令呪を使ってしまえ。隣に座っている女を自害させてしまえば、簡単に聖杯戦争から降りられるぞ。ま、貴様がその女を踏み躙って後悔しないなら、だが」

「それは……」

 

 紘輝は黙り込み、セイバーの方を見る。彼女は夢中で鶏肉と米を交互に食べており、その視線には気がついていない様子だった。その姿を妹に重ねてでもいるのか、言葉に詰まっている。

 

 紘輝が聖杯戦争に巻き込まれないでくれるなら、雫だってそれでいいと思う。けれど、彼がセイバーを自害させることを簡単に受け入れるような、冷たい人間であってほしくなかった。

 

 なんとか助け舟を出せないかと、雫は考える。そして、正義感の強い彼を駆り出す方法を、なんとか思いつく。

 

「……あの、聖杯戦争に参加する人が、みんながみんな、善人ってわけじゃないと思うんだ。悪いことに使おうとする人もいるかもしれないし、戦いに巻き込まれて街がめちゃくちゃになっちゃうかも。そういう事態にならないよう止められるのは、私たちみたいにマスターになった人だけじゃない、かな」

 

 そんな雫の話を聞いて、紘輝も考え直してくれたらしい。ようやっと、雫の言葉に頷いてくれた。

 

「……そう言われると、黙っていられないのかもしれないですね……わかりました。戦わなくちゃいけないときは、俺でよければ力を貸します」

「ほ、ほんと!?」

 

 雫だって、昔からこの地に住んでいる魔術師一族、古蛾家の当主だ。街の平穏を守るのは、雫の責務と……言えないこともない。

 そんなことより、これで何より紘輝が雫を頼りにしてくれる。間違いなく、芹沢紘輝と誰よりも秘密を共有しているのは古蛾雫だ。

 堪えきれないほど嬉しくなって立ち上がり、付近のテーブルを片付けていた店員の視線が向けられたのに気がついて、雫は耳を赤くして再び座った。ライダーが隣でため息をついている音が聞こえてきた。

 

「……と、とにかく、同盟は成立、ってことで……!」

「そうですね、先輩。よろしくお願いします」

 

 雫は強く頷いた。その様をライダーが不安げに見ていることに全く気が付かないまま。

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