Fate/Fiend Friends [フェイト/フィエンド フレンズ]   作:皇緋那

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第14話「聖杯戦争初戦・壱」

 ヨルムンガンドによる破壊活動が開始されてから10分ほどが経過した。熱海市内は大パニックに陥ったまま、逃げ惑う人々でいっぱいだ。だが他のサーヴァントや、あるいは戦闘機が来る気配はまだない。

 もう少し待てば誰か来てくれるだろうか。その間、風羽は息を荒くしつつも、SNSで混乱する人々の反応を調べながら待つことにしていた。

 

「……あれ」

 

 だが、突然SNSの読み込みがされなくなり、次々と書き込みが削除されていっているのが確認された。この異常事態に対し、情報を抹消しようとしている誰かがいるらしい。

 

 だが、別にそんなことはどうでもよかった。スマホはポケットに放り込んで、相変わらずヨルムンガンドが暴れている市街の方に目を向ける。ヨルムンガンドも主の視線に気がついたのか、こちらを一瞥すると、舌をちろちろと出して見つめ返してくれる。こうして見ると、可愛い奴なのかも。

 

 ──そんなヨルムンガンドの側頭部に、突如として透明の球体が叩きつけられる。それは破裂するようにして彼の顔を濡らし、激突の衝撃によって一瞬ながら彼を怯ませることに成功する。

 

 その球体の飛来した方向によく目を凝らして、うまく見えないのでスマホのカメラで拡大して見たところ、どうやら逃げようとしていない2人組がいるらしい。豪華なドレスの女と、その傍らにいる着物姿の小柄な女だ。恐らくは、ドレスの方がサーヴァント、着物姿の方はそのマスターだろう、と風羽は推測する。

 

 事実、そこに立っている女、姫螺璃とバーサーカーの間には魔力供給のパスが繋がっている。とはいえ、彼女は令呪を持っておらず、正式なマスターではなかったが。

 

 風羽は結論として、何だっていい、と推察をやめた。この場で倒せば変わらないことだ。それよりも、やっと敵陣営が釣れてくれたのだから、歓迎してやらなくては。

 

「その人たちも、壊しちゃって」

 

 その命令を聞き届けたヨルムンガンドは体をくねらせ、尾を振りかぶって2人めがけて叩きつけた。

 巨体による一薙ぎは、特別な神秘を纏わずとも凄まじいダメージを発揮する。矮小な人影ふたつ程度、ただの人間なら跡形もなく吹き飛んでいたことだろう。

 

 しかし、その尾は彼女らを叩き潰すことはなく、サーヴァントの手から放たれる渦巻く水の塊によって受け止められていた。そのまま二度、三度と繰り返し繰り出される攻撃だが、バーサーカーには届かない。

 

「随分と大きな蛇さんね。全部丸呑みにしたら、少しはお腹が満たされそうだわ」

 

 水流が吹き荒れ、巨大な尾が跳ね返された。傍らにいた姫螺璃を長い髪の毛で保護するように包み込んで抱きしめると、すかさずバーサーカーは反撃へと転じていく。小手調べに圧縮した水の弾丸をいくつも撃ち込み、それらに続いて、無謀にも自ら地面を蹴って飛び出した。

 

 着弾した水泡はヨルムンガンドの鱗を穿つには威力が足りない。ヨルムンガンドは口を開け、バーサーカーを飲み込んでやろうと迫ってくる。するとバーサーカーの髪の毛が彼女の意のままに蠢き、付近の無事だった電柱に縛り付けられた。引っ張って自分を引き戻すと共に、去り際に放つのは先程よりも高速の弾丸だ。ヨルムンガンドの口内を狙い何発も一気に射出し、狙い通り蛇は血を流す。

 

 しかし、バーサーカーがつけた傷口は直ぐに塞がってしまい、そのままの勢いでヨルムンガンドの牙が地面に突き刺さった。その後頭部をバーサーカーの放った水の刃が切りつける。細く圧縮された刃は鱗を削るが、これも有効打には至らない。

 

「さすがにあの硬さは面倒かしら」

 

 呟くバーサーカー。電柱に髪の毛でしがみついたまま、体勢を立て直そうとする蛇に何度か水刃を放つものの、やはり効果がなかった。

 再び身体を叩きつけることで攻撃としてくるヨルムンガンドに、バーサーカーは防御と回避を強いられる。巻き添えをくらって建物は倒壊していくが、互いに傷を受けることはほとんどないままだった。

 

 一方で、戦いを眺める風羽はというと、その進まない戦闘に退屈を覚え始めている。

 

「っ、キャスター! なにか、ないんですか!? もっと派手な、熱線とか!」

「あることにはありますが……更なる宝具の展開はマスターが干からびてしまいます。現在のマスターの魔力では不可能かと」

 

 せっかく目覚めた魔術回路だというのに、まだまだキャスターたちに全力を出させるには足りないという。風羽は歯噛みして、仕方なくこのままヨルムンガンドを戦わせることにする。

 

「えぇ、膠着しているということは、より多くの者の目につくということ。あの水のサーヴァントのように、手の内を明かしに来てくれる者が他に現れるかもしれません」

 

 あくまで今は釣り餌を垂らして、水中で踊らせている段階に過ぎないというキャスター。決着を急くのはよくないと諭され、風羽は落ち着こうと深呼吸して、なんとか興奮をおさめようとした。

 

 そこへ、バーサーカーの動向が目につく。ヨルムンガンドに対する防御の手は休めていないものの、彼女から伸びた髪の毛がなにかの魔法陣を形作り、周囲に広がっていくのが見えたのだ。

 なにかの準備だろうか。風羽は興味がわいて、彼女を観察することにする。

 

 よく見ると、どうやら髪の毛の中にいる姫螺璃も、バーサーカーの行動に首を傾げているようだった。

 

「あ、あの、これ、一体何を」

「決まってるじゃない、反撃の用意よ」

 

 バーサーカーが短く答えると同時に、髪の毛で描かれた魔法陣が輝いた。そしてバーサーカーの足元に広がっていくのは、今までと同じ水だった。魔力を水流にして放出するのなら、先程までもやっていた。けれど、今度はその挙動が違う。溢れ出す水が瓦礫を押し流して、周囲を沈めてゆく。

 

 洪水を起こしたからとて、大蛇の脅威は変わらない。ヨルムンガンドは身をくねらせ、一気にバーサーカーを呑み込みにかかった。毒の滴る牙が迫る光景に、姫螺璃は言葉もなく失神しかける。しかし、バーサーカーは退こうとはせず、迎え撃つことを選びつつ、姫螺璃にくすりと笑いかけた。

 

「大丈夫よ。水上で、渦潮(わたくし)が負けるはずがないもの」

 

 水面に魔力の渦が吹き荒れ、一気に四つの竜巻が発生する。激しい風を吹かせながら、それらは迫り来るヨルムンガンドへと叩きつけられていく。

 まず1つ。下顎にアッパーカットのように一撃が入り、ヨルムンガンドの軌道がずれた。2つ目はさらに横から喉を狙い、残る2つも間髪入れずに衝撃を叩き込んで、彼を地面にまで追い詰めた。押し負けて倒れた大蛇が倒れ込んだことで、建物が潰れ、道路は割れて、自転車が宙を舞った。

 

「あぁっ……」

「大丈夫。彼があの程度で死ぬことはありませんから」

 

 眉一つ動かさずに見守るキャスターの横で、風羽は思わず声を出し、彼女に宥められた。それよりも、あの水を操るサーヴァントの方が考えるべきことだ。周辺が水場であれば、彼女はその性能を増すのだろう。元々が川や海に関わる怪物だったと推測できる。

 だからといって、風羽の対応は変わらない。より多くのものを壊せるのならそれでいいし、今戦っているヨルムンガンドは元の神話からして海底で暮らしてきた存在だ。風羽の魔力さえ間に合えば、彼は負けない。

 

 風羽は拳を握り直し、その時ちょうど肩を叩いてきたキャスターの指さす方に目を向けた。そこには、逃げ惑うのではなく、戦場と化した市街地に向かっている人影が確認できた。

 

「心配よりも……ほら。新しい獲物がかかりましたよ、マスター」

 

 次の獲物は4人組だ。季節外れのコートを着せられた少女。どこかで見た覚えのある銀髪の女。フードを被った紫髪の少女。そして──風羽の見知った男の姿。

 

「芹沢紘輝……」

 

 彼もまた風羽と同じように、遥かなる伴星(ネメシス)によって聖杯戦争へと導かれたのだろうか。

 だとしたら、彼も、壊してしまってもいいのだろうか。

 

「……いいよ。飛び込みは歓迎だもん。私の最終戦争(ラグナロク)、もっと盛り上げて欲しいな」

 

 風羽が笑ってみていることなど露知らず、瓦礫だらけの路上を紘輝たちが駆けていく。

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