Fate/Fiend Friends [フェイト/フィエンド フレンズ]   作:皇緋那

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第15話「守るため」

 突如として現れた巨大な蛇の大暴れによって、熱海市街はほぼ壊滅状態。同時にネットは繋がらない現象も発生しており、民間人は助けを呼ぼうにも呼べない状況だ。戦闘も通信障害もいまだ続いており、街はまだ混乱の中にある。

逃げ惑う人々の波は収まりきったとは言えず、まだまだ取り残された人間は多い。

 

カシオペアたちもまた、街中で話している最中にこの騒ぎに巻き込まれていた。ビルの倒壊による衝撃や目を疑うような光景に人外の仕業だと判断し、相談する間もなく行動を開始する。

ここまで大規模に人々を巻き込む災害が起きては、調査や交渉をしている場合じゃない。最優先は人命の救助だ。

 

逃げ遅れた生存者を探すため、カシオペアは避難する人の波に逆らって進んだ。群衆を抜けると、破壊の限りを尽くされた結果の風景が見え、傷ついた人々の姿も多く見える。真っ先に目に付いた頭を怪我した男性を治癒魔術によって簡単に治療し、助け起こした。なんとか意識はあるようで安心するが、被害者は彼ひとりではない。

 

カシオペアは強く拳を握りしめ、遠くに見える災害の姿を見据えた。あの大蛇を放置すれば被害者が増える。だが、この場にいる人々は今すぐ手を尽くさなければ命を落とすだろう。

 

こんな時、自分が選ぶべきは、どっちなのか。苦しむ人々を見ると、足が止まる。余計なことを考えている暇はないのに、被害を食い止めるために来たくせに、情けない。

 

「──お姉さん。私とアヴェンジャーでアイツを止めに行く。だから、委子ちゃんとランサーと一緒にみんなを助けてあげて」

 

マドカに言われて、ようやくカシオペアは我に返る。そして、彼女の言葉に頷き、目の前の命を繋ぎ止めるために、己も立ち上がろうとする。カシオペアとは言語も人種も違うが、どうでもいい。助けられるなら助けたい、それがここに来た理由なんだから。

 

カシオペアが顔を上げると、マドカと目が合った。その瞳は鋭く、先程まで人懐っこい笑顔を見せていた少女とはまるで別人のようだった。

 

「止めに行く……って」

「あいつのマスターを探す。それで、話が通じないようなら殺す。大丈夫、なんとなく見当はついてるし。

さ、行くよ、アヴェンジャー」

「いいでしょう。人命救助なんてつまらない作業、私には似合わないものね。もっと派手にいきましょう!」

 

マドカとアヴェンジャーは大蛇の暴れていた方向へ、迷わず飛び出していった。その背中は勇壮であり、きっと成し遂げて帰ってくるだろうと、不思議とそう思えた。昨日出会ったばかりの彼女のことなんて、よく知らないというのに。

 

「任せるぞ、ミス・マドカ」

 

自分たちも自分たちで、やるべきことをやらなければ。気合いを入れ直し、生存者の捜索をはじめる。

 

 

委子の目の前で、街並みが壊れていった。

マスターではなく、サーヴァントでもない委子は、大蛇を前にして己の小ささを突きつけられている。かつて私の中にいたあの子がいれば、と叶わぬ仮定を思い浮かべ、拳を強く握った。あんなの無理だ、なんて絶望が脳裏に浮かんで、一生懸命振り払った。

そのまま、ビルの倒壊によって起きた衝撃波を食らって、委子は小さく吹き飛ばされた。道路に尻餅をついて、痛みでようやく正気を取り戻す。

 

「っ……無理、じゃない」

 

気付けに自分で頬を叩き、自分の目を覚ます。向こうに見える災害を見据えて立ち上がり、なにか出来るはずと言い聞かせて頭を回す。

 

「……あれほどの巨体で、サーヴァントとやり合うだけの強大な神秘……これで多頭ではないとしたら、第一候補は……」

 

思い浮かぶのは──世界蛇、ヨルムンガンド。ロキの息子であり、軍神トールと相討ちとなった怪物ならば、反英霊のサーヴァントとしても召喚されうるだろう。あるいは、その模倣品を作り出す宝具だとか、そういう可能性だって捨てきれない。

 

「それとも……ヒュドラ、ヴァースキ、アジ=ダハーカ……? ヒュドラやアジ=ダハーカだとしたら、頭部の数はもっと多いはず……ナーガのような理性ある存在には見えないし……ううん……」

 

伝承にあるような竜ならば、大抵は神や英雄によって殺されている。神話の再演は弩級の魔物であっても概念的な弱点と言えるだろう。しかし、それが絞りきれなければ打つ手も用意できない。

 

思考がまとまらないうちに、地震は止んでいだ。委子にできることは──あれを倒す方法を考えるんじゃないんだと、マドカの後を追うように歩き出そうとする。

 

「カシオペアさん! 私、向こうを見てきます!」

 

委子の言葉に頷いて応え、駆け出す彼女を見送りながら、すぐさま救助に取り掛かろうとするカシオペア。そんな中で委子を引き止め、2人に声をかけたのはランサーだった。

 

「お待ちください、イコさん。マスター、僕に宝具を使用する許可をください。必ず役に立ちましょう」

「……あぁ、構わない。なんだって使ってくれ」

「ありがとうございます」

 

真名の露呈だろうが、人命には代えられないと判断したのだろうか。カシオペアの言葉を受け、ランサーは礼を言いながら、霊体化させていたらしい本来の肉体を可視化させる。背中には鳥類の翼が、腰からは紫に鈍く光る蠍の尾がそれぞれ現れて、彼が人間ではないことを示す。

 

「愛しき兄弟たちよ。どうか、私に力を貸してくれ。宝具、限定展開──生命の海を、此処に」

 

ランサーがその蠍の尾を地面に突き刺すと、魔力の気配が膨れ上がり、コンクリートの奥から黒泥のようなものが噴き出した。

あれは泥だが、ただの泥ではない。生命を産む原形質だ。そこから猛獣や竜、触手が溢れ出て、この世に生態系から外れた存在がいくつも呼び出されていく。

 

「ウリディンム。ムシュフシュ。ムシュマッヘ。イコさんとマスターを手伝ってあげてください」

 

到底、英語も日本語も通じるとは思えない存在だが、ランサーに命じられるまま、そのうちの数体が委子のところにやってくる。そして、狂犬ウリディンムのうち1頭は委子の傍に駆け寄ると、背中を見せるように振る舞い、すぐ隣で伏せた。乗れ、と言われているらしい。

 

「……信じて、いいのかしら」

 

ウリディンム、ムシュフシュ、ムシュマッヘ。それらの名で思い出されるのは、バビロニアの原初の女神・ティアマトが、神々と戦うために生み出した11の魔物だ。その中には、鳥類の翼と蠍の尾を併せ持つ聖獣も存在する。蠍人間『ギルタブリル』だ。

普通であれば、彼らは人類に仇なすもの。神話に於いても、キングゥに率いられた彼らの目的はバビロニアの神々の打倒だった。

 

だが、今は違う。呼び出したのはランサー。善良で、裏の見えない少年だ。

彼がティアマトの産んだ怪物だったとしても、その性質は変わらない。それはわかっているつもりだ。

委子は彼の方に視線を向け、既にカシオペアや魔獣ともども瓦礫の除去や負傷者の輸送を開始しているのを目にして、ようやく意を決した。彼らも、ランサーの命令によるものかもしれないが、同じ方向を向いているのだ。

ウリディンムの背に跨り、その硬い毛皮に身を預ける。

 

「と、とりあえず、向こうの脱線した電車のあたりを見に行こうかしら……っ、きゃあっ!?」

 

委子の言葉を理解しているのか、委子を乗せたウリディンムたち魔獣の一団は前進を開始する。さすがは魔獣、瓦礫をものともせず、自動車並かそれ以上の速度で道を駆け抜けていく。邪魔な障害物は解体し、人間では動かせない重量のものも魔獣なら簡単に動かせる。大蛇の行動により地面が揺れても

、彼らはびくともしない。確かに、これは頼もしい。

 

「……これなら」

 

委子1人では、必死に手を伸ばしても決して届かない手を、握りに行ける。

ランサーには心の中で感謝しながら、委子はウリディンムに揺られて急行する。マドカもカシオペアもランサーも、志は同じだ。委子の戦いは、1人でのものじゃない。

 

「行きましょう、みんな! これが、今私に出来ることなんだから──!」

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