Fate/Fiend Friends [フェイト/フィエンド フレンズ]   作:皇緋那

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第17話「聖杯戦争初戦・参」

 バーサーカーとヨルムンガンドの激突に、紘輝の連れたサーヴァントという乱入者があり、風羽の気分は高揚し続けていた。

 バーサーカーのように派手な戦闘を見せてはくれないものの、剣の少女も黒馬の少女も、今まで暴れていた怪物と渡り合うだけの実力を見せている。

 

 恐らく剣を振るう少女はセイバー。あの黄金色の剣こそが彼女の宝具に違いない。

 そして黒馬に乗っていた彼女も、まずライダーとみていいだろう。ただ馬を連れてくるのではなく、蛇から生成していたのも、英霊固有の力であることを感じさせる。

 

「これで4騎……」

「えぇ、私も含めて、4騎の姿が判明しましたね。どうですか、満足はできそうですか?」

「……うん。もちろんキャスターさんだけでも、十分だと思うけど」

 

 キャスター以外のクラスは推定だが、セイバー、ライダー、バーサーカーが姿を見せた。残るはアーチャー、ランサー、アサシンということになる。

 弓兵や暗殺者はそうそう姿を見せてはくれないだろうが、できることなら同格の力を見せて欲しい。その方が、もっともっと色んなものが壊れてくれるだろうから。

 

 そうして目の前の戦闘に夢中になっている風羽。キャスターもその隣に寄り添って、にこにこしているばかり。

 彼女達は、自分たちに迫る刺客の存在に気づかない。

 

 サーヴァントたちが激闘を繰り広げるのを横目に、まだ無事なビルを伝って、戦場から離れたこの場所へとやってきた赤いツインテールの人影。彼女はどこからともなく長剣を抜き放ち、構え、2つ離れた建物の屋上から、風羽に狙いを定めて投げつけた。数は3本。それぞれが異なる軌道を描き、風羽を三方向から挟み込むように飛んでゆく。

 

 次の瞬間、電撃のような音がすぐ近くで鳴り響き、風羽は慌てて振り返った。見ると、キャスターの張ったルーンの結界に何かが激突し、突破しきれなかったらしく、床に長剣が3本転がっていた。

 

「どうやら、こちらにも敵襲のようですね」

 

 キャスターがそう言い終わった直後、続けて結界にぶつかってきたのは榴弾らしき球体であり、魔力によって押し止められた状態のまま炸裂していった。今度は破裂音が響き渡る。それも1度では済まず、何度かに渡って長剣と榴弾が防壁と激突する。

 

 それでも結界の防壁は割れず、何者かの攻撃は無為に終わった。当然だ、魔術師のサーヴァントであるキャスターの魔術を破るのは、人間ではおよそ不可能だ。

 ──人間なら、の話だが。

 

「あんなにやったら……どれが合図かわかんないわよ」

 

 吐き捨てるような呟きに、振り向く時にはもう遅い。側頭部から角の伸びた女が、魔力障壁に爪を立て、そのまま無理やり引き裂いてみせたのだ。

 キャスターもこうなることは想定外だったのか、ルーンを編み反撃を放つまでに隙が生まれ、その隙にまたしても長剣が飛来する。あまりにも正確な軌道で、風羽の心臓を狙った一投だった。

 

 目で見て、それが一般人にとって必殺の一撃だと理解しても、避けられるかどうかは別の話だ。風羽は身体能力に関しては並の女子高生以下。避けられるはずもなく──。

 

「ッ、マスター!」

 

 覆いかぶさってくれたキャスターが自らの体で受け止め、刃は彼女の肉体を傷つけるに留まった。背中に深く突き刺さったが、さしたるダメージもないのか、キャスターは平然とそれを引き抜き、投げ捨てる。傷口から血が溢れても、お構い無しだ。

 

「これはただの剣ではなく……摂理の鍵? 単純に考えれば、投擲物である以上アーチャーでしょうが」

 

 結界を素手で破ってみせたサーヴァントに向かって、キャスターはそう話しかける。だが、女は笑い、見下したような目で言った。

 

「あら、残念ね。それね、私のじゃないの。我がマスターのよ」

 

 わずかに聴こえた風を切る音。今度こそはと慌てて身をかがめる風羽の頭上を、先程飛来したものと同じ刃が通り抜けた。続けて風羽を襲う突きや投擲が気がついたキャスターの簡易の障壁によって防がれると、襲撃した女は飛び退き距離を取る。その手には既に次の刃が握られており、冷たい眼光は風羽を獲物として認識している。

 

 風羽は動揺していた。周囲を見回し、目に付いたのはヨルムンガンドがライダーに押され危機に陥っている様だった。キャスターは傷ついており、目の前には2人の敵対者。今までにないほど鋭く向けられた殺意に、ただの女子高生は狼狽えるしかできない。

 

「さあ、余所見してる暇はないわよ」

 

 間髪入れず、サーヴァントの側が攻撃を仕掛けてくる。角の女が指先からいくつかの細い熱線を放ち、キャスターは防御に追われ、その間に赤髪の女が風羽を殺しに来る。予備動作を見て、喉を狙う1度目はなんとか避けたが、そのすぐ後に右肩を負傷し、襲ってきた痛みに思考が真っ白になる。

 

 だが思考が途切れても世界は待ってくれない。キャスターはヨルムンガンドを霊体に戻し、代わりにフェンリルを現界させた。フェンリルは指示されるまでもなく風羽を咥え、母を背中に乗せ、その場からの脱出を試みる。

 

 足止めにはフェンリルが持つ氷の力を使い、相手の足元を凍らせ、時間を稼ごうとした。投擲武器と熱線は止められず、フェンリルの体は傷つけられ、風羽を咥える口元から呻きが漏れた。

 それでも、なんとかその場から離脱することには成功して、あの2人組の姿が遠ざかっていくのを、風羽は茫然自失として眺めていた。

 

「……私、生きて、る?」

「えぇ、生きていますよ。想定以上の相手でしたが、逃げおおせてよかった」

 

 生きた心地がしないとはまさに今の風羽のことだった。命に関わるものでこそないが、フェンリルやヨルムンガンドだけじゃなく、キャスターも風羽も傷ついた。刺された右肩にはまだ剣が有って、じくじくと痛んでいる。

 

 脳みそに流れ込んできた情報で、殺し合いだとは理解していた。目の前で起こさせた破壊行動で、聖杯戦争が人命など簡単に失われるものだとも知っていた。

 だけど、風羽はそれを他人事だと思っていた。そうじゃない、肩の傷は現実だ。今だって、キャスターが尽くしてくれなかったら死んでいた。

 

「私も……戦えるように、ならなきゃ」

 

 死んだらもう何も楽しめない。殺す前に殺されるわけにはいかないのだ。

 自分に突き刺さっている長剣の柄に触れながら、風羽は力を欲した。魔術が使える才能が眠っているのなら、早く揺り起こさなくちゃ。

 

 ◇

 

「あーあ、逃がしちゃったな」

「えぇ、逃げられてしまったわね。ま、贔屓してあげてるんだから、ここで脱落するようじゃ困るんだけれど」

 

 マドカは折角発見したマスターを取り逃してしまった。街を攻撃していた元凶は彼女らだとみて、全力で攻撃を仕掛けたつもりだったのだが、耐え抜かれてしまった。

 

「相手もサーヴァントなんだから、そう残念がる必要はないわ。いずれまた出会えるでしょう」

 

 アヴェンジャーはそういうが、マドカにとってはそれが一番避けたいことだった。

 大蛇はどこかへ消えて結果的に被害は食い止められたものの、あの少女たちが命令して動かしていたのなら、再び怪獣襲来なんて事態になる可能性は極めて高い。

 

 その災厄の芽を摘みきれなかったのが、マドカの失態なのだ。埋葬機関レベルの人外なら簡単に仕留めてみせたのだろうが、マドカではまだそこまで至れない。

 

「でも、いきなり襲いかかってよかったのかしら? 見るからに、相手マスターは一般人だったじゃない」

 

 にやにや笑いを浮かべ、マドカをからかうように言うアヴェンジャー。もちろん、聖杯戦争に一般人が巻き込まれるケースが多くあることくらい、マドカは把握している。その上で攻撃を判断したのは──。

 

「あんな惨状を見て、笑ってるんだもん。人間じゃないと思うよ、あれ」

「……ふぅん。なるほどね」

 

 マドカがさらりと返した答えに、アヴェンジャーは少しつまらなそうにして、ビルから街を見下ろす。

 戦う者はいなくなった。だが爪痕は凄まじく、完全に日常が奪われた風景が広がっていた。

 

「……あー、ところでなんだけどさ。これ、どうやって隠蔽したらいいと思う?」

「私に聞いてもわからないとしか言えないわ。というか、無理でしょう」

「アヴェンジャーもそう思う? だよねー、私もそう思うんだよ」

 

 過去の聖杯戦争では、使い潰すためのガス会社をあらかじめ用意しておいて、しっかりスケープゴートにした……なんてこともあったと聞いている。

 けれど、今回は完全に突然の出来事だった。さらに白昼堂々と巨大蛇が出現し、多くの被害を出した。爆発ならまだガス会社のせいにできようが、実行犯があまりにも多くの人間の目に触れている。教会の力を以てしても、とても隠しきれるものじゃない。

 

「怪獣災害として処理した方が早かったりして……っとと、そうだそうだ」

 

 苦笑いしつつ、マドカは去り際にふと思い出して、腰のボディバッグから試験管と注射器に似た道具を取り出して、ビルに遺された血痕から少量の血を採取し始めた。アヴェンジャーは首を傾げる。

 

「敵の血なんて拾って、どうするの? 戦利品?」

「まさか、吸血種じゃあるまいし。個人特定に使えるかなぁ、と思っただけだよ。警察には、さすがに頼れないけどさ」

 

 試験管に少女の血を閉じ込め終わると、道具は袋に仕舞ってきっちり縛って、改めて背を向け歩き出した。

 

「それじゃアヴェンジャー、ちょっとお願いね!」

「はぁ……仕方ないわね」

 

 ビルから立ち去るため、アヴェンジャーに抱えて飛び降りてもらう。さすがはサーヴァント、マドカくらいなら平然と抱えてくれる。

 先程の戦闘での緊張感を忘れるように、生温く鉄の匂いのする風を浴びて、マドカは無理やり、その顔に笑顔を取り戻すのだった。

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