Fate/Fiend Friends [フェイト/フィエンド フレンズ]   作:皇緋那

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第18話「最初の日没」

 アサシン──暗殺者の名を冠するクラスを与えられた英霊と、そのマスターになってしまった銀吾。奇妙な出会いをした2人が、聖杯戦争が開幕したその時、なにをしていたかというと──。

 

「なぁ、なんで顔隠してるんだ? 泥棒じゃあるまいし」

「その……なんじゃ。太陽には当たりとうなくてな。なんというか、見られている気がして、目の奥がキュッてなるのじゃ」

「なんだよそれ……」

 

 暗殺に出るわけでもなく、河川敷の橋の影から聖杯戦争の初戦を見届け、一度戦火が飛んできた後はそこから逃げ出していた。

 銀吾は逃げようと言い続けていたのだが、引っ張っていこうとしてもアサシンの方が力が強くて微動だにせず、銀吾が幼女を引っ張る絵面も通報されそうなので諦めた結果、今更こうして走っている。周りの人々は皆避難してしまったようで人の気配もなく、破壊音ばかりが飛び交っていた。

 

 そうこうしている間にも、向こうの方では映画みたいな大暴れが繰り広げられている。蛇がうねり、ビルや渦潮が飛び交い、よく見ると少女が飛んだり跳ねたりしているのだ。

 隣に棺桶から蘇った謎の少女がいるわけで、他に戦える女の子が現れても思考を停止して受け入れるしかない。銀吾は時折後ろを振り向きながら、どうしようもない嘆きをこぼす。

 

「一体なんなんだよ……アイツらも、アサシンも」

「奴らもわたしと同類じゃろうな。魔力の気配を隠そうともしておらん」

 

 アサシンの口から飛び出した魔力という言葉を、銀吾はよく知らなかったが、火を放つ人間がいたくらいだし、魔法の力というものがこの世界にもあるのか。納得も理解もできないが、それ以上深追いはしない。幽霊パワーみたいななにかがあるんだろう。

 代わりに、アサシンのことを聞こうとした。

 

「同類ってんなら、アサシンもあんなふうに戦えるのかよ」

「無論じゃ。わたしを誰だと心得る」

 

 顔を隠したまま胸を張るアサシンだが、説得力はない。さらに後方から轟音がもう一度聞こえてくると、びくっと大きく震え、結局自信なさそうに言葉を続けた。

 

「……今は、ちょっと無理じゃが」

 

 ただ見栄を張っただけなのか。もし戦えるのなら、あの大暴れしているものをどうにかしてほしいと、思わないでもなかったが。銀吾にとっては、慣れ親しんだ街なわけだし。

 

「とにかく、わたしは戦わないからな。おぬしを守るので精一杯じゃから──」

 

 銀吾の顔を見上げるアサシンの言葉が止まる。銀吾の後ろに、なにかがいるのか。彼女の視線の先を確かめるために振り向くと、なるほど確かに、視線を奪われるような美女が、なぜかびしょ濡れで涙目の和服美人を伴って歩いていた。その肩には大きな傷があって、明らかな血の跡がある。

 さっきまで戦場で超常的な力を見せつけていたうちの1人──金髪の美女、バーサーカーだ。

 

「な、なあアサシン、あれって」

「ばかもの! 今クラスで呼ぶやつがあるか! サーヴァントの眼前なのだぞ!」

 

 目に見えて焦る二人がいれば、当たり前のことながら通りすがりの美人も足を止める。しかもその口から聖杯戦争に関係する者としか思えぬ言葉が聞こえたとすれば、なおさらだ。

 

「ごきげんよう、お嬢さんにお兄さん。アサシン、だとか、サーヴァントだとか……とっても気になる単語が聴こえたのだけれど。少し、お話しましょう?」

 

 バーサーカーが浮かべる笑顔は、まるで珍しい虫を見つけた子供のようだった。無邪気で、残酷で、これから何をされるかわからない。アサシンが銀吾をかばうように立ってくれるが、不安は拭いきれない。

 

「あの、ここで戦うのはやめた方が……若葉様の命令外ですし……これ以上バーサーカーになにかあったら、私が怒られることに……」

 

 そこへ割って入ったのは、バーサーカーの隣にいた和服の女性だった。バーサーカー相手に強気には出られないらしかったが、早く帰ってシャワーを浴びたいとか、そんな感じの顔をしている。

 

「あら、貴女に口出しされるなんて。せっかく運良く出会えたのに、見逃すってことかしら」

「えっ、そ、それも怒られそう……そ、そうだ、若葉様に判断を仰ぎましょう! そ、その、お二人とも、できたら、一緒に来ていただけませんか……? そ、その、おもてなし、するので」

 

 アサシンと銀吾は顔を見合わせる。逃げ切れる保障はないし、先程の渦潮が飛んできたら終わりだ。さらにアサシンは今は戦えないと言っていたわけで、歯向かうことはまずできそうになかった。

 

 大人しく銀吾が頷いたのを見て、女性はほっとした様子で胸を撫で下ろし、こちらです、と案内を始める。アサシンの顔に視線を向けると、警戒レベルは最高のままだったが、頷いて応えてくれた。

 

「罠だったら、わたしがなんとしてでもおぬしを逃がす。あとは街の外にでも逃げて、わたしのことは忘れろ。いいな?」

「……わかった」

 

 銀吾は頷きたくなかったけれど、アサシンの目は本気で、普段の幼女のそれとは違う強さを宿していた。だから、彼女を信じると決めた。

 女性に続いて銀吾とアサシンが再び歩き出す頃には、もう背後から轟音は聞こえてこなくなっていた。

 

 

「おさまった……の?」

 

 避難して逃げ惑った先の道の真ん中で、つかさは大蛇が消失するのを目撃した。確かにさっきまで起きていた災害が、ぴたりと止んだのだ。破壊音がなくなり、一転して熱海の町は静寂に包まれた。そして、安堵と戸惑いが入り交じった、人々の生活音が戻ってくる。その中には、多くの客やメイドと共に避難した、店長の姿もあった。

 

 そして、不安になっているつかさのもとへと歩み寄ってくる男がいる。アーチャーと名乗ったあの男だ。彼はつかさに対し、相変わらず理解できない話を振ってくる。

 

「見たかい、あの力を。あれが願いを果たすために殺すことを選んだものの力だ」

「……なんの、話ですか?」

「もちろん、聖杯戦争さ。君が願いを叶えたいなら、あんな大物と戦わなくちゃいけないかもしれない。だが心配はしなくていい。私がついているからね」

「そ、そうなんですか……?」

 

 アーチャーはつかさに話しかけているようで、自分の言いたいことを話すばかりで、こちらの言葉は聞いてくれようともしていなかった。だが、つかさの秘密を知ったかもしれない相手に下手な対応はできなくて、相槌だけは打とうとしていた。

 

「想像してみるといい。もう後ろめたいものを背負わなくていい未来を。ありのままの自分が、憧れた自分である日常を」

 

 そこへかけられたこの言葉に、つかさは接客用の笑顔を途切れさせた。あぁ、やはり、この男はつかさの秘密に気がついている。そして、それを書き換える方法を知っているんだ。これで何度目かの同じ誘惑で、冷静に見ればただただ怪しい誘いだったけれど、やはり今のつかさにとってそれ以上に欲しいものはない。

 

「……あの。教えてくれませんか、その聖杯戦争ってもののこと」

 

 つかさの返事を聞いたアーチャーは笑って、手招きをする。つかさはそれにつられ、頼りない足取りで歩き出す。視界の隅で黒い蝗が跳ね、瓦礫の中に消えていった。

 

「待って」

 

 だがそこで、つかさの元へ駆け寄ってきて、引き止める者がある。彼女はつかさが立ち止まり、振り返ったのを見ると、無事でよかったとため息をついた。

 

「うちのメイドに店外で絡むのはご法度ですよ、お客様。ひまわりちゃんも、大変な時につけこんでくる大人ってのは少なからずいるんだから」

 

 引き止めたのは店長だった。アーチャーは肩をすくめ、店長に対してただの親切心だったと軽く釈明すると、さっさとどこかに去っていった。店長はつかさに傷がないか見て、無事だと確信すると、大きく頷く。

 

「よしよし、ひまわりちゃんも無事みたいだね。みんな息災でなにより!」

 

 彼女の言葉には、つかさもそう思う。あの蛇がつかさ達の方に迫って来なくてよかった。お店が壊されたら、『ひまわり』はどこにもいなくなってしまうから。

 

「あぁ、そうそう。こんな状況だし、今日はもうお店閉めるね。戻ってちょっと後片付けしたら、帰っちゃってもいいから」

「はい、わかりました」

「あ、でも交通機関も止まってるよね。今日ずっと帰れなさそうならうちに泊まっていくといいよ。こんなこともあろうかと、個室はいくつか空けてあるんだ」

 

 さすがは店長、ここまでの事態を予測して、一時的に人を泊められるようになっているとは。

 メイドさんたち、つまり多数の女性たちと同じ屋根の下で一晩なんて、バレずにやり過ごせるか不安だが、最悪の場合は店長を頼るしかない。つかさは交通機関が復旧してくれることを願った。聞こえてくる話だと、駅が襲われて電車が横転したとか、不安な情報しか耳に入ってこないけれど、せめて家に帰りつきますように、と。

 

 ──その後結局、つかさが普段帰りに使っているバスは案の定運休で、つかさは気の抜けない夜を過ごすことになる。

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