Fate/Fiend Friends [フェイト/フィエンド フレンズ]   作:皇緋那

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第20話「一日目、終幕」

 サーヴァント同士の交戦が落ち着き、怪獣騒ぎが収まると、委子とカシオペアは救助隊が駆けつける前にその場を離れた。向かった先は、カシオペアが隠れ家としているホテルだ。後は人間社会の力に任せることにして、魔術師はさっさと姿を隠すことにする。

 案内されたカシオペアの部屋はしっかり結界による防護や隠匿が行われており、ホテルの一室なのにほぼ別の建物と化していた。

 

「ここまで来ればもう大丈夫ですね。弟たちよ、お疲れさま」

「……ありがとう」

 

 委子が救助に赴いた先の横転した列車には、手遅れだった人もいたが、助けられた人も多かった。一緒に頑張ってくれた魔獣たちに礼を言って、彼らが光の粒となって退去するのを見届け、ランサーにも頭を下げた。

 

「ありがとうございます。力を貸してくださって」

「こちらこそ、ですよ。私だけでは、弟たちをうまく扱えませんから」

 

 結果的に、被害を減らすことができたのだろうか。きっとできたはずだ。助けられた人が安堵した表情をしていたのを思い返しながら、委子はそう思うことにした。

 

「ナイスファイトだ、ミス・ユキムラ」

「……そう、でしょうか? ありがとうございます。あの、でもちょっと」

 

 カシオペアは労ってくれるけど、その呼び方は少しむず痒くて、出来れば委員長と呼んで欲しいとお願いした。

 委子にとってその姓は、大事な人から勝手に受け継いだものだ。それを呼ばれ続けるのは、なんだか違う気がしてしまったのだ。

 

「イインチョウ……委員長、か。わかった。そう呼ばせてもらうよ」

「はい、委員長です。そっちの方が、私って感じがするんですよね」

 

 何年も親しんできた呼び名だから、委員長の方が馴染むというか、すぐに反応できる。そういうわけで、委子の呼び名は決定した。

 

「さて、後はミス・マドカが帰っていないわけだが……」

 

 戦禍の方へ飛び込んでいったマドカとアヴェンジャーは、まだ戻ってきていない。ホテルの場所は別行動する前に伝えたはずだが、迷子にでもなっているのか。

 

 それとも、最悪の可能性として、敵サーヴァントとの交戦で傷つき、動ける状態にない、とか。

 マドカもアヴェンジャーも、簡単にはやられないだろうが、相手に何が飛び出してきてもおかしくないのだ。委子もカシオペアも、少なからず心配していた。

 

「よっ、と! ただいま!」

 

 その心配には及ばず、どこかから風を切る音がしたような気がして委子が振り返った瞬間、ちょうど窓の外にマドカが姿を現した。

 アヴェンジャーに抱えて運んでもらってきたらしく、お姫様抱っこ状態である。その相変わらず奔放な姿を見ると、委子とカシオペア、2人揃って表情が明るくなる。

 

「無事だったか」

「うん、平気。でも、敵さん殺し損ねて来ちゃった」

 

 申し訳なさそうに話し、アヴェンジャーの腕の中から降りたマドカ。それから、ちゃんと入口から入り直すと言い残してまたどこかへ走り去り、少しして部屋の扉を勢いよく開け放って戻ってくる。

 

「改めて、ただいま。さっきの話の続きだけど、残念ながら、ちょっとの手傷しか与えられなかったんだよね。

 せっかく油断してる感じだったのにさ」

「相手が多少はできる奴だった、ということよ。まあ、私に比べれば大したことはないんだけれど」

 

 マドカはこの怪獣騒ぎの元凶らしき人物を発見したものの、取り逃したという。つまり、再びあの大蛇が現れる可能性は十分にある。委子はランサーに目配せし、ランサーは頷いてくれる。

 

「いつ襲撃があってもいいよう、弟たちに警戒にあたらせましょう。あくまで目立たないよう、小規模に、ですが。マスター、魔力は大丈夫ですか?」

「あぁ、私のことなら問題ない。気を抜くには早いからな、魔獣を哨戒に使うのは私も賛成だ」

 

 曰く、ランサーと魔獣たちは、魔術師でいう使い魔のような関係で、感覚を共有することもできるという。彼が協力者で助かった。

 

「あ、それなら、人探しも頼まれてくれないかな。ほら、これ」

 

 マドカがそういって懐から取り出したのは、赤黒い液体の入った試験管だった。委子はそれが血液だと一瞬でわかってしまう。一体なんの血だというのか、聞くまでもなく、マドカが続けて話す。

 

「これ、さっき殺し損ねた獲物……この騒動を起こしたであろうマスターの血なの。魔犬なら、魔力の匂い辿れるかなって思って」

 

 試験管はランサーに渡され、彼が尾で地面をとんとんと叩くと、少しだけ黒泥が展開され、そこから小柄なウリディンムが1匹這い出た。その1匹は大きな鼻を動かして、栓が開けられた試験管の血液の匂いを嗅ぐと、しっかり覚えた合図にワンと吼える。

 

「よしよし、それじゃ、茶髪の少女とピンク髪の女の2人組がいたら、報告して。今度こそ仕留めるからさ」

 

 マドカの言葉を理解しているらしく、ウリディンムは頷き、それからランサーが開け放った窓からぴょんと飛び出して、捜索へと出発していった。なんだか、普通に賢い大型犬みたいだ。

 

「よし、ここはあの子に任せて……委員長、ライネスさんに報告したらどうかな」

「あ、えぇ、そうよね。ロンドンからの応援も頼まなくちゃ」

 

 言われて思い出す。エルメロイ派からのバックアップを約束して、カシオペアとの同盟を取り付けたんだった。

 ポケットからスマートフォンを取り出して、素早くロックを解除。ライネス宛の電話を起動する。

 

 わざわざ魔術を使わなくても、委子には携帯機器がある。魔術師のたまごと言えども、便利なら使う。というか、そんなに高度な通信魔術を使えないのが、本当のところなんだけど。

 

 流れるような操作の後、何度かコール音がして、少し待って、ライネスからの返答はない。不在着信の文字だけが残って、委子は首を傾げた。

 

「ちょっとご用事なのかしら。後でかけ直しましょ」

 

 時差を考えると、ロンドンは今昼時だろうか。相手は時計塔のロード、当然忙しいだろう。気がついていないとか、そもそも通話出来る状況にないのも、別段おかしいことじゃない。

 仕方ないことだと切り替えて、通話アプリを落とし、代わりにSNSを覗いてみた。

 

「うわ、案の定すごいニュースになってる」

「そりゃあ……あれだけ被害も大きかったし、ねえ。あーあ、カバーストーリーどうしよっかな。やっぱり正直に怪獣って言っちゃうべきだと思うんだけど」

「……その、何。頑張って」

 

 今までの秘匿された儀式としての聖杯戦争とは違い、今回起きたのは巨大生物による無差別な破壊活動。監督役として派遣されたマドカにも、前例のない大きな災いへの対処が求められてくる。

 計り知れないその苦労に、委子は自分のことでもないのにため息をつきかけた。

 

「ま、明日のことは明日の私に任せちゃえばいいか」

 

 対するマドカはとても楽観的だった。自分にはとても真似出来ない。

 これ以上SNSを見ていると、もっとため息をつきそうなので、スマートフォンの画面を消して、ポケットに放り込んだ。

 

「そういえば、だが。2人とも、宿泊先は決まっているのか? 安全のためにも、ここに泊まるのもありだと思うが」

 

 ふと、カシオペアが提案してくれる。言われてみれば、委子は予約をすっかり忘れていた。ライネス側からはそういった連絡はされていないし、それならカシオペアの提案を受けた方がいいかも。

 マドカの方を見ると、彼女も「あ、やべ、忘れてた」の顔をしていた。

 

 とはいえ確かに、この部屋はカシオペアによってしっかりと工房になっている。委子が単独でここまで作れるかというと、たぶんやろうとすると建物ごと樹海になる。

 

「ごめんなさい、何から何までお世話になってしまって」

「私は構わない。ホテルの人も……まあ、一般人は入れないようにしてるし、わからないだろう」

 

 わからなければオッケー、なんてのもめちゃくちゃだ。とはいえ他人が取ったホテルに泊まるなんてマナー違反、1年前もやっていたような。あの時は、もっと多くの人がいた。大事な、もう二度と会えない人もいた。

 

「委員長、どうかした?」

「……ううん。小夜とも、こんなことしたなって」

 

 それをマドカに伝えると、彼女は微笑みを返してくれた。

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