Fate/Fiend Friends [フェイト/フィエンド フレンズ]   作:皇緋那

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第22話「戦いたいわけじゃない」

 聖杯戦争最初の日が終わり、芹沢家にも再び朝が来た。

 紘輝は一週間前のようにヘリコプターの音に起こされる。恐らく、隕石ではなく、派手に破壊された市街地を映しに来たものなのだろう。案の定、SNSでは隕石に乗ってやって来た宇宙怪獣説一色になっており、苦笑いするしかなかった。

 

 それからスマホはポケットに入れて、眠い目をこすりながら、朝食をとるために階段を降りる。リビングまで行くと、先に恵美里とセイバーが仲良く食事中だ。

 母特製の野菜炒めに目玉焼き、そしてトースト。和風なのか洋風なのかよくわからないが、うちの朝食はだいたいこの組み合わせだ。

 

「セイバーちゃん、野菜もっと食べたかったりする……? 私のぶんのピーマン、あげるね」

「いただけるのですか、ありがとうございます」

「いや、嫌いなもの押し付けてるだけだからなそれ」

 

 母の作った野菜炒めには、いつもの如く恵美里の嫌いなピーマンが、少なめに入っている。少しずつ慣れて欲しいという気遣い母のだが、恵美里はどうしても苦手であり、一口でやめてしまう。

 一口食べるだけ偉いとは思うし、いつも残したぶんは紘輝が食べているのだが、セイバーが善意だと思って受け取っているのをみると、さすがに訂正せずにはいられなかった。

 

「うっ、だ、だって、いつもお兄は受け取ってくれるし……それにセイバーちゃんだって喜んでるもん、ね?」

「……? 嬉しいですよ、エミリの贈り物」

 

 妹を甘やかしすぎたか。ため息をつきながら、紘輝も椅子に座って、その朝食をしっかり食べることにする。紘輝はピーマンを避けるようなことは必要ない。手を合わせて「いただきます」の後に、まず野菜炒めを口に運んだ。

 そこで、テレビが置いてある方を振り返って、そういえば何の番組をつけていたのか確認する。当然といえば当然だが、情報番組は揃って熱海市の災害について報道していた。

 

「やっぱりこの話か……」

「1週間前の隕石の時と同じようなことになってるね。今日はテレビ全部が同じ中身。あ、でもここはいつも通りアニメやってたか」

 

 毎週放送のアニメを除いて、多くのテレビ局が食いついた結果、番組表を見ると、朝のニュース全てが熱海駅付近の破壊痕について言及しているらしい。

 被害規模や現在の死者・行方不明者の数に、自衛隊による救助活動の様子が放映されているものも多く、日本中が怪獣が出たことに驚いているのがよくわかる。

 

 また、丁度そのことについて議論していたこのチャンネルでは、コメンテーターには宇宙や生物の専門家が駆り出されており、あることないことを色々と話していた。

 その話を神妙な面持ちで聞いている芸能人の顔を見て、紘輝はふと、恵美里に尋ねていた。

 

「……なあ、恵美里。このニュース、怖いか?」

「えっ、急にどしたの?」

 

 いきなり聞かれた恵美里は不思議そうな顔をした。それから、そりゃあ死にたくないもん、怖いでしょと続けた。

 至って当たり前の感情だ。誰だって死ぬのは怖い。今回亡くなってしまった人達だって、怖かったはずだ。

 

 紘輝は白米の最後の一口を飲み込み、ごちそうさまの言葉と共に、意を決して立ち上がった。食器はいつものように片付け、セイバーに目配せすると、彼女も気がついてくれたようで、黙って後ろをついてきてくれる。

 

「悪い、セイバーのこと借りてく」

「あ、うん。セイバーちゃんがいいなら、私も文句はないけど……」

 

 その言葉に続く、恐らく紘輝の行き先を聞こうとしたであろう言葉が出るより先に、丁度インターホンの音が鳴った。

 紘輝は返事をして扉を開き、その鳴らした当人の正体を確認する。それは2人組の女性で、紘輝のよく知る相手──雫とライダーだった。

 

「雫先輩? どうして家に」

「えっと、せっかく会うなら、早い時間の方がいいよねって思って。迎えに来た、って感じかな?」

 

 確かに今日また会って話がしたいとは伝えていたが、こんなに朝からやって来るなんて。いきなりのことで、とても驚いた。

 確かに、聖杯戦争について、知らないことはまだまだある。先輩から教わるべきことは数え切れないだろう。いっそのこと、風羽のことでさえも、先輩に相談してしまった方がいいのかもしれない。

 

 紘輝はそのまま風羽のことを話そうかと考え、躊躇い、しかし心配そうに首を傾げている雫の姿を見ると、頼ってしまってもいいように思えた。

 

「あの……実は、これから行こうと思っている場所があって」

 

 その先には恵美里に聞こえないよう、皆で外に出ようと促した。靴を脱ぎもせずに再び扉をくぐることになった雫とライダーだが、そう不満そうな顔はしておらず、雫は紘輝に、ライダーはセイバーに嬉しそうな視線を向けていた。

 

「その場所っていうのは?」

「家の隣……なんですよね」

 

 紘輝が話の続きとして隣家を指し、その表札に『観伝寺』とあるのを見ると、雫は風羽のことを思い出してくれたようで、成程と頷いた。続けて、それなら、家の方で待っていようか、とも言ってくれる。

 

 彼女は、風羽という幼馴染みがいることは以前話したから知っている。だが、戦場で見かけたことはまだ話していない。聖杯戦争絡みだとは思っていないらしい。

 

 一方でライダーは、いまだセイバーに視線を向けたままに、雫とは別の意味で合点がいったようにくすりと笑ってみせていた。

 

「必死に気配を殺しているようだが……昨日浴びた血と同じ匂いがするな。なあ、セイバーよ」

「……はい。恐らくは、昨日の大蛇と同じ相手でしょう」

 

 ライダーのみならず、セイバーもその言葉を肯定し、紘輝がそれに驚愕する。あの怪獣がこの近辺に──恐らくは、風羽の元に潜んでいる。信じ難い可能性だが、紘輝が今最も疑っている可能性だ。

 

「セイバー、気付いてたのか?」

「はい」

 

 話してくれなかったのは、聞かれなかったからだと話すセイバー。自分から話すことはしないのが彼女なのか。信頼されていないようで不安になりつつも、ライダーが気を回してくれ、行くなら行ってしまおうと声をかけてくれた。

 

 隣の家なのだから、徒歩では数秒で到着だ。紘輝がインターホンを鳴らして、誰かが出てくれるのを待つ。出来れば、本当に旅行に行っていて、紘輝が見たものは幻覚であってほしかった。

 

『はーい』

 

 けれど返事は聞こえてくる。この声は、風羽ではなくその母・朱音さんの声だ。紘輝ですが、と名乗り、彼女に門を開けてもらえないかと話した。

 

『いいですよ』

 

 返ってきた言葉に、紘輝は首を傾げる。これまで、朱音さんが紘輝に敬語なんて使ったことがあっただろうか。

 そんな違和感を覚えつつも、すんなりと承諾された。それから少し経って扉が開き、朱音さんが姿を見せた。前に見た時よりやつれているというか、生気のない顔をしていた。そして閂を外し、門を開いてくれた後、その後は何も言わずに家に戻っていってしまう。

 

「あ、あの、僕たち、風羽さんに会いに来たんですが」

 

 紘輝が声をかけて、やっと朱音さんは振り返る。その拍子に、紘輝と目が合った。やはりその目には生気がない。もっと、明るい優しい印象の人物だったはずなのに。

 

「……風羽なら、いませんよ。帰ってください」

 

 そんな紘輝の不安が的中する。風羽の名を出した途端に、彼女は勢いよく扉を閉めて、さらにカチャ、と鍵をかける音も聞こえてきた。

 

 門は開けてくれたはずなのに、いきなり鍵をかけ始めるとは、どういうことなんだろう。

 紘輝は呆気にとられてただ立っていた。その横を通り抜けて、雫が扉に手を伸ばし、三節ほどの詠唱とともに何らかの魔術を行使した。

 

「鍵、開いたよ」

 

 雫は躊躇いなく扉を開け、玄関に踏み込んでいく。さすがに無理やり鍵を開けてまで家に入るのは人としてどうなのか、と紘輝の足は止まるが、ライダーがその背中をその小さい手で押してきた。

 

「街をあれだけ派手にぶっ壊した相手に、今更礼儀など気にする必要もなかろう」

 

 その通りだとは思えなかったが、サーヴァントに力で勝てるわけもないので、そのまま屋内に入ってしまった。

 靴はちゃんと脱いで揃えて、控えめにお邪魔しますと言っておく。リビングを見ると、風羽の両親の姿があったが、紘輝たちが入ってきたことは気にも留めていないようだった。

 

「その子の部屋は?」

「あ、2階の突き当たりです」

 

 雫を先頭に、紘輝たちは階段を駆け上った。ライダーとセイバーは集中しているのか、何も言わずに着いてきながらも、周囲を見回していた。

 

 そして同時に、ここに来て紘輝にもセイバーたちの言う『匂い』に気がついた。ここに漂う異様な気配こそが、風羽の隣にいたあの女のものなのだろう。一段上がる度に強くなり、上りきるとともに、ライダーが紘輝を庇って前に出る。

 その時既に狼が紘輝たちに向かって飛びかかっていたらしく、ライダーの服の下から飛び出した蛇が盾となり、紘輝は少量の返り血を浴びるが、紘輝も雫も無事だった。狼はライダーが蛇を食いちぎられつつも繰り出した蹴りで突き飛ばされ、廊下の奥で陽の光を背にしながら待ち構えていた少女の、すぐ隣に着地した。

 

「……芹沢くんも、マスターだったんだ」

 

 こちらを見てそう呟いた少女は、間違いなく風羽だった。肩に包帯が巻かれている他は、いつも通りの彼女に見える。

 そして襲ってきた狼の他にも、彼女の傍らには女が立っている。昨日も見かけた、桃色の髪の女だった。

 芹沢くんも、ということは、風羽がマスターであることは確定だ。あの女がサーヴァントなのか。

 

 セイバーは刃を抜き放ち、ライダーも身構え、雫が風羽を睨んでいる。狼は威嚇し、桃色の髪の女は不気味に笑顔を浮かべてこちらの出方を窺っている。状況は一触即発だ。そこへ、紘輝は言葉を飛び込ませる。

 

「風羽! 俺は君と戦いたいわけじゃない!」

 

 もしこのまま殺し合いが始まってしまったら、言葉を交わす暇なんてない。そうなる前に、話し合っておきたかった。

 けれど、紘輝のその言葉を聞くなり、風羽は鬱陶しそうにため息をつき、低い声で続けた。

 

「人の家に押し入っておいてよくもそんな……じゃあ、教えてあげる。昨日の熱海駅周辺の怪獣騒ぎ……私とキャスターの仕業なの」

「──え?」

 

 あまりにも衝撃的な発言に、耳を疑った。直後、風羽の首元に昨日の巨大蛇と全く同じ姿をした小さな蛇が現れて、次に目を疑った。

 

「街を派手に壊して、人もたくさん壊しちゃった大悪党。それが私たち。芹沢くんはそれでも話し合いたい?」

 

 言葉が出ず、答えられなかった。呆然とするうちに、風羽はおもむろに背を向けて、何かの合図をすると、連れていた狼が冷気を放ちながらバイクほどの大きさにまで巨大化し、その背に乗った。

 その時点でライダーの蛇が伸びて攻撃を仕掛けるが、キャスターのルーン魔術に切り刻まれて届かない。

 

「聖杯戦争をする気もない人に用はないけど。これからまた、どこか壊しに行くから。追いかけるなら、早くした方がいいよ」

 

 前に風羽を、後ろにキャスターを乗せ、窓を突き破って狼は外に飛び出していってしまう。置き土産に放たれた氷の弾は全て紘輝目掛けて放たれており、ライダーとセイバーが叩き落としてくれたが、紘輝はいまだ状況を飲み込めずにいた。

 

「芹沢くん、ここは私に任せて。落ち着くまで、家で休んでて」

 

 雫は既に動き出している。ライダーに声をかけると、彼女が黒蛇から作り出した馬に同乗し、風羽とキャスターを追うために駆け出していった。

 その場にはセイバーと紘輝が取り残され、砕け散った硝子と氷の破片だけが散らばっていた。

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