Fate/Fiend Friends [フェイト/フィエンド フレンズ]   作:皇緋那

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第27話「魔獣対魔蝗」

 メイドたちが店舗から離脱していく一方で、アーチャーとランサーの戦闘は本格化していく。

 

「チッ……!」

 

 ウリディンムに現場の匂いから探させた、アーチャーのマスターらしき少女を取り逃してしまったことに、カシオペアは舌打ちをする。最小限の犠牲に抑えるためのマスター狙いのはずが、このままでは周囲を巻き込みかねない。

 最も、目の前に立つ蝗のサーヴァントはクラススキルに単独行動を持つアーチャークラスであり、成功したとしてその効果は十全ではなかったものの、カシオペアにはそれを知る由がない。

 

 同時に、サーヴァント同士の戦闘において前線に立とうとしたカシオペアには、それ相応の動きが求められ始めていた。魔術師との戦闘は経験のあるカシオペアだが、獲物がサーヴァントなのは初めてだ。想像以上の速度を前に、魔力を総動員して強化を行い、致命傷を避けるので精一杯だった。

 

 なによりもアーチャーの放つ蝗が厄介だ。ランサーの魔獣は召喚されると同時に潰されていき、カシオペアが切りかかれば弾丸のように射出されて回避を余儀なくされる。

 その蝗が一度だけ頬に掠り、肉を食いちぎられた傷はひどく痛んでいた。あれをまともに食らえば顔面がぐちゃぐちゃになっていたことだろう。

 一方でランサー自身はどうにか食らいついているが、それでもアーチャーの格闘術を破れない。何度も貫かんと繰り出される蠍の尾をいなされ躱され、打撃によって的確に反撃を加えられていく。さすがに不利だと判断し、ランサーは咄嗟にカシオペアを抱えてアーチャーから距離をとる。

 

「ッ……マスター。先程向かわせたムシュマッヘですが……どうやら目標を見失ったようです」

 

 同時に、追跡を担ってくれた魔獣が撒かれたと聞くことになる。これ以上、民間人に被害を出すやり方はしたくない。目の前の相手を仕留める──それが今できる最善に違いない。

 雑念を捨て目の前の敵に集中すべく、ランサーの腕の中でカシオペアは深く息を吐いた。手にした薙刀は、カシオペアの中に流れる妖魔の血を励起させるための魔術礼装だ。人外に対抗するのなら、こちらも人外の力に手を出す他にない。

 その刃に刻んだ魔術式を起動させようと、詠唱の冒頭を躊躇いながら口に出そうとしたところで、ランサーに止められた。

 

「お待ちください、マスター。ここは私達に任せて撤退を。偵察は十分です」

 

 カシオペアにとって、前線に立って戦わないのは嫌だった。自分の手を汚さずに平和を手に入れようなんて甘いと、マスター狙いもわざわざ自分で行おうとした。だが、もはや戦う相手がサーヴァントとなっている今、カシオペアは足手まといなのだ。

 直後、呼び出されたウリディンムの1頭に乗せられ、カシオペアは戦場から離されていった。カシオペア自身も余計なプライドは捨て、自らの強化に使うはずだった魔力を代わりにランサーに回し、さらなる使い魔に状況を託す。

 

「来い、我が弟よ!」

 

 ランサーが地に尾を突き立て、毒針より染み出すように黒泥が展開される。その黒泥を通って、彼の弟、つまりティアマトの産んだ毒竜が這い出でる。彼は毒を撒き散らし、恐ろしき牙を振りかざしてアーチャーを襲撃する。その体躯は容易にメイドカフェの屋根を越え、アーチャーとは圧倒的な差がある。虫で包み込むとすれば、今までの数百倍は必要だ。

 

「へぇ、今度はバシュムか。蠍人間に獅子に毒蛇の魔獣とは、兄弟勢揃いと言ったところかな?」

 

 さらに彼の吐き散らす毒は、アーチャーが操る虫にも有効らしく、毒のブレスを直撃させた群れを1つ全滅させることに成功する。敵の表情は崩れず、むしろ興味深そうにバシュムを観察し、当然のように回避を続けていた。

 

 そのうえで、ランサーは弟たちの召喚を続けながら、自らもアーチャーに接近戦を仕掛けていく。アーチャーにバシュムへの対応を考えさせる隙を与えないための追撃だ。バシュムの攻撃に合わせた突きや蹴りを放ち、着実にダメージを与えていく。

 一気に優勢になっていくのを見るカシオペアは拳を握った。このまま行けば、きっと勝てる。アーチャーを撃破し、この街の平和を守る手助けができる──と。

 

「……全く。いい加減に鬱陶しいな」

 

 カシオペアの期待を裏切るように、今度はアーチャーも動き出す。彼は飽きたとでも言いたげに、心底面倒そうに呟くと、大きく跳躍してバシュムとランサーのもとから離脱する。そして、ため息をつきながらも、その手に散っていた蝗たちを集結させはじめた。

 蝗の姿は変換され、現れるのは美しく装飾された弓。当然もう一方の手には矢を握り、番え、カシオペアの方に狙いを定め、引き絞る。

 

「ッ、バシュム! マスターを頼みます!」

 

 ランサーは攻撃を阻止すべく、全速力でアーチャーの下へ向かう。さらにバシュムもランサーの声を受け、その巨体をアーチャーとカシオペアの間に割り込ませる。その瞬間、アーチャーが矢から手を離す。

 

 瞬きするほどの間に戦闘は進んでゆく。蠍の尾が伸び、アーチャーを貫こうと動いた。突き刺さる直前に肉体を蝗の群れに変化させてかわされた。アーチャーが番えた矢を叩き落とすのは間に合わず、残った弓で殴りつけられてランサーはよろめいた。

 そのままアーチャーの放つ矢は真っ直ぐ進み、当然バシュムの巨体に突き刺さる。巨体からすればかすり傷だが、その矢はそれでは終わらなかった。

 

「かは……っ!?」

 

 外傷は全くない状態であるにも関わらず、ランサーは吐血し、バシュムが苦しみ悶えはじめる。すぐさま感覚共有を断ち切り立て直すランサーだが、切り捨てられたバシュムはそのまま全身を蝕まれてゆく。その鱗の隙間からは、何度も愛らしい花が這い出ては、瞬く間にセピア色に萎れて消える。

 

「私に力を貸しておくれ、かつて愛しかった花たちよ──『生き苦しき蝗翳の一矢(アポリュオン・アンティ)』」

 

 それは病毒の矢にして、枯死の概念を宿した宝具。現れる花々と、すぐさま訪れるその死が宿主を滅びへと導く。バシュムはその通りに、霊体を構成する魔力を死にかけの花に書き換えられ、存在を奪われ枯れていってしまう。

 

 目の前で毒竜の巨体が倒れ伏し、消えていくのを前に、カシオペアは言葉を失った。魔獣は怪物だといえるが、それを相手取るサーヴァントもまた怪物だ。バシュムが盾になってくれなければ、枯死するのはカシオペアの方だった。アーチャーから離れるべく足を引き、そのまま逃げる体勢になろうとした時、ランサーの声がした。

 

「マスター! 相手は弓兵です! 弟たちが守れない距離の方が危険です!」

 

 そう言われて踏みとどまった瞬間、迫り来る矢から召喚されたムシュマッヘが庇ってくれ、カシオペアはまたしても守られた。さらに何度も何度も矢は放たれて、

 龍種に迫るとされる幻想種バシュムでさえ死した一撃必殺の宝具があると解った以上、カシオペアもランサーも回避に尽力するしかない。主導権は向こうに握られている。逃がすわけにはいかないのに──。

 

 歯痒い思いに薙刀の柄を強く握り、必死で食らいつくランサーの姿を見る。カシオペア自身の魔力にはまだ余裕があるといえるが、向こうも涼しい顔をしている。ここでランサーが消えてしまえば、守れるものも守れない。

 またしてもカシオペアを庇った魔獣が消えていったのを切っ掛けに、カシオペアも心を決める。魔力を己の手にした薙刀に通し、アーチャーに向かって構え、飛び出していこうと踏み出した。

 

 ──その瞬間、踏み出したその足元で嫌な感触がする。脹脛(ふくらはぎ)が熱くなって、それが許容量を超える痛みから来るものだと気がついて、己の脚を見る。

 想像した通りだった。ちょうど一歩目に待ち構えていた蝗たちは、カシオペアに集り、脹脛の肉を食いちぎっているところだった。

 視界がスローに見えて、熱いとか痛いよりも思考を回そうとする。もう左脚は駄目だと、割り切るしかない。

 

「ランサー……ッ!」

 

 精一杯の抵抗としてサーヴァントを呼び、自ら左脚の膝から下を思いっきり切り落とした。痛みは切断面だけに変わり、瞬間、状況を把握したランサーが駆けつけ抱き上げてくれる。蝗が傷口に迫ろうとするのを何匹か叩き落とし、そこからは逃亡が始まった。

 

 アーチャーの相手は魔獣に任せ、一気に離脱を試みるランサーとカシオペア。抱えられながら、左脚の止血は布で適当に縛って済ませ、追撃に放たれる矢はランサーが尾で対処する。やがてその矢の攻撃も止み、逃げ切ったと判断したところで、ようやくしっかりと手当をしようと路地裏のビールケースに座り込んだ。

 それから、薙刀を仕舞っていたケースからスキットルを取り出し、中の酒を傷口にぶちまける。

 

「……すまない、ランサー。私は不甲斐ないマスターだ」

「いえ、貴方を止めなかった私に責任があります。勇壮な貴方に甘えていたのがいけなかった」

 

 結局、カシオペアはただサーヴァントを舐めていたんだろう。自分は強いと思い込み、英霊の戦いに余計な手出しをしようとした。その結果がこのざまだ。

 

「マドカたちの所に戻ろう。次こそは……あいつを仕留めないと」

 

 カシオペアの言葉に、ランサーは頷き、再び彼女を抱えた。

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