とあるモブウマ娘の記憶喪失   作:ハリボテエレジー

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2話 ごるっと

 その後もシンボリルドルフの後に続いてトレセン学園の施設を巡り歩いた。その一つ一つを紹介されるたびやべえよこの学園と私は戦慄した。

 

 まず規模感。競馬……、じゃなくて競バ場のようなターフがいくつも存在していたり、コースにある上り下りを練習するためだけの坂があったり、ジムが敷地内に幾つも点在していたり。スポーツ系の大学だってここまで充実してないんじゃないの? ってくらいの豊富なトレーニング設備に正直引いた。何これ怖い。どれだけお金がかかってのかなんて想像もしたくない。

 

 食堂もさっき私が使ったのとは別に他にも5つほどあるらしい。確かに2000人以上ものウマ娘の胃を満たすのは一つじゃ不可能だと思う。それでも限度がある。限度があると思う。

 シンボリルドルフは「最初は分からないだろうが、これで食堂ごとにメニューの傾向が違うんだ。ここの食堂を例に取って言えば、チーフシェフが和食界では一廉の人物らしくてな。私のオススメは人参と季節の茶碗蒸しだ」と嬉しそうに語るけど、そんなことを聞くと段々気が引けてくる。本当に無料で食べてよかったのかな私。

 

 他にも歩きながら寮のルールや門限や、辻斬りぱかチューバーには気を付けろと教えられる。当然ながら辻斬りぱかチューバー? と疑問を浮かべる私に「まあ飽きやすい性格だからそろそろ収まると思うが、絡まれたら……そういうものとして諦めろ」とシンボリルドルフは言葉尻を濁しながら溜息を零した。いやだから何なのそのぱかチューバーって。

 

 そうして一頻り案内された私はトレセン学園の本校舎前に戻ってきていた。

 

「これで最低限この学園で生活するに必要な施設やルールは全部教えたつもりだ。記憶の方はどうだ?」

「は、はい。やっぱり何も……」

「そうか……。記憶が戻るまでは分からないことも多いだろう、何か困ったことがあれば気軽に生徒会室に来ると良い。勿論記憶が戻った後でも歓迎しよう」

「あ、ありがとうございます!」

「では私はそろそろトレーニングの時間だ。これで失礼させてもらう」

 

 そう言うと身を翻して背を向けた。本当に生徒会長って感じの人だったな……。

 

 シンボリルドルフに一礼して、私は寮へと足を向ける。することも無いし、今度こそ同部屋のデュオプリュウェンと会おう。

 

「やあやあ、キミが記憶喪失と巷で噂のウマ娘かい?」

 

 そう決心して歩き出そうとした瞬間、肩に手を置かれた。謎に馴れ馴れしいなと思いつつ振り返ると、私は驚いた。

 

 白衣のウマ娘。

 研究者然としたその姿はウマ娘というよりも理系の院生とでも言ったほうが当てはまりそうなほどインテリな空気感を醸し出していて、でもやっぱり耳がちょこんと頭上に映えるあたりウマ娘だった。

 

「わ、私ですか……?」

「質問の意図が理解出来ないな。ここには私とキミ以外の知的生命体は存在しないのにその質問をする意味はなんだい?」

「え、ええと、ごめんなさい」

「謝る必要などないとも。ただもし欠片でも謝罪の意志があるならば私の手助けをするのはどうだい?」

「手助け……?」

 

 目の前のウマ娘はそうだともと頷いた。

 

「私は見た通り、実験を良く行っていてね。その一貫で記憶を取り戻す薬を調合したことがあるのだよ。しかし薬を作ってから私は気付いた。記憶喪失のウマ娘なんて道端に早々落ちてるものではないと!」

「も、ものって……」

「そこで私のモルモットになるのはどうだろうか。これはキミにとっても悪い提案じゃないと私は強く確信している。上手く行けばキミは記憶が戻り、私は貴重なデータを入手できる。互いにWin-Winな関係になれると思わないかい?」

 

 目の前のウマ娘はヒラヒラと裾を振る。

 ……怪しい。凄く怪しい。幾ら記憶を無くしたとはいえ分かるよ、この人癖が強めのウマ娘だ。

 

「あの、そういう薬はちゃんと医薬品医療機器総合機構を通して販売承認されたものじゃないと困ります……」

「そう固いことを言うのはやめたまえ。言っておくが私の作る薬の効能は他の市販品とは比較にならないと言っておこう」

「じゃあ、副作用は……?」

「細かいことは気にするものではないのだよ。科学の進歩に犠牲は付きものだろう?」

「本当の意味でモルモットですよねそれ……」

 

 そう言うと何を言ってるんだコイツはといった風に目の前のウマ娘は頷いた。もしかして私ピンチですか? 記憶と引き換えに薬漬けアヘアヘハッピーライフとか嫌なんですけど……!?

 

 と、慄きながら3歩下がるとゆらりとまた3歩分距離を詰めてくるマッドサイエンティストにもう駄目かと思った瞬間、清廉とした長い銀髪が靡いた。

 

 靡いたと思ったら私は空を見ていた。あれ? もしかして抱きかかえられてる? しかも何でお姫様抱っこ?

 

「お呼びとあれば誰も呼ばずとも颯爽登場! ガチャを引けば毎度毎度のすり抜け恒常! よっしゃ、硬え韻を踏んでから始まるゴルシレスキューちゅーぶだぜ! 今日はトレセン学園ヤベえウマ娘十二衆の一人、アグネスタキオンの哀れなモルモットになりかけていた新入生っぽい奴を助けるところからオープニングスタート!」

「くっ……ゴールドシップじゃないか。何故キミが私の邪魔をするのか推論不能だが私の貴重なモルモットを返してもらおうか」

「ゴルシちゃんはこういう時はこの言葉しか使わねえんだぜタキオン! だが断る! 動画の撮れ高的にもな!」

 

 何だこの状況。訳分からない。あと二人共ウマ娘としての脚力を遺憾なく発揮してるようで、風を切る音が鋭くて怖い。落とされたら私死なないこれ。

 

「くっ……ウマ娘一人抱えてるというのに流石のパワーだね。今日のところは追いつけそうにないから諦めておこう。だが最後に言っておこう。バイトアル……デヒド、ここで諦めるということはイコールでキミのことを諦めるという訳ではないのだよ。また会おう」

 

 あの、名前分からないからって有機物の一種みたいに言わないで下さい。

 

「おーっと! ここでタキオン不穏なフラグをおっ立てるがこのゴルシ様に置いてかれる! 速い速い速い! 走る姿はまるでウマイン・ボルト! ゴルシ様、いま大差でゴールイン!!!」

 

 タキオンが見えなくなると、ゴルシは減速して動きを止まり私を地面に下ろした。

 

「あ、あの、ありがとうございます!」

「別にいいぜ、あの手の癖ウマ娘ってのは初見じゃ対応出来る相手じゃねえしな。初見殺しって意味じゃアイワナ越してるだろアイツ」

 

 立ち上がってゴルシの姿を見ると、私は頭部に自然と視線が引き寄せられた。美人……なんだけどさ、その頭の上のついているカメラは何? 察するに貴方も相当な癖ウマ娘とお見受けしますが如何でしょうか……?

 

「だがあんちゃんよぉ、ゴルシちゃんタクシーに乗車したからには対価は払ってもらうぜ」

「た、対価ですか? 私、地位も名誉もお金も記憶も無いんですけど払えますか……?」

「何か一つ世知辛えワードが聞こえた気がするがスルーするのが本日のラッキーアイテムだ! まあそう怯えんな、ただインタビューするだけだぞ? ちょっとそれを動画として撮らせてはもらうけどよ」

「は、はあ……」

 

 動画……もしかしてシンボリルドルフが言っていたぱかチューバーってこのゴルシのことなのだろうか?

 ゴルシはよいしょっと、とどこからか三脚を取り出してカメラを設置すると私を正面に立たせた。

 

「よっし、準備完了。いくつか質問するから答えてくれ」

「わ、分かりました」

「まず名前と学年」

「えっと、バイトアルヒクマ。新入生なので中等部の一年です」

「私のことどう思う?」

「ヤバいウマ娘」

「ひっどくねそれ。初対面だろ俺たち、もっと仲良くやろーぜ!」

 

 仲良く……はちょっと勘弁してほしいなぁ。凄い巻き込まれそうだし。

 

「後はそうだな。特にないんだが取り合えず一応聞くけどよ、もし現生徒会政権を打破するしたらどんな政策を行うんだよ」

「仮定が突飛すぎるんですけど……」

 

 一応という枕詞から紡がれる言葉では決して無いと思う。

 

「んだよつまんねえーなー。オグリは『学食じゃ満足できないウマ娘のために外食無料券を発行する』って意気込んでたし、マックイーンなら『ウマ娘で野球部を設立してリアルパワプロをしますわ。甲子園なんて粉砕ですの』ってバットをフルスイングしてたぞ? ウマ娘たるもの夢は大きく、権力には卑しくやってくもんだぜ新入生」

「そんなこと言ってませんわ。それよりちょっと話があるのでこっちへ来てくださいますわねゴルシ」

「げっ、マックイーン!? いつからそこに……待て! 襟を持って引きずったらゴルシボディーが傷つくだろうが! もっと丁寧に、宝石鑑定士が貴重な鉱石を持つみたいに繊細な手つきで連れてけよー!」

「問答無用ですわ」

 

 紫髪のウマ娘が急に現れたかと思えばずるずると引っ張って行ってしまった。何だったんだろう一体。

 

 




ジェミニ杯はオープンリーグで参加します。対戦よろしくお願いします。
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