全国文香Pの皆様、お疲れ様でした。
そして、ありがとう(*´ω`*)
――いつも、
――
――いつもと同じ、平安無事の日々……。気になる本を手に取り、安楽椅子に座ってページを捲る。私は、それだけでも十分幸せでした。
――でも……その逆も然り。
――これでいいのだろうかと、変わりたいと思う自分もいて。あの物語の人物達のようになってみたいと、心のどこかで常に考えている自分がいて。
――だから……勇気を出して
――これから、私が歩み、綴り、紡いでいける、私だけの
――
これは、一人の
――でも、いきなり
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――こんなはずでは……。
誰しもが思い浮かんだことがある言葉だろう。
思い描いていた物事と現実に
しかし、現実は我々に優しくない。
普段どんなに努力しようと、徳のある行動をしようと、“こんなはずではなかった”世界を我々に突き付けてくるのである。
そう……。
――私は今、どこにいるのでしょうか……。
彼女――鷺沢文香――は
右を向いたら人が通り越し、左を向いたら人が通り抜け、目の前は多くの人々が忙しなく行きかっている。
現在AM7:34、通勤通学のラッシュタイムであった。
都心ならばどこでも見かけるいつもの光景であり、珍しくもなんともないのであるが、上京してきた
――こ、こんなに多くの方が……書物では知っていたのですが、この身で経験してみると、圧倒されてしまいます……。
文香がこのような状況に陥ったのは、単純に忘れていたからである。
四月もすでに一日過ぎ去り、大学ではカリキュラム決めが始まる。大学生の、特に一年目の学生にとっては心躍る時間だ。
大学の講義は、制限はあるものの、自分で学びたいことを学べるのである。だからこそ、文香は今日が楽しみで仕方なかった。自分の好きな
なので、文香はここ最近、特に昨日は浮かれていた。大学へ移動する方法のことなど、すっかり忘れて。
文香の出身は長野県、すでに東京都へやってきて一週間ほどの時間が過ぎている。悠々自適な一人暮らしを満喫……なんてことはなく、
その際に、文香には内緒で大学生活の様子や食事、健康について逐一報告をすると云う密約を交わしている。特に
そう、文香の叔父も
そんな彼らが、人生に一度しかない大学の入学式に文香を一人移動させるだろうか? 否! 断じて否である!
この日のために新調したスーツを始め、一眼レフのカメラに業務用としても使われる高画質のビデオカメラも用意し、大学へは車で一緒に向かった。そう、車で移動していたのである。
しかし、これほど過保護な彼らでも、文香の日常に過干渉はしないよう努力しており、普段の通学は徒歩と電車となっている。
ただ、文香は常日頃書物を読んでいる、所謂本の虫であり、用がなければ家から出ることはない。ましてや、引っ越しをして部屋の片づけをしなければならなかったのと、叔父が経営しているのが古本屋であるのなら尚更である。
文香は本の虫である。重度の本の虫なのだ。
そんな彼女が読んだことのない本を前に我慢が出来るだろうか。否! 断じて否である!!
そう、
だから、文香が混雑する駅の中で、自分の行きたい場所へ行けないのは当然である。行く手順を調べていないのだから。
――ど、どうすれば……いいのでしょうか?
ようやく自分の置かれている状況に意識が追いつき、停止していた感情が動き始めた。
目に見えて顔が青くなっていく文香。知らない場所、初めて経験する状況、日本人が一日で一番忙しなく過ごす時間。気弱で引っ込み思案な文香にとって、唐突に感じてしまった強い孤独感は最悪に近い状態を引き起こし、半ばパニックに陥っていた。
その時だった。
「大丈夫ですか?」
「―――っ!!」
近くで男性の声が聞こえた文香は、一瞬体を震わせた。失礼なのかもしれないが、こんな状況の中で意識の外から声を掛けられたのだから、体が吃驚してしまうのは仕方がない。
相手の方も、そんな状況が分かっているのか静かに待ってくれている。
――え、えっと……私に、声を掛けてくれたのでしょうか……。
一拍どころではない時間が過ぎ、それでも恐る恐る顔を上げていく文香。
そこには私服姿の、おそらく文香と同じくらい年齢の男性が心配そうな顔をして様子を伺っていた。
「えっと、大丈夫ですか? 体が震えているように見えたので、体調でも崩したのかと思ったんですが」
と、本当に心配そうな顔をしている目の前の男性。
その顔を見た文香は軽い安堵を覚えた。普段なら見知らぬ人、特に男性から安心感を得られることなどないのだが、軽いパニックに陥っていた状況で、自分のことを心配してくれている顔を見て心が軽くなったのだ。
「……だ、大丈夫……ではないです。けれど、少し落ち着きました。……あ、ありがとうございます。……心配をおかけしたみたいで」
たどたどしい口調になってしまったが、先ほどの青褪めた顔からしたら仕方がない。男性も気にしない処か、少し安心したように笑みを浮かべ様子を訪ねてきた。
「なら良かったです。それで、大丈夫ではないと云っていましたけど、何か困りごとでも?」
「……えっと、困りごとと云いますか……その……わ、分からないのです」
その男性の様子に、さらに安堵を覚えた文香は素直に自分の状況を伝えようとした。けれども、途中で気づいてしまった。
自分の今の
大人でも知らないことは知らないので、そのことを恥ずかしいと思うことはないのだが、この状況へ至る過程のことを考えたら恥ずかしい事だと思ってしまったのだろう。
しかし、この状況の打破をすることと、目の前にいる男性の貴重な時間を使ってしまっていることに申し訳なく思い、文香は頬を少し赤らめながら説明し始める。
「あの……最近、こちらに上京したばかりで……電車の切符売り場や、改札口がどちらにあるのか、その……分からないのです」
「……うん、迷子かな?」
「!? ……ま、迷子では、ないです……」
勇気を出して説明したことについて、そんな直球な返答が返ってくるとは思わなかった文香は、ちょこっと目に力を入れ抗議の言葉を云い放った。
――そうです。迷子では決してないのです。……ち、違いますよ?
「あっ、つい思ったことを口にしてしまいまして、気に障ったのなら申し訳ないです」
「あっいえ、気に障ったわけではありません。私が、その……お恥ずかしいことをしてしまったわけで……」
「恥ずかしい事ではないですよ。誰だって初めてすることは知らないのだから。なので、知らないことをそこまで気にすることはないですよ」
その言葉を聞いた文香は、ほっと一息ついたのだった。軽いパニックだった状況から少し立ち直ってきたのである。
「ありがとうございます」
ペコリと頭を下げる文香。
「あっ、いえ、こちらこそ」
と、頭を下げる男性。とても日本人な光景だった。
「さて、困りごとは切符売り場と改札口の場所でよかったですか? 行先によっては乗り換えとか大変ですけど、大丈夫です?」
「??? のりかえ、ですか? いえ、特急や新幹線などには乗らないので、変えることはないのですが……?」
文香の出身は長野県である。
だからこそ文香がこのような勘違いをしても仕方がない。
「うん。正しく貴方の状況を判断できました。なので、これから僕がする質問に答えて欲しいですけど、いいですか?」
「? はい……問題ありません」
文香のお上りさん的な回答をもらった男性は、彼女の状況を理解し、頭の中で聴く内容を整理し、目の前の困っている
「上京したてで、私服姿から大学生だと思ったのですが合っていますか?」
「はい、そうです」
「なら、どこの大学か教えて貰えますか?」
「はい、〇×大学になります」
と、そこまで問答を繰り返していくと、男性が吃驚したような顔をしたのだ。疑問を感じる文香だが、その意味がすぐに分かった。
「あれ? 僕と同じ大学?」
これには文香も驚きを隠せなかった。初めて来た場所で、初めて出会った人が、同じ大学に通っていたのである。
偶然とは恐ろしいものだが、文香にとってこの偶然はとても都合が良いのは確かである。
「えっと……あった。これ僕の学生証だけど、この大学で間違いないかな?」
出されたのは一枚のICカードの学生証で、そこには確かに文香が行こうとした大学の名前が刻まれていた。
――富士森貴泰さん……一つ上の学年ですね。
他にも男性の名前も載っていた。
身分証明でもあるので当然である、っと、文香はそこでふと思い至った。
「あの……富士森さんで、間違いないでしょうか? 申し遅れました。私、鷺沢文香と申します。自己紹介が遅くなってしまい、申し訳ありません」
「あっ、そう云えばそうですね。こちらこそ、富士森貴泰です。鷺沢さんは新入生だよね?」
「はい。富士森さんは一つ上の学年と。それならば、先輩と云った方が良いでしょうか?」
人は共通する繋がりを、コミュニティーを得られると仲良くなれる。二人の場合、同じ大学と云うコミュニティーを得ることで近しい存在だと認識したのだろう。特に、先ほどまで孤独感を感じていた文香にとって、このコミュニティーからの繋がりはより強い安心感へと変わっていく。
「どちらでも構わないよ。鷺沢さんが云い易い形あれば」
「分かりました。でしたら……富士森さんと、呼ばせていただきますね」
だからだろうか、文香は普段のゆっくりした口調が少し流暢になっていった。
「ん、了解。さて、そろそろ行こうか。カリキュラム決めとは云え、一限目からあるから九時の十分前には到着したいしね」
「! ……忘れていました。大学へ行くのが目的でした……」
声を掛けられてから二十分弱、八時を過ぎたあたりなので、まだ間に合う時間だ。
「ふふっ。忘れていたらダメだよ? せっかく大学に合格したんだから」
「はい。そのとおり、ですね。昨日は、これからの大学生活を想い描き、とても心が躍っていました。なので、すっかり下準備のことを、忘れてしまっていて……富士森さんと出会うことが出来て、本当に助かりました」
「そう云ってもらえるだけで十分だよ。あっそうだ。入学おめでとう、鷺沢さん。これからよろしくね」
少し恥ずかしいことを暴露しながら、それでも楽しそうな声色の文香。さらに、貴泰から入学の祝い言葉と今後もかかわることを示唆する言葉から、文香は大学生活が楽しくなっていくだろうと感じた。そして、自分から楽しくしていこうとすら思ったのだ。
高校時代からくすぶっていた想いが、貴泰と出会い言葉を交わしたことで少し晴れたことを感じた。
だからだろう。
文香は軽く俯いていた顔を上げていく。そして、貴泰の顔を見上げ、微笑みながら自分の今の気持ちを言葉に乗せて云い放った。
「……はい。こちらこそよろしくお願いします」
少々長い前髪の隙間から綺麗な碧玉の瞳を零しながら。
「――ッ!?」
ガラスのハートを不意に打ち抜かれ、大ダメージを受けた胸を掴み俯く貴泰。声は上げないが顔はそらす男の子。心はいつまでたってもピュアなのだ。不意に
「???」
そんなことなどつゆ知らず、と云った感じで首を傾げる文香。
多くの人が行きかう地下鉄の駅構内、そのほんの一角に不思議な空気が漂っていた。
これから二人が綴る小さな物語の始まる。
ノリと勢いで執筆しているので、続きはもうちょっと待って下さい。
それと、自分で見直してみれば誤字脱字のオンパレード……書くのって難しいですね。
思いついたことを書いた結果ですけど、もう少し考えたほうがいいのかな?
では(^^)ノシ