あれから10年経ちました。 続・使徒に憑かれた三号機の中のアスカを助けに言ったら僕がヴンダーの艦長になった件について   作:モーター戦車

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第2話『北の地にて』Interlude:挫けない唄 中編

 結局のところ、人類は、その時一度敗北を喫した。

 その事実は覆しようがない。

 だから、その時の決意は、どうしようもなく無駄で、滑稽であったのかも知れない。

 

 そもそも、使徒が第3新東京市以外を目指すことはありえない。

 

 与えられた『使徒撃滅』という目的すら、ネルフ本部およびゼーレにとっては本来の目的を遂行するための戦術的な目標に過ぎなかった。彼らの本来の目的は、私達には隠蔽されていたのだ。完全に蚊帳の外に置かれていた。なんとも間抜けな話だと言われれば、まさにそのとおりだと思う。 

 

 その事実を我々に告げたのは、リョージャ・カジンスキー……もとい、リョウジ・カジと名乗る男だった。

 

 佇まいから表情まで、全てが嘘くさく、胡散臭い男。

 

 美点と呼べるのは顔立ちが整っているぐらいのもので、それも無精髭で台無しになっていた。

 

 妙に流暢なロシア語、仕草のすべてが演技のようで、他人に対して演じているのか、自分自身に対して演じているのかもわからないところがあり、真実という言葉がきっとこの世で最も似合わない男であるように、そのときは思ったものだ。。

 

 その胡散の権化が、定期監査を名目にロシア支部を訪れたのは、第3新東京市戦役勃発の、たしか半年前だった。

 

 主席監察官の肩書を持つ、本来ならばネルフのため、組織全体の秩序を保つ立場にある男が、むしろ陰謀を企め、ネルフが隠す真実を暴けとと言わんばかりに、『世界の真実』と題された大容量記憶媒体を、ロシア支部副司令に手渡してきたのだ。我々を『信頼できる存在』と思った、だから託す、と副司令に対して言ったらしいが。

 

 冗談にもほ、どというものが有る。

 

 国家としてのロシアには、古代からランドパワー国家特有の無慈悲な権勢欲と、故あれば寝返る獣性に定評があるのだから。私が言うのもなんだが、祖国の歴史にはそのような要素がつきものだ。企んだろくでもない陰謀の数で言えば、かの大英帝国にも劣るまい。

 

 ネルフ本部の(形式上とはいえ)指揮系統の下にありながら、時にロシア政府の直属機関として立ち振る舞う事を辞さないような支部を、『信頼できる』と言う時点で、腸に色々と本音を隠し持っているのはむしろ明確であるように、話を聞いたときは思えた。

 

 きっと神経がどうかしているか、彼自身が『信頼できない存在』であるかのどちらかに違いない。当時の私はそう決めつけていた。

 

 ともかくその情報を受け取り、自室にて一人で内容に目を通した副司令が、その後信頼できると判断した支部のメンバーを支部で一番『清潔な』会議室に極秘裏に集めた。

 

 そして、彼のもたらした『真実』を私達に話して聞かせ、画像および動画データを見せ、その内容についてのリョウジ・カジンスキーの分析と、副司令なりの考えを話したのだ。

 

 セカンド・インパクトおよび、ニア・サードインパクトの真実と、その目的。『人類補完計画』。ヒトを含めた旧生命をマテリアルとした、来たるべき新生命の創造。それを達成すべく、あらゆる文明、あらゆる大国を隠れ蓑として、有史以来暗躍し続けた秘密結社ゼーレの存在。

 

 そのグノーシス主義をこじらせた独自の思想を以て、原罪を捨てろ考えるのやめろ行動やめろ、罪の穢れのない永遠の楽園に導いてやる、というのだから恐れ入る。

 

 猫にはオモチャでもネズミには涙という格言がある。強者たる彼らは満足かもしれないが、精神の働きを凍結され、記念碑よろしく宇宙が滅ぶまで、エヴァもどきの新生命の細胞となって永久保管というの は、ぞっとしない運命だった。

 

 ロシアという国は、国土が広く、またその気候の苛烈さからか、様々なカルト宗教の楽園になりやすいところがある。その手合で一番有名な人物を上げれば、ラスプーチンとなるだろうか。また、ソ連時代など大真面目に超能力を研究していたという事実もあった。(今にしてみれば、それも案外ゼーレ絡みだったのかもしれない)陰謀の国だ何だと言っても、どこかしら馬鹿なイワンな国ではあるのだ。

 

 ともかくそういうインチキな手合がおおい、騙されるなよ、みたいな冗談半分の忠告は、ロシア支部職員同士でよく交わされていた。

 

 今にして思えばエヴァだの形而上生物学だのなんだの、ネルフも大概の組織であったが、エヴァに関しては現物が実際完成して報道されてもいたし、私というパイロットも届いたのだから、疑う余地がそのぶん少なかった。

 

 実際、私自身も、自分自身の宗教性や儀礼性など、考えもしなかったのだ。特殊部隊でさんざんしごかれて、その種のオカルトよりも、ナイフや銃弾、仲間をこそ信仰する癖がついてしまっていた。

 

 本来1G環境に最適化されたいのちであるヒトを何故月でクローン培養した上でわざわざデリバリー対応、クローン培養プロセスも極秘とくれば、相応にオカルト案件であると想像してもよかったのかもしれないが、お前はそういう存在なのだぞ、と突然いわれて信じられるだろうか?

 

 無理を言わないでほしい。初期ロットには等しく備わっているらしい読心力の類も、私にはなかったのだから。

 

 使徒という存在に関しても、エヴァという兵器がある以上、そういう超常の怪物がいても不思議はない程度に思っていたところがある。

 

 しかし、驚くべき事に、副司令は、彼のもたらした『真実』を信じるつもりになったようだった。

 

「彼と、彼のもたらした情報は信頼に値する」と断言した時、ヴィーテニカが浮かべた絶望の表情をよく覚えている。

 

 当時の私は何故このような与太話を真顔で信じるのだ? と思ったが、副司令やヴィーテニカは、おそらく私の知らない真実を、彼らなりに探り、片鱗を掴んではいたのだろう。

 

 怪しいと思って調べていたところに、突然解答が降って湧いたわけだ。あんな運命をヒトに齎すために我々は存在し、ヒトではなくその行いのためにこそ奉仕させられていたのだ、と伝えられれば、絶望するのも無理もない。

 

 彼女が人生を捧げると誓った組織に裏切られたのだ。果たしたかった理想を踏みにじられたのだ。

 

 たとえ使徒を殲滅したとしても、彼女が内心誓っていた、『護りたい』という想いは、願いはかなわないと知らされたのだ。むしろ、加害者に加担してしまったのだとすら、彼女は思ってしまったのかも知れない。

 

 使徒を捨て置いても人は滅ぶ。しかし、使徒を倒しても、人は滅ぶ。あるいは滅んだも同然の状態となる。

 他のメンバーも、実のところ、表情はヴィーテニカと、大なり小なり似たようなものだった。

 

 副司令ですら、表情を殺したその顔に、深い絶望が眉間に皺となって顕れていた。

 

 それで、自分がその得体のしれない儀式のための、ヒトの形をしたオカルトの祭具でありと知らされた、14の時の私はどんな顔をしていたか?

 

 そんなものは、言うまでもない。私は──

 

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 EPISODE:2 No one is righteous,not even one.

 

 Interlude:Indomitable song

 

 Second part

 

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10年前

 

 

第3新東京市戦役勃発より51時間後

 

サンクトペテルブルク南西 キンギセップ近傍

 

ルーガ川西方10キロ地点 午前3時

 

 

 

 サージャ・アヤナミは、闇に満ちた昏いエントリープラグの操縦席で目を覚ました。

 

 座席正面の液晶パネルと、そのパネルの左右のサブスクリーンだけが、僅かに緑色の燐光を発している。

 

 濃緑色に染まった第二世代型プラグスーツのゴムとプラスチックの合いの子のような触感の皮膜状生地に覆われた腕の、手首を取り巻く手錠じみた突起部の液晶モニタに目を落とす。

 

 血圧、心拍数、酸素濃度、血糖値、形象状況、いずれも異常値を検出せず。

 

 勿論、疲労感もあれば、度し難いほどの眠気もあった。なのしろ、この12時間というもの、ろくな休憩もなしに戦い続けていたのだ。

 

 流石に交戦時間が交戦時間であったため、武器・弾薬の補給および、彼女が用いる濃緑色のエヴァ、その強化外骨格たるJAヘヴィアーマーのメンテナンスが必要となっていた。

 

 それに、ロシア支部との通信がジャミングが原因か、あるいは支部施設の損壊(支部もユーロ連合空軍の空襲を受けており、熾烈な防空網を突破した対地ミサイルやレーザー誘導爆弾により、何度も被害を受けていた)により途絶状態となっており、仮眠を終えた今も、通信は回復していない。

 

 セカンドインパクトによるルーガ川の増大と、ソ連時代の報復とばかりにロシア国内の混乱に便乗して押し寄せてきたバルト三国連合軍との国境紛争によって廃棄された、かつてキンギセップと呼ばれていた無人の市街地、そこに築かれた、ロシア陸軍がレニングラード軍管区の戦力をかき集めて編成した緊急展開部隊の野戦司令部へ、彼女と彼女のエヴァは、一時後退し、仮眠をとっていたのだった。

 

 ロシア支部より非常事態、つまりは支部がの際のエヴァの運用・整備を事前委託されていたロシア軍によって、補給・修理・整備を行っている間、彼女は次いつ取れるかもわからない仮眠をとることに決め、そして現在に至っている。

 

 目覚め心地と気分はといえば、最悪に近い。

 

 シンクロをカットし、360度内部スクリーンの電源を落とし、プラグ内部を暗くして眠っていたとはいえ、仮眠が取れた時間は30分程度。これでは疲労が取れるはずもなく、無論睡眠が足りているはずもなかった。

 

「やむを得んな」

 

 14才という年齢に似つかわしいとはいい難い、2年間繰り返された特殊部隊との、訓練をふくめた公私の交流によって、完全に染み付いてしまった男言葉でつぶやくと、首の左肩側やや後ろにある窪みに指を当て、スイッチを入れた。

 

 電気マッサージに似た刺激と痛みが、頸部に走る。

 

 スイッチを入れたことにより、エントリープラグおよび、頭部シンクロ用ヘッドセットからパイロットのバイタル・脳内電位状態のデータをプラグスーツの背中側に備えられたバックパックがパイロットの身体状態を診断した。

 

 そして、バックパックユニット内部の診断AIは、彼女の身体状態を調べた上で、疲弊状態で脳の処理能力が低下した彼女の『性能』を回復・維持すべく、頸部迷走神経に電気刺激を加え始めた。

 

 彼女が座席モニタに目を落とすと、整備作業の進捗状況は既にして95%を示していた。あと数分で出撃可能となるだろう。

 

 つまり寝直すには短い時間だが、寛ぎ、精神を立て直すには事足りる程度の時間はある。

 

 鼻からLCLを吸い込み、口から吐き出すという、システマの訓練を恒常的に受けているうちに習慣となってしまった平常心維持のための呼吸を繰り返すうちに、彼女は徐々に眠気と疲労感が脳から退いていくのを感じた。

 

 電気刺激を受けたことによる覚醒状態は、12時間後にピークに達する。その後覚醒作用は減衰しながら最大で19時間は継続することになるだろう。

 

 その19時間で片付いてくれればいいが、と彼女は思う。

 

 その時間で状況が片付かない場合、おそらく自己判断か、バックパックのバイタル状態確認機能によって、通称『ホット・チョコレート』の隠語で呼ばれる非常時用薬剤を血管内に注入する羽目になる。

 

 ドーパミン系に作用して強い覚醒作用を齎すデキストロ・アンフェタミンを主剤とし、ブドウ糖、各種アミノ酸、クエン酸ナトリウム、各種ビタミン等が添加されたこの薬剤は、疲労の極地に達した脳と肉体を再賦活し、また空腹感を消失させるのだ。

 

 電気刺激程度では脳活性が追いつかず、自らの意思ではもはや稼働不能になってしまった肉体であろうとも、この薬剤の投与によって、戦力として活動可能な状態へ戻ることができるが、この薬剤は当然劇薬の類である。非常に強い依存性と、そして危険な副作用があった。

 

 何度も使用すれば当然依存状態に陥り、中毒患者の末路は、その大半が追跡妄想を始めとしたせん妄状態、抑うつ、幻覚、錯乱等である。

 

 つまりろくなことにはならない上に、回復からは長期間のリハビリと療養を必要とするのだ。

 

 さらに使用時は、薬理作用により異常な興奮状態と、強すぎる集中力を発揮してしまうようになる。歩兵が銃を持ち何かを照準する時、スコープがなくとも一種の視野狭窄状態に陥ることは知られているが、それよりさらに視野が狭まってしまう。これもまた、致命的な副作用と言えた。

 

 また、一種の全能感が発生することもしばしばある、と彼女は聞いている。戦闘中に身動きできないほどの睡魔に襲われるのも危険だが、酷い躁病を発したような精神状態に陥り、万能感に導かれるままに、自信満々の気分で疑いもせず、致命的失敗へ繋がりかねないような、普段であれば絶対に侵さない行動を取りかねないというのも、戦闘においてはやはり致命的なことこの上ない。

 

 同じ『チョコレート』であればアリョンカのほうがまだいいと彼女は思う。

 

 この国に来て以来、彼女は完全にあの味の虜であり、ミルクと砂糖たっぷりのコーヒーでアリョンカを齧りながら読書にふけるのが彼女にとっての休日の過ごし方でも5本の指に入る至福のひと時なのだ。

 

 この動乱の発生は、彼女が当分その至福の時間を過ごす機会を得られなくなってしまったことを意味し、エヴァのパイロットとして給与と住まい、食事まで得てきたわけであるから、それら権利に対する義務は当然果たさねばならないとはいえ、内心では憤懣やるかたない。

 

 なにしろ、その『お預け』の時間は、あの詐欺師の如きカジンスキーの言う真実が正しいとすれば、年単位、10年で済むかどうか、というほど先になるようなのだそうだから、腹が立ちもすれば怒りもする。

 

 幸い状況が状況であり、八つ当たりする相手には事欠かないのが、救いといえば救いだろう。

 

 作業の進捗状況は95%。『八つ当たり』をする相手と、自軍の状況を確認する時間はあるだろう。

 

 彼女はシンクロ制御で無線通信機能を再起動、ジャミングの類がないことを確認してから、有線小型基地局車両やECM・ECCM能力を付与され、電子戦機能を有した通信中継ドローンによって展開された、ロシア軍の戦術イントラネットに接続した。

 

 自らの周囲にいくつかの3Dホログラムディスプレイが展開され、戦場状況を示す簡略化された地図情報と、自軍・友軍、そして敵軍の展開状況がそこに映し出された。

 

 一通り眺め、サージャは苦笑しながら呻いた。

 

「なんとも壮観なことだな」

 

 彼女のエヴァが、敵軍の先鋒を撃破し、僅かに生じた時間的間隙を利して一時後退、補給を受け休息を撮っている間に、敵の新たな増援が到着したようだった。

 

 撃破した先鋒を構成していたのは、ソ連時代からの報復のつもりか、セカンドインパクト以後発生した国境紛争の捲土重来のつもりか、ユーロ連合軍先鋒として押し寄せてきたバルト三国軍であり、そして空には所蔵不明、おそらくはゼーレの放ったのエヴァもどき──両手足にローターをつけ、頭部から口吻の如き赤い槍を生やした、エヴァを使って巨大シベリア蚊のレプリカを拵えたような、奇妙にも程がある粗製のエヴァどもであり、撃って撃って撃ちまくり、陸軍と共同してバルト三国軍及び、30機ばかりのシベリア蚊エヴァどもの撃退に成功した矢先も良いところだから、疲労感が否応なしに募ってしまう。

 

 現れた戦力の規模を考えれば、増援と言うよりは、むしろ敵軍の本隊というべきかもしれない。

 

 敵陸上戦力前衛部隊、その主力戦車はレオパルト2A7V。

 

 北方よりサンクトペテルブルク市街及び、ネルフロシア支部方面へと飛来しつつ有る航空機は、索敵情報が正しければ、ユーロファイターEF-2000にF/A-18E/Fアドバンスドモデル。

 

 雀蜂どもは、おそらく戦術N2爆雷搭載可能型だろう。撃墜のリスクを冒して、非ステルスのスーパーホーネットをわざわざ展開してくるということは、市街地やロシア支部施設、そして展開するロシア軍に対し、それを躊躇なく使用するという決心の現れに他なるまい。

 

 そして陸上戦力と空中戦力、その尽くに、伝統のタッツェンクロイツ(黒十字)が描かれているとなれば、敵軍の氏素性については疑いようもなかった。

 

 二次大戦の雪辱を晴らしたいのはバルト三国やウクライナ、ジョージアなどの、ソ連時代からロシアに長年恨みをつのらせていた周辺諸国のみかと思っていたが、どうやら他にも居たようだ。

 

 しかしまさか、かのオーストリア人の伍長殿の真似事を子孫が始めるとは。

 

 それとも更に遡って、あの支配欲だけはかろうじて偉大といえる、かの傲慢なるヴィリー、ヴィルヘルム二世の亡霊でも取り憑いたか?

 

 あるいは嘗てのドイツ騎士団の伝統に則り、現代の東方十字軍として異端と邪教を狩る熱意と義務感に、突如駆られたのかもしれない。

 

 まさか、この期に及んで『第四帝国』などという妄想を抱いてはいるまいな? まあ、実際のところは、ゼーレの隠れ蓑である国連のプロパガンダに踊らされただけだろうが。

 

 彼女はいよいよ以て、皮肉の色合いを濃厚に帯びた笑みを深めた。

 

 親愛なるろくでなしのリョージャ・カジンスキー。

 

 例の『真実』とやらの情報を聞かされた時、黙示録だかラグナロックだか、ノアの洪水の再演のような戦争になるとは覚悟していたがな。

 

 しかしまさか、第二次大祖国戦争まで勃発するなどとは。そんな話は聞いていなかったぞ?

 

 ゼーレの連中は、どうやらこの地に展開するロシア人全てに、政治的与太話を書いた葉書をアルメニア・ラジオ局へ投函させたくてたまらないらしいな。ここまで与太を盛られると、さすがの私とて笑みが冷える。

 

 ああ、もっともアルメニアはソ連崩壊時にロシアから分離独立を遂げたが。今はたしか、日和見を決め込んでいたか。もっともあの国はろくに資源がない、コニャックと旧さが売りの内陸国だ。

 

 ろくに戦力がない以上、そうせざるを得ないのだろうがな。

 

 彼女は無線通信機能の通話機能をオンにし、周波数をキンギセップに設営されたロシア軍前線司令部へ合わせた。

 

 必要な情報収集と状況報告は、実のところイントラネットだけで全て片付くのだが、この歴史的因果と皮肉と諧謔に満ちた状況について、少し誰かと話をしたかったのだ。

 

 脳裏で無線のスイッチを入れるようにイメージして無線をつなぎながら、声を発する。

 

「ノブゴロド、こちらツィガーニ。あと後数分で再出撃可能。

 

 起きてみれば伍長殿の後継者共が押し寄せて来ていて思わず笑ってしまったが、南部軍管区からの増援はどうなっている?

 

 政府高官および、軍上層部のゼーレ内通者は排除済みとGRU(ゲーエルウー、ロシア連邦軍参謀本部情報総局の略語)から聞いている。

 しかし、これほど我々が圧迫を受けている状況で、Su-30SMの一機も送って来ないとは呆れたものだ。彼らはいささか、祖国防衛の熱意と忠誠に欠けているのではないか?」

 

 彼女の言葉に、おそらく20代後半程度と思われる、アルファベットの『O』を『A』に置き換える傾向が強い、モスクワ訛り丸出しの、声音が妙に若い司令部付士官の声が応答してきた。

 

「ツィガーニ、こちらノブゴロド。機会主義者はゲルマン民族のみではないようだ。

 かの偉大なるスルタンの末裔の国が、ここ200年ほど埃を被っていた鍋とスプーンを戦旗と掲げ、露土戦争の復讐に来たそうでね。

 まさにセカンドインパクトの再来の如きということさ、ニア・サードインパクトの続きにふさわしいじゃないか。

 それにしても、君のその言葉遣いはどうにかならないのかい? 声音に残った幼さを除けば、14才の乙女とは到底思えない」

 

 忠告じみた内容のわりには、どこか面白がっているような言葉使い。

 

 モスクワ男にしてはユーモアのあるやつだと内心思う。

 

 彼女自身も疲弊こそあれど、どこか状況を楽しんでいる心境をそのまま声音に表して応えた。

 

「服装によって迎え、才能によって送る(Встречают по одёжке, провожают по уму.)というだろう? 言葉遣いで取り繕おうが、中身はどうにもならんのだ。

 むくつけき特殊部隊の連中に混じって、男でもなく女でもなく、一人前のただの軍人として、あの恐ろしいシベリア蚊曹長とブヨ曹長を相手に来る日も来る日も演習だ。同僚の人間どもも容赦などしてくれん。

 14だろうが一人前あつかいだ。実にありがたいことで涙が出る。

 彼らに見下されんように振る舞い、冗談の一つも交わしあえば、嫌でも彼らの流儀が、心と舌に染み付いてしまう。

 お上品なお嬢様役など、とうていやっておれんよ」

 

「なるほど、娑婆では娑婆の言葉、軍隊では軍隊の言葉ということかい。

 しかし君は、娑婆にもどっても、そのような言葉を好んで使っていると聞く。君の担当の戦術オペレーターと医官殿が大変嘆いていたというのは、僕ですら知っているんだが」

 

 大仰かつ芝居臭い軽口を叩いてくるやつだな。

 

 馴れ馴れしい、とサージャは呆れた。とはいえ、戦況は良いとは言えない状況で、明日には人類史が終わっていてもおかしくない、まさに冗談のような状況だ。軽口の一つも叩かなければ、やっていられないのかもしれない。

 

 などと考える間にも、通信回線向こう、顔もわからない男の軽口は続いている。

 

「ほんとうに愛らしい子猫のような娘だったそうだけど、恐ろしい軍隊が鍛え上げ、すっかり野蛮で恐ろしい豹に育ててしまったなどと、それはもう酷い悲しみようだったらしいね。

 話半分に聞いていたけれど、この12時間の君の奮闘と君の言葉遣いを思えば、なるほど嘆くのも当然のことかもしれない」

 

 その言葉を聞き、流石にサージャは少しむくれた。野蛮な豹とはたとえにも程があると思う。せめて山猫程度にしてほしいものだ、と思いつつ、彼女は回線越しに彼へ言葉を返した。

 

「それはロシア支部と国家親衛隊内部の機密情報のはずだが、いつからロシア陸軍に漏洩していたのだ? どうやらゼーレだけではなく陸軍もロシア支部に内偵を行っていたようだな。副司令に報告せねばなるまい」

 

「ツィガーニ、自ら漏洩しておいて内偵も何もないんじゃないかな。

 ロシア男が喰うケーキはレバー・ケーキだけというわけでなし、ましてロシア軍はソヴィエト時代以来、伝統的に女性が多い軍隊だ。

 14才のアルビノの少女という時点で良くも悪くも目立ってしまう。可愛い女の子ならなおさらだ。

 それがあの赤いベレーを被ったデジタルフローラ迷彩姿で『セーヴェル』の窓際に腰を据え、スメタンニクやチョコレートケーキを、それこそ胃袋に底がないのか、と呆れるほどに平らげる。

 そして、馴染みの店員や連れのネルフ職員に、ガサツ極まる男言葉で大声で話して、目立たないと思うほうがどうかしている。

 内偵を疑う前に、君自身がネフスキー大通りの風物詩であるという自覚を持った方が良いと思うよ」

 

 その言葉に、彼女は流石に一瞬眉をひそめた。想定外だった。 

 

「そうなのか? 貴重な意見だな。言われてみれば軍服姿の女性の姿を、あまり店内に見かけなかった気もする。私ぐらいのものか。そうか。

 しかし生憎、生まれが生まれで育ちが育ちでな、同年輩の友人と話す機会を持てなかった。おかげで女らしい言葉遣いがわからん。ヴィーカを真似るのは、色々違うしな。性格の作りが違う。

 そうだ、思いついたが、女性らしさを加えるため、モスクワ訛りを真似るというのはどうだ? ノヴゴロド。良い思いつきのように思うが」 

 

 笑みを浮かべながらサージャは言った。通信回線向こうの士官の声が、流石に一瞬口ごもる。ややあって返ってきた声音は、やはり軽妙なものではあったが、若干の憤懣の気配があった。

 

「ツィガーニ、古さと伝統だけが取り柄のサンクトペテルブルク育ちの女にそれを言われたくはないよね。モスクワ生まれにそれを言うのは本物の戦争になるから、よしたほうがいい」

 

 軽薄の権化のようなこの男にも、怒るということがあるのだななどと思いつつ、彼女はまたしても笑みを深めた。

 

「なに、14の小娘らしく、男をからかって戯れてみたかっただけのことだ、ノヴゴロド。

 

 むあkし、どこぞに亡命したロシア人が、とある少女に恋い焦がれ破滅する中年男の話を書いて以来、その種の物語は、ある種の男どもに常に評判であると聞くからな」

 

「ツィガーニ、君がかなりの乱読家で、見る映画も種類を選ばないという噂は本当のようだね。ひどい知識の偏りようだ」

 

「正直に言えば好き好んで演じているところもある。

 私の基となった細胞提供者の女性の生まれた東方の島国で流行している、ある世代の少年少女が患う、精神的病が由来かもしれん、確かツーニィビョと言ったかな。あるいはチーニボゥだったかもしれん。綴りが色々違い、発音がよくわからんのだ。

 正直私もSNSで見ただけなので詳しくは知らんが、大人への憧れと大人になりたくない心の自己矛盾、一種の屈折を示す、精神的文化がどうたらた、だそうだ」

 

「ツィガーニ、君は支部だけではなく学校へ行き、この国の同世代の少年少女達と過ごすべきだったよ。なんともひどい偏りぶりだ。

 子供の成長において、同世代と同じ時間を過ごし、情緒や言葉遣いを共有することの大切さが君と話しているとよく分かる。もちろん、君自身が望んだわけではないだろうけれど」

 

「貴重なご意見痛み入る、ノヴゴロド。育児に悩む季節が訪れたら参考にさせてもらう。それと、割と私が望んでやっているので、その点は訂正させてもらうぞ。

 しかし、私の側から無線を送っておいてなんだが、小娘の他愛ない戯言にこうも付き合ってくれるとは、随分と貴官も暇なのだな」

 

 彼女の言葉に対する応答には、若干自嘲の響きがあった。

 

「大祖国戦争以来、人口減に苦しんでいたところにセカンドインパクトだからね、人間ではなく機械を使えるならば、可能な限り自動化したいと言うのが軍上層部の偽らざる本音だよ。

 技術が進む度、人が機械に置き換えられる。結果として僕は暇になり、こうして君とひと時のおしゃべりを堪能できるというわけだ。何しろ、今やイントラネットと各種戦術プログラムが、かつてオペレーターが行っていた報告や情報分析を高速で自動処理してくれるからね。

 司令部付士官という存在は、平時はともかく戦闘中は、君が思うほど仕事がないんだ。

 戦闘記録をつける役目さえ、今は機械が担っている。単純な記録であれば、機械の方がよほど正確なのだから、仕方がないけれど」

 

「なるほど、スマートテクノロジア時代の悲しむべき現実ということか、ノヴゴロド」

 

「そんなところさ、ツィガーニ。バカな兵隊が自前のスマートホンを戦場に持ち込んでsnsに自部隊の位置を示す情報を世界中に流さないか、自軍の電波を監視して、いちいち注意するなんてバカバカしい仕事ができもしたけれど、量自体は減っている。

 手に入れたばかりの情報をまとめた用紙を片手に駆け込んで、汗も拭わず緊迫した面持ちで指揮官に戦況を報告し、それを聞いた指揮官や参謀がその場で激論を始める、というなんていう戦争映画でよく見た景色も、今は昔の物語でね。

 もっとも、戦況しだいでは、突然現在に姿を顕すこともあり得るかもしれないけれど。

 何はともあれ、楽しい会話の時間もそろそろおしまいのようだ。君の愛機が待ちくたびれたとせっついているよ」

 

 話に夢中になっていたわけでもないのだな、と思いつつ、彼女は正面モニタに現れた『整備完了』の文字を眺めた。装備された武装は『EM-226』440mm回転式多砲身機関砲である。

 

 ベルト給弾式とはいえ、弾のサイズが弾のサイズだけに、そう連射できるものでもない。

 

 おそらく、あの空飛ぶエヴァもどきのシベリアンスキー、いや女かもしれんからシベリアンスカヤかもしれんが、あの脆い蚊の化け物どもに使うにはもったいなさすぎる。過剰火力も良いところだろう。それに無駄に銃身が長いので、取り回しもあまりよくない。

 

 とはいえ、副司令がネルフ本部の対使徒戦闘の進捗を見て抜け目なく交渉し、結果として回ってきた、ネルフ本部が不要とみなした余り物だけに、贅沢は言えんな。 

 

 FCS周りを軽く眺める。弾種は徹甲榴弾一種類だが、電子信管が用いられているので、起爆タイミングは彼女が自在にできる。

 

 ほう、いい弾じゃないか。 

 

 気に入った玩具を見つけた猫のような表情になりながら、彼女はノヴゴロドに言葉を返した。

 

「ノヴゴロド、エヴァもどきどもには些か勿体ない、贅沢な得物だな。都合がいい。

 現状、前線が圧迫されている。CAS(近接航空支援)要請だの砲撃支援要請だののアイコンが増えすぎて地図表示を切り替えると真っ黄色ときた。

 まったく、表示が多すぎて、地形が見づらいにも程がある。

 このアイコン共を根こそぎ掃除せねばなるまい。

 ついては、戦術管制を願えるかノヴゴロド。暇なのだろう?」

 

 その言葉に、通信回線が一瞬沈黙した。ついで、妙に引き攣った唸りが聞こえる。想定外の申し出に、思わず笑ってしまっているようだ。そして僅かな間をおいて、ノヴゴロドは返答を返してきた。

 

「ツィガーニ、ノヴゴロド了解だ。

 ネルフロシア支部からは、事前に君を可能な限りバックアップするよう、要請が来ているからね。けれど、良いのかい?」

 

「構わん。携帯武装はありがたいが、自爆ドローンも良いところのエヴァもどき共には過剰火力で、本物の使徒相手にはフィールド中和をかけねば火力不足。

 つまるところ、箸にも棒にもかからん代物だ。適切な相手に適切に投入した方が良い。

 ああ、人道だの人殺しがどうのと、くだらんことを言わんだろうな? 

 あのエヴァもどき共には、どうも白痴とされた私の姉妹が詰まっているようだし、となれば私は人殺しの姉妹殺しだ。つまりどの宗教だろうが地獄の類に送られる罪をとうに犯したというわけで、今更気にしても仕方あるまい。

 それに、ここを抜かれてタイムオーバーとなれば、ペテルブルクの数百万市民は根こそぎ虐殺だ。それは絶対に看過できん」

 

 司令部付士官との通話を継続しつつ、彼女は正面パネル右脇に配されたボタンを押す。

 

 エントリープラグのOSが彼女の搭乗するエヴァンゲリオンを起動させるべく、各種プログラムを動作させ始めた。

 

 JAヘヴィアーマーの胴体各所に配されたバッテリーが、エヴァ胸部コア・ユニットに給電を開始する。エヴァの肉体が目覚め始めた。

 

「シンクロスタート」

 

 サージャが発した音声を切っ掛けに、機体とエントリープラグのOS、そして彼女の思考のリンクが確立される。自らの肉体感覚に、今ひとつ、エヴァの身体の感覚が重なった。

 

 一種の輻輳状態となるのを彼女は感じた。エヴァが自分なのか、自分がエヴァなのかが、やや曖昧になっているような感覚である。 自分自身は核として確かにあるのだが、まとっているエヴァの肉体が別個に有り、どこまでが自分で、どこまでがエヴァか曖昧になっている部分があるのだ。

 

 そして操縦席の周囲、エントリープラグ内壁をくまなく覆うパネルモニタが一斉に発光する。そうして幾種類もの幾何学的な文様を映したのち、夜の黒、白の輝きと赤い炎を用いて描かれた、地上の地獄としての戦場の景色を映し出した。

 

 闇に沈むキンギセップ前線司令部や、前線の至るところで火を吹く火砲、火の尾を引きながら敵軍目掛けて放物線を描きながら突進し、あるいは我が方の部隊目掛けて飛来するミサイルやロケット弾と思しき無数の飛翔体、それらが着弾し爆発する閃光、そして、その炸裂によって燃え上がる何か。

 

 あの赤い輝きの中で、何人もの兵士が命を失い、あるいは肉と血の屑と成り果てて飛散しているのだ。

 

 巨人たるエヴァの有する高い視座より、その黙示録的な風景を眺めながら、彼女は唇の端を引き攣らせるようにして微笑んだ。

 

 ドイツ人ども、本当に大祖国戦争の復讐のつもりらしいな。好き放題にやってくれるじゃないか。

 

 小銃や機関銃の発砲は、機体各部センサーの暗視レベルを上げていない現状では見えなかった。おそらく敵味方双方とも、レーザーポインターや曳光弾の使用を控えているのだろう。見つかる危険が増えるからだ。 

 

 微光暗視装置や熱線映像装置が彼我共に充実した現状では、レーザーや曳光弾の類の使用は、敵に自らの位置を暴露する結果を招きかねない。

 

 夜間戦闘という状況下であれば、イントラネット接続用端末の発する極短時間発振される低出力電波(ロシア軍は有線式無人小型移動基地局を実用化しており、これにより兵士が使用する情報端末の発する電波の低出力化に成功していた)ですら、敵装備によっては逆探知される恐れがあった。

 

 そして、電子製品の出来については、敵主力たるドイツ軍が使用する装備の方が、彼女が属するロシア軍のものよりも、遥かによい。

 

 冶金技術はともかく、ロシア製電子製品は、ソヴィエト以来、西側の後塵を拝する状況となっており、この懸絶をセカンドインパクト以後も未だに埋められていない、というのがロシア工業界の偽らざる、しかし悲しむべき現状であった。

 

 そして、各地に展開する各部隊は、逆探知されるリスクを度外視し、今は砲兵支援ないしは近接航空支援の方が重要と言わんばかりに、有線式移動無人基地局を介して自部隊がいかに苦境に陥っているかを、電波の声で訴え続けていた。

 

 それにしても、敵が多い。

 

 しかし、数十分前までエヴァ紛いの飛翔体相手が主体とはいえ前線にいた彼女が知る限り、おそらく新たに出現したドイツ軍および東欧諸国の連合軍の合計戦力は、少なくとも我が方の三倍以上は存在するように思われた。攻者三倍の法則というやつか?

 

 二次大戦における人口の大量喪失と、ソヴィエト連邦政府の失政、また近代国家の宿痾である人口減により、セカンドインパクト前ですら1億程度にまで人口が落ち込んでいたロシアは、セカンドインパクトとそれがもたらした動乱により、さらに5000万人の人口を喪っており、当然これらの被害は軍を構成する兵士や将校の減少にそのまま直結してしまっていた。

 

 結果として、ロシア軍は現状でもなお、セカンドインパクト前の規模を取り戻せずにいる。インパクト以後の飢餓と不況によって食い詰めた若者たちはセカンドインパクト前よりも軍勤務を志向するようになってはいたものの、全体の人口と経済規模も縮小した現状では、雀の涙も良いところだ。

 

 幸い、現状、敵は第3新東京市において始まりつつあるらしき、何らかの得体のしれない人類補完とやらの儀式の方が重要なのか、主力にして決戦兵器たるエヴァンゲリオンを前線に展開していない。シベリア蚊の似非エヴァで充分と判断し、まっとうなエヴァは尽く東方の島国に、全機送り込んでくれていればよいのだが。

 

 エヴァ紛いの自爆ドローンのような飛翔兵器は、もっぱら彼女の搭乗するエヴァばかりを狙ってくるため、これらは現状、味方にとってさしたる脅威となっていなかった。彼女は後退する前に、その飛翔兵器の第一波を殲滅する事に成功している。

 

 そして彼女のエヴァは、今回の整備と補給により、どこの馬鹿が設計開発したのかもわからぬ、馬鹿げた口径を誇る巨大な多砲身機関砲を用いての作戦行動が可能となっていた。

 

 汎用ヒト型決戦兵器とはよく言ったものだ。

 

 おそらく敵軍はその主力の多くを第三新東京市に展開しているだろうに、我軍は控えの予備軍の寄せ集めである敵軍に包囲・圧迫されつつある。

 

 このまま行けば我軍は尽く殲滅されるだろう。

 

 となれば、現状を打開する決戦戦力が必要であり、それが彼女の役目となるわけだ。少なくとも彼女というパイロットを手に入れるため、高額のカネを消費した彼女の今の祖国は、それを望んでいる。そしてそれは、もとより彼女自身の望みでもあった。

 

「この手を穢し、数多の命を奪うとも、それによりさらなる多くの命を救う。ブディストたちの言う一殺多生だ。

 元より護民こそが我が勤め。そのために給料もいただいてきた。そういうわけだ、地獄の道案内を頼むぞ、我がヴェルギリウス殿」

 

「ツィガーニ。ダンテが44センチの巨砲を持って煉獄に踏み入るなんて話は生憎読んだことがないな。『神曲』はもう少しおとなしい内容だったと記憶しているが」

 

「私は臆病だからな。

 煉獄の亡者に襲われるかもしれんのだから、護身用の得物は必要だろう? 

 なにより、私にとってのベアトリーチェたちはまだ生きてサンクトペテルブルクにいるのだ。およそ数百万人ほどな。

 ともかくツィガーニ、出撃準備完了だ。ノヴゴロド、進路どうか」

 

「ノヴゴロドよりツィガーニ、貴機の進路より全ての人員および、整備車両の退避を確認した」

 

 男の言葉に、サージャ・アヤナミは頷いた。

 

「ツィガーニ、進路クリア了解。D2リアクター起動は出撃より1分後とする。

 この巨体だ、無駄なあがきかもしれんが、赤外線探知はなるべく避けたい」

 

「ノヴゴロド了解。貴官の健闘と無事の帰還を祈る、ツィガーニ・グロズヌィ(恐るべきジプシー)」

 

「そこはグロズヌィではなくオパスィ(危険なる)だろう、ノヴゴロド? 確かに今の私に求められていることとは、かの恐るべきツァーリの再来となることかもしれんが」

 

「危険なら敵が警戒して強くなるかも知れないけれど、恐怖なら竦んで弱くなるかも知れない。験担ぎだよ、恐るべきツィガーニ」

 

「なるほど、ものは言いようだ」

 

 士官の冗談めかした言葉遣い、しかしその声音の裏に、祈りに似た気配を彼女は嗅ぎ取っていた。状況が不利なのだ。先程の軽口すら、案外必死に絞り出した、演技であるのかもしれない。

 

 ならば声音と態度だけではなく、いっそ愛機の掌に、拳を打ち付ける程度のサービスと余裕はしめしてやるべきか?

 

 もっとも今、彼女の愛機は映画のカイジュウでも相手にするかのごとき大砲の化け物を抱えており、そのような仕草を行う余裕はない。

 

 なに、やつも私より年嵩の男であれば、自前で奮起することだろう。

 

 眠気が取れたとは言えない脳、疲弊を訴える体。

 

 それを押して、サージャは不敵に笑った。

 

 周囲から作業員が撤収しているのを最終確認した後、思考操作で爆圧ボルト起爆スイッチを入れる。

 

 彼女の機体、その全身を包むJAヘヴィアーマーに繋がれた、数多の給電用アンビリカルケーブルが、爆圧ボルトの爆発消失に伴い、一斉に支えを喪って落下し、給電制御系が外部系から内部系に切り替わる。

 

 彼女は迅速に電力系の操作を開始した。

 

「JAヘヴィアーマー内蔵バッテリー、全基連結。機体及びD2リアクターへの全力給電開始。

 機体運転レベル、戦闘出力へ移行。

 ザーシャ・アヤナミ少尉は、これよりエヴァンゲリオン・ツィガーニを以て、接近する敵戦力の邀撃行動を開始する。

 敵軍が、かの伍長殿の再来たらんとするならば、此度はネヴァ川の河岸すら拝ませはすまい。このルーガ川の絶対防衛線を以てご退場いただくとしよう!」 

 

「ツィガーニ、こちらノヴゴロド。絶対防衛線などという話は、ロシア支部より聞いていないが、そのような取り決めがあったのか?」

 

 彼女の決意に満ちた咆哮を聞いた司令部付士官から、困惑に満ちた通信が届いた。それに対し、ザーシャはあくまで快活に返答する。

 

「特に意味はない! 私が勝手に決めた、ただの気概の顕れだ! よっていちいち気にするな!」

 

 右手でエヴァから伝わる多砲身機関砲の銃把の感触と、その重みを確かめながら、彼女は言い放った。

 

「ツィガーニ。

 エヴァは規格外の決戦兵器のため、基本的に独自行動を基本とするとは聞いていたけれど、軍と共同作戦なんだから、少しはこちらの都合を考えてほしいところだ。必要ならこの司令部は戦況に応じ、臨機応変に後退する必要があるんだからね」

 

 呆れ果てるのを通り越し、疲弊すら滲んできた感のある士官の言葉に、彼女は平然と言い返す。 

 

「は、川を背負って布陣した時点で、軍は何があろうと敵に此処を抜かせぬつもりだろうに。いわゆる背水の陣というやつだ。

 歴史で言うなら、そうさな、国防人民委員令第227号といったところか?

 実に愉快極まる。歴史とはアイロニー(皮肉)に満ちている、そうは思わないか、ノヴゴロド?」

 

「一歩も下がるな(Ни шагу назад)ときたか。やっぱり君は娑婆の学校で青春というやつを過ごすべきではなかったんじゃかな、ツィガーニ。

 いや、今更遅いか。話通りなら、我々が最善の勝利を掴んだとしても、僕らがこれまで当然と思っていた生活は、過去のものと成り果てるんだろうし」

 

「だがな、そうであるとしても、私はそれを断固として行うぞ。

 一歩も下がるなという命令であるなら、むしろ前進して窮地を打開する。

 後背の民を守り、前衛の味方を扶け、敵を討つ。

 すなわち護国と護民を果たすこと。

 その盟約を以て、私はこの国の民たることを赦されているのだからな」 

 

 サージャ・アヤナミはそう断じた。

 

「なあ、ノヴゴロド、

 古来より武人や軍人の類はこれをこそ喜ぶものだろう? まさに本懐というやつだ。

 少なくとも私が読んできた古今の書物にはそう記されていたし、それにあれだ。先程言ったように、ネルフ本部のある極東の島国のインターネットの、数多ある少年少女向け小説にもそのように記されているようだ。少年少女が色々やらかしつつ、苦難に挑み戦い、勝利を掴む。古今の物語の多くはそのようなものだ。

 最近はナローとも言うらしいな。だが、やはりチーニボウの方が舌に馴染む。思うに、これは案外、後世ではチェーホフと並んで評価されるのではないか? 

 つまり物語を思い、思う物語の如くに生きる。

 これぞまさに青春だろう。そうは思わんか?」 

 

「ツィガーニ、僕はその手の文化は知らないが、君はどうも何か致命的な誤解をしているように思う」

 

 士官がとうとうため息を発しだすのを愉快そうに聞きながら、左右のエヴァ野戦整備用超大型重機構造体が待機位置まで後退しているのを確認しつつ、サージャは答える。

 

「誤解でかまわん。私が人生を楽しめればそれで良いのだ」

 

 進路クリア。エヴァとJAヘヴィアーマーの全身に電力が注がれ、それをサージャの肉体の感覚は、活力として認識した。無論疲弊自体はあるが、それ以上の高揚がある。 

 

 イメージするまでもなく自然に、自らの足で歩むように、エヴァの恐るべき巨体が、右足を踏み出した。

 

 この巨人を我が身のごとく操ることに、彼女は完全に慣れていたのだ。シンクロスコアは問題ではない。自在かつ充分に操れることこそが至当であり、そしてそれは達成されている。

 

 エヴァの巨体を持ってしても度し難いほどに重い44センチ多砲身機関砲の重みすら、いまは愛しく思えるほどの高ぶりがあった。

 

 明らかに睡眠が足りていない心身状態が齎す高揚だ。

 

 しかし薬物性の高揚よりは遥かにマシだろう。それに、44センチの巨砲を好き放題に操る事に勝る高揚を与えるものが、この世にはたしてどれほどあるか、という疑問もあった。

 

 もう一歩、と思った刹那、不意に軍司令部側の通信回路越しに、何らかの慌ただしいやり取りがなされるような響きが音声データとなり、プラグ内のLCLを揺らした。やや遅れて、泡を食った司令部付士官の声が流れてくる。

 

「ツィガーニ、こちらノヴゴロド、まだ聞いているか?

 たった今、サンクトペテルブルク上空で警戒中のA-100から連絡が入った!

 西南西、12時の方向、おそらくは君と君のエヴァを目掛け、真正面から敵飛行型エヴァの大群が接近しつつある! ともかく位置データを回す!

 少なくとも50機以上、単機では不利だ!

 今、空軍で君を支援できる飛行隊がないか確認──」

 

 士官の言葉を聞きながら、彼女はモニタ上の戦術スクリーンのちずに新規表示された敵戦力の位置と速度を確認した。時速600~700キロといったところか? ならばここでぼんやりしているという選択肢はない。

 

 防空戦闘で陸軍同様に多忙を極める空軍とあれこれ話をつけている間に、あのシベリア蚊どもは、このエヴァを探知して殺到することだろう。

 

 そうだな。最大戦速で突っ込めば、ちょうどこの司令部の前方7キロ地点、前線部隊とこの司令部の中間地域、気象異常で沼沢地と化したあたりで会敵することになるだろうか。

 

 それなら、実に好都合だ。案外私は幸運だな。

 

「ノヴゴロド、まことに残念だが暇がない。それに単騎駆けは戦の華だろう?

 それに私が思うに、これらはおそらく都合がいいのだ。得体のしれぬ巨人とて、風車と思えば恐れるに足らん。私は征くぞ、ノヴゴロド。

 エヴァンゲリオン・ツィガーニ、吶喊する!」

 

「待て、ツィガーニ! ラ・マンチャの騎士の物語なら認識が逆──ああ、どうせ聞かないか、畜生、君の幸運を祈る!

 交信終了、以後はC4I主体とした映像戦術管制に移行する! 目視で随時状況を確認してくれ!」

 

 司令部との音声通信が終了した。

 

 今度こそ彼女のエヴァは左足を踏み出した。

 

 そのまま、大地へ脚を叩き込むようにして蹴る。

 

 そうして、大股で歩み始めた。

 

 右足。

 

 左足。

 

 右足。

 

 左足。

 

 正面に闇の黒、その中を無数の火線となってよぎる砲火、爆発の輝き。陣地を抜け、かつて人の住む場所であったビルや家の廃墟の只中を、彼女のエヴァは歩み、その歩みはまたたく間に加速し、ついに疾走となる。 

 

 その疾走もさらに疾く、大気を裂き轟音を放つ有様、地を走っているにも関わらず、もはや翔ぶが如き様相を呈していた。

 

 彼女は愛機を走らせながら、背中を意識する。

 

 背中に、もう一つ、心臓があるイメージ。

 

 彼女の全身から一度古び栄養を喪った血を吸い上げ、新たなエネルギーを得て蘇った、新鮮な血を送り出すもの。

 

 彼女の体の外側にある、けれど神経と血管でつながっている、恐ろしく剛い鋼の心臓。それが軋みを上げながら、恐るべき力で伸縮を開始するという認識を、彼女は後背に編み上げる。

 

「DDリアクター起動。

 重水素ペレット、投入。

 核融合用レーザー照射システム起動。

 疑似心室、拍動開始」

 

 機械が自動的に行うプロセスに、彼女の心の動きを添わせる。 

 

 この炉心は、機械だけでは機動しない。臨界維持に必要な圧力と熱量維持は、彼女がエヴァを介して炉内に展開する球状ATフィールドの存在が前提となっているのだ。

 

 虚ろの心臓に投じられた一粒の重水素燃料ペレットを、球状ATフィールドが包み込み、一瞬という言葉すら追いつかない速度で強烈に断熱圧縮した。

 

 ただそれだけで燃料ペレットの温度は数千万度にまで達したが、それでもなお、燃料ペレットは発火しない。核融合とは、それほど容易く起きるものではないのだ。

 

 故に、それを強引に燃やすためのさらなる熱量の投入が必要となる。

 

 そのための、点火用レーザー照射システムだ。

 

「点火(ザジガーニイ)!」 

 

 サージャの叫びに機械が呼応する。思考操縦は我が身を操るが如くであり、あまりにも事象は有機的に連動した。 

 

 ペレットを絞り上げていたATフィールドが消失し、次の瞬間、発振器から放たれたレーザーが、最早縮退の域にまで締め上げられたペレットを恐るべき熱出力で焼き始める。 

 

 さながら核弾頭の爆縮レンズにも似て、四方八方から射出された超高熱のレーザーが、重水素燃料ペレットを情け容赦なく炙りぬいた。 

 

 熱に耐えられず、物理法則に則って膨張しようとするペレットを、しかし再度展開した球状ATフィールドが、膨張を赦さずに、再び容赦なく元のサイズまで絞り上げる。

 

 そして再びフィールドが消失し、再び膨張しようとしたペレットに対し、再びレーザーが放たれる。 

 

 その超高速の、ヒトには認識することすら困難な高速の繰り返しは、敢えて例えるなら人外の速度で拍動する、心臓のメカニズムに似ていると言える。

 

 その類似性故に、ロシア支部の技術陣はこのエヴァンゲリオンのATフィールドを利用しての強引な燃料加熱プロセスを、『疑似心室』と名付けたのだ。 

 

 高熱高圧の地獄の中で、重水素同士が核融合反応を開始する前提となる温度と圧力の条件が完全に満たされ、原子核同士がとうとう融合を開始した。

 

 核融合反応に伴い、膨大な量の電荷を帯びた陽子、高熱の中性子とヘリウムが、融合した重水素から生成される。 

 

 それら全てが膨大な熱と光を解放しようと先程より遥かに強い力で膨張を開始した瞬間、再び炉内に重水素燃料ペレットが打ち込まれ、同時に球状ATフィールドが展開した。

 

 そして、再投入されたペレットもろとも、核融合反応で生み出された恐るべきエネルギィとヘリウム、中性子と陽子、その尽くを逃さずに再度絞り上げ、再縮退に至らしめる。   

 

 そして再びのフィールド消失とレーザー再照射。円環のごとく続くサイクル。心臓のごとく自然に、永劫に繰り返す煉獄の拍動。 

 

 そして、その煉獄のサイクルの中、一つの幻影のように、小さな恒常核融合プラズマの青白い火が、炉心中央で安定する。 

 

 球状ATフィールドの発生から逃れた、電荷を帯びた陽子が、炉心を取り巻くブランケットに受け止められ、直接電流へと変換されはじめた。 

 

 ブランケットは中性子をも吸収し、その放射線が外部に漏洩するのを抑止する。

 

 それと同時に、中性子とヘリウムが持つ膨大な熱エネルギーは炉心外部へと伝導され、高性能熱電素子により直接電力変換され、あるいは流体として過給器により取り込まれた空気を用いた熱膨張タービン式発電システムにより、これも尽く電力へと変換されていく。 

 

 冷却と発電用に圧縮空気を用いるというおよそ合理とは程遠い様式でありながら、その発電効率は実に80%に達し、その最大出力は巨大都市の一日の電力需要を満たしてなお、余りある域に達した。 

 

 脳と心臓を得られず、故に不要とみなされ蔑まれた、ジェットアローン。その予備パーツを利用して形成したエヴァンゲリオン用倍力装甲甲冑。 

 

 その甲冑に搭載される、N2リアクターの実現により不要とみなされ、ペテルブルク市内の核融合研究施設に放棄されるままになっていた、かつては未来の希望であったはずの球状トカマク式DD反応核融合炉。すなわちD2リアクター。 

 

 そして非公式にロシア支部へ送り込まれたナンバーレス、正規品とは規格が異なる、そして実のところは『決して奇跡を起こしえない』前提のもとで建造された各支部を欺瞞するための小細工の道具、正規品にして祭具たる番号付きに明白に劣る、番号も名も与えられていないエヴァンゲリオン。

 

 不要、廃棄物と見なされたものたちの三位が、己に与えられた境遇へと復讐するかの如く、遂に一体と成って動く。 

 

 それを操るは、ロシアというかつての大国を騙すために送り込まれた、アヤナミシリーズ初期ロット、最劣等のアヤナミレイであり、肉体は最もヒトに近く、しかしそうであるがゆえに、ヒトの心へ踏み入れぬ欠陥品。 

 

 そうだ。この身は欠陥品。 

 

 我が操るも欠陥、劣等、時代遅れと見なされた廃棄物であり、欠陥持ちの骨董品。あるいは脳も心臓も与えられなかった鋼の屍であったもの。そういうものの寄せ集めにすぎない。 

 

 だからこそサージャ・アヤナミは笑う。それが愉快でたまらないからだ。14才の少女の感性を、訓練と義務感と、彼女の趣味が歪めてしまい、このような歪んだ個性を得るに至った。それも愉快でたまらない。

 

 エヴァの全身を構築する筋肉が、そしてジェットアローン由来の各部動力機構が連動し、膨大な運動エネルギーを生み出して、機体を正規品たるエヴァのカタログスペックをも凌駕する速度で疾走させた。 

 

 市街であった地域を抜ける。 

 

 かつては森であり、野原であり、畑であった、今は無残なヘドロの沼沢地と変じた地域を、いかなる原理に拠るものか、彼女のエヴァは大地が鋼で出来ているかの如くに疾駆する。 

 

 すでにサージャ、彼女と同調したエヴァの両眼および機体各部センサー群は、接近する飛行型エヴァ、シベリア蚊の如く機首から赤い槍を生やした異形のエヴァの姿を捉えていた。

 

 助走は充分、敵は空。

 

 この大地は死に絶えた泥濘であろうとも、彼女と彼女のエヴァに取り、それは我が身を空に射出するに事足る鋼の大地となる。 

 

 機械じかけの重装甲に覆われた、エヴァの巨大なる右脚が、最後の踏み込みを行う。膝を屈し、刹那に恐るべき規模の動力を大腿に、脹脛に、くるぶしに、爪先に蓄え、そして。

 

「攻撃目標発見。

 エヴァンゲリオン・ツィガーニ、交戦開始(フォモルカ)!」

 

 サージャ・アヤナミ少尉の叫びと同時、右脚に蓄えられた力が刹那に解放された。

 

 与えられたその運動エネルギーはあまりにも膨大であり、故にツィガーニと称されたエヴァは、その巨体・その重量を思わせぬほどの瞬間的加速で持って、接近する敵性エヴァの群れを目掛け、宇宙を目指すが如き加速度で以て跳躍した。

 

 跳躍に至る最終加速により、ATフィールドに阻まれ断熱圧縮された大気は熱を帯びている。故に、赤外線帯域視覚をもつものには、エヴァンゲリオン・ツィガーニは、まばゆい発光体と見えるのだ。

 

 故に、その有様は、さながら地ではなく天へ堕ちる流星の如くであり、地上からもし眺めた者が居たならば、ヴォストーク8K72Kロケットと言うよりは、むしろ、『月世界旅行』という名の小説において、月を目指すために打ち上げられた有人砲弾をこそ、きっと想起させたことだろう。

 

 

続く

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