琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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いよいよ鬼退治を始めます。
能力者がいるし、原作とは違う展開になっていますが、ご了承ください。


9 いざ、鬼退治!

 一旦、女子達と落ち合った。

 男子達が出ている間、女子達は待機して、脱出手段や外への連絡方法を練る事になっている。

 何の気なしに持ってきたメガホンやマイクを渡すと、

 これがあれば近所に声が届くかも、と話し合い始めた。

 タブレットは、女子達に預けた。

 男子達が出ている間に、襲われたらまずいからだ。

 

 キーン コーン カーン コーン

 

 響いてきたチャイムの音が、そのまま戦闘開始の合図になった。

 皆が固唾を呑んで見守る中、タブレットの画面に、「鬼」の表示が加わった。

 3階、南廊下、体育館横、西棟1階男子トイレ内。

 2階、理科室前、2階4年3組教室内、校舎中庭。

 3階、5年2組教室前。

 2階、音楽室校庭体育倉庫前×2。

 

「一気に湧き過ぎだろうがっ!」

「……」

 和也が悲鳴を上げる中、狼王は冷静だ。

 今にも斧を出そうとしている。

「先生、あっちから来るっ!」

 つい今し方までいた体育倉庫の顔に、2匹の鬼が現れていた。

 牛鬼が1匹と、また別の奴。

 角が生えているが、見た目は人間に似ている。

 やたら太ったまんまるな体で、腹がでっぷりと突き出している。

 ごはん、ごはん、と喚き立てている。

「……あれは、餓鬼かな」

「餓鬼?」

 葵が冷静に解説する。

「餓鬼は生前に贅沢をした鬼が生まれ変わった鬼よ。

 常に食べ物に飢えていて、普通は、ガリガリにやせ細った姿をしているものなんだけど……。

 あの餓鬼は、メタボね。地獄も飽食の時代、って奴なんだわ」

(中性脂肪の採り過ぎには注意しなきゃだね)

ごはぁんんんんんっっ!

 餓鬼は子供達を見つけると、ずしずしとこっちへ向けて走ってきた。

 動きは鈍いが、突進力がある。

お前ら、散れっ! 作戦通りに動け!

 叫ぶと、荒木先生は餓鬼に突っ込んでいった。

 バットを剣のように構えると、ふっと一呼吸。

 餓鬼がぶんっと腕を振り下ろすのをかわしざま、胴にバットを叩き込んだ。

 バランスを崩した餓鬼が、地面へひっくり返る。

 太りすぎて起き上がれないのか、足をバタバタ動かしている。

「今だ! 捕獲班! ネットだっ!」

「おっす!」

 バサッ、と大きな網が翻って、ひっくり返ったままの餓鬼を覆った。

 体育倉庫にしまわれていた、障害物競走用のネットだった。

 四方をペグで打ちつけてあっという間に固定する。

「一丁上がり!」

「これも頼む!」

 先生の足下に、牛鬼がひっくり返っていた。

 さっすが、と有栖が手を叩く。

 先生は振り抜いたバットを腰に戻すと、剣道の試合のようにお辞儀してみせた。

 ムカデ競技用の紐が、何本も宙を飛んだ。

 前右脚、後ろ左脚……たくさんの輪っかが、牛鬼の脚にバラバラに嵌った。

 逆側を引っ張って、地面に固定する。

 障害物用のネットとムカデ用の紐で、餓鬼と牛鬼は校庭に繋ぎ留められた。

 

「運動会の日になんて出てくるから、こういう事になるんだっつーの! 準備係、舐めんなっ!」

「二人で障害物競走とムカデ競走でもしてろっ!」

 ピュイッと誰かが口笛を吹いた。

「大玉転がし、したきゃさせてやるぜっ!」

「お前ら、怪我はないかっ?」

「よーしっ!」

「大丈夫!」

「ゼロッ!」

「それじゃ、行くぞ! はぐれるな!」

 一同は荒木先生を先頭に、校舎の方へ向かっていった。

 大翔も続いた。

 昇降口に踏み込もうとしたところで、次の奴らが出てきた。

 マヌケな面、あのオンチ鬼2匹だ。

 今度は『ハト』を歌っている。

 レパートリー豊富な奴らだ。

「お前ら、無理するな! 一旦下がれ!」

「だいじょーぶ! 全員、せんせーと章吾と有栖を援護っ!」

ポッポッポォッ! 鳩ポッポォ! まぁめがほしいか

「「「「そっらやっるぞおおおーっ!」」」」

 全員で叫ぶと、持っていた物を投げ始めた。

 サッカーボールが飛んだ。

 バレーボールが飛んだ。

 フラフープも飛んだ。

 ともかく色々飛んだ。

 突っ込んできた牛鬼が、雨霰と受けて怯んだ。

 ピコピコハンマーがピコッと音を立てて行った。

みっんなをなっかよく食っべたっいようううっ!

「はぁぁっ!」

 有栖が念力を操り、牛鬼の動きを一時的に止める。

「やったれ、章吾!」

「我らがエースっ!」

「我が双子の弟!」

「……やれやれ」

 皆の声援を受け、章吾が進み出る。

 突っ込んでくる牛鬼へ向けて、ぐっとバットを構えた。

「9回裏!」

「ツーストライク、ツーアウト!」

「そこからのぉー」

「――奇跡の逆転サヨナラホームランッ!」

 よく分からない皆の掛け声を背に、綺麗にフルスイングする。

 クリーンヒット、ホームラン。

 ぶっ叩かれて、どさりと牛鬼がひっくり返った。

 ふん、と章吾が得意そうに笑った。

 章吾がみんなと一緒に笑うところなんて、大翔は初めて見た気がした。

「――危ないっ!」

 大翔はとっさにスコップを振るった。

 章吾の背中に伸びた牛鬼の脚を、寸でのところで打ちつける。

「早く捕獲っ!」

「こっちもーっ!」

 素早く地面に固定され、2匹の牛鬼が捕まった。

 長縄の縄で両方の脚同士を結び付けてやると、

 牛鬼達は迷惑そうに目玉をぎょろぎょろさせて、『蛍の光』を歌い始めた。

 

「これぞ、金谷流鬼捕獲術!」

「……くそ。詰めが甘かったか」

 有栖が胸を張る中、章吾は大翔をじっと見やると、悔しそうに唇を噛んだ。

「借りは返すからな」

「……待ってるぜ」

 

「中庭から行くぞ!」

 先生が叫んだ。

 昇降口を抜けると、一同は中庭に雪崩れ込んだ。

 凹の字をした校舎の北側、桜ヶ島小学校中庭。

 三方をすっぽりと校舎に囲まれた中庭は、普段はみんなの遊び場だった。

 一面芝生で覆われた地面。

 真ん中には大きな木が生えていて、その周りを花壇が囲んでいる。

 先生や生徒達が植えた、たくさんの花が咲き誇っている。

 中庭は、ひっそりと静まり返っていた。

「いないのか……?」

 皆は庭の中に踏み込んでいくと、きょろきょろと周りを見回した。

 大翔は、木の脇の地面に、赤銅色の何かが突き刺さっているのに気づいた。

(あれは、もしかして……)

 

「お、おい……」

 と、誰かが息を呑む音が聞こえた。

 木の向こうにある、聳えていた何かが、ゆらりと音もなく、立ち上がったのだ。

「いけない……」

 隣で悠が呟いた。

 その顔は、真っ青になっている。

 見上げるように大きな化け物が立っていた。

 牛の頭部に漆黒の兜。

 2本の角が、天を突くように伸びていた。

 巨大な体に、これも真っ黒な鎧を身に纏っている。

 腰には戦利品のように括りつけられた無数の髑髏。

 丸太のように太い腕が体の横にぶら下がっている。

 

「ご、牛頭鬼だ……」

 震える声で、悠が呟いた。

 地獄の獄卒のリーダーは、虚ろな穴の奥のガラス玉のような瞳で、囲んだ皆を睨みつけた。

「逃げて!」

 悠が叫んだ。

 迷いのない、明確な指示だった。

 じりじりと牛頭鬼を睨んでいた皆は、顔を見合わせた。

「みんな、逃げて! 今すぐここから離れるんだ!」

 牛頭鬼が吠えた。

 天に向けて、一声。

 ビリビリと、空気が震えた。

 生徒達は、その一声で……動けなくなった。

 この世のものとは思えない雄たけびに、全身が竦み上がった。

「お前ら、逃げろ! 撤退だ!」

 青い顔で荒木先生が叫んだ。

 それでも、皆は動けない。

 ゆったりとした足取りで、牛頭鬼が近づいてくる。

 

「だから、アタシ達が来たって言ったじゃない」

「覚悟しろ、牛頭鬼」

 その時、織美亜と狼王が牛頭鬼の前に転移した。

 狼王の手には、戦斧が握られていて、織美亜の手は光を纏っていた。

「No.6……No.8……!」

 悠の「予知」を聞いた時、織美亜と狼王は力を温存していた。

 ボス鬼が出るのを想定していたからである。

 結果は予想通りだった。

 能力者はボス鬼と戦うために、雑魚鬼と戦わなかったのだ。

「一つ、任務は出来る限り遂行すべし」

「二つ、人喰い鬼は滅ぼすべし」

「三つ、能力の乱用は控えるべし」

 織美亜と狼王は、殺鬼軍心得三箇条を言った。

 普段は能力を使わず、いざという時に能力を使うのが、殺鬼軍エージェントの心得なのだ。

「……後はオレに任せろ!」

「牛頭鬼! アナタの相手はアタシよ!」

「あ、ありがとう!」

 織美亜と狼王に見送られながら、一同は大急ぎでその場を立ち去っていった。

 

 牛頭鬼はのそのそと動きながら、織美亜と狼王を追いかける。

「はぁぁぁぁっ!」

―ガキィィィィィン!

 狼王は力を溜め、牛頭鬼に向けて斧を振り下ろす。

 だが、牛頭鬼は太い両腕で斧を受け止め、一度距離を取った後、狼王を拳で殴った。

「ぐあぁっ!」

「ヒーリング!」

 出血したところに織美亜が近づき、「治癒」の能力で傷を癒す。

 狼王は「力」の能力による強い腕力で牛頭鬼の頭を思いっきり殴った。

 おかげで牛頭鬼にダメージを与える事ができたが、それでも牛頭鬼が倒れる気配はない。

 牛頭鬼は太い腕で織美亜と狼王に攻撃を仕掛ける。

 二人は攻撃をかわし、再び能力を使って攻撃した。

(……想像以上にタフね)

 牛頭鬼は、織美亜の想像以上に体力が高かった。

 同じ事の繰り返しになると察知した織美亜は、額に脂汗を掻きながらこう言った。

 

「……一旦、撤退するわよ」

「ああ……」

 

 能力者すらも、逃げざるを得ない強敵。

 大翔達は、絶望した。




いくら能力者でも、逃げざるを得ない時はあるのです。
特殊な力を持っても、能力者は人間なのですから。

次回は鬼ごっこの起源を調査します。
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