能力者がいるし、原作とは違う展開になっていますが、ご了承ください。
一旦、女子達と落ち合った。
男子達が出ている間、女子達は待機して、脱出手段や外への連絡方法を練る事になっている。
何の気なしに持ってきたメガホンやマイクを渡すと、
これがあれば近所に声が届くかも、と話し合い始めた。
タブレットは、女子達に預けた。
男子達が出ている間に、襲われたらまずいからだ。
キーン コーン カーン コーン
響いてきたチャイムの音が、そのまま戦闘開始の合図になった。
皆が固唾を呑んで見守る中、タブレットの画面に、「鬼」の表示が加わった。
3階、南廊下、体育館横、西棟1階男子トイレ内。
2階、理科室前、2階4年3組教室内、校舎中庭。
3階、5年2組教室前。
2階、音楽室校庭体育倉庫前×2。
「一気に湧き過ぎだろうがっ!」
「……」
和也が悲鳴を上げる中、狼王は冷静だ。
今にも斧を出そうとしている。
「先生、あっちから来るっ!」
つい今し方までいた体育倉庫の顔に、2匹の鬼が現れていた。
牛鬼が1匹と、また別の奴。
角が生えているが、見た目は人間に似ている。
やたら太ったまんまるな体で、腹がでっぷりと突き出している。
ごはん、ごはん、と喚き立てている。
「……あれは、餓鬼かな」
「餓鬼?」
葵が冷静に解説する。
「餓鬼は生前に贅沢をした鬼が生まれ変わった鬼よ。
常に食べ物に飢えていて、普通は、ガリガリにやせ細った姿をしているものなんだけど……。
あの餓鬼は、メタボね。地獄も飽食の時代、って奴なんだわ」
(中性脂肪の採り過ぎには注意しなきゃだね)
『ごはぁんんんんんっっ!』
餓鬼は子供達を見つけると、ずしずしとこっちへ向けて走ってきた。
動きは鈍いが、突進力がある。
「お前ら、散れっ! 作戦通りに動け!」
叫ぶと、荒木先生は餓鬼に突っ込んでいった。
バットを剣のように構えると、ふっと一呼吸。
餓鬼がぶんっと腕を振り下ろすのをかわしざま、胴にバットを叩き込んだ。
バランスを崩した餓鬼が、地面へひっくり返る。
太りすぎて起き上がれないのか、足をバタバタ動かしている。
「今だ! 捕獲班! ネットだっ!」
「おっす!」
バサッ、と大きな網が翻って、ひっくり返ったままの餓鬼を覆った。
体育倉庫にしまわれていた、障害物競走用のネットだった。
四方をペグで打ちつけてあっという間に固定する。
「一丁上がり!」
「これも頼む!」
先生の足下に、牛鬼がひっくり返っていた。
さっすが、と有栖が手を叩く。
先生は振り抜いたバットを腰に戻すと、剣道の試合のようにお辞儀してみせた。
ムカデ競技用の紐が、何本も宙を飛んだ。
前右脚、後ろ左脚……たくさんの輪っかが、牛鬼の脚にバラバラに嵌った。
逆側を引っ張って、地面に固定する。
障害物用のネットとムカデ用の紐で、餓鬼と牛鬼は校庭に繋ぎ留められた。
「運動会の日になんて出てくるから、こういう事になるんだっつーの! 準備係、舐めんなっ!」
「二人で障害物競走とムカデ競走でもしてろっ!」
ピュイッと誰かが口笛を吹いた。
「大玉転がし、したきゃさせてやるぜっ!」
「お前ら、怪我はないかっ?」
「よーしっ!」
「大丈夫!」
「ゼロッ!」
「それじゃ、行くぞ! はぐれるな!」
一同は荒木先生を先頭に、校舎の方へ向かっていった。
大翔も続いた。
昇降口に踏み込もうとしたところで、次の奴らが出てきた。
マヌケな面、あのオンチ鬼2匹だ。
今度は『ハト』を歌っている。
レパートリー豊富な奴らだ。
「お前ら、無理するな! 一旦下がれ!」
「だいじょーぶ! 全員、せんせーと章吾と有栖を援護っ!」
『ポッポッポォッ! 鳩ポッポォ! まぁめがほしいか』
「「「「そっらやっるぞおおおーっ!」」」」
全員で叫ぶと、持っていた物を投げ始めた。
サッカーボールが飛んだ。
バレーボールが飛んだ。
フラフープも飛んだ。
ともかく色々飛んだ。
突っ込んできた牛鬼が、雨霰と受けて怯んだ。
ピコピコハンマーがピコッと音を立てて行った。
『みっんなをなっかよく食っべたっいようううっ!』
「はぁぁっ!」
有栖が念力を操り、牛鬼の動きを一時的に止める。
「やったれ、章吾!」
「我らがエースっ!」
「我が双子の弟!」
「……やれやれ」
皆の声援を受け、章吾が進み出る。
突っ込んでくる牛鬼へ向けて、ぐっとバットを構えた。
「9回裏!」
「ツーストライク、ツーアウト!」
「そこからのぉー」
「――奇跡の逆転サヨナラホームランッ!」
よく分からない皆の掛け声を背に、綺麗にフルスイングする。
クリーンヒット、ホームラン。
ぶっ叩かれて、どさりと牛鬼がひっくり返った。
ふん、と章吾が得意そうに笑った。
章吾がみんなと一緒に笑うところなんて、大翔は初めて見た気がした。
「――危ないっ!」
大翔はとっさにスコップを振るった。
章吾の背中に伸びた牛鬼の脚を、寸でのところで打ちつける。
「早く捕獲っ!」
「こっちもーっ!」
素早く地面に固定され、2匹の牛鬼が捕まった。
長縄の縄で両方の脚同士を結び付けてやると、
牛鬼達は迷惑そうに目玉をぎょろぎょろさせて、『蛍の光』を歌い始めた。
「これぞ、金谷流鬼捕獲術!」
「……くそ。詰めが甘かったか」
有栖が胸を張る中、章吾は大翔をじっと見やると、悔しそうに唇を噛んだ。
「借りは返すからな」
「……待ってるぜ」
「中庭から行くぞ!」
先生が叫んだ。
昇降口を抜けると、一同は中庭に雪崩れ込んだ。
凹の字をした校舎の北側、桜ヶ島小学校中庭。
三方をすっぽりと校舎に囲まれた中庭は、普段はみんなの遊び場だった。
一面芝生で覆われた地面。
真ん中には大きな木が生えていて、その周りを花壇が囲んでいる。
先生や生徒達が植えた、たくさんの花が咲き誇っている。
中庭は、ひっそりと静まり返っていた。
「いないのか……?」
皆は庭の中に踏み込んでいくと、きょろきょろと周りを見回した。
大翔は、木の脇の地面に、赤銅色の何かが突き刺さっているのに気づいた。
(あれは、もしかして……)
「お、おい……」
と、誰かが息を呑む音が聞こえた。
木の向こうにある、聳えていた何かが、ゆらりと音もなく、立ち上がったのだ。
「いけない……」
隣で悠が呟いた。
その顔は、真っ青になっている。
見上げるように大きな化け物が立っていた。
牛の頭部に漆黒の兜。
2本の角が、天を突くように伸びていた。
巨大な体に、これも真っ黒な鎧を身に纏っている。
腰には戦利品のように括りつけられた無数の髑髏。
丸太のように太い腕が体の横にぶら下がっている。
「ご、牛頭鬼だ……」
震える声で、悠が呟いた。
地獄の獄卒のリーダーは、虚ろな穴の奥のガラス玉のような瞳で、囲んだ皆を睨みつけた。
「逃げて!」
悠が叫んだ。
迷いのない、明確な指示だった。
じりじりと牛頭鬼を睨んでいた皆は、顔を見合わせた。
「みんな、逃げて! 今すぐここから離れるんだ!」
牛頭鬼が吠えた。
天に向けて、一声。
ビリビリと、空気が震えた。
生徒達は、その一声で……動けなくなった。
この世のものとは思えない雄たけびに、全身が竦み上がった。
「お前ら、逃げろ! 撤退だ!」
青い顔で荒木先生が叫んだ。
それでも、皆は動けない。
ゆったりとした足取りで、牛頭鬼が近づいてくる。
「だから、アタシ達が来たって言ったじゃない」
「覚悟しろ、牛頭鬼」
その時、織美亜と狼王が牛頭鬼の前に転移した。
狼王の手には、戦斧が握られていて、織美亜の手は光を纏っていた。
「No.6……No.8……!」
悠の「予知」を聞いた時、織美亜と狼王は力を温存していた。
ボス鬼が出るのを想定していたからである。
結果は予想通りだった。
能力者はボス鬼と戦うために、雑魚鬼と戦わなかったのだ。
「一つ、任務は出来る限り遂行すべし」
「二つ、人喰い鬼は滅ぼすべし」
「三つ、能力の乱用は控えるべし」
織美亜と狼王は、殺鬼軍心得三箇条を言った。
普段は能力を使わず、いざという時に能力を使うのが、殺鬼軍エージェントの心得なのだ。
「……後はオレに任せろ!」
「牛頭鬼! アナタの相手はアタシよ!」
「あ、ありがとう!」
織美亜と狼王に見送られながら、一同は大急ぎでその場を立ち去っていった。
牛頭鬼はのそのそと動きながら、織美亜と狼王を追いかける。
「はぁぁぁぁっ!」
―ガキィィィィィン!
狼王は力を溜め、牛頭鬼に向けて斧を振り下ろす。
だが、牛頭鬼は太い両腕で斧を受け止め、一度距離を取った後、狼王を拳で殴った。
「ぐあぁっ!」
「ヒーリング!」
出血したところに織美亜が近づき、「治癒」の能力で傷を癒す。
狼王は「力」の能力による強い腕力で牛頭鬼の頭を思いっきり殴った。
おかげで牛頭鬼にダメージを与える事ができたが、それでも牛頭鬼が倒れる気配はない。
牛頭鬼は太い腕で織美亜と狼王に攻撃を仕掛ける。
二人は攻撃をかわし、再び能力を使って攻撃した。
(……想像以上にタフね)
牛頭鬼は、織美亜の想像以上に体力が高かった。
同じ事の繰り返しになると察知した織美亜は、額に脂汗を掻きながらこう言った。
「……一旦、撤退するわよ」
「ああ……」
能力者すらも、逃げざるを得ない強敵。
大翔達は、絶望した。
いくら能力者でも、逃げざるを得ない時はあるのです。
特殊な力を持っても、能力者は人間なのですから。
次回は鬼ごっこの起源を調査します。