琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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鬼ごっこの起源についてを調査します。
自然災害や流行病、それは避けられない災い。
昔の国はどういう方法で例えたのか、その違いが分かります。


10 ことろことろ

 能力者であっても牛頭鬼を倒す事はできなかった。

 学校はまだ地獄のままだ。

 しかも、鬼は増え続けている。

 葵はタブレットの画面を示した。

 3階建ての校舎の各階を、何匹もの鬼の字が動き回っていた。

 その数は、とっくに子供達の数を上回っていた。

 廊下を悠々と往復し、逃げようとする子供がいないか監視している鬼。

 教室に無数の針を植えつけて、校舎を針地獄に改造しようとしている。

「能力者は、万能じゃない……」

 荒木先生が呟く。

 いくら超能力を使える者でも、エージェントは人間である。

 キリがない敵と戦い続ければ、身が持たないだろう。

さあ、桜ヶ島小のガキんちょのみんな! お待ちかね!

 鬼さんダーツの旅の時間だぜええええっ!

 スピーカーからツノウサギの声が響き渡った。

オレ達鬼さんが、校内に隠れてるみんなを捕まえて食べにいくこの企画!

 楽しんでくれているかな? 今度の鬼さんの旅先は……HEY! 家庭科室だZE!

 隠れてるガキんちょ君、いっるかな!? 今、食いに行くから待っててねえ!

 遠くで、慌てふためく子供の悲鳴と、走る足音が響いた。

 ツノウサギは楽しそうに、キャキャキャと笑い転げている。

 ……もう、学校は自分達の場所じゃない。

 桜ヶ島小学校は、鬼の手に落ちたのだ。

 

「……今が限界よ」

 スピーカーを睨みつけ、タブレットの画面に目を落とすと、葵が言った。

「……手遅れになる前に、学校から逃げ出さないと。あなた達は戦えるわよね?」

「ええ」

「じゃ、援護をお願い」

 葵は織美亜と狼王に援護を頼んだ。

「……だが、外には出られないぞ?」

 荒木先生が言うと、葵は首を振った。

「校門からなら出られるわ」

「校門も閉まっていたぞ?」

「閉まってるものは、開けるためにあるって思わない?」

「確かに」

「あたしの計画はシンプルよ。

 1、校門の錠前のカギを探す。2、カギで校門を開く。3、校門から外へ逃げ出す」

 葵はニヤリと笑った。

「完璧なプランでしょ?」

「……うん。ほんと、完璧だねぇ……。ははは」

「はっはっは、宮原らしい計画だな!」

 悠は口元を引きつらせ、荒木先生は大笑いした。

「まぁ、やるしかないけどさ」

 大翔は開き直ったように肩を竦めて、笑った。

「まあ、肝心のカギがどこにあるか、分からないんだけどね」

「カギ。カギか。あれ? なんか、どこかで見かけたような……」

「大翔はどう思う?」

 葵が声をかけたが、大翔は振り向かなかった。

「大翔。……ちょっと、大翔ってば。さっきからだんまりじゃない。何か言ってよ」

 じれた様子で、葵が足を踏み出した。

 ふと、気づいた様子で立ち止まった。

 ぐるりと部屋を見回した。

 探し物をするように顔を巡らせて、部屋の中を歩き回り始める。

「どうしたの、アオイ?」

「……ずっと気になってた事、思い出したの」

「気になってた事?」

「うん。教室で、黒板のルールを読んでから、ずっと気になってたの」

「ルールだと?」

「『あ』、『い』、『う』、『え』……あった、『お』の段。

 本は人類の知恵の実なり。あたしの好きな言葉よ」

 ようやく、大翔は顔を上げた。

 それで初めて、この部屋が、図書室である事に気がついた。

 東棟3階。

 桜ヶ島小学校図書室は、絵本から百科事典までたくさんの本が揃えられた、本の要塞だ。

 本好きな司書の先生が、色んな本を入れてくれている。

 ずらりと並んだ書架の一つ一つに、ぎっしりと並べられた本の数々。

 並んだ本の背表紙を、葵は食いいるように見つめていた。

 

「……あったわ」

 棚から抜き出したのは、臙脂色の表紙の本だった。

 高学年向けの資料本だ。

 社会の調べ物学習でしか借りられなそうなもの。

 時代がかった筆文字で、表紙にタイトルが書かれている。

 

『鬼ごっこの歴史』

 

「……ずっと気になってたの」

 本のページをぱらぱらとめくりながら葵が呟いた。

「何を?」

「どうして、『ことろことろ』なんだろう、って」

 後ろからページを覗き込んでいた悠が、ぱちぱちと瞬きをした。

「……ことろことろ?」

「黒板に書いてあったじゃない? 『ことろことろのルール』、って。

『鬼ごっこのルール』、じゃなく」

「……そういえば」

 確かにそうだった。

 黒板には、ことろことろのルールと書かれていた。

 内容が鬼ごっこの事だったし、あのパニックの中で、そんな細かい事を忘れてしまっていた。

「あえてそう書かれてたって事は、何か意味があると思うのよね」

 葵はページをめくりながら続けた。

「鬼ごっこではなく、ことろことろである意味。

 ……ひょっとしたら、この事態を打開するヒントが、そこにあるかもしれない」

 ぱらぱらとページをめくっていた手が、止まった。

 まじまじと覗き込んだ。

 ふふっと得意そうに笑うと、ばっと本を広げてみせた。

 

「……ビンゴ」

 広げられたページには、こう書かれていた。

 

 ことろことろについて。

 ことろことろとは、現代の鬼ごっこの元となった、最古の鬼ごっことされる遊びである。

 

 『鬼ごっこの歴史』より抜粋

 

 小さな子供が成長して、最初に覚える遊びは、なんだろう。

 色々な遊びがある中で、鬼ごっこほど明快なものはないだろう。

 逃げる、追いかける……たったそれだけのシンプルな動作で、

 この遊びは日本全国で長く親しまれてきた。

 そんな鬼ごっこだが、その起源は意外に知られていない。

 鬼ごっこの起源は古く、平安時代に五穀豊穣を願うために行われていた宮中行事だ。

 「鬼事」というそれが遊びとなったものが、最古の鬼ごっこだと考えられている。

 名称は「鬼ごっこ」ではなく、「ことろことろ(子を捕ろ子捕ろ)」と呼ばれていた。

 

 「ことろことろ」のルールは、現代の鬼ごっことは少し違っている。

 「鬼」が「子」を捕まえるというところは同じなのだが、

 「鬼」と「子」以外に、もう一つ役が存在し、それが遊びを違ったものにしているのだ。

 その役は、「親」である。

 親は両手を広げて、子供達を鬼から守る。

 それによって、鬼は簡単に子を捕まえる事ができなくなる。

 鬼が苦手とするのが、子を守る親の存在なのだ。

 

 何故こうした遊びとなったのかは分かっていない。

 だが、一般的に「鬼」というものは、

 人々にとっての災厄や困難を表す象徴として語られるものだ。

 鬼という災厄に、親と子が協力して立ち向かう。

 人々は、この遊びを通して、親子の絆の大切さを、伝え残そうとしたのではないだろうか。

 

「鬼ごっことは、そんな昔からあったんだな……」

「琉球王国だった時代に、あったのね」

「ふん、鬼ごっこで災いを乗り越えるのか。

 ここではそうかもしれないが、違う国ではそうでないかもしれない」

「どういう事?」

「日本では、災厄や困難を鬼のせいにして、人が協力して立ち向かうんだろう?

 だが、外国、特にヨーロッパでは悪魔と契約した魔女の仕業とされて、

 数多くの力なき人が処刑されたんだ」

「うぅ……」

 狼王の呟きは、悠に軽い吐き気を催した。

 災いを何かのせいにするところは日本も西洋も変わらないが、

 そもそも宗教が違うと考えも変わるのだ。

 まぁ、ここでは宗教の事は明かさないが。

「ことろことろは、子を捕ろ子捕ろ、か。漢字にするとなかなかエグいわね」

 本から顔を上げると、悠、葵、荒木先生は感想を漏らした。

「そういえば、黒板にもあったね。『親は、子供を守らなければならない』って。

 あれが、ことろことろのルールだったんだ」

「俺達親が、鬼から子供を守るのは、感動だよな」

「時代を経て、ルールが変わっていって、今の鬼ごっこになったって事ね。

 昔の人達は、今よりも、親子の絆をとても大切なものだと考えていたのかもね……」

「ああ、身に染みるよ」

 親として、荒木先生は感動しているようだ。

 学校を脱出し、平穏な日常を取り戻す。

 それが、大翔達に与えられた『指令(ミッション)』だった。




私が思うに、災いに対する教訓は「人のふり見て我がふり直せ」だと思います。
誰かのせいにしないで、まずは自分から反省せよ、と。
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