琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

12 / 89
鬼から逃げるための作戦を考えます。
原作とルートを変えているので、そこら辺の辻褄合わせに少し苦労しました。


11 脱出作戦

「脱出しましょう」

 本を閉じると、葵は五人に頷きかけた。

「このままここにいても、どうしようもないわ。隠れてるみんなと合流しましょう。

 力を合わせて、学校から抜け出すの」

「うん!」

「ああ!」

「ええ!」

 悠、荒木先生、織美亜が頷いた。

「……ムリだよ」

「無理ではない。消耗しているとはいえ、能力者がいるんだぞ?」

「それはそうだけど、カギがなければ、校門は開かないんだろ?」

「だから、まず探そうって言ってるんじゃない」

「場所は分かってる。俺、見たんだ、カギ。……多分、あれが校門のカギだ」

「なんだ」

 葵は、ほっと胸を撫で下ろした。

 得意そうにピンと指を立てた。

「それなら話は簡単ね。今すぐ、取りに――」

「あの鬼の! 牛頭鬼のいる中庭の地面に! 刺さってるのを見たんだよ!」

「……はぁ」

 堪え切れずに、大翔は叫んだ。

 悠が青い顔をして黙り込み、ごくりと唾を呑む。

 葵は難しい顔をして腕を組んだ。

 荒木先生はふむぅ、と唸り、織美亜と狼王は溜息をつく。

 牛頭鬼と戦ったが、撤退したからだ。

「……それはちょっと、厄介そうね」

「厄介とかいう話じゃない! 葵はあいつを見てないから、そんな事を言えるんだ!」

 もう声を抑えられなくて、大翔は叫んだ。

「あんな奴のいるところから、カギを奪えるわけない!

 あの二人でも歯が立たなかっただろ? ……ムリなんだよ」

「……それでも、まずはみんなと合流しましょう。

 隠れてる男子達に、鬼の位置、伝えてあげないと」

 怒鳴る大翔に、葵は冷静な声で応じた。

「このタブレットの情報が、今のあたし達の命綱なの。

 闇雲に動き回って鬼に捕まっちゃう子が出る前に、合流して情報を共有しないと」

「……」

「校庭の方も、もう安全じゃないの。

 女の子達も武器を持って頑張ってるけど、そんな鬼がいるならどうしようもないわ。

 一刻も早く、脱出しないと」

 葵は何気なくタブレットを見下ろし……。

 あっ、と声を上げた。

 

 タブレットの画面表示が、変わっていた。

 前面に乾電池のようなアイコンが表示されて、ちかちかと点滅している。

 

『バッテリーを充電してください。充電しない場合、まもなく電源が切れます』

 

「………次から次へと……」

 葵は舌打ちした。

「先に充電しないとダメね。充電器探しから始めないと」

「『雷鳴』の能力者、この場にいてほしかったわ」

「タブレットの傍にケーブルがあったぞ。まだ6年2組の教室にあると思うぞ」

 荒木先生が答えた。

 こういう時、荒木先生は頼りになる。

「なら、一旦教室へ戻りましょう」

「時間は、大丈夫かな……」

 チャイムの音は、ほぼ1時起きに鳴っている。

 次に鬼が追加されるまでに残された時間は、あと40分もない事になる。

 やる事はたくさんだ。

 6年2組の教室まで戻り、タブレットを充電する。

 校舎の中でバラバラになった男子達と合流する。

 中庭のカギを奪って、校門から逃げ出す。

 充電の時間なんて、ほんの少ししか取れない。

 校舎から出てしまえば、充電のためのコンセントもない。

 タブレットの電源が切れたまま、数の増えた鬼に襲われたら……。

「……なんかもう、頭で考えても仕方ないわね」

 もうどうにでもなれみたいに、葵が肩を竦めた。

「出たとこ勝負だわ。葵さん、腹くくりました」

 くすくすと悠が笑った。

「ガリ勉宮原が、そんな事言うの聞けるとはね」

「長生きはするもんだな」

「12年だけどねぇ」

 苦笑いだが、三人で笑い合った。

 

 顔をひきしめると、五人はドアへ向かった。

「さあ、行くぞ、大場」

「……俺は、いい」

 大翔は首を振った。

 すると、荒木先生は大声で怒鳴った。

このままここにいるのは愚策だと宮原が言ってるだろ!

 次のチャイムで、お前らは鬼に食われるんだぞ!

 俺はみんなに、誰も死んでほしくないんだ!

 それが、荒木先生の本心だった。

 生徒も能力者も、誰一人死なずに脱出する。

 先生らしい、力ある言葉だった。

「……荒木先生……俺……」

 荒木先生に助けられた大翔は、ゆっくりと立ち上がった。

 そして、悠、葵、織美亜、狼王と共に歩き出した。

 

 教卓の上には、電源タップとケーブルが、置かれたままになっていた。

 タブレットに繋ぎ、電源に差し込むと、充電中を示すアイコンが表示された。

 6年2組の教室。

 幸い、鬼はこの近くにはいないようだった。

 次のチャイムまでに残された時間は30分強。

 10分前には行動開始。

 それまでは充電を待つ事にして、四人とも黙って席につき、荒木先生は教卓の前に立つ。

 教室は、いつもと何一つ変わらない。

 それがなんだか、不思議な事のように思えた。

 訳もなく教科書を引っ張り出して開いてみると、以前描いたラクガキが目に飛び込んだ。

 また授業を受ける事ができたら、今度は真面目に聞こうと決めた。

 

「……ん?」

 ふと、大翔は違和感に気づいて、瞬きした。

 小さな違和感だった。

 最初は、何に引っかかったのか、自分でも分からないくらいだった。

 机は、いつも通りだ。

 隅っこに彫り傷がついている大翔の机。

 上でプリントに字を書こうとすると穴が開く。

 机の横には、掛け金がついている。

 そこに、靴袋がかけられている。

 

 何年か前に、母さんに買ってもらった靴袋だった。

 黒の生地に一点だけ、スポーツメーカーのロゴマークが入ったもの。

 それまで使っていたアニメ柄のものが、急に恥ずかしくなったから。

「何が気になるんだ?」

 自分に問いかけてみる。

 袋の紐が、いつもと違う。

 紐を締める時、大翔はいつも適当に引っ張っただけにしておく。

 いちいち結ぶの、面倒くさいから。

 大翔の母は、靴が転がり落ちないように、丁寧に結ぶ。

 ちゃんとしなさいと、大翔を注意する。

 

 今、袋の紐は、丁寧に結ばれているのだった。

 昨日、大翔は靴袋を玄関に出しておいた。

 ボロボロになったシューズを突っ込み、いつも通り、適当に紐を締めて。

 朝、出掛けに手に取ると、玄関を出た。

 紐の事なんて気にしなかったが、思い返すと、

 その時にはもうきちんと結ばれていたような気がする。

 

 大翔は靴袋を手に取ると、紐をほどいた。

 中身を取り出した。

 出てきたのは、真っ白なシューズだった。

 ぴかぴかの新品だ。

 見覚えがあった。

 以前、母とデパートに行った時に、大翔が気に入ってずっと見ていたものだ。

 物欲しそうに見ていたら、怒られた。

「そんなに高い靴、いらないでしょ」

 

(どうして、こんなものが入ってるんだろう?)

 靴袋から、ぽろっと何かが転がり出て床に落ちた。

 四角く折りたたまれた、紙切れだった。

 大翔は紙を拾い上げると、手の中で広げた。

 紙には、たった一文、こう書かれていた。

 

 ごめんね。

 

 ちょっと角ばった字。

 見慣れた字だった。

 家の中に溢れている。

 冷蔵庫に貼りつけられたホワイトボードに。

 壁掛けカレンダーに並んだマス目の中に。

 大翔の母の字だった。

 

「……大翔?」

 悠、葵、織美亜、狼王、荒木先生が不思議そうにこっちを見ている。

 視界が滲んだ。

 ぽろっと涙が頬を伝った。

 ぽろぽろ、ぽろぽろ、止まらなくて、雨が降ったように紙が濡れた。

 

 母が、買ってきてくれたんだ。

 喧嘩して、大翔が部屋に引っ込んだ後、街に飛び出して。

 もう遅い時、店は閉まりかけてただろうに、

 置いてる店だって多くなかっただろうに、何軒も店を走り回って。

 母が用意してくれたんだ。

 約束、守ろうとしてくれた。

(『母さんなんて、母さん失格だ』。俺、あんな事、言ったのに。俺のために)

 

 大翔は乱暴に涙を拭うと、履いていた靴を脱ぎ、真新しいシューズを床に置いた。

 右足を入れ、紐をぎゅっと結び付けた。

 左足を入れ、ぎゅっと結んだ。

 痛いくらいに。

 

 シューズはぴたりと足に合った。

 立ち上がると、葵と悠に力強く頷きかけた。

「……家に帰ろう」

 二人も強く頷き返した。

 もう時間だ。

 行かなくちゃいけない。

 

 6時間目のチャイムが鳴る。

 それが終われば、もう下校の時間だ。

 いつまでも学校に残ってたら、きっと荒木先生とかの先生に叱られる。

 きっと親達が心配してるから暗くなる前に帰ろう。

 

(家に帰ろう。帰って、母さんに謝らなくちゃ)




次回はいよいよ、鬼の看守との戦いです。
といっても、一般人である大翔達は基本的に逃げる事しかできませんが、能力者ならば……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。