有栖は、章吾をぐいぐい引っ張るキャラが欲しいし、
大翔にきょうだいはいるのに章吾にきょうだいがいないのは……と思ったので、作りました。
まあ、性格はいつも通りの私クオリティですが。
「僕は断然、優花ちゃん派だな~」
「オレは可愛い子より強い子が好みなんだよな。前から宮原、結構いいと思ってた」
「章吾は誰派?」
「……有栖にお前ら、何故。今恋バナなんだ……」
西棟2階、音楽準備室。
金谷章吾、金谷有栖、関本和也、伊藤孝司の四人は、
狭い部屋の中に潜んで……恋バナをしていた。
隣の音楽室では、鬼がのそのそと歩き回っている。
カギをかけたから入ってはこられないようだが、一向に出ていく気配がないので、
準備室に閉じ込められてしまった。
スピーカーから、時折、ツノウサギのはしゃぐ声が聞こえてくる。
有栖なら超能力で何とかできるだろうが、無闇に使えないので、身動きが取れなかった。
「章吾、何冷めてるのよ! 私達、ここで死んじゃうかもしれないのよ?」
悲痛げな顔で、有栖が言う。
「死んだら、恋バナはできないのよ?
今、好きな子の事を語らないで……いつ語るっていうのよ?」
流石に姉には逆らえないと、章吾は頭を抱えた。
「……どこからツッコんでいいかすら分からん……」
「こんな事になっちゃうなんて。こんな事なら、優花ちゃんに告白、しておくんだったわ。
好きだ、優花ちゃん、愛してる、って……。あ、私は女子だから無理ね」
「……そんなに生きて告白したけりゃ、ちっとは考えろ。あのカギを取る方法を」
章吾は、窓の向こう、眼下の中庭を指差した。
大きな金属棒が地面に突き刺さっている。
恐らく、あれが校門のカギだ。
その脇には牛頭鬼が腰を落ち着け動く気配がない。
地獄の檻のカギを守る番人だ。
あいつとまともに戦っても、能力者でなければ勝ち目はない。
何とか盗み取る方法を考えなきゃいけない。
「あ、忘れてたわ」
「何か考えはないか?」
「え?」
「……どうした?」
孝司と和也が驚いたようにじっと自分を見つめるので、章吾は眉を上げた。
「いや、なんというか。章吾が姉ちゃん以外に意見を聞くなんて、初めてだなーと思ってさ」
和也は準備室の中に転がっていたリコーダーをくるくると手の中で回しながら答えた。
そうだねー、と孝司は木琴を叩いている。
そんなぁ、と有栖は照れている。
こいつら、ぜってぇ状況を理解してねぇ、と章吾は危機感を覚える。
「…そうだったか?」
「うん。章吾って姉ちゃんだけに意見を聞く。姉ちゃん以外眼中にねぇって感じだったし。
ま、スカしたシスコンだって思ってた」
「僕らが遊ぼうと思っても、金谷くん、露骨につまんなそうだったしね」
「少なくとも俺はシスコンではないぞ……」
孝司と和也に口々に言われて、章吾は呆れてしまった。
「まあいいや。で、誰派なんだよ? 杉本? 宮原? それとも他の子? 教えろよ、章吾」
「バラさないから教えてよ、金谷くん」
「ね?」
「有栖、お前ら、そのお泊まり会の夜みたいなテンションやめろ」
「紳士ぶるなよ。どうせ死んじまうかもしれねえんだ。ゲロっちまえよ。好きな子の名前を」
「声を限りに叫ぶんだ。好きな子の名前を」
「死亡フラグになりそうね……」
その時、スピーカーからガタガタと物音が響いた。
四人は身構えた。
『なんだ、お前は! 何しにきた!』
ツノウサギの声が響き渡った。
放送室で、何かあったらしい。
言い争う声が聞こえる。
誰かが放送室に踏み込んだのだ。
相手の声は遠くて聞き取れない。
『ほう? 学校を取り返しにきた、だと? バカめ。
ひ弱な人間が、しかも女の子風情が、地獄の悪鬼たるこのオレ様の前で、
一体何ができると……って痛っ! やめてっ!
ラケットや斧で角、叩かないで! 痛い、痛いからっ!』
バキン、ドカンと音が響いた。
四人は顔を見合わせた。
音はしばらく続いて、治まった。
ツノウサギがぜぇぜぇ言うのが聞こえる。
「……ふ、ふん。セリフの途中で攻撃とは、いい度胸だ。
そういうルールやマナーの守れない人間の、行き着く先こそが地獄というわけだ。
ふふ、泣くがいい、叫ぶがいい。このオレ様が、貴様を地獄の業火で……あっ、やめて!
だから角、叩かないでっ! そこ凄く痛いからっ!」
バキン、ドカン、ガタンと音が響いた。
『えーっと……これがマイクかな? はろー。男子諸君、元気? 聞こえる?』
『いるー?』
ややあって、声が切り替わった。
スピーカーから響いてきたのは宮原葵の声だった。
『ツノウサギさんには、平和的な交渉の末、マイクを譲ってもらったわ。
これからしばらくあたしの放送を聞いてね』
「いやあぁんっ! 角を縛って吊り下げるの、やめてええっ! 痛いからぁっ!」
後ろでツノウサギの泣き声が聞こえるが、一切スルーし、葵は続ける。
『……さて、みんな。
今から、あたし、宮原葵と、大場大翔、桜井悠、荒木先生メインプレゼンツによる、
スペシャル競技、奇跡の脱出大作戦! を決行するから、みんなも参加してね。
脱出するわよ。全員で』
ピュウッと和也が口笛を吹いた。
『これからあたしが一人一人に指示を出します。みんなそれに従って、校舎を脱出してね。
1階事務室に隠れてる君。今からきっかり5分後に、南廊下へ抜けて昇降口から外へ出て。
次、2階3年2組の教室に隠れてる君。8分後。
部屋を出て、北階段から1階に降りて、昇降口に向かって。
4組の教室を通る時は、音を立てないように。ファイト』
流れるような口調で、葵はどんどんと各自の避難経路を告げていった。
章吾と有栖も舌を巻いた。
鬼の位置と子供達の位置を全部把握して、鉢合わせしないように指示を飛ばしている。
(葵ちゃん、流石は学年1位ね。凄い情報処理能力だわ。
でも、校舎を脱出できたところで、カギがなければ学校から出られないでしょ?
どうするのよ……)
有栖がそう考えていると、見下ろす中庭の入り口に、人影が現れた。
大翔、織美亜、狼王だ。
章吾と有栖は息を呑んだ。
大翔は、南廊下のガラス戸をくぐり、ゆっくりと中庭に足を踏み入れた。
織美亜と狼王も続く。
隠れる様子はない。
選手宣誓の挨拶をするように、堂々とだ。
(あいつら、一体何を……)
牛頭鬼が大翔、織美亜、狼王に気づき、のそりと立ち上がった。
威嚇するように吠えた。
あの、聞く者を竦み上がらせる雄たけびだ。
窓がビリビリと震えた。
章吾は震えを抑えつけ、有栖は超能力で防ぐ。
牛頭鬼がにじり寄るように三人の方へ歩いていく。
今度は大翔も、体が竦んでいなかった。
応じて、距離を取るようにじりじりと後ろへ下がった。
六人と一匹。
同時に、地面を蹴った。
背を向け、校舎の中へ走り始めた。
「……流石、大翔だわ。しかも、あの二人……強そうな雰囲気だったのに」
有栖は素直に呟いた。
鬼だらけの校舎の中、どうやって脱出ルートを確保するのか疑問だったが。
校舎内の鬼を引きつけて回るつもりらしい。
空っぽになった中庭に、きょろきょろしながら悠が出てきた。
荒木先生も生徒を見守りながらやってくる。
地面に突き刺さったカギをよいしょと引き抜くと、ぐいっと頭上に掲げてみせた。
校舎の中に隠れている皆に、よく見えるように。
得意げにピースした。
みんな、何となく、グーを出して答えた。
「――どうして僕だけチョキなんだあぁぁっ!」
叫びながら、一目散に逃げていった。
「……ったく。バカな奴ら」
「でも楽しそうじゃない」
言葉と逆に、章吾の顔は、何故だかニヤニヤしてきてしまった。
大翔はそういう人物なのだ。
運動会なんて、つまらないって思っていた。
有栖以外は早々に章吾のトップを受け入れて、金谷君には敵わないと笑うだけ。
いつも通り、退屈で、面白くない運動会になると思っていた。
彼だけが、負けまいと、章吾の背中を追ってきた。
(バカな奴。俺の方がずっと足速いのに。なのに、なんでだろ。
あいつが追っかけてくると、負けるかって思う。走ってて、初めて楽しいって思ったんだ)
「章吾……?」
『はい、皆さん! 脱出ルートは分かりましたか?』
葵の声が響いた。
『えー。では最後。音楽準備室にいる四人についてですが……』
「はいはいはーい、オレらでーす!」
和也がハイテンションで手を挙げる。
『三人については……テキトーに逃げてください! 死にゃーしない!』
「扱いがテキトーだあああ!!!」
「和也フラれたあああ!!!」
『以上、葵さんの校内放送でした! 後で会いましょ! グッドラーック!』
「あぁ!」
「愛が届かなかったあああ!!!」
ブツッと音を立てて、放送は切れた。
孝司と和也はおいおいと抱き合いながら、カスタネットとタンバリンを打ちまくっている。
章吾は拳を握り締めると、立ち上がった。
有栖もシンバルを持って、立ち上がった。
(大翔があのでかい鬼を相手にしてんのに、この俺がいつまでも隠れていられるかっつーの)
「行くわよ、あなた達! 私に続きなさい!」
「あっ、なんか金谷さんスイッチ入ってる! レア! レア!」
「もうどうでもいいよぉぉ。宮原酷いよぉぉぉ」
「後で残念会してやる! 今は行くぞ!」
「よし、行こう! 優花ちゃん、待っててくれ。僕は、僕は……」
「もうお前もフラれちまえよおおおぉぉ!」
楽器片手に、もうよく分からないテンションになって、恋バナ野郎達が立ち上がる。
鬼の待ち受けるドアに手をかけた。
「結局さあ!」
カギを開けた。
「章吾の好きな子は、誰なんだよおおおお!」
「それはなああ……。絶対、絶対、言うなよぉぉぉ……!」
バシンと準備室のドアを叩き開けた。
すぐ目の前に、凶悪な顔つきの鬼がいた。
「隣のクラスの、高橋彩矢ちゃんだああぁぁっ!」
「アヤヤあああァァァァァ!!!」
「アーヤヤぁ! アーヤヤぁっ!!!」
「彩矢ちゃん!!!」
好きな女の子の名を叫びながら、シンバルとタンバリンとカスタネット鳴らしつつ、
飛び出してきた男子三名と女子一名。
鬼はそんな四人と目が合うと……。
「ヒイイイッ!」
物凄い勢いで、逃げ出していった。
きっと、愛の力だ!
次回は牛頭鬼からの逃走劇です。
どんなに強い敵にも立ち向かう、そんな勇気を見る事ができるでしょう。