琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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地獄小学校編のクライマックスです。
有栖は、章吾をぐいぐい引っ張るキャラが欲しいし、
大翔にきょうだいはいるのに章吾にきょうだいがいないのは……と思ったので、作りました。
まあ、性格はいつも通りの私クオリティですが。


12 大脱走

「僕は断然、優花ちゃん派だな~」

「オレは可愛い子より強い子が好みなんだよな。前から宮原、結構いいと思ってた」

「章吾は誰派?」

「……有栖にお前ら、何故。今恋バナなんだ……」

 西棟2階、音楽準備室。

 金谷章吾、金谷有栖、関本和也、伊藤孝司の四人は、

 狭い部屋の中に潜んで……恋バナをしていた。

 隣の音楽室では、鬼がのそのそと歩き回っている。

 カギをかけたから入ってはこられないようだが、一向に出ていく気配がないので、

 準備室に閉じ込められてしまった。

 スピーカーから、時折、ツノウサギのはしゃぐ声が聞こえてくる。

 有栖なら超能力で何とかできるだろうが、無闇に使えないので、身動きが取れなかった。

「章吾、何冷めてるのよ! 私達、ここで死んじゃうかもしれないのよ?」

 悲痛げな顔で、有栖が言う。

「死んだら、恋バナはできないのよ?

 今、好きな子の事を語らないで……いつ語るっていうのよ?」

 流石に姉には逆らえないと、章吾は頭を抱えた。

「……どこからツッコんでいいかすら分からん……」

「こんな事になっちゃうなんて。こんな事なら、優花ちゃんに告白、しておくんだったわ。

 好きだ、優花ちゃん、愛してる、って……。あ、私は女子だから無理ね」

「……そんなに生きて告白したけりゃ、ちっとは考えろ。あのカギを取る方法を」

 章吾は、窓の向こう、眼下の中庭を指差した。

 大きな金属棒が地面に突き刺さっている。

 恐らく、あれが校門のカギだ。

 その脇には牛頭鬼が腰を落ち着け動く気配がない。

 地獄の檻のカギを守る番人だ。

 あいつとまともに戦っても、能力者でなければ勝ち目はない。

 何とか盗み取る方法を考えなきゃいけない。

 

「あ、忘れてたわ」

「何か考えはないか?」

「え?」

「……どうした?」

 孝司と和也が驚いたようにじっと自分を見つめるので、章吾は眉を上げた。

「いや、なんというか。章吾が姉ちゃん以外に意見を聞くなんて、初めてだなーと思ってさ」

 和也は準備室の中に転がっていたリコーダーをくるくると手の中で回しながら答えた。

 そうだねー、と孝司は木琴を叩いている。

 そんなぁ、と有栖は照れている。

 こいつら、ぜってぇ状況を理解してねぇ、と章吾は危機感を覚える。

「…そうだったか?」

「うん。章吾って姉ちゃんだけに意見を聞く。姉ちゃん以外眼中にねぇって感じだったし。

 ま、スカしたシスコンだって思ってた」

「僕らが遊ぼうと思っても、金谷くん、露骨につまんなそうだったしね」

「少なくとも俺はシスコンではないぞ……」

 孝司と和也に口々に言われて、章吾は呆れてしまった。

「まあいいや。で、誰派なんだよ? 杉本? 宮原? それとも他の子? 教えろよ、章吾」

「バラさないから教えてよ、金谷くん」

「ね?」

「有栖、お前ら、そのお泊まり会の夜みたいなテンションやめろ」

「紳士ぶるなよ。どうせ死んじまうかもしれねえんだ。ゲロっちまえよ。好きな子の名前を」

「声を限りに叫ぶんだ。好きな子の名前を」

「死亡フラグになりそうね……」

 その時、スピーカーからガタガタと物音が響いた。

 四人は身構えた。

 

『なんだ、お前は! 何しにきた!』

 ツノウサギの声が響き渡った。

 放送室で、何かあったらしい。

 言い争う声が聞こえる。

 誰かが放送室に踏み込んだのだ。

 相手の声は遠くて聞き取れない。

『ほう? 学校を取り返しにきた、だと? バカめ。

 ひ弱な人間が、しかも女の子風情が、地獄の悪鬼たるこのオレ様の前で、

 一体何ができると……って痛っ! やめてっ!

 ラケットや斧で角、叩かないで! 痛い、痛いからっ!』

 バキン、ドカンと音が響いた。

 四人は顔を見合わせた。

 音はしばらく続いて、治まった。

 ツノウサギがぜぇぜぇ言うのが聞こえる。

「……ふ、ふん。セリフの途中で攻撃とは、いい度胸だ。

 そういうルールやマナーの守れない人間の、行き着く先こそが地獄というわけだ。

 ふふ、泣くがいい、叫ぶがいい。このオレ様が、貴様を地獄の業火で……あっ、やめて!

 だから角、叩かないでっ! そこ凄く痛いからっ!」

 バキン、ドカン、ガタンと音が響いた。

 

『えーっと……これがマイクかな? はろー。男子諸君、元気? 聞こえる?』

『いるー?』

 ややあって、声が切り替わった。

 スピーカーから響いてきたのは宮原葵の声だった。

『ツノウサギさんには、平和的な交渉の末、マイクを譲ってもらったわ。

 これからしばらくあたしの放送を聞いてね』

「いやあぁんっ! 角を縛って吊り下げるの、やめてええっ! 痛いからぁっ!」

 後ろでツノウサギの泣き声が聞こえるが、一切スルーし、葵は続ける。

『……さて、みんな。

 今から、あたし、宮原葵と、大場大翔、桜井悠、荒木先生メインプレゼンツによる、

 スペシャル競技、奇跡の脱出大作戦! を決行するから、みんなも参加してね。

 脱出するわよ。全員で』

 ピュウッと和也が口笛を吹いた。

『これからあたしが一人一人に指示を出します。みんなそれに従って、校舎を脱出してね。

 1階事務室に隠れてる君。今からきっかり5分後に、南廊下へ抜けて昇降口から外へ出て。

 次、2階3年2組の教室に隠れてる君。8分後。

 部屋を出て、北階段から1階に降りて、昇降口に向かって。

 4組の教室を通る時は、音を立てないように。ファイト』

 流れるような口調で、葵はどんどんと各自の避難経路を告げていった。

 章吾と有栖も舌を巻いた。

 鬼の位置と子供達の位置を全部把握して、鉢合わせしないように指示を飛ばしている。

(葵ちゃん、流石は学年1位ね。凄い情報処理能力だわ。

 でも、校舎を脱出できたところで、カギがなければ学校から出られないでしょ?

 どうするのよ……)

 有栖がそう考えていると、見下ろす中庭の入り口に、人影が現れた。

 大翔、織美亜、狼王だ。

 章吾と有栖は息を呑んだ。

 大翔は、南廊下のガラス戸をくぐり、ゆっくりと中庭に足を踏み入れた。

 織美亜と狼王も続く。

 隠れる様子はない。

 選手宣誓の挨拶をするように、堂々とだ。

(あいつら、一体何を……)

 牛頭鬼が大翔、織美亜、狼王に気づき、のそりと立ち上がった。

 威嚇するように吠えた。

 あの、聞く者を竦み上がらせる雄たけびだ。

 窓がビリビリと震えた。

 章吾は震えを抑えつけ、有栖は超能力で防ぐ。

 牛頭鬼がにじり寄るように三人の方へ歩いていく。

 今度は大翔も、体が竦んでいなかった。

 応じて、距離を取るようにじりじりと後ろへ下がった。

 六人と一匹。

 同時に、地面を蹴った。

 背を向け、校舎の中へ走り始めた。

 

「……流石、大翔だわ。しかも、あの二人……強そうな雰囲気だったのに」

 有栖は素直に呟いた。

 鬼だらけの校舎の中、どうやって脱出ルートを確保するのか疑問だったが。

 校舎内の鬼を引きつけて回るつもりらしい。

 空っぽになった中庭に、きょろきょろしながら悠が出てきた。

 荒木先生も生徒を見守りながらやってくる。

 地面に突き刺さったカギをよいしょと引き抜くと、ぐいっと頭上に掲げてみせた。

 校舎の中に隠れている皆に、よく見えるように。

 得意げにピースした。

 みんな、何となく、グーを出して答えた。

 

――どうして僕だけチョキなんだあぁぁっ!

 叫びながら、一目散に逃げていった。

 

「……ったく。バカな奴ら」

「でも楽しそうじゃない」

 言葉と逆に、章吾の顔は、何故だかニヤニヤしてきてしまった。

 大翔はそういう人物なのだ。

 運動会なんて、つまらないって思っていた。

 有栖以外は早々に章吾のトップを受け入れて、金谷君には敵わないと笑うだけ。

 いつも通り、退屈で、面白くない運動会になると思っていた。

 彼だけが、負けまいと、章吾の背中を追ってきた。

 

(バカな奴。俺の方がずっと足速いのに。なのに、なんでだろ。

 あいつが追っかけてくると、負けるかって思う。走ってて、初めて楽しいって思ったんだ)

「章吾……?」

 

『はい、皆さん! 脱出ルートは分かりましたか?』

 葵の声が響いた。

『えー。では最後。音楽準備室にいる四人についてですが……』

「はいはいはーい、オレらでーす!」

 和也がハイテンションで手を挙げる。

『三人については……テキトーに逃げてください! 死にゃーしない!』

扱いがテキトーだあああ!!!

和也フラれたあああ!!!

『以上、葵さんの校内放送でした! 後で会いましょ! グッドラーック!』

あぁ!

愛が届かなかったあああ!!!

 ブツッと音を立てて、放送は切れた。

 孝司と和也はおいおいと抱き合いながら、カスタネットとタンバリンを打ちまくっている。

 章吾は拳を握り締めると、立ち上がった。

 有栖もシンバルを持って、立ち上がった。

(大翔があのでかい鬼を相手にしてんのに、この俺がいつまでも隠れていられるかっつーの)

「行くわよ、あなた達! 私に続きなさい!」

「あっ、なんか金谷さんスイッチ入ってる! レア! レア!」

「もうどうでもいいよぉぉ。宮原酷いよぉぉぉ」

「後で残念会してやる! 今は行くぞ!」

「よし、行こう! 優花ちゃん、待っててくれ。僕は、僕は……」

「もうお前もフラれちまえよおおおぉぉ!」

 楽器片手に、もうよく分からないテンションになって、恋バナ野郎達が立ち上がる。

 鬼の待ち受けるドアに手をかけた。

 

「結局さあ!」

 カギを開けた。

「章吾の好きな子は、誰なんだよおおおお!」

「それはなああ……。絶対、絶対、言うなよぉぉぉ……!」

 バシンと準備室のドアを叩き開けた。

 すぐ目の前に、凶悪な顔つきの鬼がいた。

 

隣のクラスの、高橋彩矢ちゃんだああぁぁっ!

アヤヤあああァァァァァ!!!

アーヤヤぁ! アーヤヤぁっ!!!

「彩矢ちゃん!!!」

 好きな女の子の名を叫びながら、シンバルとタンバリンとカスタネット鳴らしつつ、

 飛び出してきた男子三名と女子一名。

 鬼はそんな四人と目が合うと……。

 

ヒイイイッ!

 

 物凄い勢いで、逃げ出していった。

 きっと、愛の力だ!




次回は牛頭鬼からの逃走劇です。
どんなに強い敵にも立ち向かう、そんな勇気を見る事ができるでしょう。
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