ショッピングモールは、ホラーゲームの舞台になった事もありますよね。
エージェントは相変わらずです。
『ルール1 鬼に襲われた子供の皆様は、すみやかにお逃げください』
突然響いてきた声に、大場大翔は立ち止まった。
ポケットに両手を突っ込んだまま、辺りを見回す。
隣では悠と葵が、何だろうと顔を見合わせている。
織美亜、狼王、阿藍は真剣な表情をしている。
10時ちょうどだった。
週末のショッピングモール。
その最上階の、映画館の入っているアミューズメントエリア。
六人はしばらく顔を見合わせた後、声の聞こえてくる方を振り返った。
チケットカウンターの横に備え付けられた、大型液晶モニタだった。
いつもなら、新作映画の予告編や、映画鑑賞のマナーCMが流れているものだ。
画面には今、CGで描かれたキャラクターが二人、映っていた。
一人は、馬のマスクを被った馬男。
一人は、ランドセルを背負った子供。
可愛く描かれたキャラ達が画面の中で踊っている。
画面の端には、こう書かれていた。
よいこのみんなへ! 鬼ごっこのルール解説
ルール2 鬼は、逃げる子供の皆様をお捕まえください
モニタの中で、馬男が子供を追いかけ始めた。
二人はぐるぐると円になって走り回っている。
ルール3 決められた範囲を越えて逃げるのは、ご遠慮ください
子供が逃げようとした先に、ニョキニョキと壁が生えてきた。
子供は慌てたように汗を出すと、別の方向へ走り始める。
ルール4 時間いっぱい鬼から逃げ切れれば、その子供は勝ちとなります
画面の隅に目覚まし時計が表示されて、ジリジリと鳴った。
子供は嬉しそうにバンザイをして、馬男は残念そうに肩を落とした。
(……また、鬼ごっこ、か……)
六人は、黙ったまま、映像の流れるモニタをじっと見つめていた。
大翔は、やけに喉が渇いてくるのを感じた。
人の気配のないフロアに、ナレーションの声だけが流れ続けている。
やがて、馬男は少しずつ距離を詰めて、子供の背中に追いついた。
逃げる子供に飛びかかり、後ろからドンッと突き飛ばす。
子供は前のめりに倒れて、ランドセルからころころと縦笛が転がる。
馬男はジャンプして、子供の上に飛び乗った。
子供は助けを求めるように、右腕を伸ばした。
画面のこちら側、大翔達の方へ向かって。
ルール5
馬男が口を開いた。
全体的に可愛い絵柄の中で、口の中だけがやけにリアルだった。
鋭く尖った牙が、口の上下から無数に突き出している。
牙の間に詰まっているのは食べカスだ。
だらだらヨダレがこぼれ落ちる。
鬼に捕まった子供の皆様は、――とさせていただきます
子供の首すじに――ガブリと喰らいついた。
子供が「HELP」とフキダシを出し、必死にこちらに手を伸ばす。
馬男はガツガツと子供の体を貪り食う。
腕を食いちぎり、足を噛み裂き、頭を飲み込む。
……子供は右腕を伸ばした格好のまま、みるみる骸骨の姿になってしまった。
血で書いたような真っ赤な文字が、画面にじわじわと浮かび上がってきた。
それでは、楽しい鬼ごっこを!
馬男と、骸骨になった子供が立ち上がると、丁寧にペコリとお辞儀をした。
そこで映像はピタリと止まった。
停止ボタンを押したように。
―ブツッ
鈍い音と共に、画面が真っ赤に染まった。
そのまま、もう何も変わらなかった。
「ここが、問題のショッピングモールだな」
「ええ、司令官は危険だと言っていたけど……」
午前9時58分。
大翔、悠、葵、織美亜、狼王、阿藍がショッピングモールのエレベーターに乗り込んだ。
最上階まで上がるのは、大翔達とエージェントだけだった。
ドアが開くと、そのフロアには人の姿がなかった。
……静まり返っている。
いつもだったら週末のこの時間は、人でごったがえしているはずなのに。
5階のアミューズメントエリアには、映画館とゲームセンターが入っている。
ひっそりと静まり返った中で、クレーンゲームやメダルゲームの機械だけが、
単調に動きつづけている。
人の気配はない。
チケット売り場には、誰もいなかった。
ポップコーンやジュースを売っている売店にも、ソファもがらんとしている。
「……どうして、誰もいないんだ……?」
「あ、これ……」
悠が、壁を指差した。
一面に大きく貼られているのは、目当ての映画の宣伝ポスターだ。
「あ、あれ? 感動する映画って話じゃなかった……? これじゃあ、まるで……」
ポスターに描かれているのは、角の生えた化け物が、子供を食べているところだった。
大翔達は、ホラー映画なんて観に来たわけじゃないのに……。
『ただいまより、鬼ごっこのルール説明を始めます。
ルール1 鬼に襲われた子供の皆様は、すみやかにお逃げください』
突然響いてきた声に、大翔は立ち止まった。
ポケットに両手を突っ込んだまま、辺りを見回す。
……時計の針は、午前10時ちょうど。
鬼ごっこは既に、始まっていた。
次回は、本格的な鬼ごっこの始まりです。