琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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ショッピングモールに着いた大翔やエージェントを待っていたのは?
織美亜(ヒーラー)、狼王(アタッカー)、阿藍(万能型)と、
エージェントのロールはなるべくバランスを良くしています。


16 再びの鬼ごっこ

「な、なんだったのさ、今の……」

 真っ赤に染まった液晶モニタを見つめて、少年、桜井悠が口元をひきつらせた。

 彼と大翔は幼稚園から小学校の6年生まで、ずっと一緒の親友だ。

 性格はのんびり屋で、運動は苦手。

 怖がりで、ホラー映画は間違っても観ない。

 大翔の背中に隠れるようにしながら、恐る恐るモニタを見つめている。

 もう画面には、馬男の姿も子供の姿もない。

 真っ赤に染まったまま、時折波のようなノイズが入るだけだ。

「鬼ごっこのルール……。これって……」

 睨むように画面を見つめていた少女、宮原葵が、ようやく声を出した。

 悠と同じく、大翔の幼馴染で、学年トップの秀才で、ガリ勉宮原と呼ばれている。

 可愛いとの評判だが、非常に勝気で、男勝りな性格だ。

「……何だか、似てない? あの時に」

「ええ……」

 葵の言葉に、大翔と悠はごくりと唾を呑んだ。

 織美亜と狼王も、頷く。

 大翔もちょうど、そう思っていたのだ。

 唯一、阿藍だけは平常心を保っていた。

 

―バチンッ

 

 音が響き、三人はびくっとして天井を見上げた。

 三人のエージェントは身構える。

 フロアを照らしていた照明が、一斉に全て消えていた。

 薄暗がりに包まれたフロアの中で、真っ赤なモニタの光だけが浮かび上がっている。

「やだ。停電かしら……?」

「あ、あれ、もう夕方……?」

「……始まったのか?」

 窓から差し込む太陽の光が弱々しい。

 電気が切れただけなのに、もう夕暮れみたいな暗さになっている。

 大翔は窓に駆け寄った。

 窓の向こうに広がっているのは、さっきまでの青空ではなかった。

 一面に絵の具をぶちまけたような朱。

 そこに、濁った黒で暗雲を描いて、太陽を半分塗り潰したような空だ。

 ショッピングモールの敷地の外には、煙のように濃い霧がもうもうと立ち込めていた。

 周囲の家も、道路も、何も見えない。

 

「やっぱり、あの時と同じだ……」

 大翔は、そう言う自分の声が震えるのが分かった。

 以前、大翔達が巻き込まれ、そしてエージェントがやって来た、事件の日の朝と同じなのだ。

 地獄と化した学校に閉じ込められた、あの日と。

 

『ぴんぽんぱんぽん』

 突然、声が響き渡った。

『本日は、当ショッピングモールへお越しいただき、まことにありがとうございます。

 ご来店中のお客様へお知らせいたします』

 あちこちにある天井スピーカーから流れ始めたのは、ショッピングモールの館内放送だった。

 丁寧な口調、落ち着いた声音……そして、それに全く相応しくない内容を告げた。

『当ショッピングモールは、午前10時をもちまして、地獄の支配下となりました。

 皆様には、引き続きご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます』

(……くそ、また鬼か……)

 三人は立ち尽くした。

『ただいまより、リニューアルオープンを記念して、「鬼ごっこ」を始めさせていただきます。

 既に精鋭の鬼が一匹、皆様を目指してモール内の移動を開始しております。

 素敵な鬼と追いかけっこできるこのチャンス。どなたさまも、奮ってご参加くださいませ』

 

グオオオオオオオオオオオオオオオォォッ!!

 ビリビリと空気を震わす雄たけび。

 人間のものではない、いくつもの声が、スピーカーの向こうから響き渡ってきた。

 

 しばらく、三人は放心していた。

 鬼達の発した雄たけびに、竦み上がっていた。

(……くそ、また鬼か……)

 任務のために来たとはいえ、狼王の中に静かな怒りが立ち込めていた。

 

「……に、逃げなきゃ……」

 カラカラに乾いた話を動かして、大翔は何とか声を出した。

「今すぐ、ここから逃げ出さなきゃ……。でなきゃ、また閉じ込められちまう……」

 悠と葵は、ぶんぶんと頷いた。

 三人のエージェントは、あえて何も答えなかった。

 急いでエレベーターまで取って返し、逆三角のボタンを押した。

 ……反応がない。

 スイッチが光らないのだ。

―カチッ、カチッ

 何度も押すが、変わらない。

「こっちも駄目だわ」

「こっちも!」

「彼女さえいれば、簡単に付くのに」

 エレベーターは電源が切れていた。

 三基のどれもボタンが反応しない。

 阿藍が言う「彼女」とは、電気を操る能力者の事なのだ。

「エスカレーターへ!」

 エスカレーターは、フロアの中央を貫くように、上りと下りが一つずつ設置されている。

 六人は走った。

「あれ、あれ……。なんで二つとも上りになってるの?」

 エスカレーターは、何故か両方とも下から上へ流れていた。

 黄色い線のついたステップが、大翔達の方に向かって、ぐるぐると勢いよく流れこんでくる。

「構わない。降りよう!」

 足を掛けようとした途端、グンと速度を増した。

「うわぁっ!」

 全く進めない。

 踏み出した先から押し戻されてしまう。

「こ、これじゃ降りられないよ……」

「階段を使うぞ」

―ガガガガガ……

 後ろから、音が響いてきた。

 振り返ると、フロアの端の天井から、分厚いシャッターが降りてくるところだった。

 火事の時に火が広がるのを防ぐための防火シャッターだ。

―ガシャーン!

 見る間に床まで降り切って、道を閉ざした。

 

「こんなもの、壊してやる!」

 狼王は「力」の能力を使って、シャッターを破壊しようとした。

―ガシャァァァァァァン

 シャッターは跡形もなく破壊された。

 これで、脱出する事ができるようになった……と思いきや、

 シャッターは破壊される前の状態に戻った。

「くそっ!」

「あっち……階段のあった通路だわ!」

―ガガガガガ……

 今度はフロアの逆側の端から、同じような音が響いてきた。

 あっちには、もう一つの階段がある。

「やばい! 走れ!」

 六人は弾けるように走り始めた。

 幸いこちらのシャッターが降りる速度は遅かった。

 のろのろと、少しずつしか進まない。

 間に合いそうだ。

 大翔は、シャッターの下へ飛び込もうとした。

「危ない、ヒロトっ!」

 ぐいっ。

 悠に力いっぱい裾を引っ張られて、大翔はバランスを崩して倒れた。

―ガシャーン!

 鼻先を、銀色に光るものが掠めた。

 特大の刃だった。

 何かの本で見た事がある。

 何百年も前に、西洋の斬首刑に使われていたという、ギロチン台。

 狼王の斧と似ているが、遥かに巨大なギロチンの刃がシャッターの代わりに落ちてきて、

 床にざっくりと突き立っている。

 ひりひりとした痛みを感じて手を当てると、鼻の皮がすりむけて、血がにじんでいた。

 あと、ほんの10cmずれていたら……。

 

「これで大丈夫?」

「……ああ」

 大翔は、織美亜に傷を癒してもらった。

 シャッターの音が止まると、フロアはまた、しん、と静まり返った。

 窓から差し込む赤い陽が、フロアの中に六人の影を落とす。

 大翔は、へなへなと床に座り込んだ。

 これで、逃げ道は塞がれた。

 

『やあ、こんにちは。初めまして。地獄ショッピングモールへようこそ』

 声が響き渡った。




次回は、本格的な鬼ごっこの始まりです。
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