「鬼ごっこ」の犠牲者って、こうなっちゃうんですよね。
絶対に出したくありませんね。
『初めまして、みんな。突然だけど、地獄って一体なんなのか知ってる?』
天井スピーカーから流れてきたのは、先程の放送の音声とは異なる声だった。
子供の……男の子の声だ。
恐らく、大翔達とそう変わらない年齢だ。
唖然とした三人をよそに、喋り続ける。
『地獄っていうのはね、罪を持った人間が死後に送られて、
ムゴイムゴイ罰を受ける世界の事なんだ。色んな鬼やゴーモン方法で、堕ちた人間を苦しめる。
例えば、鋭い刃で殺し合いをさせられる等活地獄。焼けたノコギリで体を切られる黒縄地獄。
鉄串に刺されて炎で焼かれる焦熱地獄。
いわば、人間を苦しめるっていう、ただそのためだけに作られた空間、それが地獄なんだ』
声は何だか楽しげだ。
お気に入りのオモチャでも紹介するような口調だった。
三人は顔を見合わせ、エージェント達はごくりと唾をのむ。
なんなんだ、こいつ……。
『でもさでもさ、そんな地獄、もう古くさいよね。だって大昔と変わらないんだよ。
何千年も同じ事やってちゃ、鬼も人間も飽き飽きさ。
……それで作ったのが、このショッピングモール地獄というわけなんだ』
声は得意そうに続けた。
『この地獄に、きみ達を招待したくてたまらなかったんだ。大場大翔。桜井悠。宮原葵』
三人はびくっとして、周囲を見回した。
エージェントの名は、呼ばれない。
『だってボク、感動したんだ。きみらの持ってる、友情と勇気に。
まさかあの小学校地獄から逃げられてしまうとは思わなかった。自信作だったのに。
せっかく地獄を作ってもね。
大抵みんな、ぼろぼろ泣いたまま、鬼に食われちゃうだけなんだよね。つまんないよ』
声は不満そうに続けた。
『そんな子達と遊んでもつまらないじゃない?
地獄クリエーターとしての、ボクの腕が鳴らない。
そこへ行くと、きみ達には見どころがあるよ。
ホントなら、ギロチンで一人くらい死んじゃうと思ってたんだけどなー。カンいいなー』
悔し気な声を出した。
『そうそう、きみらの前に遊んでた子が、チケットカウンターの陰に隠れているよ。
一人で寂しいと思うから、よければ挨拶してあげてね。
それじゃあ、ボクの作った地獄を、是非楽しんでいって。
少し難しくしたから、きみらが逃げ切れるか分かんないけど。
ま、死んじゃったらまた地獄で会おうね。じゃあね、大翔、悠、葵。バイバーイ』
そこで、ブツッと放送は切れた。
「やるしかない。お前はここで待ってろ」
「……狼王?」
狼王はすくっ、と立ち上がった。
チケットカウンターを睨みつけ、中へ入って屈み込み、奥を覗き込んだ。
そこには、白骨化した骨があった。
大きさからいって大翔達と同じくらいの歳だろう。
落ち窪んだ目の穴。
必死に助けを求めるように、左腕を伸ばした姿勢のまま死んでいる。
脇にはカビの生えたランドセルと、縦笛が転がっていた。
「どうやら、あの映像は幻ではなかったようだな」
こんな恐ろしい光景を見たにも関わらず、狼王は平然としていた。
彼の後ろには、織美亜、阿藍、大翔、悠、葵が立っている。
大翔、悠、葵は青い顔をして泣きかけている。
大翔は涙を流しかけており、悠はくしゃっと顔を歪めて、葵は表情をなくして。
悠と葵は、大翔の服の裾を、ぎゅっと握り締める。
「安心しろ。お前達が小学校に閉じ込められた時も、オレ達が助けた。絶望するにはまだ早い」
狼王がそう言うと、二人ははっとして泣くのをやめた。
気持ちが伝わったように、頷いた。
(地獄ショッピングモールだかなんだか知らないが、負けるもんか。みんなで生きて帰るんだ)
「そうよ、アタシ達はエージェントなんだから」
織美亜、狼王、阿藍も決意した。
この三人を守るのが、エージェントの任務だから。
『ぴんぽんぱんぽん。ご来店中のお客様に、迷子のお知らせをいたします』
また館内放送が流れてきた。
「迷子のお知らせ……?」
重ねた手を放すと、三人は顔を見あわせた。
織美亜、狼王、阿藍は真剣な表情をしている。
『大場結衣ちゃんのお連れ様。大場結衣ちゃんのお連れ様。
結衣ちゃんが、お連れ様を探してお待ちでございます。至急、お迎えにお越しください。
お連れ様がお迎えにいらっしゃらない場合、結衣ちゃんは鬼達一同で、美味しくいただきます。
ぴんぽんぱんぽーん』
―おにーちゃああんっ
泣き声が響いて、放送は途切れた。
「みんな、覚悟はいいかしら?」
「ああ……必ず、鬼を倒すぞ」
「俺達はエージェントだからな」
次回は新たな鬼が登場します。
だけど、エージェントだって、負けてはいませんよ。