ですが、鬼のクイズは、一癖も二癖もあるようで?
「僕、弓の才能、あるのかなぁ……」
エレベーターは、のろのろと下へ降りていく。
桜ヶ島ショッピングモールのエレベーターは、ガラス張りになっている。
普段なら、1階の広場やベンチ、周囲の家の屋根が見下ろせて、見晴らしがいい。
今は霧に閉ざされて、何も見えなくなっている。
大翔はエレベーターの床に座り込んで、左足首をさすっていた。
倒れた時に捻ったようで、熱をもって痛む。
「やっぱりDSのハンティングゲームのおかげかな。
毎日、弓でモンスターを退治してるからね、僕」
弓と矢筒を手の中で転がしながら、悠は得意そうに胸をはる。
「自分でも知らない間に、弓の名手になってたのかも!
お母さんに叱られても、毎日ゲームを続けた甲斐があったよ……。僕は正しかった……!」
「おいおい」
ツッコミを入れる阿藍。
彼はお世辞にもゲームには詳しくないのだ。
「……さて。5階から出られたのはいいとして、問題は結衣ちゃんの事ね……」
「本当にここにいるのか、分からないけど。結衣が一人で来れる距離じゃない」
「小さいもんね、結衣ちゃん。まだバスにも乗れないでしょう」
「結衣?」
「大翔の妹よ」
「でも、本当にモール内にいるなら大変だよ」
こちらには、エージェントという人手も機動力もあるが……。
―ガクン
突然、エレベーターが動きを止めた。
階数表示が4のまま、ぴくりとも動かなくなる。
「あれ……? なんで? 1階、押してあるのに」
悠は慌てた様子で、ドアへ駆け寄った。
エレベータードアの両側には、行き先階の選択ボタンが並んでいる。
丸ボタンで、【5】【4】【3】【2】【1】【B1】【開】【閉】【非常用】。
今、光っているのは、【1】のボタンだけだ。
エレベーターのドアは、固く閉ざされたまま開かない。
「また壊すしかないのか? 仕方ないな……」
狼王は斧を取り出し、ドアを破壊しようとした。
もちろん、今は破壊すべきではないが、念のために構えていたのである。
『クイズの時間です』
また声が響き渡った。
今度は、エレベーターの案内音声だ。
(なんなんだ、この賑やかなショッピングモール)
スピーカーの穴から、ぺらぺらと喋る声が聞こえてくる。
『問題です。悠くんはお使いを頼まれて、500円を持って出かけました。
品物は300円でしたが、途中で400円落としてしまいました。
足りなかった金額は、何百円ですか? お答えください』
「……答えは、これだ」
狼王は2のボタンを押す。
『その通り、正解です』
「まぁ、オレ達はみんな中卒だからな……」
当然だ、という表情をする狼王。
どんな時でもエージェントは冷静でなければ、と狼王は自分を律している。
ビュウウと強い風が流れ込んできて、髪を逆巻かせる。
「あり得ないわ……」
押し殺した声で、葵が呟いた。
「地上4階程度の高さで、こんな景色になるわけないじゃない……」
その時、ガラスの向こうを覆っていた霧が、風に吹き散らされるように晴れ渡った。
エレベーターは普段のように、見晴らしのいい景色になった。
いや、見晴らしがいいどころではない。
見下ろす街並みは、マッチ箱のように小さくなっていた。
小学校、桜ヶ島の駅、マンションが、豆粒のよう。
白い靄がガラスの向こうを漂っている。
雲の切れ端だった。
『ドキドキクイズ大会 イン・絶叫エレベーター!』
エレベーターの音声はハイテンションに続けた。
『皆さんには、高度2000mのエレベーターで、クイズに答えていただきます。
一定数正解すると、ゲームクリア! 無事にエレベーターから降りる事ができるよ!
でも不正解すると、ペナルティ! エレベーターは徐々に落ちていきます! ……そしてェ!』
ビュウビュウという風の唸り。
ミシ、ギシ……と、吊り下げられたエレベーターの箱が、風に揺られて軋む音が聞こえる。
大翔は以前、家族で遊園地に行った時の事を思い出した。
上空まで昇ってから一気に落下する絶叫マシーン。
呆気に取られて景色を見下ろす三人と、冷静な三人を他所に、エレベーターは捲し立てた。
『残り5問不正解すると……GAME OVER!
エレベーターの箱ごと、真っ逆様に落っこちて……ガッシャアァーン!』
階数表示板に、ドクロマークが表示された。
青ざめた三人に構わず、声は一方的にクイズを開始した。
『では、問題です』
エージェント達の学力は、卒と比例するとは限りません、とだけ言います。
次回はデス・クイズゲームの開幕です。