琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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高い場所からのデス・クイズゲーム。
一見するとただのクイズに思えますが、鬼が出すので一筋縄ではいきません。


20 決して落ちないように

『悠君は毎分80mの速さで、駅に向かって出発しました。

 悠君が出発してから15分後に、鬼さんが毎分320mの速さで、悠君を追いかけ始めました。

 鬼さんが悠君に追いつくのは、出発してから何分後ですか? お答えください』

 

「え、え、え……ちょっと、ねえ、どういう事なの? なんで突然クイズ?

 ちょっと、降ろしてっ!」

 悠が抗議するが、声は答えない。

『カチ、カチ、カチ、カチ……』

 時を刻み始めた。

 時間制限のつもりらしい。

(くそっ。次から次へと……)

 今は向こうのルールに合わせるしかない。

 このクイズに答える以外に、手はなさそうだ。

 悠もそう思ったのか、答えを考え始めた。

「え、えっと……悠君が毎分80m、鬼さんが320m……」

 うーんうーん、と目を瞑り、頭を両手で抱え込む。

「鬼さんが悠君に追いつくのは、追いつくのは……。

 でも、僕……鬼さんに追いつかれたくないようっ……!」

 大翔も宙を睨んで、考え込んだ。

「えっと、悠が出発してから15分後なんだから……」

 算数は得意な方で、テストでもそんなに点数は悪くない方だ。

『カチ、カチ、カチ、カチ……』

 だが、焦って頭が回らない。

 穴からビュウビュウ吹き込む風の音。

 ギシギシとエレベーターの揺れる振動。

 もしも間違えてしまったら……。

 

「……」

 無言で進み出たのは、阿藍だった。

 階数選択ボタンの前に立つとすっと指を伸ばした。

 「こんな問題、分かるのは当然だぜ」という顔つきで、迷いなく、【5】のボタンを押した。

 ピンポン、と鳴った。

『正解』

 答えは、5分後。

「当然だぜ」

 阿藍が得意げに笑う。

 エレベーターは間髪入れなかった。

 次々に、問題を読み上げていく。

『問題です。牛鬼君が地獄の針山に、せっせと針を植えています。

 周囲が510mの血の池の周りに17m置きに針を植える時、針は何十本用意すればいいですか?』

『問題です。桃から生まれた少年が鬼退治に旅立つ童話、桃太郎。

 お話の中で重要なアイテムとして登場するきびだんごを名産品として扱っている日本の県は?

 1、静岡県 2、香川県 3、岐阜県 4、岡山県』

『問題です。別名「鬼の子」とも言われるミノムシですが、何の幼虫?

 1、ガ 2、チョウ 3、クモ 4、ムカデ』

『問題です。以下の鬼に関することわざの中で、

 先の事はあてにならない、という意味で使われるものを答えなさい。

 1、鬼の居ぬ間に洗濯 2、渡る世間に鬼はない 3、鬼が仏の早変わり

 4、来年の事を言えば鬼が笑う』

 算数、社会、理科、国語。

 ジャンルを変えながら次々出題される問題に、葵は即座にボタンを押して回答していく。

 3、4、1、4。

 ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポン……次々正解の音が鳴り響いた。

「す、すっごいっ! 流石アオイだね!」

「……大した事ないわ。このくらい、ちょっと勉強すれば誰にでもできるレベルよ」

「ああ」

 言葉とは裏腹に、葵はどんなもんだとばかりに胸を張っている。

 宮原葵は勉強家で、「ガリ勉宮原」の名は伊達ではない。

 だが、葵がそう呼ばれるようになったのは、昔からの事ではなかった。

 むしろ昔は、勉強はからっきしだった。

 1年生の時のテストの点数は、大翔や悠より低かったくらいだ。

 まだ小さかった大翔とは、それで葵をからかった事がある。

(かけっこはおれで、ゲームはゆう。あおいってば、なんもできね~よな)

(だよね~。ふっふっふ)

 冗談で言っただけのつもりだったのに、葵は目に涙を溜めて走っていってしまった。

 大翔達が謝っても、しばらく遊ぼうとしなかった。

 

 数ヶ月後、満点の答案を二人に叩きつけて、

 これからは勉強の事はあたしに訊く事ね……と、ふふふと笑った。

 目に隈を作って迫力たっぷりな葵に、二人はぶんぶん頷くしかなかった。

(……友達に置いていかれたくないの)

 葵はそっぽを剥いて、そう言った。

 それから大翔は、この負けず嫌いで努力家な幼馴染を、密かに尊敬しているのだ。

(いざと言う時、女性は強いのよ)

 

『問題です。天国の門と地獄の門があり、左右の門の前に一匹ずつ、鬼の門番が立っています。

 どちらか一方は嘘だけを話す鬼で、どちらか一方は真実だけを話す鬼です。

 両方の鬼は見分けがつかず、天国と地獄、どちらの門番をしているかも分かりません。

 どちらかの鬼にたった一つ質問をして、天国の門を通るには、

 どういう質問をすればいいですか? お答えください』

 問題は手を替え品を替え、だんだんと難解になってきた。

「な、なんなのこの門番……」

「嘘つきの鬼と正直者の鬼、か……」

 悠と大翔は腕を組んで、うーんと首を捻った。

 まあ、もうすっかり二人の手には負えなくなって、葵とエージェントが回答しているのだが。

「僕だったら……そうだなぁ。どっちの門が天国の門か、正直に教えてって訊くかなぁ……」

「でも、それでこっちが天国だって答えても、嘘つきの鬼の嘘かもって話だろ?」

「違うんだよヒロト。目を見て訊くんだ。

 どんな人間でも誠意さえ届けばスナオに答えてくれるもんだって、おばあちゃん、言ってたよ」

「でも、相手は人間じゃなくて鬼だって話だろ?」

「う~ん……」

 織美亜すらも、分からなかった。

「……こう質問するわ。

 あなたの隣の鬼に、右の門は天国の門と地獄の門、どちらですかと質問したら、

 隣の鬼はどう答えますか?」

 頓珍漢な事を言っている大翔と悠をよそに、考え考え、葵は答える。

「それで、答えが地獄なら、右の門を。そうでなければ左の門を通る」

 ピンポン。正解。

「「何だか全然分かんないけど、葵、凄いっ」」

「……典型的な論理問題だな」

 悠と大翔はパチパチ拍手する。

 もう答えを理解するのも諦めた。

「でもさ、でもさ。僕の解答も、いい線、いってたでしょ?」

「……おばあちゃんの教え自体は、いつの時代も大切にされるべき価値観だとは思うわ……」

「だよねーっ、惜しかったよねー!」

 声は、問題を準備しているのか、少しだけ間を開けた。

 このまま葵とエージェントに任せていれば、切り抜けられそうだ。

 ややあって、次の問題を読み上げた。

 

『問題です。三匹の鬼が集まって話をしています。

 嘘だけを話す鬼と、真実だけを話す鬼がいます……』

 

「またこのパターン? 楽勝じゃん」

(いや、俺らは全然楽勝じゃないだろ)

「……」

 

『今、三匹の鬼達が、次のように話し合っています。

 赤鬼「この三匹のうち少なくとも一匹が嘘をついている」

 青鬼「この三匹のうち少なくとも二匹が嘘をついている」

 黄鬼「この三匹の全員が嘘をついている」

 ……嘘つきの鬼は、何匹いますか? お答えください』

 

「何匹? 僕の勘では、犯人は赤鬼! かなー」

「俺の勘では、きっと二匹だ! 根拠はなし!」

 

 もうすっかり葵とエージェントに任せきって、無責任に言い合っていた悠と大翔。

 織美亜、狼王、阿藍は身構えている。

(…………)

 葵は答えなかった。

 眉を潜めて、難しい顔をして黙り込んでいる。

 カチ、カチ、カチ、カチ……エレベーターが時を刻んでいく。

「……ごめん、アオイ。バカな事言ってたから怒った?」

「俺らも真面目に考えるよ。……いや、考えても、よく分かんないんだけど……」

「……何? この問題……」

「え?」

「……答えが、ない。んだけど……」

 しばらく考え込んだ後、葵は青ざめた顔で五人を見た。

「……どういう事?」

「一匹でも二匹でも三匹でも、0匹でも……全部、矛盾が出るの。こんなの、解答できないわ!」

「だから、この問題は、壊すしかない!」

 狼王は地面に斧を叩きつけた。

 少しだけ、地面に罅が入るが、地面が壊れる事はなかった。

「……そうよ。矛盾が出る答えは、破壊しちゃえばいいのよ。彼は怪力。何でも壊せるのよ」

「そっか……頼むぞ!」

 狼王はボタンの前で構えた。

『問題です。ある時、赤鬼が言いました。

 嘘がいつまでも見抜けない時、嘘をついているのは私である。

 次に青鬼が言いました。赤鬼が嘘つきならば、次に黄鬼の言う事も嘘である。

 最後に黄鬼が言いました。もし私の嘘を見抜いているという者がいたら、それは正しい。

 この中で、正しい事を言っているのは誰? 1、赤鬼 2、青鬼 3、黄鬼』

 

「……解答がないなら、壊すしかないだろ!」

 狼王は再び斧を振り下ろし、ドアに叩きつけた。

 

『問題です。悠君はお使いを頼まれて、500円を持って出かけました。

 品物は300円でしたが、途中で500円落としてしまいました。足りなかったのはなんですか?』

 狼王は無言で斧をドアに叩きつける。

 解答を拒否し、強引に突破する証だ。

 

『問題です』

 エレベーターが言った。

『……1+1はぁ?』

 またもや狼王は斧を叩きつける。

 何度も叩きつけたため、エレベーターはボロボロになりかけていた。

 だが、先に進むには、エージェントの力を借りるしかなかった。

 

『……それでは、最後の問題です』




理不尽には同じく理不尽をぶつける事。
それが、私のモットーです。
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